ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第1章:炎上プロジェクトと問題児(エリート)たち

第20話:インシデント鎮圧

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シーナは、まるで黒い矢のように戦場を疾走していた。革鎧を打ち鳴らす風の音だけが耳に届く。周囲で威嚇する雑魚ゴブリンたちの姿は、もはや彼女の視界には映っていなかった。意識は極限まで研ぎ澄まされ、世界のすべてがスローモーションで流れていくように感じられる。ただ一点、あの巨大で絶望的なゴブリン・チャンピオンの懐だけを見据えて。

ゴブリン・チャンピオンは、その知性ある瞳で、自分に向かってくる小さな、しかし尋常ならざる気配を放つ人間の女を捉えていた。雑魚どもが止めようと槍を突き出し、剣を振るう。だが、彼女はそれらをまるで戯れのように、最小限の動きでひらりひらりとかわしていく。地面を蹴るたび、その軌跡は風を切り裂く一筋の刃のようだった。チャンピオンは、巨体からは想像もつかないほど精密に、その視線をシーナの動きに集中させていた。

(…なるほど。すばしっこい、鼠か)

チャンピオンはそう判断した。この女は厄介だ。放置すれば、こちらの陣形を内側から食い破られる可能性がある。ならば先に潰す。チャンピオンの意識は、ゴードンとルリエルという二つの大きな脅威から、目の前の小さなシーナという脅威へと完全に切り替わった。それは、ケンジが喉が張り裂けんばかりの絶叫で勝ち取った、信頼に基づく戦略だった。

ケンジの狙い通りに。

シーナは、チャンピオンの間合いまであと数メートルというところまで迫っていた。チャンピオンが、刃こぼれした巨大な大剣を、まるで蠅を叩き潰すかのように無造作に振りかぶる。その風圧だけで全身の毛が逆立ち、皮膚が粟立つ。生存本能が悲鳴を上げたが、シーナはそれを無視してさらに加速した。

(…来た!)

全身の神経が研ぎ澄まされる。彼女は疾走の勢いを殺さず、その場でぐっと身体を低く沈めた。革靴の底が地面を擦り、乾いた土煙が舞い上がる。そして地面を滑るようにして、チャンピオンの足元へと潜り込む。同時に隠し持っていた投擲用の短剣を、チャンピオンの顔面へと放った。それはダメージを与えるものではない。ただ、一瞬その視線を上に向けさせるための陽動。

「グルォッ!?」

チャンピオンは、顔面に飛来する小さな刃物を鬱陶しそうに大剣の柄で弾き飛ばす。そのコンマ数秒、チャンピオンの意識が上に向いた、その致命的な一瞬の隙。シーナはすでに足元に到達していた。彼女は狙いを、チャンピオンの鎧に覆われていない剥き出しのアキレス腱に定める。しかし、斬らなかった。斬ると見せかけ、その刃を翻して逆の足へとフェイントをかける。

チャンピオンは百戦錬磨の戦士だった。シーナの動きに完璧に反応し、フェイントに乗ったのだ。彼は、シーナが本当に狙っているであろう逆の足を守るため、その巨体をぐっと捻った。それは戦士としての完璧な防御行動。そして、それこそがシーナが、ケンジが狙っていた唯一の隙だった。

大剣を振りかぶり、身体を捻る。この一連の大きな動きによって、チャンピオンの体勢はごくわずかに崩れていた。その胴体は完全にがら空き。意識は足元のシーナに集中し、ルリエルの最大火力の魔法に対する警戒が完全に途切れた一瞬。

シーナは命がけの役目を果たし終え、笑った。その顔は、極限の集中が生み出す歓喜と、自分の役割を果たしたプロとしての誇りに満ちている。そして、ケンジの視界(UI)の中で、チャンピオンのステータス表示が劇的に変化する。

