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第4話:推しのためなら法も超える?
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大変ですわ!一大事ですわ!
わたくしの独自の情報網(主に学園の噂好きのご令嬢方とのネットワーク)が、とんでもない情報をキャッチいたしました!
なんと、近々行われる王立アカデミーの校外演習に、あのゼノン様が警護役として参加されるというのです!
「まあ、なんてこと…」
わたくしは、その報告を聞いた瞬間、お茶会で口に含んだばかりの最高級マカロンを危うく噴き出しそうになりました。
校外演習。その名目は、生徒たちの実践的な魔物討伐訓練。ですが、その実態は、魔物がうろつく危険な森でのサバイバル行軍に他なりません。そんな危険極まりない場所に、わたくしの、あの気高く美しいゼノン様を、たった一人で行かせるですって!?
(ファンとして、あるまじき行為ですわ!)
騎士団の方々も、何を考えているのでしょう!ゼノン様は国宝、いえ、世界の至宝ですのよ!そのお顔に万が一傷でもついたら、国家的な損失ですわ!
いてもたってもいられません。わたくしも行きますわ!ゼノン様は、このわたくしがお守りしなくては!
「…と、いうわけですの、アンナ。すぐに手配を」
「どういうわけでございますか!?」
わたくしの決意表明に、侍女のアンナが悲鳴のような声を上げました。まあ、なんて大きな声。淑女の嗜みとして、感心いたしませんわ。
「お嬢様、校外演習は選抜された生徒と、正式な騎士団の方々のみが参加できるものですわ!ただの学生であるお嬢様に参加資格など…」
「アンナ。愛があれば、ルールなど些細なことなのです」
わたくしは、アンナの両肩をがっしりと掴み、真剣な瞳で彼女を見つめました。
「わたくしには、ゼノン様をお守りするという、神聖な使命があるのです。規則や前例などという、ちっぽけな壁に阻まれている場合ではありませんわ」
「その使命は、お嬢様が勝手に生み出したものではございませんか!?」
アンナはまだ何か言いたそうでしたが、わたくしは構わず、最後の一押しをいたしました。
「お父様にお願いしてちょうだい!わたくしが参加できるよう、手配してくださるように、と!」
その言葉を聞いた瞬間、アンナは全てを諦めたかのように、がっくりと肩を落としました。そして、その瞳には、きらりと光るものが。
まあ、なんてことでしょう。わたくしの、推しを想う純粋な気持ち、その一途な愛に、アンナもついに感動してくれたのですね!
アンナは、感動のあまりか、涙声で「…承知、いたしました…」と応えると、ふらふらとした足取りで部屋を出ていきました。きっと、すぐにお父様のもとへ、わたくしの熱い想いを伝えに行ってくれたのでしょう。
お父様も、きっと分かってくださるはず。この、わたくしの汚れなき献身的な愛を!
そして、わたくしの純粋な想いは、天に通じたのです。
数日後、わたくしの校外演習への「特別参加」が、正式に決定いたしました。お父様、大好きですわ!
出発当日。わたくしは、鼻歌交じりで旅の準備を進めておりました。
そこへ、親友のカサンドラが、それはもう仁王のような形相で部屋に乗り込んできました。
「リリアーナ!あなた、お父様を抱き込んで、一体何をしでかしたの!?」
「まあ、カサンドラ。人聞きの悪いことをおっしゃらないで。これは、愛の力ですわ」
わたくしの言葉に、カサンドラの眉がますます吊り上がります。彼女は、わたくしの準備した巨大なトランクに目をつけ、疑念に満ちた声で言いました。
「…その荷物、少し見せてもらうわよ」
あらあら、心配性ですこと。わたくしの完璧な準備に、何か不備があるとでも?
