ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

YY

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第2章:赤いタスクと二つの正義

第62話:新たな課題と火急の赤字案件

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王城の塔。月明かりが床の藁の巣を照らす中、三つの小さな命が眠る。
その周囲に立つ四人の顔には、安堵の色は欠片もなかった。

ルリエルの翡翠の瞳は潤んでいた。自分が慈しんだ命が、世界を滅ぼす災厄の種だという事実に、ただ打ちひしがれている。シーナは壁に背を預け、ゴードンは部屋の入り口に立つ。固く握りしめられたそれぞれの拳が、内なる葛藤を物語っていた。

そしてケンジ。
彼の心は、女神から叩きつけられた絶望的な情報に完全に飽和していた。

【魔王プロセス同期候補】

その禍々しい言葉は、命を賭して守ったヒナが、世界を滅ぼしかねない最悪の“時限爆弾”であることを告げていた。

息も詰まるような沈黙を最初に破ったのはケンジだった。

「―――緊急会議を開きます」

声はかすかに震えていた。だがその響きには、この混沌を必ず管理下に置いてみせるという、プロジェクトマネージャーとしての揺るぎない意志が宿っている。

仲間たちの意識が現実に引き戻される。三人の視線が一斉にケンジに集中した。
ケンジは古いテーブルの表面を拭うと、真新しい羊皮紙を広げた。羽ペンをインクに浸す。
そのあまりにも事務的な所作が、かえって事態の異常さを際立たせた。

「まず現状の情報共有から」
彼は一人ずつ顔を見回す。「女神様からの緊急通信によれば。このヒナたちは…いずれ魔王の分身となる可能性が極めて高い」

ルリエルがか細い悲鳴を上げた。「そんな…! 私たちが守ったこの子たちが!?」
「つまりどういうことだいボス」シーナの低い声がそれを遮った。「こいつらはいずれ俺たちの敵になるってことか?」
「…断定はできません」ケンジは静かに首を横に振った。「あくまで『候補』です。ですが…世界の“バグ”をその身に取り込みやすい特殊な性質を持っている。それは事実です」

ゴードンが兜の奥から地の底を這うような声で問うた。「…どうすればいい」

ケンジは即答せず、ペンを走らせる。

「現在、我々が直面している課題は三つです」

【課題①:情報不足】
「…この部分、誰か噛み砕いて説明してくれ」
ルリエルが小さく頷いた。「…同期候補のこと。私たち、もっと知る必要があります」

【課題②:管理方法の未確立】
「この子たちをどう扱うか、という問題です」
シーナが壁から顔を出す。「王城に置いといたら、バレるだろうな」

【課題③:外部リスク】
「我々はヒナたちを救うと決めた。その決定を貫くには…この世界のすべての権力と敵対する覚悟が必要です」
ゴードンはゆっくりと首肯した。「なるほど。順序立てて考えれば見えてくる」

課題リストを前に、部屋の空気は再び重く沈んでいく。

だがケンジはペンを置かなかった。彼はこれらの課題に対する具体的な「対策」をその下に書き加えていく。

「故に、我々はこれより新たなプロジェクトを始動させます」
ケンジの声に力がこもる。

【プロジェクト:聖域(サンクチュアリ)計画】
目標:ヒナたちを外部の脅威から守り、その危険性を無力化すること。

対策①:情報統制
「この部屋で見聞きしたことは、我々四人だけの最高機密とします。国王にも女神様にも、真の目的は明かしません」

対策②:物理的隔離
「王城の監視を潜り抜け、我々だけが知る安全な場所へヒナたちを移送します」

対策③:調査開始
「ルリエルさんは文献を。シーナさんは裏の情報網を。ゴードンさんと僕はヒナたちの成長と異常性を監視記録していく」

それは壮大で危険な計画だった。だがその具体的で論理的な道筋は、混乱していた仲間たちの心に冷静さを取り戻させていく。

ケンジは最後に全員の顔を見回した。「これはワイバーン救出プロジェクトの延長戦です。ならば最後の最後まで、我々の手で責任を持ってやり遂げましょう」

リーダーとしての揺るぎない覚悟。
それに最初に答えたのはゴードンだった。彼は固く握っていた拳を解くと、ケンジの前に進み出た。
「…承知した。俺はもう二度と守るべきものを失わん」

