ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

YY

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第1章:炎上プロジェクトと問題児(エリート)たち

第29話:不可能を可能に変えるということ

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ケンジが仲間たちのあまりにも頼もしい言葉に胸を熱くしていた、まさにその瞬間だった。希望という名の熱が、彼らの間に満ちていた。それは、この世界の過酷な現実を乗り越えるための確かな光。彼らがこれから描く未来へのロードマップを照らす、力強い光だった。だが、その光は唐突に、別の光に塗りつぶされた。

ふわり、と。

テーブルの中央に置かれた羊皮紙が、何の予兆もなく淡い光を放ち始めた。それは、古びた紙切れに生命が宿ったかのようでありながら、どこか人工的な冷たさを感じさせる輝きだった。
「「「!?」」」
四人は驚き、思わず後ずさる。それは、ルリエルが放つ生命力に満ちた温かな魔力の光とはまったく違う。どこまでも冷たく無機質で、感情の欠片もない。まるで真冬の月光が凍りついたかのような、青白い光だった。その光は、室内の温かい空気を一瞬で凍らせ、彼らの肌をひりつかせた。

「…な、何なの、この魔力…!?」

ルリエルが驚愕に目を見開く。普段ならどんな魔力の波動も読み解ける彼女の感覚が、まるで濃い霧の中を手探りしているかのようだった。魔力の流れは存在するのに、その法則がまったく理解できない。「私の知らない異質な法則…! まるで魔法じゃないみたい…! なぜ、こんなにも冷たいの!?」

ゴードンは即座にケンジの前に立ち、その巨大な盾を構える。彼の全身から漲る闘気が、見えない敵への強烈な警戒を物語っていた。全身の筋肉を緊張させ、わずかな気配も見逃すまいと五感を研ぎ澄ませる。シーナもまた短剣を抜き放ち、その鋭い視線を部屋の隅々へと走らせていた。罠か?あるいは、何者かの奇襲か?しかし、どんな熟練の盗賊でも、この部屋に彼ら四人以外の気配を感じ取ることはできなかった。光はただ静かに、彼らが作り上げた「課題管理票」」の中心から放たれているだけだった。

そして、四人が固唾をのんで見守る中、その不可解な現象は次の段階へと移行する。

ケンジが書き記した最終目標――【最終目標:魔王討伐】。

その一行下の、空白だったはずの余白部分に、ぽつり、と小さな赤い点が現れた。それはまるで、羊皮紙の裏側から一滴の血が滲み出してきたかのようだった。その小さな染みはゆっくりと広がり、見る見るうちに鮮やかな深紅へと変わっていく。その色は、単なる絵の具やインクではない。生々しく、熱を持った血そのものに見えた。

その赤い点は、まるで意志を持った生き物のように動き出す。

カリカリ、カリカリ…。

誰もペンを持っていないのに。インクもないのに。そこには確かに、何か固いものが羊皮紙の上を引っ掻く不気味な音が響いていた。それは、まるで誰かが爪で板を引っ掻いているようで、彼らの神経を逆撫でする。皮膚の下を這うような、ぞっとする音だった。

赤い点はインクの染みとなり、線となり、そしてやがて一つの文字の形を成していく。その書体はケンジが書いた文字と寸分違わぬ、まるで機械が複製したかのような正確さだった。だが、その色はケンジが使った黒いインクではない。すべてが血のように、おぞましい深紅だった。

【システム障害:魔王プロセスの異常活性化を検知(期限:不明)】

最後の文字が書き記された瞬間、羊皮紙から放たれていた青白い光がふっと消え失せた。

後に残されたのは、ケンジが書いた黒々とした決意の文字と、そしてそのすぐ下に、まるで死刑宣告のように刻まれた血のような赤い一行のタスク。

部屋は再び静寂に包まれた。しかし、その静寂はもはや先ほどまでの希望に満ちたそれではない。それは、理解を超えた現象を前にした圧倒的な畏怖と、そして絶望がもたらす死の沈黙だった。彼らの心臓だけが、ドクンドクンと不協和音を奏でていた。

最初に口を開いたのはルリエルだった。彼女の声はか細く、恐怖に震えていた。
「…な、何なの、これ。まるでボスがいつも使っている言葉じゃない…。システム…プロセス…? 一体、どういうことなの…?」
ルリエルは魔法使いとしての知識を総動員してこの現象を理解しようとしたが、その試みはすべて徒労に終わった。彼女の問いかけに、しかしケンジは答えない。いや、答えられないのだ。彼の目はただ、その血のような文字に釘付けになっていた。彼の脳内は、その見慣れない文字列によって完全に占拠されていた。

