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第4章:過去の呪縛、絆の証明
第115話:俺は掟を破った
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ゴードンの若き日の情熱と、あまりにも革新的な理論。
それは仲間たちの心に確かな感銘を与えていた。だが、彼がその理論を故郷で発表した時の反応は、仲間たちのそれとはまったく違っていた。
「俺の理論は当然、一族の長老たちから猛反発を受けた」
ゴードンの声に、わずかに苦々しさが宿る。彼の脳裏には、あの日の長老たちの怒りと侮蔑に満ちた顔が浮かんでいた。
『先祖への冒涜だ!』
『我らが何百年もかけて築き上げてきた伝統を、若造の戯言で汚すというのか!』
『危険すぎる!地熱コアは神聖なものだ。人の手で制御しようなど、傲慢の極み!』
長老たちの言葉は、まるで嵐のようだった。彼らにとって、ゴードンの理論はただの危険な思想。先祖が築いた完璧な「レガシーシステム」を破壊しかねない禁忌の異端でしかなかった。ゴードンのどんな論理的な説明も、彼らの凝り固まった頑迷さの前では、何の意味もなさなかった。
「誰もが俺を『危険人物』だと罵った。俺の理論を、理解しようとさえしなかった」
絶望的な状況だった。彼の革新の夢は、ここで潰えるはずだった。
「…だが、たった一人だけ、俺を信じてくれた者がいた」
ゴードンの声に、わずかな哀しい温もりが宿る。
「兄の、ボルガンだ」
兄は、誰よりも伝統を重んじる男だった。だがそれ以上に、弟の才能と情熱を信じてくれていた。ボルガンは長老たちの猛反発をその巨大な身体で受け止め、ゴードンのためにたった一人で戦ってくれたのだ。
『弟の才能を信じてやってはくれんか!』
あの日の兄の必死な声が、今も耳から離れない。
『一度だけだ!一度だけでいい!こいつにその理論を試す機会を与えてほしい!すべての責任は、兄であるこの俺が取る!』
兄が自らの地位と名誉のすべてを賭けて、ゴードンのために勝ち取ってくれた、たった一度のチャンス。
その結果があの惨劇だった。
ゴードンは言葉を詰まらせた。あの日の光景を語ることは、自らの罪を告白するのと同義だった。
「…結果はお前たちの知る通りだ」
彼の声はひどくかすれていた。
「俺の理論は間違っていた。いや、不完全だった。地熱コアのエネルギーが持つ、予測不能な『ゆらぎ』。そのたった一つのリスクを見落としていたがために、炉は暴走し爆発した」
そして、兄の親友でありゴードンにとっても尊敬する先輩であった鍛冶師、ドヴァリンがその事故に巻き込まれた。
「俺は兄さんの信頼を裏切った。そして、兄さんの、かけがえのない仲間を、その腕を、再起不能にした…」
ゴードンの巨大な篭手が、血が滲むほど固く握りしめられていた。
その事故が、すべてを決定づけた。
ゴードンは、一族の未来を担う期待の若手から、一瞬にして「一族の和を乱した最も危険な人物」へと転落した。
長老たちはここぞとばかりに彼を断罪した。彼の革新的な思想そのものが、悪なのだと。
「俺はすべての地位と鍛冶師としての資格を剥奪された。そして事実上の、追放処分となった」
追放。その言葉が重く響く。
「掟を破り、仲間を傷つけた裏切り者。それが今の俺に対する、この国の、そして兄さんの評価だ」
彼はそう言って自嘲するように、ふと笑った。その笑みはあまりにも痛ましく、どこまでも孤独だった。
彼は自らの夢に敗れ、仲間を傷つけ、そして唯一信じてくれた兄の信頼さえも、その手で打ち砕いてしまった。その日から彼は、自らの革新的な理論も、職人としての誇りも、すべてを心の奥底に封印した。そしてただ、寡黙な一人の戦士として、仲間を守ることだけを、自らの贖罪として生きることを誓った。
そのあまりにも痛切な告白が、仲間たちの胸に深く突き刺さっていた。
ゴードンの痛切な告白が終わった後、岩陰の野営地は深い沈黙に包まれた。燃え尽きかけた焚き火の熾火が、時折パチリと虚しい音を立てるだけだった。仲間たちは、かけるべき言葉を何一つ見つけられずにいた。彼がその巨大な背中に背負い続けてきたものの、あまりの重さにただ圧倒されていた。
やがてゴードンは、自嘲するようにふと笑った。
「…俺の理論は間違っていたのかもしれん」
彼の声はひどくかすれていた。
「結果がすべてを物語っている。俺は仲間を傷つけ、兄の信頼を裏切り、そして一族から追放された。革新などという甘い夢を見た、ただの愚か者だったのだ」
だが、と彼は続けた。その声に、長年心の奥底に封印してきたはずの、職人としての消えることのない炎がわずかに宿る。
「だが…ッ!」
