ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

YY

文字の大きさ
100 / 156
第4章:過去の呪縛、絆の証明

第101話:完璧で脆いシステム

しおりを挟む
ケンジのプロジェクトマネージャーとしての冷静な分析は、魔法という神秘のベールに包まれていたこの都市の本当の姿を少しずつ白日の下に晒していく。仲間たちの目には、もはやただの幻想的な都市ではなく、一つの巨大で複雑な「システム」としてこのアイドスが映り始めていた。

「…ケンジさん」
そのシステムの異常さに最も早く気づいたのはやはりルリエルだった。彼女は魔術師として、この街のインフラを支える魔力の、そのあまりの安定性に一種の畏怖と、そして言いようのない違和感を覚えていた。
「…このマナ・コンジットを流れる魔力。あまりにも安定しすぎていますわ。まるで完全に管理下に置かれているみたい…。これほどの規模の魔力をこれほど完璧に制御するなど神の御業としか思えません…」

そのルリエルの専門家としての見解が、ケンジの心に宿っていた最後の疑念を確信へと変えた。

(…そうだ。この街はあまりにも完璧すぎる)

前世で彼が関わってきたあらゆる大規模システム。そのどれもが必ずどこかに「遊び」や「冗長性」を持たせて設計されていた。予期せぬ負荷(エラー)が発生した時にシステム全体が破綻するのを防ぐための安全装置だ。だがこの街には、その安全装置の気配がまるで感じられない。すべてが完璧に噛み合いすぎている。それはまるで、たった一つの歯車が狂っただけで全てが崩壊しかねない、あまりにも危ういバランスの上に成り立っているかのようだった。

ケンジは、その恐るべき仮説を検証するために最後の手段に出た。

「皆さん。もう一度だけ僕のスキルを使います」
彼は仲間たちへと向き直る。
「今度は、このマナ・コンジットそのものを一つのシステムとして分析し、その脆弱性を洗い出す」

その言葉に仲間たちの顔に緊張が走る。ケンジは静かに目を閉じ、その意識を街中に張り巡らされた魔力の血管網へとダイブさせた。

(―――スキル起動、【プロジェクト管理】!)
(―――コマンド入力:対象システム『マナ・コンジット』の負荷テスト(ストレステスト)・シミュレーションを開始!)

ケンジの視界が情報の奔流に飲み込まれる。彼の目の前に広がったのは、この街の魔力供給網のすべてを可視化した、あまりにも複雑な回路図だった。無数の光の線が複雑に絡み合い、そのすべてがこの浮遊都市の遥か地下深くにあるであろう、一つの巨大な動力源へと繋がっている。

(…すごい…。なんて美しく、そして効率的な設計だ…)

ケンジは、そのあまりの完璧さに一瞬だけ感嘆の声を漏らした。だが彼はすぐにプロジェクトマネージャーとしての冷徹な思考を取り戻す。そしてその完璧な回路図の中に、彼は意図的に一つの「エラー」を発生させた。

(シミュレーション開始:ノードA-7地点にプラス5%の過剰魔力(オーバーロード)を投入)

その瞬間だった。ケンジの視界の中で、その完璧だったはずの回路図がまるで心臓発作でも起こしたかのように激しく痙攣した。一つの地点で発生したほんのわずかな過負荷。それを吸収し分散させるためのバイパスもなければ安全装置もない。過負荷は瞬く間に隣接する回路へと伝播し、その負荷を受けた回路がさらに別の回路へと異常を伝えていく。正のフィードバック。それはもはや制御不能の連鎖反応だった。

ケンジの視界の中で、美しい青白い光を放っていたはずの回路図が、急速に危険信号を示す真っ赤な光で埋め尽くされていく。

【シミュレーション結果:システム、全面的なカスケード障害を確認】
【予測:全システムの機能停止(シャットダウン)まで残り―――3.5秒】

ケンジは戦慄した。この街のインフラは、彼が想像していた以上にあまりにも脆いシステムだったのだ。極めて繊細な魔力コントロールによって奇跡的なバランスの上に成り立っている。だがそのバランスがほんの少しでも崩れれば、大規模な機能不全―――停電ならぬ“停魔”を引き起こし、街そのものが崩壊しかねない。

