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第1章:炎上プロジェクトと問題児(エリート)たち
第21話:システムの脆弱性とPMの“パッチ”
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ケンジの視界(UI)に、ルリエルの詠唱完了までのカウントダウンがゼロを刻んだ。
【ユニット:ルリエル。ステータス:詠唱完了。スキル:サンダーランス(最大出力)。MPコスト:50】
同時に、ゴードンのHPバーが危険水域である赤色へと突入する。
【ユニット:ゴードン。HP:25/100。ステータス:重圧、防御力低下(小)】
(…ギリギリ、間に合った…!)
ケンジは心の中で安堵の息を漏らした。すべてが、彼のシミュレーション通りだった。
そして、まるで神が設計したかのように完璧なタイミングで、ルリエルの高く、凛とした声が戦場に響き渡る。
「――喰らいなさいッ!!!」
彼女が杖を振り下ろすと、その先に収束していた膨大な魔力が解放された。それはもはや「魔法」などという生易しいものではない。天そのものが怒り狂い、地上に牙を剥いたかのような、純粋な破壊の奔流だ。
一本の巨大な雷の槍、サンダーランス。
それが、ルリエルがこのパーティに加わってから初めて見せる、彼女の本当の全力だった。彼女の瞳は、今、魔力の奔流を放つ光に照らされ、勝利への確信に満ちていた。
雷槍は大気を引き裂き、凄まじい轟音と共に、ゴードンが身を賭して押さえつけているゴブリン・チャンピオンのがら空きの胴体へと突き進む。その軌道上にいた雑魚ゴブリンたちは、槍に触れることすらできず、圧倒的な魔力の余波だけで塵と化して消滅していく。彼らは悲鳴を上げる暇さえ与えられなかった。
(…すごい…)
ケンジは、そのあまりの威力に我を忘れて見惚れた。これが、天才エルフ魔術師。これが、彼女の本当の力。そしてこの圧倒的な力を、自分は正しく「管理」することができたのだ。
PMとしての最高の達成感が、彼の心を深く満たした。これまで感じたことのない、仲間との共闘が生み出す、圧倒的な勝利の予感。
だが、その高揚感は次の瞬間、絶望へと変わる。
ゴブリン・チャンピオンは、その絶体絶命の状況の中で笑っていた。醜悪な顔に確かな嘲笑を浮かべていたのだ。その知性ある瞳は、ルリエルの放った魔法の威力を正確に把握し、そして対策を講じていた。
雷槍がその身に着弾するコンマ数秒前。チャンピオンはゴードンを押さえつけていた片腕を離すと、信じられないほどの速度で一体の雑魚ゴブリンを掴み上げた。そして、それを自らの盾としたのだ。
「なっ…!?」
ケンジは息をのんだ。仲間を盾にする。それは彼のシミュレーションには一切存在しなかった、あまりにも非道で、そしてあまりにも効果的な「リスク回避」だった。ゴブリンの命を、文字通り使い捨ての道具として利用する、その冷徹な知性。
雷槍は無慈悲に、盾にされたゴブリンを貫き、その命を奪った。そして、勢いをわずかに減衰させながらも、チャンピオンの右肩へと突き刺さる。
ギャアアアアアアアアアッ!!!
チャンピオンの断末魔の叫びが森中に響き渡る。その右腕は、肉と骨が砕け散る音と共に、肩から完全に吹き飛んでいた。
致命傷。それは間違いなく致命傷のはずだった。
だが、チャンピオンは死んでいない。
彼は片腕を失いながらも、残った左腕でゴードンの身体を突き放すと、憎悪と狂気に満ちた目でルリエルを睨みつけた。
(…まずい…! ターゲットがルリエルに…!)
