聖女を辞めたら、辺境で最高のスローライフが待っていました

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第5話:【帰還】私の選んだスローライフ

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私が差し出した一枚の処方箋は王都に混乱とそして大きな変革をもたらした。
当初多くの貴族や神官たちは「薬草などで聖女様の奇跡の代わりになるものか」とその効果を疑っていた。だが他に打つ手のない王家は私の処方箋に基づき国中の薬師や学者たちを総動員して特効薬の量産を命じた。
私はギデオンに守られながら一時的に王都へと赴きその製造工程を指導した。私の知識と王都の技術が結びついた時、特効薬は驚くべき速さで完成しその効果は絶大だった。

薬は奇跡のように人々を灰腐病の苦しみから救っていった。
人々はもはや「聖女の奇跡」ではなく「薬師たちの知識」に感謝と称賛の声を送った。
そして大神官はその権威を完全に失墜させた。聖女を酷使し国の医療体制の発展を意図的に妨げた「国を揺るがした大罪人」として彼は裁かれその地位を追われ投獄された。ざまぁみろという感情は不思議と湧いてこなかった。ただ一つの時代が終わったのだと静かに思った。

疫病が完全に鎮圧された後、私は王城の一室で療養しているという新しい聖女リリアンと面会した。
彼女はかつての快活な少女の面影もなくベッドの上で青白く痩せ細っていた。生命力を使い果たした彼女の瞳は虚ろだった。
「……エリアーナ様……」
「エリアと呼んでください。私はもう聖女ではありませんから」
私は彼女の枕元に一冊の分厚い本を置いた。
「これは私が辺境で学んだ薬学のすべてです。奇跡に頼らなくても人を救う道はここにあります。あなたもこれからはあなた自身の人生を生きてください」

リリアンは何も言わずただその本を震える手でそっと撫でていた。その瞳から一筋涙がこぼれ落ちたのが見えた。

全ての役目を終えた私に国王陛下は改めて聖女としての地位に戻ってほしいと懇願した。国中が私の帰還を望んでいると。
だが私の答えは決まっていた。
「私の居場所はここではありません」
私はきっぱりと、その申し出を固辞した。

数日後、私はミモザの町へと帰るための質素な馬車の中にいた。
王都の門を出るとその先で馬に乗った一人の男が私を待っていた。ギデオンだった。
「……迎えに来た」
彼はぶっきらぼうにそう言った。
「お前一人じゃまたどこかで無茶をするだろうからな」
その言葉がどんな甘い愛の言葉よりも私の心に温かく響いた。

ミモザの町は何も変わらず私を迎え入れてくれた。
私の小さな薬草店も私が留守の間町の人々が綺麗に掃除をしてくれていた。
その夜私は店のカウンターでギデオンが淹れてくれた温かいハーブティーを飲んでいた。暖炉の炎がぱちぱちと穏やかな音を立てている。窓の外には満天の星が輝いていた。

「……これからどうするんだ?」
ギデオンが静かに尋ねた。
「さあ……。でもやりたいことはたくさんあります」
私は新しい薬草図鑑のページをめくりながら答えた。
「北の丘には月の雫という珍しい薬草が咲くそうです。東の森にはまだ誰も知らない薬効のあるキノコがあるとか。この世界にはまだ私の知らない知識がたくさん眠っています」

私は顔を上げて彼の顔を見つめた。
「だから旅に出ようかと思っています。もっとたくさんの薬草と知識を探しに」
「……そうか」
彼は少しだけ寂しそうな顔をした。だがすぐにいつもの頼もしい笑顔に戻った。
「なら俺も行く」
「え?」
「言っただろう。お前一人じゃ危なっかしくて見ていられない。それに俺もまだ見たことのない景色をお前と一緒に見てみたい」

それは未来の約束だった。
特別なことは何もない。ただ明日隣にこの人がいてくれる。それだけで私の世界はこんなにも輝いて見える。
自己犠牲ではない誰かのためでもない。自分とそして大切な人と共に歩むささやかでかけがえのない人生。
私が本当に求めていた「奇跡」はこの穏やかな日常の中にこそあったのだ。
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