ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第1章:炎上プロジェクトと問題児(エリート)たち

第15話:盤上の景色(ヴィジュアライズ)

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ケンジの意識は、自己不信という名の、どこまでも冷たい水底へと沈んでいった。
もう、何も聞こえない。仲間たちの罵声も、ゴブリンたちの威嚇の咆哮も、すべてが遠い世界の出来事のようだった。彼の心を支配するのは、前世から続く、ただ一つの呪いのような言葉。

(俺のせいだ)

その思考が、彼の精神を完全にシャットダウンさせようとした、まさにその瞬間だった。

『――大丈夫!』

その声は、分厚い氷を打ち破る一筋の光のように、ケンジの閉ざされた意識の奥深くまで直接響き渡った。それは、あのポンコツな女神の声だった。しかし、いつものような頼りなげな響きではない。その声には、必死さが、そして、確かな“想い”が込められていた。

『あなたはもう、一人じゃない!』

(……一人じゃ、ない?)

ケンジの停止しかけていた思考が、その言葉にわずかに反応する。そうだ。俺は一人じゃない。
目の前には、無謀な魔法を放とうとする傲慢なエルフがいる。背後には、自分の金貨袋を狙った信用できない盗賊がいる。そして、隣には、指示があるまでテコでも動かない頑固なドワーフがいる。
それはお世辞にも理想のチームとは言えない。だが、彼らはまだ、ここにいる。誰も逃げ出してはいない。この絶望的な状況の中で、彼らはまだ、戦おうとしている。

女神の声が、続く。その声は優しく、しかしどこか叱咤するような力強さを帯びていた。

『ほら、あなたのスキルを信じて!』

(俺の、スキル……?)

ケンジの脳裏に、女神から与えられた自らのユニークスキルの名が浮かび上がる。
【プロジェクト管理 -絶対遵守-】
そうだ。俺のスキルは、【プロジェクト“計画”】ではない。【プロジェクト“管理”】だ。
計画(プラン)を立てるだけが仕事じゃない。発生した問題(インシデント)をリアルタイムで処理し、遅延したスケジュールを立て直し、崩壊しかけたチームを再び機能させる。混沌(カオス)を、秩序(オーダー)へと変える。それこそが、プロジェクトマネジメントの本質じゃないか。

『それは、ただの計画(プラン)を作るための力じゃない! 混沌(カオス)を、秩序(オーダー)に変えるための力でしょう!? 使って! あなたの、本当の力を!』

女神の叫びが、最後の引き金となった。ケンジの心の中で、何かがカチリ、と音を立てて切り替わる。そうだ。計画が破綻した?
上等じゃないか。デスマーチは、ここからが本番だ。
前世で、俺は何度、この修羅場をくぐり抜けてきた? クライアントは無茶を言い、仲間は倒れ、上司は責任を放棄する。そんな地獄のような状況の中で、たった一人、それでも、プロジェクトを前に進めてきたんじゃないのか。

ケンジの虚ろだった瞳に、再び光が宿る。それは、もはや絶望の色ではなかった。それは、炎上するプロジェクトの鎮火に挑む、一人のプロジェクトマネージャーの、冷徹で、そしてどこか狂気じみた闘志の光だった。

(……動け)

彼は心の中で命じた。

(動け。俺の、スキル)

(これが、お前の本当の力なら……!)

(この最悪の状況(デスマーチ)を、管理(マネジメント)してみせろッ!)

ケンジは、無我夢中で、自らのユニークスキル【プロジェクト管理】を最大出力で発動させた。
彼の身体から、目には見えない、しかし圧倒的なプレッシャーが周囲へと放たれる。ゴブリンたちの甲高い雄叫びが遠のいていく。仲間たちの罵り合う声が聞こえなくなる。世界のすべてが、スローモーションになっていく。
そして。
ケンジの目の前の現実が、音を立てて崩れ始めた。
森の木々が、緑色のポリゴンへと変わり、ゴブリンたちの醜悪な姿が、単純なアイコンへと変換されていく。
世界そのものが、今、彼の“管理”の下に、再定義されようとしていた。

