ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第1章:炎上プロジェクトと問題児(エリート)たち

第19話:君を死なせる計画(プラン)はない

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ケンジの、冷徹ながらも揺るぎない確信に満ちた声が、張り詰めた戦場の空気を切り裂いた。

「――シーナさん」

その声は命令というよりも、確かな信頼を問う響きを帯びていた。シーナは反射的にケンジへと視線を向け、その瞳の奥に宿る揺るぎない意志を見た。

「お願いします。あなたの仕事です」

ケンジは、ゴードンが巨大な盾を構え、ルリエルが複雑な詠唱を紡ぎ始めるのを横目で見ながら、淡々と、しかし迷いなく言葉を続けた。

「ゴードンさんがチャンピオンの攻撃を受け止めた直後。敵の意識がゴードンさんに完全に集中する、わずか一瞬の隙。その隙を突いて、あなたにチャンピオンの懐、死角となる右側面へと飛び込んでほしいのです!」

その言葉の意味を理解するのに数秒を要した。頭の中に冷たい水が流れ込むように、その内容を理解した瞬間、シーナの背筋をぞくりと悪寒が這い上がった。それは、生きた心地のしない、危険を告げる本能的な警告だった。

(…は? 何を言ってるんだ、こいつは…)

ゴブリン・チャンピオンの懐に飛び込む?

あの、大剣を赤子の腕のように軽々と振り回す、巨大な化け物の間合いの内側に、たった一人で踏み込めと?

それは作戦などではない。正気の沙汰ではない。自殺だ。

ゴードンほどの、鋼鉄の鎧に身を包んだ戦士ならまだしも、自分は盗賊だ。着ているのは、動きやすさを重視した革鎧だけ。あの巨大な剣の一撃をまともに食らえば、即死は免れない。いや、一撃どころか、剣の風圧に掠っただけでも致命傷になるだろう。

冗談じゃない。あたしの命は、そんな安っぽい使い捨ての駒じゃない。

これまでシーナは、そうやって生きてきた。常にリスクとリターンを天秤にかける。最も生存確率が高く、最も実入りのいい選択肢を選び続ける。それが、この非情な世界をたった一人で生き抜くための、彼女の唯一無二のルールだった。

そして今、目の前の「ボス」が提示してきた選択肢。

リスク: 死亡確率90%以上。
リターン: 不明。パーティの勝利? そんな曖昧なものに、自分の命を賭けられるほど、彼女は甘くなかった。

答えは決まっていた。

「…断る」

そう口にしようとした彼女の身体が、しかし動かなかった。まるで金縛りにあったかのように、足が地面に縫い付けられている。

それは、彼女の生存本能が発する最強の警報だった。

動くな。動けば死ぬ。

百戦錬磨の盗賊として、幾度となく死線を潜り抜けてきた彼女の勘が、そう叫んでいた。

ケンジは、そんな彼女のわずかだが致命的な変化を見逃さなかった。彼の視界(UI)の中、シーナのアイコンの横に、黄色い警告のフラグが点滅していた。

【ユニット:シーナ。ステータス:躊躇(高)。タスク実行確率:20%】

(…まずい!)

ケンジの脳内シミュレーションが、一瞬にして最悪の未来を予測する。

このままでは作戦は失敗する。ゴードンの奮闘も、ルリエルの詠唱も、すべてが無駄になる。そしてその先にあるのは、このパーティの全滅というバッドエンドだ。

論理的な説得では間に合わない。彼女の生存本能という名の鋼鉄の防御壁を打ち破るには、もっと根源的な何か、心の奥深くに突き刺さる何かが、必要だった。

ケンジは、心の奥底からほとんど叫びに近い声を絞り出した。それは、もはや計算や計画ではない、本能的な衝動だった。

「――僕を信じてくれッ!!」

その声は、もはやプロジェクトマネージャーの冷静な声ではなかった。

それは、一人の無力な男が、仲間を絶対に死なせたくないと願う、必死の魂の叫びだった。

その痛切な声に、シーナの肩がびくりと震える。

「シーナさん! これはあなたを使い捨てるための作戦じゃない! あなたの、誰にも真似できないスピードと技術がなければ、この作戦は100%失敗するんだ!」

ケンジは続ける。彼の視界に映る戦略盤。その勝敗を分かつ最も重要な一点、シーナという存在を、彼は指さした。

「ゴードンさんが盾だ。ルリエルさんが矛だ。だが、勝利への道を切り開くたった一筋の光はあなたなんだ! あなたこそがこのプロジェクトの、本当のクリティカルパスなんだ!」