ケンジの脳が警鐘を鳴らす。最大火力を放った直後のルリエルは、魔力を使い果たし、完全に無防備だ。そしてゴードンは突き放された勢いで体勢を崩している。
誰も、彼女を守れない。
その絶望的な状況を救ったのは、ケンジの計算にはなかったもう一つの「イレギュラー」だった。
「――ボスッ! あとは頼んだわよッ!!」
シーナの鋭い叫び声。
彼女はいつの間にか、チャンピオンの背後へ回り込んでいた。その両手には短剣が握られている。そして、吹き飛んだ右腕の傷口へと容赦なく突き立てる。
「グギィィィィッ!?」
チャンピオンの意識が再び背後のシーナに向く。そのわずか一秒にも満たない時間。
それこそが、ルリエルが体勢を立て直すための、最後の、そして最高の「時間」だった。
ルリエルは、シーナが作ってくれた命がけの時間を無駄にはしなかった。
残ったわずかな魔力を振り絞り、最後の魔法を紡ぎ出す。それはもはや派手な攻撃魔法ではない。ただ純粋な魔力そのものを光の矢として放つ、最もシンプルで、最も速い魔法。
(…ケンジ、覚えてる…? これが、私とあなたが、最初に、練習した魔法…)
彼女の脳裏に、かつてケンジと交わした言葉がよぎる。
「ルリエルさん、この、基本的な魔法を、もっと速く、正確に放てるようになりませんか?」
「……そんなの、なんの意味があるの?」
「あります。きっと、いつか、このシンプルな魔法が、大きな局面を、切り拓く、一撃になる」
そして、今、その瞬間が、目の前にあった。
彼女は叫んだ。仲間たちの想いを、その光の矢に乗せて。
「―――貫けッ! ルーチェ・スピアッ!!!」
ルリエルが放った最後の一撃、ルーチェ・スピア。
それは、彼女がこれまで放ってきたどの魔法とも違っていた。派手な爆発も、周囲を薙ぎ払うような無駄な破壊もない。
ただ純粋に研ぎ澄まされた、一筋の光の奔流。
仲間を守りたい。その一点の想いだけが、凝縮された魔力の矢。
ルーチェ・スピアは、シーナが身を賭して作り出したわずか一瞬の隙を逃さなかった。
ゴブリン・チャンピオンの意識が背後に向いた、その無防備な胸元へ。
何の抵抗もできずに、まるで光が闇を貫くように、正確に深く突き刺さった。
「―――グ、ギ、ィ……ア……?」
ゴブリン・チャンピオンの醜悪な顔に、初めて信じられないといった驚愕の表情が浮かんだ。断末魔の叫び声すら上げられない。その屈強な身体を内側から焼き尽くしていく純粋な魔力の奔流に、ただ巨体を痙攣させるだけだった。
光が収まった時、チャンピオンの分厚い胸板には、まるで流星が墜落したかのような、大きく円い穴が空いていた。その穴の向こう側に、森の木々が見えている。
チャンピオンの瞳から知性と憎悪の光が急速に失われていく。そして、ゴードンが押さえつけていた巨体から、ふっと力が抜けた。
ズシン、と大地を揺るがすような重い音を立てて、ゴブリンたちの王はその巨体を地面へと沈めた。
もう二度と動くことはない。
その光景を、戦場に残っていたすべてのゴブリンたちが見ていた。彼らの王が、彼らの力の象徴が、たった四人の人間たちによって打ち破られた、その決定的な瞬間を。
彼らの心に巣食ったのは、王の死という現実だった。それは彼らの絶対的な力の象徴が、たった一瞬で崩れ去ったことを意味していた。
しんと、森が静まり返った。あれほど響き渡っていたゴブリンたちの鬨の声がぴたりと止む。
彼らはただ呆然と、動かなくなった王の巨体と、その亡骸の前に立つ四人の侵入者たちを見比べていた。彼らの目には、恐怖と混乱が入り混じっていた。
そして、一匹のゴブリンが持っていた錆びた剣をカランと地面に落とす。それが合図だった。
その一匹がくるりと背を向けて森の奥へ逃げ出したのを皮切りに、すべてのゴブリンたちが我先にと武器を放り出し、蜘蛛の子を散らすように森の闇へと逃げ惑っていく。
もはやそこに統率の取れた軍隊の姿はなかった。それはただの、恐怖に支配された烏合の衆の惨めな敗走だった。
やがて、ゴブリンたちの気配が完全に森から消え失せる。
後に残されたのは、無数のゴブリンたちの亡骸と、その中心に立つボロボロの四人のパーティだけだった。
戦いは終わった。森に、ようやく静寂が戻る。
ケンジの視界(UI)の中で点滅していた無数の赤いアイコンがすべて消え去り、一つの巨大なウィンドウがポップアップした。
【インシデント:ウィスパーウッドにおけるゴブリンの巣の鎮圧】
【ステータス:完了(クローズ)】
その文字を確認した瞬間、ケンジの全身から張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れた。
彼はその場にへたり込みそうになるのを必死に堪える。
勝った。あの絶望的な状況から、このバラバラだったはずのチームで、俺たちは勝ったんだ。
ケンジはゆっくりと仲間たちに視線を向けた。
ゴードンは荒い息をつき、その額には深い傷が刻まれている。ルリエルは地面に座り込み、銀色の髪を汗で濡らしていた。シーナはチャンピオンの亡骸のそばで、微かに震える手で短剣を血を拭っている。
満身創痍の三人の表情に、絶望の色などどこにもない。そこにあるのは、死闘を生き抜いた者だけが持つ確かな達成感と、そして仲間への静かな信頼の光だった。
プロジェクトは完了した。
そして彼らは初めて、本当の意味で「チーム」になったのだ。
【ユニット:ルリエル。ステータス:詠唱完了。スキル:サンダーランス(最大出力)。MPコスト:50】
同時に、ゴードンのHPバーが危険水域である赤色へと突入する。
【ユニット:ゴードン。HP:25/100。ステータス:重圧、防御力低下(小)】
(…ギリギリ、間に合った…!)
