ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

YY

文字の大きさ
114 / 156
第4章:過去の呪縛、絆の証明

第115話:俺は掟を破った

しおりを挟む
ゴードンの若き日の情熱と、あまりにも革新的な理論。
それは仲間たちの心に確かな感銘を与えていた。だが、彼がその理論を故郷で発表した時の反応は、仲間たちのそれとはまったく違っていた。

「俺の理論は当然、一族の長老たちから猛反発を受けた」

ゴードンの声に、わずかに苦々しさが宿る。彼の脳裏には、あの日の長老たちの怒りと侮蔑に満ちた顔が浮かんでいた。

『先祖への冒涜だ!』
『我らが何百年もかけて築き上げてきた伝統を、若造の戯言で汚すというのか!』
『危険すぎる!地熱コアは神聖なものだ。人の手で制御しようなど、傲慢の極み!』

長老たちの言葉は、まるで嵐のようだった。彼らにとって、ゴードンの理論はただの危険な思想。先祖が築いた完璧な「レガシーシステム」を破壊しかねない禁忌の異端でしかなかった。ゴードンのどんな論理的な説明も、彼らの凝り固まった頑迷さの前では、何の意味もなさなかった。

「誰もが俺を『危険人物』だと罵った。俺の理論を、理解しようとさえしなかった」

絶望的な状況だった。彼の革新の夢は、ここで潰えるはずだった。

「…だが、たった一人だけ、俺を信じてくれた者がいた」

ゴードンの声に、わずかな哀しい温もりが宿る。

「兄の、ボルガンだ」

兄は、誰よりも伝統を重んじる男だった。だがそれ以上に、弟の才能と情熱を信じてくれていた。ボルガンは長老たちの猛反発をその巨大な身体で受け止め、ゴードンのためにたった一人で戦ってくれたのだ。

『弟の才能を信じてやってはくれんか!』
あの日の兄の必死な声が、今も耳から離れない。
『一度だけだ!一度だけでいい!こいつにその理論を試す機会を与えてほしい!すべての責任は、兄であるこの俺が取る!』

兄が自らの地位と名誉のすべてを賭けて、ゴードンのために勝ち取ってくれた、たった一度のチャンス。
その結果があの惨劇だった。

ゴードンは言葉を詰まらせた。あの日の光景を語ることは、自らの罪を告白するのと同義だった。

「…結果はお前たちの知る通りだ」
彼の声はひどくかすれていた。
「俺の理論は間違っていた。いや、不完全だった。地熱コアのエネルギーが持つ、予測不能な『ゆらぎ』。そのたった一つのリスクを見落としていたがために、炉は暴走し爆発した」

そして、兄の親友でありゴードンにとっても尊敬する先輩であった鍛冶師、ドヴァリンがその事故に巻き込まれた。

「俺は兄さんの信頼を裏切った。そして、兄さんの、かけがえのない仲間を、その腕を、再起不能にした…」

ゴードンの巨大な篭手が、血が滲むほど固く握りしめられていた。

その事故が、すべてを決定づけた。

ゴードンは、一族の未来を担う期待の若手から、一瞬にして「一族の和を乱した最も危険な人物」へと転落した。
長老たちはここぞとばかりに彼を断罪した。彼の革新的な思想そのものが、悪なのだと。

「俺はすべての地位と鍛冶師としての資格を剥奪された。そして事実上の、追放処分となった」

追放。その言葉が重く響く。
「掟を破り、仲間を傷つけた裏切り者。それが今の俺に対する、この国の、そして兄さんの評価だ」

彼はそう言って自嘲するように、ふと笑った。その笑みはあまりにも痛ましく、どこまでも孤独だった。
彼は自らの夢に敗れ、仲間を傷つけ、そして唯一信じてくれた兄の信頼さえも、その手で打ち砕いてしまった。その日から彼は、自らの革新的な理論も、職人としての誇りも、すべてを心の奥底に封印した。そしてただ、寡黙な一人の戦士として、仲間を守ることだけを、自らの贖罪として生きることを誓った。

