ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第2章:赤いタスクと二つの正義

第45話:論理か、情熱か

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ガイの情熱的な演説が終わり、謁見の間には武官派の貴族たちからの熱狂的な拍手喝采が嵐のように吹き荒れていた。ガイの力強い「正義」に共感した彼らの顔は、高揚感に満ち溢れている。その熱狂の中心で、ガイは得意げに胸を張り、勝利を確信したような笑みを浮かべていた。

その熱気とは全く異なる、研ぎ澄まされた静寂をまとい、ケンジはゆっくりと、しかし確固たる足取りで前に進み出た。隣には心配そうに見つめるルリエル。後ろには静かに見守るゴードンと、冷徹な視線を配るシーナが控えている。ガイの胸に燃え盛る炎とは対照的に、ケンジの目は冷たい水のように静かで、揺るぎない意志が宿っていた。

「静粛に」

国王の威厳ある声が響くと、嵐のような拍手は瞬時に収まった。謁見の間は水を打ったように静まり返る。すべての視線が、ガイの熱気から、ケンジの静寂へと移っていた。誰もが、ガイとは全く異なるタイプの勇者が何を語るのか、固唾をのんで見守っている。

ケンジは、ガイのように胸を張ることも、情熱的な言葉で聴衆を煽ることもなかった。ただ静かに、手に持ったタブレットを操作する。すると、彼の前に風鳴りの山とワイバーンの巣のホログラム地図が鮮明に浮かび上がった。それは、見慣れた魔法とは異なる、科学的な美しさを湛えていた。

「国王陛下、皆の者。風鳴りの山のワイバーンについて、詳細な調査と分析を行いました。その結果をご報告させていただきます」

ケンジの声は感情を排し、淡々と、しかし明瞭に響き渡った。まるで専門家がデータを解説するかのようだ。彼の言葉が、謁見の間の空気を冷やし、熱狂の余韻を少しずつ洗い流していく。

「まず、結論から申し上げます。ワイバーンを討伐するという手段は、最もリスクが高く、根本的な解決にはなりません」

その言葉に、謁見の間はざわついた。ガイの演説の余韻が残る武官派の貴族たちは、不満げな表情を浮かべる。彼らにとって、ワイバーンはただ討伐すべき悪であり、その言葉は弱者の言い訳にしか聞こえなかった。ガイは、フンと鼻を鳴らし、「ほら見ろ」とばかりに武官派の貴族たちに目配せをする。

しかし、文官派の貴族たちや宰相は、ケンジの言葉に真剣に耳を傾けていた。彼らがガイの情熱に共感しつつも求めていたのは、その言葉に欠けていた「論理」と「現実」だったのだ。宰相は顎に手を当て、深く思索にふけっていた。

ケンジは、彼らの反応に動じず、プレゼンを続けた。

「調査の結果、このワイバーンは魔力乱流に苦しみ、巣のヒナを守ろうとしていることが判明しました」

タブレットの画面が切り替わる。ホログラムには、ルリエルの遠見の魔法で捉えられた映像が映し出された。苦しみに歪んだ親ワイバーンの表情と、その翼の下で安らかに眠るヒナたちの寝顔。その強烈な対比は、見る者の胸に突き刺さった。

「ワイバーンは、もはや単なる討伐対象の魔物ではありません。彼女は、この世界の『バグ』である魔力乱流の、最も大きな被害者なのです」

その言葉に、謁見の間は再び静まり返る。ワイバーンがただの災厄ではなく、苦しんでいる母親であるという事実は、長きにわたる常識を覆すものだった。武官派の貴族たちは、その映像に眉をひそめる。

「馬鹿な!」武官派の一人が怒鳴った。「そんな感傷的な話で、この国の危機を乗り越えられるとでもいうのか!」

ケンジは、その怒りを静かに受け止めた。彼の目は、言葉を発した貴族を真っ直ぐに見つめる。

「これは、感傷的な話ではありません。科学的、そしてプロジェクトマネジメント的な、合理的な判断です」

ケンジは淡々と、しかし力強くそう答える。彼の言葉には感情は一切ない。ただ、事実だけがそこにあった。

「討伐した場合、一時的に交易路の安全は確保されます。しかし山の魔力乱流は存在し続け、いずれ新たなワイバーン、あるいは別の魔物が巣食うでしょう。討伐は根本的な解決策にはなりません」

再びタブレットの画面が切り替わる。ホログラムには「ワイバーン移設計画」と題された資料が映し出された。討伐よりも遥かに安価なコストと高い成功率、そしてワイバーンを安全な場所へ移設する計画が、具体的な数字で示されている。

「そこで、私たちが提案するのは、ワイバーンの移設計画です。ワイバーンを殺すことなく、脅威を恒久的に取り除くことができます」

移設計画は、討伐よりも低コストで安全なだけでなく、ワイバーンを研究することで魔力乱流の解決にもつながる長期的メリットを提示した。それは、この国の未来を根本から変える可能性を秘めていた。

彼の言葉は武官派の貴族たちには響かなかった。彼らが求めていたのはガイの演説のような、胸躍る「正義」だったからだ。しかし文官派や宰相は違った。彼らは、ケンジが提示したような、冷静で現実的な解決策を求めていたのだ。