「…まあ、面白そうなヤマじゃないか」シーナがフードの奥で不敵に笑う。「ボスがそこまで言うんなら付き合ってやるよ。このとんでもない赤字案件にな」
ルリエルが小さく息を吐き、ヒナの寝顔をそっと見つめた。
彼女は涙を拭い、強く頷く。「私もやります。この子たちを救ってみせます」

重苦しい部屋の空気に、かすかな、しかし確かな次なる戦いへの意志の光が灯り始めた。彼らはまだ終わらない。

会議はこれで終わりだと誰もが思っていた。
あまりにも多くのことがありすぎ、彼らの心も肉体も限界だったはずだ。

だがケンジはその張り詰めた空気を断ち切るように言った。「…お待ちください」

彼の声は静かだった。だがその静けさが、まだこの会議を終わらせるつもりがないという明確な意志を込めている。
仲間たちの訝しげな視線が彼へと集まる。

「まだ議題が一つ残っています」

計画のリスクは、ただ敵からの攻撃だけではない。内部の資金管理も、プロジェクトの生命線だ――。
ケンジはそう言い、もう一枚の羊皮紙をテーブルの中央へ広げた。
それは、完璧な「会計報告書」だった。

「これより、先のプロジェクトに関する最終会計報告に移ります」

その場違いな宣言に、ルリエルとゴードンはただきょとんとした顔で見つめ合った。
だがシーナだけは違った。
彼女はケンジが羊皮紙を取り出した瞬間から微かに硬直していた。フードの奥の瞳が、鋭く警戒の色を帯びてケンジの無表情な顔を射抜いている。

「シーナさん」

静かな声だった。だがその静けさこそが、有無を言わせぬ重い圧力を生み出す。

「あなたが先日情報収集のために使用した経費について。詳細な説明を」

彼は会計報告書の一点を指し示す。そこには「情報屋への報酬(前払い分)」として、巨額な金額が計上されていた。

「…ッ!」シーナは息を止め、フードの奥で瞳を揺らす。
挑発は効かない。ケンジの目は冷たく、すべてを見透かしている。

だが彼女はすぐに不敵な笑みを浮かべた。「おいおいボス。今更何を野暮なことを聞くんだい?」わざと軽薄な口調で答える。「プロの情報には金がかかる。裏社会の取引に領収書なんざ存在しねえんだよ」

完璧なはずの言い訳だった。
ケンジは表情を変えない。

「僕はあなたが手に入れた情報の価値を疑っているのではない。その過程の透明性を求めている」

ケンジの短い言葉が、一切の妥協を許さない。

「この金額が正当な取引に使われたという客観的な証拠。あるいは納得できるだけの説明。それを報告してください」

ルリエルとゴードンもまた、ただならぬその空気を感じ取り固唾をのんで見守っている。
「ケンジ殿…」ゴードンが助け舟を出そうとした。
「ゴードンさん」ケンジはきっぱりと遮った。「これは彼女個人を責めているのではありません。プロジェクト全体のリスク管理の問題です」

彼は再びシーナへと向き直る。そして最後通牒を突きつけた。

「シーナさん。僕はあなたを仲間として信頼しています。だからこそ問う。プロジェクトマネージャーとしてあなたに説明責任を果たしてもらう」

その真っ直ぐな信頼の言葉が、皮肉にもシーナを追い詰める最後の一撃となった。彼女のポーカーフェイスは完全に崩れ落ちる。フードの奥の瞳が怒り、諦め、そして深い悲しみに揺れていた。彼女はもう、逃げられないことを悟った。
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