狂気の推し活令嬢リリアーナ様!

YY

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第2話:学園で推し活スタート!

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王太子アレクサンダー殿下との婚約破棄という、輝かしい自由を手に入れた私は、翌日から意気揚々とエルドラド王立アカデミーへと復学した。

断罪された令嬢の再登校に、周囲の生徒たちが遠巻きにひそやかな噂話を交わしているのが分かる。だが、そんなことは些細なことだ。なぜなら、このアカデミーこそ、私にとって天国であり、聖地なのだから!

「リリアーナ様、お願いですから、お願いですから騒ぎだけは起こさないでくださいまし…!」

私の隣を歩く侍女のアンナが、今にも泣き出しそうな顔でお腹のあたりを押さえている。アンナは昔から心配性なのだ。大丈夫よ、と言い聞かせても、彼女の胃痛は一向に治まらないようだった。

「心配いりませんわ、アンナ。私、迷惑なんてかけません。ただ静かに、ゼノン様を愛でるだけですもの!」
「その『愛でる』という行為が、常軌を逸しているから心配しているのではございませんか!」

まあ、失礼しちゃう。私の純粋なファン心(おたくごころ)を、一体なんだと思っているのかしら。
そう、このアカデミーに復学した理由。それはただ一つ。私の最推し、近衛騎士団所属のゼノン様が、警備の一環で頻繁にこの学園を訪れるから!
毎日、生きて動くゼノン様を拝見できるだなんて!ああ、神様、前世で社畜として死んだ私に、こんなご褒美を与えてくださるなんて!

鐘が鳴り、午後の授業の始まりを告げる。周囲の生徒たちが足早に教室へと向かう中、私はアンナににっこりと微笑んだ。
「さあ、アンナ!推し活の始まりですわよ!」
「授業はよろしいのですか!?」
「そんなものより、ゼノン様の動線把握が最優先事項ですわ!」

アンナの悲鳴を背中で聞きながら、私は早速、行動を開始した。
まずは、中庭が見渡せる大理石の柱の陰へ。完璧なステルスポジションだ。すると早速、向こうから凛々しい漆黒の鎧をまとった方が…!ゼノン様だ!

私は胸ポケットから愛用の『ゼノン様白書』を取り出し、羽ペンを走らせる。
『午後二時五分、中庭を通過。本日の歩幅、約八十五センチ。心なしか力強い。何か良いことでもあったのかしら?尊い』

ふふ、完璧な記録だわ。ゼノン様が角を曲がられたのを確認し、私は次のポイント、噴水の裏手へと移動する。彼の公務の邪魔にならないよう、しかしそのお姿の一瞬たりとも見逃さないよう、細心の注意を払って尾行を続ける。

「お嬢様!丸見えです!噴水の裏からドレスのリボンがはみ出ております!」

少し離れた場所から、アンナが小声で叫んでいるのが聞こえる。あらあら、きっと気のせいだわ。私の推しへの燃えるような愛が、オーラとなって私の存在そのものを完全に消し去っているに違いありませんもの!
『午後二時十五分、西棟廊下にて。後輩騎士に何かを指導中。その真剣な横顔、国宝級。眉間の皺の角度、黄金比』

ああ、なんて充実した時間なのだろう。授業に出ている他の生徒たちが、哀れに思えてくる。真の学びとは、教室ではなく、推しのいる場所にこそあるのだから!

その日の夜、私は自室のベッドの上で悶えていた。
『ゼノン様白書』を読み返せば、今日一日の彼の尊いお姿が脳裏に蘇る。だが、それだけでは足りない!この燃えるようなパッションは、観察だけでは満たされないわ!
四六時中、寝ても覚めてもゼノン様を感じていたい…!

「……そうだ、グッズを作ればいいのよ!」

名案だわ!私はベッドから飛び起き、侍女たちが用意してくれた最高級の布地を取り出した。作るものは決まっている。ゼノン様がその身に纏う、漆黒のマントをイメージしたクッションだ!これを抱きしめて眠れば、毎晩ゼノン様の夢が見られるに違いありません!

「アンナ、手伝ってちょうだい!」
「お嬢様、もう夜も更けておりますが…」
「いいから!これは神聖な儀式なのです!」

アンナに呆れられながらも、私は早速制作に取り掛かった。
まずは、ビロードのように滑らかな漆黒の生地を、マントの形に裁断。そして、一針一針、ありったけの愛を込めて縫い合わせていく。

(ああ、ゼノン様…。あなたのその強さ、その孤高さ、そしてそのお美しさ…全てをこのクッションに…!)

私の有り余る魔力が、自然と指先から溢れ出し、縫い目に魔力の光が宿っていくのが分かる。普通の令嬢なら、魔力を込めた刺繍くらいはできるだろう。だが、私の中に眠るこの力は、そんな生半可なものではない。前世の社畜生活で溜め込んだストレスが、この世界では規格外の魔力に変換されているのかもしれない。

「ゼノン様への愛よ、このクッションに宿りなさい!」

私は完成したクッションを両手で掲げ、ありったけの魔力…いや、愛を注ぎ込んだ。その瞬間――。

クッションが、まばゆい光を放ち始めた。
「お嬢様、なんだか様子が…!」
アンナの悲鳴と同時に、クッションは凄まじい勢いで膨張し、部屋中に魔力の嵐が吹き荒れる。

ドゴォォォォン!!

愛が、強すぎたようだ。
私の愛を受け止めきれなかったクッションは、凄まじい轟音を立てて大爆発してしまった。

気づけば、部屋は煤だらけ。美しい壁紙は黒く焦げ、カーテンは見るも無惨に引き裂かれている。隣では、アンナが目を回して気絶寸前だった。
だが、私の目は、爆発の中心にあった一点に釘付けだった。

爆発の跡に、きらきらと輝く小さな石が一つ、落ちていた。
夜空に瞬く一番星のように、澄み切った紫色の光を放つ、それはそれは美しい魔石だった。

「まあ……」

私は、そっとその魔石を拾い上げた。手のひらに乗せると、温かい魔力が伝わってくる。
これが、私のゼノン様への愛が形になったもの…。愛の結晶ですわ!
私は、部屋の惨状も忘れて、その神秘的な輝きにうっとりと見惚れていた。

翌日。
私が学園に登校すると、生徒たちの様子が昨日とは少し違っていた。皆、私を遠巻きに見ながら、何かを興奮したように囁きあっているのだ。
「あれが、リリアーナ様…」
「昨夜、公爵邸ですごい爆発があったらしいわ」
「聞いた?あの方、魔力暴走の果てに、とんでもないものを錬成されたそうよ!」

どうやら、とんでもない噂が広まっているようだった。
「あのリリアーナ様が、〝奇跡の秘石〟を錬成されたらしい」

あらまあ!
私はただ、推しへの愛を形にしようとしただけなのに、意図せずして世界に貢献してしまった!
私は扇で口元を隠し、王侯貴族の令嬢にふさわしい、完璧な笑い声を響かせた。

「オーッホッホッホッホ!」

こうして、私の輝かしい勘違い伝説の第一歩は、高らかに幕を開けたのだ。
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