宰相は深く思索にふけっていた。国の未来を左右する決断が迫っていることを物語る、真剣な光が瞳の奥に宿っている。

ガイは、ケンジのプレゼンに怒りを露わにしていた。

「何を馬鹿なことを! ワイバーンを救うだと? 討伐こそが、民衆の安寧を守る唯一の道だ!」

彼の「正義」は、力によって災厄を打ち払うこと。ケンジの論理とは全く相容れないものだった。

「勇者ガイ。それは短絡的な解決策に過ぎません。この世界の『バグ』を根本から修正しなければ、また同じ悲劇が繰り返されることになるでしょう」

ケンジの言葉に、ガイは言葉を失った。自身の正義が短絡的だと断じられたことに、怒りとともに屈辱を覚える。

ガイの情熱とケンジの冷静な論理。

二つの異なる“正義”が、静かな火花を散らしていた。

玉座の国王は、そのすべてを静かに見つめていた。その表情は動かないが、瞳の奥には深い葛藤が宿っているかのようだ。

やがて、国王はゆっくりと口を開いた。

「勇者ガイ、勇者ケンジよ。そなたたち二人の言葉、しかと聞き届けた」

国王はまずガイに視線を向けた。

「ガイよ。そなたの言葉は、民を想う熱い情熱に満ちていた。脅威を速やかに取り除き、民に安寧をもたらしたいという、その強い意志は、誠に尊い」

ガイは誇らしげに頷いた。武官派の貴族たちも、満足げに頷く。

次に、国王はケンジに視線を移した。

「ケンジよ。そなたの言葉は、冷静で現実的だった。ワイバーンの生態、魔力乱流、そして長期的なリスクとメリット。感情に流されず論理的に物事を捉えるそなたの視点は、この国を導く上で、誠に貴重なものだ」

国王の言葉に、文官派の貴族たちが静かに頷いた。宰相もまた、ケンジの論理を高く評価していることが明らかだった。

そして、国王は二人の勇者の間に横たわる深い溝を埋めるかのように、こう告げた。

「ガイよ、そなたは民に希望を語った。ケンジよ、そなたは民に現実を語った。この国を導くには、そのどちらか一方だけでは不十分だ。希望を語る者の情熱と、現実を語る者の冷静さ。その両輪が必要なのだ」

その言葉は、両者の“正義”を否定するものではなかった。むしろ、その両者が国にとって、いかに必要不可欠であるかを示していた。

「そこで、私は両者の計画の実行を許可する」

国王の言葉に、謁見の間が再びざわつく。両方の計画を同時に許可する。前例のない決断だった。

「勇者ガイ、そなたのワイバーン討伐計画、実行を許可する。ただし、決して無謀な行動は慎むこと」

ガイは胸を張り、力強く頷いた。顔には、自らの“正義”が認められたことに対する、強い自信と高揚感が宿っている。

「勇者ケンジ、そなたのワイバーン移設計画、実行を許可する。ただし、前例のない作戦だ。リスクを最小限に抑え、慎重に行動すること」

ケンジは深く頭を下げた。その表情は動かないが、瞳の奥には、この作戦を必ず成功させるという強い決意の光が宿っていた。

国王は玉座から立ち上がり、謁見の間全体を見渡した。

「そして、どちらの計画が、この国の安寧に真の希望をもたらすのか……それは、結果で示せ」

国王の言葉は、二つの異なる“正義”を互いに競い合わせるものだった。ワイバーン問題という一つの課題に対し、二つの異なる“正義”が、それぞれの方法で答えを出そうとしている。

謁見の間には、二つの異なる正義が衝突する、静かな火花が散っていた。それは、ガイとケンジ、二人の勇者の戦いの始まりでもあり、王城内に存在する武官派と文官派という緩やかな対立構造が、表面化した瞬間でもあった。

ガイはケンジを睨みつけた。彼の瞳には、深い不信感と、ライバルとして敵意が宿っている。

「ワイバーンを救うなどという、お前たちの甘い考えが、どれほど無力であるか、この俺が証明してやる。この国に必要なのは、俺のような、力と情熱を持つ勇者だ」

ガイの言葉は、あからさまな宣戦布告だった。

ケンジは、その挑発に何も答えなかった。ただ静かにガイを見つめている。彼の心には、ガイの“正義”を否定する気持ちはなかった。ただ、彼の“正義”が、ワイバーンという苦しむ命を救うことには繋がらない、という確信だけがあった。

「俺は、ワイバーンを救う。それが、俺のプロジェクトだ」

ケンジは心の中でそう誓った。

ルリエルは、ケンジとガイの間に漂う、張り詰めた空気に息をのんだ。二人の“正義”がどちらも民を想う本物であることを知っていた。だが、その本物の“正義”が今、互いに衝突しようとしている。その事実に、彼女は深い不安を覚えた。

ゴードンはケンジの隣で、ただ静かに見守っていた。かつては討伐こそが正義と信じていたが、ケンジの「移設」という新たな道に希望も見出していた。彼は、自分の信じる道がどちらなのか、問いかけるように二人の姿を見つめていた。

シーナは腕を組み、冷ややかな視線でその様子を観察していた。この二人の争いは、王城内の政治的な権力闘争そのもの。彼女は、この戦いの行方がこの国の未来を左右することを本能的に理解しており、その結末を冷静に見極めようとしていた。

国王の言葉は、二つの異なる“正義”を互いに競い合わせた。そして、その結果が、この国の未来を決定づけることになる。

ワイバーンを巡る、二つの勇者の戦いは、静かに、だが確実に、国の運命を揺るがす幕を開けた。
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