ゴードンは悔しそうに、その巨大な篭手を血が滲むほど固く握りしめた。
「あの理論で生み出されるはずだった合金の強度は、俺の計算では、今この国で使われているどの金属よりも遥かに上だったはずなんだ…。もしあれが完成していれば、もっと多くの仲間を、命を守れたはずなんだ…!」
その魂からの叫びは、敗北を認めた男の言葉ではなかった。自らの信念とあまりにも残酷な現実との間で引き裂かれ、それでもなお、その理想を捨てきれずに苦しみ続ける、一人の孤高な革新者の痛切な慟哭だった。
その人間的なゴードンの姿。
仲間たちの目に映っていた、寡黙で頑固でどこか近寄りがたい「鋼鉄の壁」のイメージが、その瞬間、音を立てて崩れ落ちた。
(…そうだったのね…)
ルリエルは胸が締め付けられるような痛みを覚えていた。彼女はゴードンの姿に、自らの姿を重ねていた。天才としてのプライド、そしてその裏側に隠された致命的なまでの不完全さ。彼もまた自分と同じように、理想と現実の間でたった一人で苦しみ続けていた。
(…なるほどな)
シーナはフードの奥で静かに頷いていた。彼女はゴードンの頑固さを、ただの石頭だと思っていた。だが、違った。それは自らの信念を貫き通そうとした結果、すべてを失った男の、あまりにも不器用で気高い誇りの形だった。
そしてケンジ。
彼のプロジェクトマネージャーとしての頭脳は、ゴードンのその告白の中に、この膠着した状況を打破するための重要な「鍵」を見つけ出していた。
(…彼の理論は間違ってなどいない)
ケンジは確信していた。
(ただ『不完全』だっただけだ。地熱コアのエネルギーが持つ『ゆらぎ』。それは管理不能な呪いなどではない。ただの予測可能な『変数』だ。ならばその変数を制御するためのリスク管理(マネジメント)さえ組み込めば、彼の理論は完成する…!)
ゴードンの過去の失敗は、未来の成功への最も重要な布石となり得る。
仲間たちはもう、ゴードンのことをただの頑固な戦士として見てはいなかった。
彼は、自らの信念に殉じ、挫折し、それでもなお、その心の奥底で理想の炎を灯し続ける孤高の魂。
その不器用で人間的な彼の本当の姿を、彼らは今初めて理解した。
野営地の重い沈黙は、いつの間にか消え失せていた。
代わりにそこにあったのは、言葉にはならない、しかし確かな温かい連帯感だった。
彼らはまた一つ、仲間の心の痛みを共有し、その絆をより一層深く強固なものにした。
彼らの次なる戦いはもう始まっていた。
それはドワーフの国の心臓部を救うことであると同時に、この傷ついた革新者の魂を救い出すための戦いでもあった。
それは仲間たちの心に確かな感銘を与えていた。だが、彼がその理論を故郷で発表した時の反応は、仲間たちのそれとはまったく違っていた。
「俺の理論は当然、一族の長老たちから猛反発を受けた」
ゴードンの声に、わずかに苦々しさが宿る。彼の脳裏には、あの日の長老たちの怒りと侮蔑に満ちた顔が浮かんでいた。
『先祖への冒涜だ!』
『我らが何百年もかけて築き上げてきた伝統を、若造の戯言で汚すというのか!』
『危険すぎる!地熱コアは神聖なものだ。人の手で制御しようなど、傲慢の極み!』
長老たちの言葉は、まるで嵐のようだった。彼らにとって、ゴードンの理論はただの危険な思想。先祖が築いた完璧な「レガシーシステム」を破壊しかねない禁忌の異端でしかなかった。ゴードンのどんな論理的な説明も、彼らの凝り固まった頑迷さの前では、何の意味もなさなかった。
「誰もが俺を『危険人物』だと罵った。俺の理論を、理解しようとさえしなかった」
絶望的な状況だった。彼の革新の夢は、ここで潰えるはずだった。
「…だが、たった一人だけ、俺を信じてくれた者がいた」
ゴードンの声に、わずかな哀しい温もりが宿る。
「兄の、ボルガンだ」
兄は、誰よりも伝統を重んじる男だった。だがそれ以上に、弟の才能と情熱を信じてくれていた。ボルガンは長老たちの猛反発をその巨大な身体で受け止め、ゴードンのためにたった一人で戦ってくれたのだ。
『弟の才能を信じてやってはくれんか!』
あの日の兄の必死な声が、今も耳から離れない。
『一度だけだ!一度だけでいい!こいつにその理論を試す機会を与えてほしい!すべての責任は、兄であるこの俺が取る!』
兄が自らの地位と名誉のすべてを賭けて、ゴードンのために勝ち取ってくれた、たった一度のチャンス。
その結果があの惨劇だった。
ゴードンは言葉を詰まらせた。あの日の光景を語ることは、自らの罪を告白するのと同義だった。
「…結果はお前たちの知る通りだ」
彼の声はひどくかすれていた。
「俺の理論は間違っていた。いや、不完全だった。地熱コアのエネルギーが持つ、予測不能な『ゆらぎ』。そのたった一つのリスクを見落としていたがために、炉は暴走し爆発した」
