狂気の推し活令嬢リリアーナ様!

YY

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第22話:舞踏会準備は戦略兵器級

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まあ、なんて素晴らしい知らせなのでしょう!

わたくしたちの『愛の城』…もとい、王都前線基地の設営が完了し、壁一面の地図にゼノン様の予想移動ルートを書き込む作業に没頭していた、まさにその時でした。侍女が、国王陛下の御璽が押された一通の招待状を運んできたのです。王城で盛大な舞踏会が開かれるという吉報が、わたくしたちの司令部に舞い込んできたのですわ!国王陛下の生誕を祝う、年に一度の盛大な祝祭。これ以上の舞台はございません!

「舞踏会…!」

その一言を聞いただけで、わたくしの胸は期待に張り裂けんばかりでした。隣で地図にピンを刺していたカサンドラが「あら、ようやく普通の令嬢らしいイベントね」と安堵のため息をついておりますが、彼女はまだ分かっておりませんわね。舞踏会こそが、最も過酷な戦場であるということを!

舞踏会といえば、正装した殿方が集う、目の保養の天国!そして、そこで拝見できるであろう、ゼノン様の凛々しい礼服姿…!いつもの無骨で機能美に溢れた漆黒の鎧とは違う、彼の完璧なスタイルを際立たせるであろう、体にフィットした優雅な礼服!ああ、想像しただけで失神してしまいそうですわ!きっと、その胸元には騎士としての功績を示す勲章が誇らしげに輝き、白い手袋に包まれたその手で、シャンパングラスを…いえ、わたくしの手を取って、ダンスへと誘ってくださるに違いありません!

…ですが、いけませんわ。そのような甘い妄想に浮かれてばかりもいられません。

舞踏会は、魑魅魍魎が跋扈する社交という名の戦場。ゼノン様のその圧倒的な美しさと、近頃の英雄譚に引き寄せられ、彼を狙う不埒な輩が、蜜に群がる蝶のようにひらひらと寄ってくるに違いありません。虎視眈々と公爵家との繋がりを狙う令嬢、彼の武勇を利用しようと企む腹黒い貴族、そして、彼に嫉妬の炎を燃やす他の騎士たち…。許せませんわ!わたくしの大切な推しを、素性の知れぬ害虫どもに近づけるわけにはまいりません!そうですわ。わたくしが、完璧な準備で、彼をお守りしなくては!これは甘いデートであると同時に、最重要の護衛任務なのですから!

「アンナ!カサンドラ!出撃準備ですわよ!」
「「どこへですの(か)!?」」

わたくしの号令に、サロンでお茶をしていた二人の悲鳴が綺麗にハモりましたわ。ふふ、わたくしの同志たちも、ようやくこの戦いの重要性に気づき、血が騒いでいるようですわね。

まずは、戦場に赴くための戦闘服…ドレスですわ!

わたくしは、王都で一番と名高いドレス職人を呼びつけ、何十着というドレスの中から、運命の一着を選び抜きました。ゼノン様の、あの夜の闇を溶かし込んだような漆黒の鎧と並んでも見劣りしない、美しい夜空色のシルクドレス。銀河のように繊細な銀糸の刺繍が施され、動くたびに星屑のようにきらめきます。職人も「お嬢様の美しさを最大限に引き出す、最高のドレスでございます」と胸を張っておりましたわ。

ですが、ただ美しいだけでは意味がありません。戦場で、ドレスは淑女の鎧となるのですから。

わたくしは、完成したドレスを受け取ると、そのまま自室の工房に籠りました。「お嬢様、何を…?まさか、その国宝級のドレスにまた何か良からぬことを…」と訝しむアンナを「これは聖なる儀式ですの。決して覗いてはなりませんわ」と言って締め出し、わたくしは秘密裏にドレスの改造に取り掛かったのです。

まずは、生地に最高級のミスリル銀の糸を、一本一本丁寧に魔力を込めながら縫い込んでいきます。これで、万が一、ゼノン様を狙う暗殺者の刃がこちらに向かってきても、このドレスが完璧に防いでくれますわ。まさに防刃仕様の戦闘服です!ダンスのステップを踏みながら、ワルツのリズムに合わせて華麗に刃を弾くわたくしの姿…絵になりますわね!

そして、幾重にも重なるスカートの裾には、肉眼では見えないほど緻密な魔法陣を、わたくしの魔力を込めて刺繍していくのです。これは、広範囲に効果を及ぼす呪いや状態異常魔法からもゼノン様(の隣にいるわたくし)を守るための、対魔法結界。完璧な防魔仕様です!これで、彼に言い寄る令嬢たちの嫉妬の念や、腹黒い貴族の精神干渉魔法からも、彼を完璧に守れますわ!

仕上げは、アクセサリーですわ!

わたくしは、アンナが命がけで手に入れてくれたオリハルコンの原石を、工房の炉で自ら溶解させ、聖なる槌で打ち延ばし、削り出し、磨き上げました。そして、ゼノン様の騎士団の紋章である孤高の黒鷲を模した、それはそれは美しいペンダントを自作いたしましたの。その名も、“推しペンダント”!

もちろん、ただの飾りではありませんわ。その内部には、わたくしの魔道具作りの粋を集めた、超小型の通信機能と追跡機能を搭載しておりますの。これで、たとえ人混みの中ではぐれてしまっても、いつでもゼノン様の位置を正確に把握し、離れた場所にいるわが『ゼノン様護衛騎士団』の団員たちに、リアルタイムで彼の状況を報告することが可能!さらに、緊急時には高周波の音波を発し、周囲の害虫(主に恋敵)にだけ聞こえる不快な音で、彼に近づくのを牽制する機能もつけましたわ!まさに、究極の推し活アイテムですわ!

わたくしが、そうして舞踏会の準備に没頭していると、お父様からお呼び出しがかかりました。

執務室に赴くと、お父様は机の上に置かれた数枚の羊皮紙…わたくしが注文したミスリル銀や希少な魔石の、とんでもない金額が記された請求書を前に、腕を組んでいらっしゃいました。まずいですわ、少しばかりやりすぎてしまいましたかしら…。国家予算に匹敵する額になってしまったかもしれません。

ですが、お父様は、わたくしの顔を見るなり、ぱあっと顔を輝かせ、それはもう嬉しそうにおっしゃったのです。

「おお、リリアーナ!見たぞ、この請求書を!婚約者探しのために、そこまで力を入れているのか!素晴らしい!父さんは嬉しいぞ!そうだ、隣国の王子も来るらしいから、紹介してやろうか?いや、財務大臣のところの、あの好青年は…」
「まあ、お父様!わたくしには、心に決めた方がおりますもの!」

わたくしの言葉に、お父様の喜びは最高潮に達しました。

「おお、そうか!そうであったか!ならば尚更だ!その男を射止めるためだ、資金は惜しまんぞ!この父が、お前の恋の最大の支援者となってやろう!」

まあ!なんてことでしょう!

お父様は、わたくしのこの神聖な推し活を、熱心な婚活だと勘違いしてくださっている!なんて都合が…いえ、なんて物分かりの良いお父様なのでしょう!わたくしの愛の深さを、正しく理解してくださっている!

ええ、ええ、お父様。間違いではございませんわよ。わたくしの生涯のパートナーを見つけるため、わたくし、頑張っておりますわよ!(お相手は、もうとっくの昔に一人しかおりませんが!)

さあ、戦略兵器級の準備は万端です。

いざ、恋の戦場へ!わたくしの愛で、ゼノン様を完璧にお守りしてみせますわ!
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