二度目の人生は氷の騎士様と歩む

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第15話:新しい未来へ

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リリアーナと王太子の断罪から数週間が過ぎた。宮廷はあの激動の日々から少しずつ落ち着きを取り戻し始めていた。かつてエレオノーラが過ごした豪華絢爛でしかしどこか冷たい公爵邸は今は静かに時を刻んでいる。エレオノーラはその邸宅を離れダリウスと共に選んだ城の近くの質素ながらも温かい雰囲気の邸宅で新たな生活を始めていた。窓からは手入れの行き届いた小さな庭が見え鳥のさえずりが聞こえる。春先に植えたばかりのハーブの芽が庭の片隅で小さな白い花を咲かせていた。まるでふたりの新しい未来を祝福するように。

彼女はもはや「悪役令嬢」の肩書きに縛られることはなかった。自由になった彼女は自身の経験と未来の知識を活かし宮廷の改革や慈善事業に積極的に関わるようになっていた。特に貧しい子供たちの教育支援や女性の社会進出を促す活動に力を入れている。

ある午後エレオノーラは王都の片隅にある孤児院を訪れていた。薄汚れた服を着た子供たちが彼女の周りに集まってくる。彼女は持参した絵本を広げ優しい声で物語を読み聞かせた。子供たちの瞳が好奇心と希望に満ちて輝く。

「エレオノーラ様ありがとう!」

小さな手が彼女のドレスの裾をぎゅっと握った。その温かさにエレオノーラの心は満たされる。かつての傲慢で高飛車な令嬢とは似ても似つかない真に強くそして優しい女性の姿がそこにあった。彼女の言葉には過去の苦悩を乗り越えた者だけが持つ深い説得力が宿っていた。人々は彼女を畏れるのではなく尊敬の眼差しを向けるようになっていた。

ダリウスは騎士団長としての職務を全うしつつもエレオノーラとの時間を何よりも大切にしていた。彼の「氷の騎士」としての冷徹さは影を潜めエレオノーラの隣では穏やかで人間らしい表情を見せるようになっていた。騎士団内でも彼の「正義」がより柔軟で人間味を帯びたものになったと評判だった。部下たちは彼がエレオノーラの隣にいる時のふと見せる優しい表情に驚きつつもその変化を温かく見守っていた。

ある晴れた日の午後二人は邸宅の庭で静かに過ごしていた。木漏れ日が降り注ぐベンチに並んで座り温かい紅茶を飲む。エレオノーラはダリウスの肩にそっと頭を預けた。彼の体温がじんわりと伝わってくる。

「……時々思い出します」

エレオノーラが静かに呟いた。

「あなたが一度目の人生で私を断罪した『断罪者』だったこと」

ダリウスの体が一時硬直した。彼の肩に預けたエレオノーラの頭がわずかに動くのがわかる。彼はその過去を決して忘れていない。そしてその罪悪感を今も心の奥底に抱えていることをエレオノーラは知っていた。

「今でも夢に見るんだあの時の君の目を……。あの冷たい石畳の上で俺が君をあの場所に送ったことを……」

ダリウスの声は微かに震えていた。彼の心に残るトラウマがほんの一瞬だけ覗いた。しかしエレオノーラはその震えを優しく包み込むように彼の腕の中でさらに身を寄せた。

「でも今はその彼が誰よりも深く自分を理解し支えてくれる『唯一無二のパートナー』であることにエレオノーラは深い幸福を感じていた。彼の腕の中で彼女の心は安らぎに満たされていた。

ダリウスはエレオノーラの髪を優しく撫でながら静かに語りかけた。その声はかつての氷のような響きではなく温かい響きを帯びていた。

「君がいなければ俺はただ法と秩序に縛られただけの騎士だっただろう。感情を持たずただ命令に従うだけの存在だったかもしれない」

彼の言葉には偽りがない。エレオノーラと出会う前の彼はまさにそうだった。

「君が俺に本当の正義を教えてくれた。守るべきものは法だけではないと」

それは彼がエレオノーラという存在によって自身の「正義」がより人間的で深いものへと変化したことを認める言葉だった。彼の信念は彼女との出会いによってより強固なものへと昇華されたのだ。

エレオノーラはゆっくりと顔を上げ彼の目を見つめた。その瞳には感謝とそして深い愛情が宿っていた。

「あなたがいなければ私はあの断頭台で終わっていた。私に、もう一度生きる意味を与えてくれたのは、あなたです」

二人の間に過去の因縁を乗り越え魂レベルで深く結びついた確かな絆がそこにあった。彼らは互いの存在がどれほど自分たちの人生を豊かにしてくれたかを深く理解し合っていた。

エレオノーラはふと悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「そういえば今日は紅茶私が淹れましたよ?」

ダリウスは一瞬眉をひそめた。彼の顔に微かな困惑が浮かぶ。エレオノーラの淹れる紅茶は時として驚くほど個性的だった。しかしすぐにその表情は穏やかな微笑みに変わる。

「そそれは……勇気が要るな」

エレオノーラがわざとらしく小首を傾げる。

「何か言いました?」

ダリウスはくすりと笑い彼女の頭をもう一度優しく撫でた。

「いや。……愛してるよ」

夕日が邸宅の窓から差し込み部屋の中をオレンジ色に染め上げる。エレオノーラとダリウスは互いの手を取り合い静かに微笑み合った。その手はかつて断罪の刃を握った手と処刑台で震えた手だった。しかし今は互いを支え未来を築くための温かい手だ。

一度目の人生では断罪者と罪人として出会い悲劇的な結末を迎えた二人。しかし二度目の人生で彼らは互いを信じ支え合い共に困難を乗り越えることで真の幸福を見つけた。彼らの未来はもはや過去の記憶に縛られることはない。エレオノーラが選んだ新たな道とダリウスの揺るぎない支えによって二人の穏やかで幸福に満ちた「新しい未来」が今始まることを予感させる結末。

二人の影は夕陽の中で一つに重なっていた――まるで永遠を誓うかのように。
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