わたくしが優雅に頷くと、カサンドラは遠慮なくトランクの錠前を外し、その蓋を勢いよく開け放ちました。次の瞬間。
カサンドラの顔が、凍りつきましたわ。
無理もありません。そのトランクの中には、わたくしのゼノン様への愛が、これでもかと詰め込まれていたのですから。
まずは、彼の漆黒の鎧をイメージした生地に、金の刺繍で「必勝!ゼノン様!」と縫い付けた、特製の応援用の旗。
次に、飲むのがもったいないほど美しい、わたくしの手作りポーション。その小瓶の一つ一つには、わたくしが心を込めて描いた、ゼノン様の肖像画のラベルが貼られています。
そして、トランクの半分以上を占める、もふもふとした黒い布の塊…。そう、来るべき野営の夜、冷たい地面でお休みになるゼノン様を少しでも癒やすため、そしてわたくし自身も寂しくないようにと開発した、「ゼノン様等身大抱き枕(試作品)」ですわ!
「…………」
カサンドラは、わなわなと震えながら、その光景をただ黙って見つめていました。やがて、その怒りは頂点に達したのでしょう。彼女は、わたくしの肩を掴み、力いっぱい前後に揺さぶりながら絶叫しました。
「あなた、ピクニックにでも行くつもり!?」
まあ、失礼しちゃいますわ。これは、命がけの戦場に赴くための準備ですのに。
カサンドラは激しく怒り狂い、部屋の隅では、アンナが新しい胃薬の瓶を開けているのが見えます。
ふふ、二人とも、分かっていないのです。
これらは、決して遊び道具などではありませんわ。
応援用の旗は、魔力を込めれば光を放ち、敵の目を眩ませる目眩ましになります。肖像画入りポーションは、飲む者の士気を極限まで高める、究極のバフアイテム。そして、この抱き枕は、ただの枕ではありません。内部には防御魔術が幾重にも施され、いざという時にはゼノン様をお守りする、最高の盾となるのです!
これらは全て、ゼノン様をお守りするための、神聖な「装備」なのです!
わたくしは、二人の心配を「愛ゆえの激励」と、心の中でポジティブに変換いたしました。そして、これ以上ないほど誇らしげに胸を張り、高らかに宣言するのです。
「準備は万端ですわ!いざ、ゼノン様のもとへ!」
こうして、わたくしの、愛と欲望と勘違いに満ちた校外演習は、幕を開けたのでした。
わたくしの独自の情報網(主に学園の噂好きのご令嬢方とのネットワーク)が、とんでもない情報をキャッチいたしました!
なんと、近々行われる王立アカデミーの校外演習に、あのゼノン様が警護役として参加されるというのです!
「まあ、なんてこと…」
わたくしは、その報告を聞いた瞬間、お茶会で口に含んだばかりの最高級マカロンを危うく噴き出しそうになりました。
校外演習。その名目は、生徒たちの実践的な魔物討伐訓練。ですが、その実態は、魔物がうろつく危険な森でのサバイバル行軍に他なりません。そんな危険極まりない場所に、わたくしの、あの気高く美しいゼノン様を、たった一人で行かせるですって!?
(ファンとして、あるまじき行為ですわ!)
騎士団の方々も、何を考えているのでしょう!ゼノン様は国宝、いえ、世界の至宝ですのよ!そのお顔に万が一傷でもついたら、国家的な損失ですわ!
いてもたってもいられません。わたくしも行きますわ!ゼノン様は、このわたくしがお守りしなくては!
「…と、いうわけですの、アンナ。すぐに手配を」
「どういうわけでございますか!?」
わたくしの決意表明に、侍女のアンナが悲鳴のような声を上げました。まあ、なんて大きな声。淑女の嗜みとして、感心いたしませんわ。
「お嬢様、校外演習は選抜された生徒と、正式な騎士団の方々のみが参加できるものですわ!ただの学生であるお嬢様に参加資格など…」
「アンナ。愛があれば、ルールなど些細なことなのです」
わたくしは、アンナの両肩をがっしりと掴み、真剣な瞳で彼女を見つめました。
「わたくしには、ゼノン様をお守りするという、神聖な使命があるのです。規則や前例などという、ちっぽけな壁に阻まれている場合ではありませんわ」
「その使命は、お嬢様が勝手に生み出したものではございませんか!?」
アンナはまだ何か言いたそうでしたが、わたくしは構わず、最後の一押しをいたしました。
「お父様にお願いしてちょうだい!わたくしが参加できるよう、手配してくださるように、と!」
その言葉を聞いた瞬間、アンナは全てを諦めたかのように、がっくりと肩を落としました。そして、その瞳には、きらりと光るものが。
まあ、なんてことでしょう。わたくしの、推しを想う純粋な気持ち、その一途な愛に、アンナもついに感動してくれたのですね!