それは、天才が作り上げた、完璧でそしてあまりにも傲慢な砂上の楼閣だった。ケンジのスキルが解除される。彼の顔は血の気を失い、真っ白だった。

「…ケンジさん!?」
「ボス、どうしたんだ!?」

仲間たちが駆け寄る。ケンジは震える声でその恐るべき分析結果を告げた。
「…この都市のすべてが終わる可能性がある…」

ケンジが導き出したそのあまりにも衝撃的な結論が、一行の心に重くのしかかった。彼らは改めて、目の前に広がるそのあまりにも美しい幻想都市を見渡した。宙に浮かぶ白亜の尖塔。虹色に輝く光の橋。その全てが、今はもうただの美しい光景には見えない。それは、ほんのわずかな衝撃で粉々に砕け散ってしまう運命にある、巨大でそしてあまりにも脆いガラス細工の城だった。

その恐るべき真実を前にして、ケンジの思考はさらにその奥深くへと進んでいた。彼はプロジェクトマネージャーとして、この異常なまでの脆弱性を持つシステムが、なぜこうも長きにわたり維持されてきたのか、その「理由」を探っていたのだ。

そして彼は一つの結論にたどり着く。

「…皆さん。分かりました」
ケンジは静かに呟いた。
「この街の本当の姿が」

彼は街を行き交う人々へとその視線を向けた。そのほとんどがローブを身にまとった魔術師たち。彼らは決して派手な魔法を使うことはない。だがその指先から放たれる魔力は、驚くほど精密で、そして安定していた。浮遊盤の速度を微調整する魔術師。マナ・コンジットの流れを監視する技師。彼らのその姿こそが、この街の本当の姿を示していた。

ケンジは仲間たちへと向き直る。そしてこの魔法都市の根幹を成す、恐るべき「価値観」を説明し始めた。

「この都市では、強大な一撃魔法よりも、インフラを維持するための、『精密で、地味で、安定した』魔力制御技術こそが最も重要視される価値観なのです」

そのあまりにも意外な言葉に仲間たちはただ困惑した表情で顔を見合わせた。

ケンジは続ける。
「考えてみてください。このあまりにも脆いシステム。それを維持するためには何が必要か? それは圧倒的なパワーではありません。むしろパワーは邪魔にさえなる。たった一人の魔術師の力の暴走がこの街全体を崩壊させかねないのですから」

彼はそこで一度言葉を切った。
「この街が魔術師に求めるのは破壊の力ではない。秩序を維持するための調和の力。一撃の威力よりも、24時間365日、寸分の狂いもなく魔力を安定供給し続ける、その地味で忍耐強い技術。それこそが、この街では、『偉大な魔術師』の証なのです」

そのあまりにも独特で、そして偏った価値観にシーナは呆れたように肩をすくめ、ゴードンはその職人気質な思想にどこか共感するかのように静かに頷いていた。

だが、一人だけ、そのケンジの言葉に顔を曇らせている者がいた。ルリエルだった。

彼女の脳裏にこれまでの人生が蘇る。王立魔術院で誰もが舌を巻いた、その圧倒的な魔力量。どんな高位の魔術師でも躊躇するほどの、大規模な破壊魔法をいともたやすく操ってみせた、その才能。彼女はその「パワー」こそが、自らを天才たらしめる唯一無二の証だと信じて疑わなかった。それが彼女の誇りであり、アイデンティティそのものだった。

だが、ケンジの言葉は、その彼女の全てを根底から否定していた。この彼女が、あれほど憧れた魔法の聖地、アイドスにおいて。彼女のその最大の武器であるはずの、圧倒的なパワーは、「価値」がないどころか、むしろシステムを破壊しかねない「危険因子(リスク)」でしかないのだ、と。

彼女はふと自らの両手を見下ろした。この手から生み出される、大味で、そして制御の難しい、破壊の奔流。それは、この完璧な調和に満ちた街には、あまりにも不釣り合いな、暴力的な力だった。

ルリエルの、その輝いていたはずの翡翠の瞳から急速に光が失われていく。憧れの聖地にたどり着いたはずの彼女の心。それは今、これまでに感じたことのない深い孤独感と、そして自らの存在意義を問われるかのような、静かな絶望に包まれていた。この街は、彼女にとって聖地などではなかった。それは、彼女の全てを否定する、あまりにも残酷な審判の場所だったのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!

飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。 貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。 だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。 なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。 その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...