彼は彼女をただの囮(デコイ)だとは言わなかった。

彼は、彼女がこの絶望的な作戦の「要(かなめ)」なのだと、その存在価値を強く訴えたのだ。

そして。

ケンジは、疑念に揺れるシーナの瞳をまっすぐに見つめ、全身の力を込めて叫んだ。

「君を死なせる計画(プラン)は、ここにはないッ!!」

その言葉には、一切の嘘も、打算も、計算もなかった。

ただ、仲間を絶対に死なせはしないという、プロジェクトマネージャーとして、そして一人の人間としての、揺るぎない覚悟と誓いだけが込められていた。

シーナは、そのあまりにもまっすぐな言葉にただ立ち尽くしていた。

彼女の心の中で、長年自身を守るために築き上げてきた、猜疑心と利己主義の分厚い壁が、ガラガラと音を立てて崩れていくのがわかった。

これまで彼女が生きてきた世界。

そこは誰も信じられない、裏切りと打算が渦巻く灰色の世界だった。

仲間とは、一時的に利害が一致しただけの他人。

信頼とは、いつか裏切られる甘い幻想。

自分の命を守れるのは自分だけ。

それが、シーナがその身に刻み込んできた、唯一絶対の生存ルールだった。

だが今、目の前の男は、そのすべてを否定した。

彼はシーナをただの使い捨ての「駒」として見てはいなかった。

彼は彼女を、この絶望的な状況を覆すための、唯一無二の「切り札」なのだと言ったのだ。

そして、その命に全責任を負うと。

こんな言葉をかけられたのは、生まれて初めてだった。

シーナの脳が猛烈な勢いで回転する。

この男の言葉を信じるのか?

胡散臭くて、七面倒くさくて、しかしどこか馬鹿正直な、異世界から来たマネージャーの言葉を。

リスクは致命的。

リターンは「信頼」という、目に見えない不確かなもの。

彼女の生存本能が警報を鳴らす。「逃げろ、今すぐに」と。

だが、それと同時に。

心の奥底で、これまで感じたことのない熱い何かが湧き上がってくるのもまた事実だった。

この男に賭けてみたい。

この男が作り出す「未来」というやつを、少しだけ見てみたい。

それは、彼女が生まれて初めて抱いた、打算のない「衝動」だった。

シーナの中で張り詰めていた生存本能の糸が、ぷつりと切れた。まるで、自らの命を縛る呪縛から解放されたかのように。

彼女はふっと息を吐くと、その唇にいつもの、しかしこれまでで最高に不敵な笑みを浮かべた。

「……言ったな、ボス」

その呼び方に、もはや嘲笑の色はなかった。

それは覚悟を決めた者が、自らのリーダーに向ける確かな信頼の響きだった。

「あたしが、あんたの言うクリティカルパスってやつなら、きっちり仕事はしてやるよ」

彼女はそう言うと、二本の短剣を、まるで自分の身体の一部であるかのように強く握り直す。

「だが、もしあんたの計画(プラン)が見当違いで、あたしがあんな醜い化け物に食われるようなことがあったら…」

彼女はケンジの目をまっすぐに射抜き、冷たい輝きを宿した瞳で告げた。

「――死んでも化けて出て、あんたを末代まで呪ってやるからな!」

それは彼女なりの、最大限の信頼の言葉だった。自分の命を預ける相手にしか向けられない、命がけの悪態。

ケンジはその言葉を真摯に受け止め、力強く頷き返した。

「…ええ。覚悟しています」

次の瞬間。

シーナの身体が、地面を爆ぜるように蹴っていた。

彼女はもはや躊躇わない。

一直線に、ただひたすらに前へ。

敵陣の中央。

あの絶望的なまでの強さを誇る、ゴブリン・チャンピオンの懐へと。

それはまるで、死地へ自ら飛び込んでいくかのような無謀な疾走。

だが、その背中には不思議と悲壮感はなかった。

そこにあるのは、自らの役割を果たそうとするプロフェッショナルとしての誇りと、そして、自らの命を預けたリーダーへの、揺るぎない信頼だけだった。

その小さな、しかしあまりにも勇敢な疾走を。

ケンジも、ルリエルも、ゴードンも、ただ息をのんで見つめていた。

戦いの、そしてこのバラバラだったはずのチームの、本当の転換点が今、訪れたのだ。
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