シーナが低い声で唸るように言った。「誰が…これを書いたんだ…?」
彼女は盗賊としての本能で、部屋の隅々までその鋭い視線を走らせていた。罠か?幻術か?あるいは、不可視の何者かがこの部屋に潜んでいるのか?
だが、分かる。彼女の研ぎ澄まされた感覚が告げていた。ここには彼ら四人以外誰もいない。その事実が、逆に彼女の背筋を凍りつかせた。人間業ではない。これは、自分たちの理解を完全に超えた、何者かによる干渉だ。それはまるで、世界の裏側から直接語りかけられたかのようだった。

ゴードンは黙って一歩前に出た。彼は言葉の意味は理解できない。だが、その赤い文字から放たれる圧倒的なプレッシャーと不吉な気配を戦士として感じ取っていた。それは、何万もの敵と対峙したゴードンの経験をもってしても、説明のつかない不気味さだった。得体の知れない“何か”が、そこに鎮座している。彼はケンジの肩にその巨大な手を置く。それは「何が起きた」という無言の問いであり、そして「俺たちがいる」という無言の励ましでもあった。ゴードンの手は震えてはいなかったが、その固く握られた拳は、彼がどれほどの警戒心を抱いているかを物語っていた。

だが、ケンジの耳にはもはや仲間たちの声も気配も届いていなかった。彼の意識はただ一点。羊皮紙に刻まれたその絶望的な一行だけに釘付けになっていた。

【システム障害:魔王プロセスの異常活性化を検知(期限:不明)】

(…システム、障害…)
プロジェクトマネージャーとして、彼が前世で最も聞きたくなかった言葉。それはもはや、誰かのミスや計画の甘さといったヒューマンエラーの話ではない。システムそのものが根本的に破綻したことを示す、致命的な宣告だ。それは、彼が前世で何度も悪夢に見た、サーバーが落ちる瞬間の青白い画面のフラッシュバックを伴っていた。

(魔王プロセスの異常活性化…)
そうだ。あの女神が言っていた。魔王とは、この世界のシステムエラーなのだと。そのエラーが異常活性化した。つまりどういうことだ? バグが自己増殖でも始めたとでも言うのか? ケンジの脳裏に、制御不能になったプログラムのコードが、まるで血のように流れ出すイメージが浮かんだ。

(…検知…)
誰が? この世界のシステムそのものがか? 自らの異常を自ら検知して、そしてそれを俺たちに伝えてきた? 何のために? なぜ、今? ケンジの胸に、底なしの恐怖が湧き上がった。この世界は、まるで巨大なコンピュータープログラムであり、自分たちはその中で動かされている駒に過ぎないということを突きつけられたような気分だった。

(…期限、不明…)
その最後の文が、ケンジの心を最も深く抉った。期限のないタスク。それはいつ爆発するか分からない時限爆弾と同じだ。一年後か、一ヶ月後か。あるいは次の、一秒後か。予測不能。管理不能。それはプロジェクトマネージャーにとって、最大の悪夢だった。彼がこれまで築き上げてきた、計画を立て、管理し、達成するという価値観そのものが、このたった四文字によって根底から覆されたのだ。

ケンジは震える指先で、そっとその赤い文字に触れた。インクはとっくに乾いているはずなのに、まるで濡れた血のような生々しい感触があった。その冷たく湿った感触が、彼の指先から全身へと絶望を伝播させていく。

「…………なんだ、これ」
彼の唇からようやく絞り出されたのは、あまりにもか細く、そして呆然とした呟きだった。「俺はこんなこと、書いてないんだけど……?」
それは仲間たちに向けた言葉ではなかった。それはこの世界の不条理なシステムそのものに向けた、虚しい問いかけだった。

彼らは今、ようやく一つのチームになったはずだった。自分たちの手で未来へのロードマップを描き始めたはずだった。だというのに。
そのロードマップに、何者かが勝手に割り込んできたのだ。【最優先・最重要】と書かれた赤いタスクを、強制的にねじ込んできたのだ。まるで、彼らの意思を嘲笑うかのように。

ケンジはゆっくりと仲間たちの顔を見回した。ゴードンは困惑と警戒を、シーナは鋭い疑念を、そしてルリエルは純粋な恐怖を浮かべていた。彼らの顔に浮かんでいた希望の光は消え、ただ深い困惑と、そして恐怖の色が広がっていた。彼らのプロジェクトは、もはや彼らの手の中にはなかった。彼らの知らない次元で。彼らの意思とは無関係に。世界のシステムは、すでに次なるフェーズへと移行し、暴走を始めている。

ケンジたちは、その抗いようのない巨大な流れに、ただ突き落とされたのだという事実を突きつけられていた。
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