アンナは、感動のあまりか、涙声で「…承知、いたしました…」と応えると、ふらふらとした足取りで部屋を出ていきました。きっと、すぐにお父様のもとへ、わたくしの熱い想いを伝えに行ってくれたのでしょう。
お父様も、きっと分かってくださるはず。この、わたくしの汚れなき献身的な愛を!
そして、わたくしの純粋な想いは、天に通じたのです。
数日後、わたくしの校外演習への「特別参加」が、正式に決定いたしました。お父様、大好きですわ!
出発当日。わたくしは、鼻歌交じりで旅の準備を進めておりました。
そこへ、親友のカサンドラが、それはもう仁王のような形相で部屋に乗り込んできました。
「リリアーナ!あなた、お父様を抱き込んで、一体何をしでかしたの!?」
「まあ、カサンドラ。人聞きの悪いことをおっしゃらないで。これは、愛の力ですわ」
わたくしの言葉に、カサンドラの眉がますます吊り上がります。彼女は、わたくしの準備した巨大なトランクに目をつけ、疑念に満ちた声で言いました。
「…その荷物、少し見せてもらうわよ」
あらあら、心配性ですこと。わたくしの完璧な準備に、何か不備があるとでも?
わたくしが優雅に頷くと、カサンドラは遠慮なくトランクの錠前を外し、その蓋を勢いよく開け放ちました。次の瞬間。
カサンドラの顔が、凍りつきましたわ。
無理もありません。そのトランクの中には、わたくしのゼノン様への愛が、これでもかと詰め込まれていたのですから。
まずは、彼の漆黒の鎧をイメージした生地に、金の刺繍で「必勝!ゼノン様!」と縫い付けた、特製の応援用の旗。
次に、飲むのがもったいないほど美しい、わたくしの手作りポーション。その小瓶の一つ一つには、わたくしが心を込めて描いた、ゼノン様の肖像画のラベルが貼られています。
そして、トランクの半分以上を占める、もふもふとした黒い布の塊…。そう、来るべき野営の夜、冷たい地面でお休みになるゼノン様を少しでも癒やすため、そしてわたくし自身も寂しくないようにと開発した、「ゼノン様等身大抱き枕(試作品)」ですわ!
「…………」
カサンドラは、わなわなと震えながら、その光景をただ黙って見つめていました。やがて、その怒りは頂点に達したのでしょう。彼女は、わたくしの肩を掴み、力いっぱい前後に揺さぶりながら絶叫しました。
「あなた、ピクニックにでも行くつもり!?」
まあ、失礼しちゃいますわ。これは、命がけの戦場に赴くための準備ですのに。
カサンドラは激しく怒り狂い、部屋の隅では、アンナが新しい胃薬の瓶を開けているのが見えます。
ふふ、二人とも、分かっていないのです。
これらは、決して遊び道具などではありませんわ。
応援用の旗は、魔力を込めれば光を放ち、敵の目を眩ませる目眩ましになります。肖像画入りポーションは、飲む者の士気を極限まで高める、究極のバフアイテム。そして、この抱き枕は、ただの枕ではありません。内部には防御魔術が幾重にも施され、いざという時にはゼノン様をお守りする、最高の盾となるのです!
これらは全て、ゼノン様をお守りするための、神聖な「装備」なのです!
わたくしは、二人の心配を「愛ゆえの激励」と、心の中でポジティブに変換いたしました。そして、これ以上ないほど誇らしげに胸を張り、高らかに宣言するのです。
「準備は万端ですわ!いざ、ゼノン様のもとへ!」
こうして、わたくしの、愛と欲望と勘違いに満ちた校外演習は、幕を開けたのでした。
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