そのあまりにも痛切な告白が、仲間たちの胸に深く突き刺さっていた。
ゴードンの痛切な告白が終わった後、岩陰の野営地は深い沈黙に包まれた。燃え尽きかけた焚き火の熾火が、時折パチリと虚しい音を立てるだけだった。仲間たちは、かけるべき言葉を何一つ見つけられずにいた。彼がその巨大な背中に背負い続けてきたものの、あまりの重さにただ圧倒されていた。

やがてゴードンは、自嘲するようにふと笑った。

「…俺の理論は間違っていたのかもしれん」

彼の声はひどくかすれていた。
「結果がすべてを物語っている。俺は仲間を傷つけ、兄の信頼を裏切り、そして一族から追放された。革新などという甘い夢を見た、ただの愚か者だったのだ」

だが、と彼は続けた。その声に、長年心の奥底に封印してきたはずの、職人としての消えることのない炎がわずかに宿る。

「だが…ッ!」

ゴードンは悔しそうに、その巨大な篭手を血が滲むほど固く握りしめた。
「あの理論で生み出されるはずだった合金の強度は、俺の計算では、今この国で使われているどの金属よりも遥かに上だったはずなんだ…。もしあれが完成していれば、もっと多くの仲間を、命を守れたはずなんだ…!」

その魂からの叫びは、敗北を認めた男の言葉ではなかった。自らの信念とあまりにも残酷な現実との間で引き裂かれ、それでもなお、その理想を捨てきれずに苦しみ続ける、一人の孤高な革新者の痛切な慟哭だった。

その人間的なゴードンの姿。
仲間たちの目に映っていた、寡黙で頑固でどこか近寄りがたい「鋼鉄の壁」のイメージが、その瞬間、音を立てて崩れ落ちた。

(…そうだったのね…)
ルリエルは胸が締め付けられるような痛みを覚えていた。彼女はゴードンの姿に、自らの姿を重ねていた。天才としてのプライド、そしてその裏側に隠された致命的なまでの不完全さ。彼もまた自分と同じように、理想と現実の間でたった一人で苦しみ続けていた。

(…なるほどな)
シーナはフードの奥で静かに頷いていた。彼女はゴードンの頑固さを、ただの石頭だと思っていた。だが、違った。それは自らの信念を貫き通そうとした結果、すべてを失った男の、あまりにも不器用で気高い誇りの形だった。

そしてケンジ。
彼のプロジェクトマネージャーとしての頭脳は、ゴードンのその告白の中に、この膠着した状況を打破するための重要な「鍵」を見つけ出していた。

(…彼の理論は間違ってなどいない)
ケンジは確信していた。
(ただ『不完全』だっただけだ。地熱コアのエネルギーが持つ『ゆらぎ』。それは管理不能な呪いなどではない。ただの予測可能な『変数』だ。ならばその変数を制御するためのリスク管理(マネジメント)さえ組み込めば、彼の理論は完成する…!)

ゴードンの過去の失敗は、未来の成功への最も重要な布石となり得る。

仲間たちはもう、ゴードンのことをただの頑固な戦士として見てはいなかった。
彼は、自らの信念に殉じ、挫折し、それでもなお、その心の奥底で理想の炎を灯し続ける孤高の魂。
その不器用で人間的な彼の本当の姿を、彼らは今初めて理解した。

野営地の重い沈黙は、いつの間にか消え失せていた。
代わりにそこにあったのは、言葉にはならない、しかし確かな温かい連帯感だった。
彼らはまた一つ、仲間の心の痛みを共有し、その絆をより一層深く強固なものにした。
彼らの次なる戦いはもう始まっていた。
それはドワーフの国の心臓部を救うことであると同時に、この傷ついた革新者の魂を救い出すための戦いでもあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!

飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。 貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。 だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。 なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。 その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

処理中です...