ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第4章:過去の呪縛、絆の証明

第114話:“レガシーシステム”の呪縛

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グリムフォージの巨大な城門がまるで世界の終わりを告げるかのように閉ざされてからすでに数時間が経過していた。一行は門から少し離れた岩陰で重く冷たい沈黙に支配されたまま途方に暮れていた。

門の向こう側からはドワーフたちの力強い槌の音と溶岩の熱気がまるで自分たちの敗北を嘲笑うかのように絶え間なく伝わってくる。だが彼らが今いる場所はただ冷たい風が吹き抜けるだけの荒涼とした岩場だった。たった一枚の扉を隔てて世界は完全に分断されていた。

誰もがこの分厚い岩盤のように重く出口の見えない状況にただ打ちひしがれていた。
「…どうすんだよこれから」
シーナが吐き捨てるように言う。その声にはいつものような軽口を叩く余裕はない。
「あの石頭のお兄様がいる限り正面突破は不可能。かといってこの国のどこかにあの『地熱コア』とやらに繋がる裏口があるとも思えませんわ」
ルリエルもまた力なく肩を落とした。

だが仲間たちのその絶望的な呟きは誰の耳にも届いてはいなかった。
一行の中心、その空気そのものとなっていたのはゴードンのあまりにも重い沈黙だった。

彼は仲間たちから少し離れた場所で一人巨大な戦斧を抱えるようにして座り込んでいた。その兜は深くうつむかれ表情を窺い知ることはできない。だがその鋼鉄の巨体全体から放たれる深い悔恨とどうしようもないほどの無力感が言葉以上に雄弁に彼の心を物語っていた。
兄から突きつけられた「裏切り者」という烙印。そして自らの過去の過ちが今仲間たちの行く手を阻む巨大な壁となって立ちはだかっている。その事実が彼の誇り高いドワーフとしての魂を内側から静かに苛んでいた。

ケンジはそのあまりにも痛々しい仲間の背中をただ黙って見つめていた。
プロジェクトは完全に暗礁に乗り上げた。そしてその最大の原因はゴードンというチームの最重要リソースが抱える根深い個人的な問題。
以前の自分であればこれを「人的リスク」として処理しようとしただろう。彼の課題を分析し解決策を提示しパフォーマンスの回復を促す。だが今のケンジはそれが間違いであることをルリエルの一件で痛いほど学んでいた。

彼は静かに立ち上がった。そして焚き火で温めたスープを一つの木杯に注ぐとゴードンの元へとゆっくりと歩み寄る。
彼はゴードンの隣に静かに腰を下ろすとその無言の巨人に温かいスープを差し出した。

ゴードンは驚いたようにゆっくりと顔を上げた。

ケンジは何も言わなかった。ただ静かなそしてすべてを受け入れる覚悟を決めた瞳でゴードンの兜の奥の瞳を見つめ返す。

やがてケンジは静かにそしてどこまでも真摯な声でその問いを投げかけた。
それはプロジェクトマネージャーが部下に事実確認を求めるような無機質な響きではなかった。
ただ一人の仲間がもう一人の傷ついた仲間の心にそっと寄り添おうとする不器用な問いかけだった。

「ゴードンさん。……何があったのですか?」
「あなたとあなたのお兄さんの間に横たわるその『問題』の根本原因を僕に教えてはもらえませんか」

ゴードンはケンジが差し出した木杯をその巨大な篭手で受け取った。温かいスープの湯気が彼の兜の奥で深くうつむかれた顔をわずかに潤す。彼は何も言わなかった。ただ燃え尽きかけた焚き火の熾火をまるで自らの心の奥底を覗き込むかのようにじっと見つめている。

仲間たちの視線が痛いほどに突き刺さる。シーナのルリエルのそしてケンジの心配とそして真実を求める真っ直ぐな視線。彼はこれまでずっとこの視線から逃げ続けてきた。自らの過去を失敗をそしてあまりにも重い罪を誰にも語ることなくただ分厚い鎧と沈黙の内側に閉じ込めて。

だがこの仲間たちは違った。
彼らはゴードンの沈黙をただの頑固さとして切り捨てなかった。その奥にある痛みを理解しようとしてくれている。ケンジのあの静かな問い。それは彼が長年心の最も深い場所に築き上げてきた壁を静かにしかし確実に溶かしていくようだった。

やがてゴードンは重い口を開いた。その声はまるで錆びついた鉄の扉がきしむかのようにひどくかすれていた。

「……俺は掟を破った」

それは兄であるボルガンが突きつけた「裏切り者」という言葉を自ら肯定する痛切な告白から始まった。

「グリムフォージのドワーフには掟がある。それは我らの一族が何百年もの長きにわたり片時も違えることなく守り続けてきた神聖なまでの伝統だ」

彼はドワーフという種族の誇りとその哲学を語り始めた。
「我らは石と鉄の民だ。我らが信じるのはただ一つ。幾多の歳月と試練によってその正しさが証明された『経験則』のみ。新しい理論よりも確かな実績を。華やかな革新よりも揺るぎない安定を。我らの先祖がその血と汗で築き上げてきたその技法こそが我らを守りこの国を支えてきた唯一絶対の真理なのだ」

その言葉にはドワーフとしての深い誇りが滲んでいた。

「…お前の言う、『レガシーシステム』とでも言うべきものだ」

ゴードンはケンジのその異世界の言葉を正確に引用してみせた。その言葉が彼らの間に横たわる文化の壁をわずかに取り払う。

「長老たちは言う。その掟に一切の疑いを挟むことは先祖への冒涜であり一族の和を乱す最大の罪だと。俺も若い頃はそう信じて疑わなかった」

だがと彼は続けた。その声に初めて若い頃の彼が抱いていたであろう熱い情熱の色が宿る。

「だが俺は気づいてしまった。その完璧なはずの掟に無数の『無駄』と『非効率』が潜んでいることを」

ゴードンはただの戦士ではなかった。彼はグリムフォージでも随一の才能を持つ若き鍛冶師でもあったのだ。彼は掟をただ守るだけではなかった。その構造をその理屈を誰よりも深く理解していた。そして理解してしまったが故にその限界をも見抜いてしまったのだ。

「炉の熱効率、鉱石に含まれる不純物の処理、そして合金を鍛え上げる際の槌の打ち方。そのすべてに改善の余地があった。何百年も前に完成されたそのシステムはもはやこの時代の要求に応えきれていない時代遅れの代物だったのだ」

「俺が目指したのは伝統の否定ではない。伝統のその先にある『進化』だった」

彼は仲間の顔を見ることなくただ焚き火の炎を見つめながらその過去の夢を語った。
「俺は新しい理論を考案した。地熱コアから供給されるエネルギーをより高純度でより安定的に炉へと供給するためのまったく新しい理論だ。もしそれが成功すれば我らはこれまでのどの合金よりも軽くそして強靭な奇跡の金属を生み出せるはずだった。それはこのグリムフォージの未来を百年先へと進める偉大な一歩となるはずだったのだ」

その言葉には職人としての揺るぎない誇りと自らの理論への絶対的な自信が満ち溢れていた。仲間たちは初めて見るゴードンのその情熱的な姿にただ息をのんで聞き入っていた。
彼がただの寡黙な戦士ではなく自らの信念と理想のために巨大な伝統という壁にたった一人で挑もうとしていた孤高の革新者であったことを彼らは今初めて知ったのだ。
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