【ユニット:ゴブリン・チャンピオン。ステータス:体勢崩壊、防御不能、脆弱(クリティカル)】
【脆弱状態の持続時間:残り1.5秒】

ケンジは、その絶好の、そしてあまりにも短い好機(クリティカルパス)を逃さなかった。もはや人間業とは思えないほどの速度で叫んだ。その声は喉を焼き、肺を震わせる。

「―――今ですッ!!!」

シーナが作り出したわずか1.5秒の致命的な隙。常人であれば認識することすらできない、瞬きほどの時間。しかし、その刹那をプロジェクトマネージャーであるケンジの超高速で稼働する思考が見逃すはずもなかった。彼の視界(UI)の中でゴブリン・チャンピオンのステータスが【脆弱(クリティカル)】に変わった、まさにその瞬間。ケンジの次の指示が、まるで神の啓示のように戦場に雷鳴のように轟いた。

「ゴードンさん、今です! 全力でチャンピオンの動きを拘束(ロック)してくださいッ!」

その声は、もはや命令ではない。仲間への絶対的な信頼に基づいた、魂の絶叫だった。その叫びに応えるように、これまで防御に徹していた鋼鉄の巨塔が動く。

「オオオオオオオオオオッ!!!」

ゴードンは、ドワーフの戦士としてのすべての誇りを込めた凄まじい雄叫びを上げた。その声は大地を揺るがし、周囲の雑魚ゴブリンたちを恐怖で後ずさらせるほどだ。彼はもはや盾を構えてはいない。その巨大な身体そのものを一つの巨大な砲弾へと変え、体勢を崩したゴブリン・チャンピオンのがら空きの胴体へと、全身の骨がきしむほどの勢いで突進したのだ。

ドゴオオオオオオンッ!!!

凄まじい衝突音。それは、肉と鉄がぶつかる音ではない。山と山とが正面から激突したかのような圧倒的な質量の応酬。ゴードンは、その常軌を逸した膂力でチャンピオンの巨体を力ずくで押さえつけ、地面へと組み伏せようとする。

「グルルルルルルッ…!」

チャンピオンも即座に体勢を立て直し、大剣を捨てると、ゴードンの鋼鉄の鎧をその巨大な爪で引き裂こうとする。ギリギリと鎧が軋む音。ゴードンの額に青筋が浮かび上がる。ケンジの視界には、ゴードンのHPバーがわずかずつ、しかし確実に削られていくのが見えていた。

(…ゴードンさんがもたない…!)

だが、ケンジは焦らない。これもまた、彼の計画の内だった。彼は視線をパーティのもう一人の切り札へと移す。

「ルリエルさん!」

「…分かっているわ!」

ケンジが叫ぶのと、ルリエルが応えるのは、ほぼ同時だった。彼女はすでに、ゴードンが突進を開始したその瞬間から、この作戦の最終段階の準備に入っていた。白くしなやかな指が空中で複雑な紋様を描き出す。唇から紡がれるのは、もはや言葉ではない。世界の理(ことわり)そのものに干渉する古代エルフ語の高速詠唱。銀色の髪が逆立ち、その身体の周囲に蒼白い魔力の嵐が渦巻き始める。杖の先端に埋め込まれた宝石がまばゆいばかりの光を放った。

「――詠唱完了まであと5秒! ターゲット、チャンピオン! 座標、固定! 最大火力(フルスペック)でお願いしますッ!」

ケンジの冷静なカウントダウンが、ルリエルの極限まで高められた集中力の中に響き渡る。

(…5秒…!)

長い。あまりにも長い。この5秒の間に、ゴードンは死ぬかもしれない。シーナが横槍を入れてきたゴブリンに斬られるかもしれない。だが、今の彼女にもう迷いはなかった。ゴードンは必ず5秒間耐え抜いてくれる。シーナは必ず自分を守ってくれる。そして、ボス(ケンジ)は必ず勝利へと導いてくれる。彼女はただ信じる。そして、自らの役割を果たす。彼女の杖の先の宝石に、森中のすべての光が吸い込まれていくかのように魔力が収束していく。そのあまりの魔力密度に、周囲の空間がわずかに歪み始めていた。それは彼女がこのパーティに入ってから、初めて見せる本当の全力。彼女の視線が一点に定まる。その先には、勝利という名の未来が確かに存在していた。
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