世界の再構築
ケンジが最大出力でスキルを発動させた、次の瞬間。
彼の世界は、完全に、書き換えられた。

まず、音が消えた。
仲間たちの罵り合いも、ゴブリンたちの耳障りな雄叫びも、まるで分厚いガラスの向こう側のように、遠く、くぐもった残響音へと変わる。あらゆる喧騒が鎮静され、耳に届くのは、ただ自らの呼吸音だけになった。

次に、色が消えた。
鬱蒼とした森の緑も、血に飢えたゴブリンの醜い肌の色も、鮮血のような夕日の赤さえも、すべてがその色彩を失っていく。世界はモノクロームのキャンバスに変わり、光と影の濃淡だけで構成された、無機質な風景と化した。

そして、世界が分解され、再構築されていく。

ケンジの視界から、現実の森は完全に消え失せていた。代わりに広がっていたのは、黒い背景に、青白い光の線で描かれた広大なグリッド(格子)空間。森の木々や岩は、単純なポリゴンのようなオブジェクトへと変換され、その上には『遮蔽率:70%』や『地形効果:移動速度-10%』といった無機質なテキストが浮かんでいる。
それは、まるで、ストラテジーゲームの戦略マップだった。

そして、そのマップの上には、光り輝く駒(ユニット)が配置されていた。
ケンジの目の前には、三つの、青い光を放つ人型のアイコン。

【味方ユニット:ルリエル】
クラス:魔術師
HP:75/100 MP:50/120
ステータス:混乱、恐怖(小)
使用可能スキル:ファイアボルト(MPコスト10)、ライトシールド(MPコスト15)…

【味方ユニット:ゴードン】
クラス:重戦士
HP:98/100
ステータス:冷静、防御態勢
使用可能スキル:シールドバッシュ(クールダウン5秒)、挑発…

【味方ユニット:シーナ】
クラス:盗賊
HP:82/100
ステータス:警戒、集中
使用可能スキル:バックスタブ(発動条件:対象が自身を未認識)、ステルス…

仲間たちの体力、精神状態、そして今この瞬間に使用可能なスキルまでが、膨大な情報となってケンジの脳内へと流れ込んでくる。同時に、個々のユニットの強みと弱点が、直感的に理解できるようになった。ルリエルのMPは半分以下に落ち込み、パニック状態にある。ゴードンは最もHPが高く、防御に徹している。シーナは集中しているが、敵に気づかれていない状況でのみ最大の力を発揮できる。
ケンジは、彼らの能力を、ただのステータスとしてではなく、現実のチームメンバーとしての特性として瞬時に把握した。

そして、彼らを取り囲むように配置された、無数の赤い光のアイコン。

【敵ユニット:ゴブリン】
HP:30/30
ステータス:攻撃的

【敵ユニット:ゴブリン・アーチャー】
HP:25/25
ステータス:詠唱中(スキル:ポイズンアロー)

だが、ケンジが最も驚愕したのは、その情報だけではなかった。
ゴブリン・アーチャーのアイコンから、青い光を放つルリエルのアイコンに向かって、一本の赤い予測線が描かれていたのだ。その線の終着点には、小さなウィンドウが表示されている。
【攻撃予測:着弾まで、あと3.2秒。対象:ルリエル。予測ダメージ:20-25】

(……なんだ、これは……)

ケンジは息をのんだ。見える。すべてが手に取るように、見える。
敵がどこにいて、仲間がどんな状態で、そして次の瞬間、誰が、誰を、どのように攻撃しようとしているのか。これまで彼の心を支配していた、混沌(カオス)と絶望。それらは、今や完全に姿を消していた。
目の前にあるのは、ただ、膨大で、しかし完璧に整理された「情報」の海。
それは、解決不可能な「危機」などではない。それは、分析し、判断し、そして最適解を導き出すべき、一つの、巨大で複雑な「課題(プロジェクト)」だった。

ケンジは、ゆっくりと顔を上げた。
仲間割れをしていたはずの仲間たちが、スローモーションのように動いている。襲いかかろうとするゴブリンたちの次の一手も、すべて予測線として、彼の目には見えている。
絶望的なカオスは、分析可能な「情報」へと変わった。
彼の虚ろだった瞳の奥に、かつてどんなデスマーチの最中でも、決して失われることのなかった、プロジェクトマネージャーとしての、冷徹で、そして鋭い光が、再び宿っていた。
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