そして、兄の親友でありゴードンにとっても尊敬する先輩であった鍛冶師、ドヴァリンがその事故に巻き込まれた。
「俺は兄さんの信頼を裏切った。そして、兄さんの、かけがえのない仲間を、その腕を、再起不能にした…」
ゴードンの巨大な篭手が、血が滲むほど固く握りしめられていた。
その事故が、すべてを決定づけた。
ゴードンは、一族の未来を担う期待の若手から、一瞬にして「一族の和を乱した最も危険な人物」へと転落した。
長老たちはここぞとばかりに彼を断罪した。彼の革新的な思想そのものが、悪なのだと。
「俺はすべての地位と鍛冶師としての資格を剥奪された。そして事実上の、追放処分となった」
追放。その言葉が重く響く。
「掟を破り、仲間を傷つけた裏切り者。それが今の俺に対する、この国の、そして兄さんの評価だ」
彼はそう言って自嘲するように、ふと笑った。その笑みはあまりにも痛ましく、どこまでも孤独だった。
彼は自らの夢に敗れ、仲間を傷つけ、そして唯一信じてくれた兄の信頼さえも、その手で打ち砕いてしまった。その日から彼は、自らの革新的な理論も、職人としての誇りも、すべてを心の奥底に封印した。そしてただ、寡黙な一人の戦士として、仲間を守ることだけを、自らの贖罪として生きることを誓った。
そのあまりにも痛切な告白が、仲間たちの胸に深く突き刺さっていた。
ゴードンの痛切な告白が終わった後、岩陰の野営地は深い沈黙に包まれた。燃え尽きかけた焚き火の熾火が、時折パチリと虚しい音を立てるだけだった。仲間たちは、かけるべき言葉を何一つ見つけられずにいた。彼がその巨大な背中に背負い続けてきたものの、あまりの重さにただ圧倒されていた。
やがてゴードンは、自嘲するようにふと笑った。
「…俺の理論は間違っていたのかもしれん」
彼の声はひどくかすれていた。
「結果がすべてを物語っている。俺は仲間を傷つけ、兄の信頼を裏切り、そして一族から追放された。革新などという甘い夢を見た、ただの愚か者だったのだ」
だが、と彼は続けた。その声に、長年心の奥底に封印してきたはずの、職人としての消えることのない炎がわずかに宿る。
「だが…ッ!」
ゴードンは悔しそうに、その巨大な篭手を血が滲むほど固く握りしめた。
「あの理論で生み出されるはずだった合金の強度は、俺の計算では、今この国で使われているどの金属よりも遥かに上だったはずなんだ…。もしあれが完成していれば、もっと多くの仲間を、命を守れたはずなんだ…!」
その魂からの叫びは、敗北を認めた男の言葉ではなかった。自らの信念とあまりにも残酷な現実との間で引き裂かれ、それでもなお、その理想を捨てきれずに苦しみ続ける、一人の孤高な革新者の痛切な慟哭だった。
その人間的なゴードンの姿。
仲間たちの目に映っていた、寡黙で頑固でどこか近寄りがたい「鋼鉄の壁」のイメージが、その瞬間、音を立てて崩れ落ちた。
(…そうだったのね…)
ルリエルは胸が締め付けられるような痛みを覚えていた。彼女はゴードンの姿に、自らの姿を重ねていた。天才としてのプライド、そしてその裏側に隠された致命的なまでの不完全さ。彼もまた自分と同じように、理想と現実の間でたった一人で苦しみ続けていた。
(…なるほどな)
シーナはフードの奥で静かに頷いていた。彼女はゴードンの頑固さを、ただの石頭だと思っていた。だが、違った。それは自らの信念を貫き通そうとした結果、すべてを失った男の、あまりにも不器用で気高い誇りの形だった。
そしてケンジ。
彼のプロジェクトマネージャーとしての頭脳は、ゴードンのその告白の中に、この膠着した状況を打破するための重要な「鍵」を見つけ出していた。
(…彼の理論は間違ってなどいない)
ケンジは確信していた。
(ただ『不完全』だっただけだ。地熱コアのエネルギーが持つ『ゆらぎ』。それは管理不能な呪いなどではない。ただの予測可能な『変数』だ。ならばその変数を制御するためのリスク管理(マネジメント)さえ組み込めば、彼の理論は完成する…!)
ゴードンの過去の失敗は、未来の成功への最も重要な布石となり得る。
仲間たちはもう、ゴードンのことをただの頑固な戦士として見てはいなかった。
彼は、自らの信念に殉じ、挫折し、それでもなお、その心の奥底で理想の炎を灯し続ける孤高の魂。
その不器用で人間的な彼の本当の姿を、彼らは今初めて理解した。
野営地の重い沈黙は、いつの間にか消え失せていた。
代わりにそこにあったのは、言葉にはならない、しかし確かな温かい連帯感だった。
彼らはまた一つ、仲間の心の痛みを共有し、その絆をより一層深く強固なものにした。
彼らの次なる戦いはもう始まっていた。
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