ケンジは心の中で安堵の息を漏らした。すべてが、彼のシミュレーション通りだった。
そして、まるで神が設計したかのように完璧なタイミングで、ルリエルの高く、凛とした声が戦場に響き渡る。
「――喰らいなさいッ!!!」
彼女が杖を振り下ろすと、その先に収束していた膨大な魔力が解放された。それはもはや「魔法」などという生易しいものではない。天そのものが怒り狂い、地上に牙を剥いたかのような、純粋な破壊の奔流だ。
一本の巨大な雷の槍、サンダーランス。
それが、ルリエルがこのパーティに加わってから初めて見せる、彼女の本当の全力だった。彼女の瞳は、今、魔力の奔流を放つ光に照らされ、勝利への確信に満ちていた。
雷槍は大気を引き裂き、凄まじい轟音と共に、ゴードンが身を賭して押さえつけているゴブリン・チャンピオンのがら空きの胴体へと突き進む。その軌道上にいた雑魚ゴブリンたちは、槍に触れることすらできず、圧倒的な魔力の余波だけで塵と化して消滅していく。彼らは悲鳴を上げる暇さえ与えられなかった。
(…すごい…)
ケンジは、そのあまりの威力に我を忘れて見惚れた。これが、天才エルフ魔術師。これが、彼女の本当の力。そしてこの圧倒的な力を、自分は正しく「管理」することができたのだ。
PMとしての最高の達成感が、彼の心を深く満たした。これまで感じたことのない、仲間との共闘が生み出す、圧倒的な勝利の予感。
だが、その高揚感は次の瞬間、絶望へと変わる。
ゴブリン・チャンピオンは、その絶体絶命の状況の中で笑っていた。醜悪な顔に確かな嘲笑を浮かべていたのだ。その知性ある瞳は、ルリエルの放った魔法の威力を正確に把握し、そして対策を講じていた。
雷槍がその身に着弾するコンマ数秒前。チャンピオンはゴードンを押さえつけていた片腕を離すと、信じられないほどの速度で一体の雑魚ゴブリンを掴み上げた。そして、それを自らの盾としたのだ。
「なっ…!?」
ケンジは息をのんだ。仲間を盾にする。それは彼のシミュレーションには一切存在しなかった、あまりにも非道で、そしてあまりにも効果的な「リスク回避」だった。ゴブリンの命を、文字通り使い捨ての道具として利用する、その冷徹な知性。
雷槍は無慈悲に、盾にされたゴブリンを貫き、その命を奪った。そして、勢いをわずかに減衰させながらも、チャンピオンの右肩へと突き刺さる。
ギャアアアアアアアアアッ!!!
チャンピオンの断末魔の叫びが森中に響き渡る。その右腕は、肉と骨が砕け散る音と共に、肩から完全に吹き飛んでいた。
致命傷。それは間違いなく致命傷のはずだった。
だが、チャンピオンは死んでいない。
彼は片腕を失いながらも、残った左腕でゴードンの身体を突き放すと、憎悪と狂気に満ちた目でルリエルを睨みつけた。
(…まずい…! ターゲットがルリエルに…!)
ケンジの脳が警鐘を鳴らす。最大火力を放った直後のルリエルは、魔力を使い果たし、完全に無防備だ。そしてゴードンは突き放された勢いで体勢を崩している。
誰も、彼女を守れない。
その絶望的な状況を救ったのは、ケンジの計算にはなかったもう一つの「イレギュラー」だった。
「――ボスッ! あとは頼んだわよッ!!」
シーナの鋭い叫び声。
彼女はいつの間にか、チャンピオンの背後へ回り込んでいた。その両手には短剣が握られている。そして、吹き飛んだ右腕の傷口へと容赦なく突き立てる。
「グギィィィィッ!?」
チャンピオンの意識が再び背後のシーナに向く。そのわずか一秒にも満たない時間。
それこそが、ルリエルが体勢を立て直すための、最後の、そして最高の「時間」だった。
ルリエルは、シーナが作ってくれた命がけの時間を無駄にはしなかった。
残ったわずかな魔力を振り絞り、最後の魔法を紡ぎ出す。それはもはや派手な攻撃魔法ではない。ただ純粋な魔力そのものを光の矢として放つ、最もシンプルで、最も速い魔法。
(…ケンジ、覚えてる…? これが、私とあなたが、最初に、練習した魔法…)
彼女の脳裏に、かつてケンジと交わした言葉がよぎる。
「ルリエルさん、この、基本的な魔法を、もっと速く、正確に放てるようになりませんか?」
「……そんなの、なんの意味があるの?」
「あります。きっと、いつか、このシンプルな魔法が、大きな局面を、切り拓く、一撃になる」
そして、今、その瞬間が、目の前にあった。
彼女は叫んだ。仲間たちの想いを、その光の矢に乗せて。
「―――貫けッ! ルーチェ・スピアッ!!!」
ルリエルが放った最後の一撃、ルーチェ・スピア。
それは、彼女がこれまで放ってきたどの魔法とも違っていた。派手な爆発も、周囲を薙ぎ払うような無駄な破壊もない。
ただ純粋に研ぎ澄まされた、一筋の光の奔流。
仲間を守りたい。その一点の想いだけが、凝縮された魔力の矢。
ルーチェ・スピアは、シーナが身を賭して作り出したわずか一瞬の隙を逃さなかった。
ゴブリン・チャンピオンの意識が背後に向いた、その無防備な胸元へ。
何の抵抗もできずに、まるで光が闇を貫くように、正確に深く突き刺さった。
「―――グ、ギ、ィ……ア……?」
ゴブリン・チャンピオンの醜悪な顔に、初めて信じられないといった驚愕の表情が浮かんだ。断末魔の叫び声すら上げられない。その屈強な身体を内側から焼き尽くしていく純粋な魔力の奔流に、ただ巨体を痙攣させるだけだった。
光が収まった時、チャンピオンの分厚い胸板には、まるで流星が墜落したかのような、大きく円い穴が空いていた。その穴の向こう側に、森の木々が見えている。
チャンピオンの瞳から知性と憎悪の光が急速に失われていく。そして、ゴードンが押さえつけていた巨体から、ふっと力が抜けた。
ズシン、と大地を揺るがすような重い音を立てて、ゴブリンたちの王はその巨体を地面へと沈めた。
もう二度と動くことはない。
その光景を、戦場に残っていたすべてのゴブリンたちが見ていた。彼らの王が、彼らの力の象徴が、たった四人の人間たちによって打ち破られた、その決定的な瞬間を。
彼らの心に巣食ったのは、王の死という現実だった。それは彼らの絶対的な力の象徴が、たった一瞬で崩れ去ったことを意味していた。
しんと、森が静まり返った。あれほど響き渡っていたゴブリンたちの鬨の声がぴたりと止む。
彼らはただ呆然と、動かなくなった王の巨体と、その亡骸の前に立つ四人の侵入者たちを見比べていた。彼らの目には、恐怖と混乱が入り混じっていた。
そして、一匹のゴブリンが持っていた錆びた剣をカランと地面に落とす。それが合図だった。
その一匹がくるりと背を向けて森の奥へ逃げ出したのを皮切りに、すべてのゴブリンたちが我先にと武器を放り出し、蜘蛛の子を散らすように森の闇へと逃げ惑っていく。
もはやそこに統率の取れた軍隊の姿はなかった。それはただの、恐怖に支配された烏合の衆の惨めな敗走だった。
やがて、ゴブリンたちの気配が完全に森から消え失せる。
後に残されたのは、無数のゴブリンたちの亡骸と、その中心に立つボロボロの四人のパーティだけだった。
戦いは終わった。森に、ようやく静寂が戻る。
ケンジの視界(UI)の中で点滅していた無数の赤いアイコンがすべて消え去り、一つの巨大なウィンドウがポップアップした。
【インシデント:ウィスパーウッドにおけるゴブリンの巣の鎮圧】
【ステータス:完了(クローズ)】
その文字を確認した瞬間、ケンジの全身から張り詰めていた緊張の糸がぷつりと切れた。
彼はその場にへたり込みそうになるのを必死に堪える。
勝った。あの絶望的な状況から、このバラバラだったはずのチームで、俺たちは勝ったんだ。
ケンジはゆっくりと仲間たちに視線を向けた。
ゴードンは荒い息をつき、その額には深い傷が刻まれている。ルリエルは地面に座り込み、銀色の髪を汗で濡らしていた。シーナはチャンピオンの亡骸のそばで、微かに震える手で短剣を血を拭っている。
満身創痍の三人の表情に、絶望の色などどこにもない。そこにあるのは、死闘を生き抜いた者だけが持つ確かな達成感と、そして仲間への静かな信頼の光だった。
プロジェクトは完了した。
そして彼らは初めて、本当の意味で「チーム」になったのだ。
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