ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

YY

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第4章:過去の呪縛、絆の証明

第119話:信頼とは、痛みを共に背負う覚悟

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兄と弟。
伝統と革新。
過去のトラウマと、未来への唯一の活路。
二つの決して交わることのない正義が、暴走する地熱コアを前にして、絶望的なまでに激しく衝突していた。制御室の空気は、もはやコアの熱気以上に、二人のドワーフが放つ激情によって張り裂けんばかりだった。

誰も割って入ることのできない、哀しい兄弟の断絶。その中心へと、ケンジは静かに、しかし迷いのない足取りで歩みを進めた。

「…そこまでです」

ケンジの声は穏やかだったが、その響きには、この場の混沌を支配する、絶対的なリーダーの意志が宿っていた。彼は、ボルガンがゴードンの前に突きつけていた戦斧の、その冷たい刃を、自らの素手でそっと横へと押しやる。その無防備で大胆な行動に、ボルガンもゴードンも、思わず息をのんだ。

ケンジは、ゴードンを背にかばうようにして、ボルガンの前に立ちはだかった。そして、怒りと絶望に満ちた、兄の瞳をまっすぐに見つめ返す。彼の口から紡ぎ出されたのは、もはやプロジェクトマネージャーとしての冷静な分析ではなかった。それは、一人の人間が、もう一人の深く傷ついた人間の心に語りかける、不器用で、そして真摯な言葉だった。

「ボルガンさん。あなたの、弟さんを想う気持ちは、痛いほど分かります」

その意外な共感の言葉に、ボルガンの鋼鉄のような表情に初めて、純粋な困惑の色が浮かんだ。ケンジは続ける。彼の言葉は、ボルガンが長年、一人で背負い続けてきた、その痛みの核心を、優しく、そして正確になぞっていく。

「あの日、あなたは弟さんの才能を信じた。そして、その結果、かけがえのない仲間を傷つけてしまった。その責任を、あなたはずっと、たった一人で背負い続けてきた。だから、怖いのでしょう?また、弟を信じることで、同じ過ちを繰り返してしまうことが。今度は、この国に生きる、すべての民を、危険に晒してしまうことが」

その言葉は、ボルガンの心の最も深い場所にまで届いた。そうだ。この男は、理解している。俺の、このどうしようもない恐怖の正体を。

「ですが、ボルガンさん」
ケンジの声に、静かだが鋼のような強さが宿る。
「信頼とは、成功を100%信じることじゃない。それはただの、楽観的な希望的観測です」

彼はそこで一度言葉を切った。そして、自らの過ちを告白するかのように、静かに、そして誠実に告げた。

「僕も、あなたと同じ過ちを犯しました」
ケンジは、背後で息をのむ仲間たちを一瞥する。
「僕は、僕の計画の『正しさ』だけを信じ、仲間の一人を、その心が見えなくなるまで追い詰めてしまった。失敗というリスクを恐れるあまり、彼女が一人で抱える痛みに、寄り添うことができなかったのです」

それは、彼がアイドスで学んだ、大きな教訓だった。

「信頼とは、失敗しないと信じることじゃない。たとえ失敗しても、その責任を、その痛みを、共に背負うと覚悟することです。ボルガンさん。あなたは、あの日、その重い責任を、たった一人で背負いすぎた」

ケンジの言葉が、ボルガンの心を縛り付けていた過去の呪縛を、少しずつ解きほぐしていく。

「どうか、今度だけは、その重荷を、我々にも背負わせてはもらえませんか」

その言葉は、もはや技術的な議論ではなかった。それは、傷ついた兄の心を、その孤独を、救おうとする、魂からの懇願だった。

ゴードンは、ケンジのその大きな背中を、ただ呆然と見つめていた。兄の心をあれほど正確に理解し、救いの手を差し伸べようとする、この異世界から来たリーダーの、その底知れない器の大きさに。

制御室に再び沈黙が訪れた。しかし、それはもはや対立の沈黙ではない。ボルガンの、固く握りしめられていた拳から、ゆっくりと力が抜けていく。彼の瞳に宿っていた怒りの炎が、静かに揺らめいていた。

「どうか、今度だけは、その重荷を、我々にも背負わせてはもらえませんか」

ケンジの魂からの懇願。それは、ボルガンの頑なな心を縛り付けていた、過去のトラウマという名の分厚い氷に、確かな亀裂を入れた。彼の鋼鉄のような表情が、わずかに、しかし確かに揺らぐ。

ケンジは、その一瞬の揺らぎを見逃さなかった。彼は、ゆっくりと仲間たちの方を振り返った。言葉はない。ただ、その静かな視線だけで、彼が何を求めているのか、仲間たちは完全に理解していた。

シーナが、ルリエルが、そしてゴードンが。
一歩、また一歩と、ケンジの隣へと進み出る。彼らは、ボルガンの前に、横一列に並んだ。それは、もはやただの寄せ集めの冒険者パーティではない。一つの固い意志で結ばれた、揺るぎない「チーム」の姿だった。

そして、ケンジを先頭に、四人はまるで示し合わせたかのように、ゆっくりと深く頭を下げた。それは、この国の警備隊長に対する、最大限の敬意。そして、これから行おうとすることの重い責任を、自ら引き受けるという、覚悟の表明だった。

「俺たちに、その責任を、一緒に背負わせてください」

ケンジの静かな声が、制御室に響き渡る。
「ゴードンさんの理論が、もし失敗したなら。その時は、我々全員が、あなたと、そして、この国に生きるすべての人々と共に、その罰を受けます。この命に代えても」

その真っ直ぐで、そして重い覚悟。ボルガンの、固く握りしめられていた戦斧の柄から、ギリ、と音がした。彼の脳裏で、過去と現在が激しく交錯する。あの日、自分は一人だった。弟の失敗の責任を、親友を傷つけた罪を、たった一人で背負った。その重圧が、彼の心を歪ませ、頑なな壁を作らせた。

だが、目の前のこの者たちは、違う。彼らは、失敗を恐れていない。責任から逃げようともしない。ただ、そのすべてを、仲間と共に分かち合うと、そう言っているのだ。

ボルガンの、頑なな心が、ついに音を立てて砕け散った。彼の瞳から一筋、熱い涙がこぼれ落ちる。それは、長年、彼が心の奥底に封じ込めてきた、後悔と、そしてどうしようもなかった孤独の涙だった。

彼は、震える手で、その戦斧をゆっくりと下ろした。
そして、絞り出すように、呟いた。

「…………好きに、しろ」

それは、許可だった。兄が、弟の挑戦を、そして、その仲間たちの覚悟を、ようやく認めた瞬間だった。

ケンジは、ゆっくりと顔を上げた。彼の心の中では、もはや安堵などという生易しい感情はなかった。
(…これは、技術論争ではなかった)
彼は静かに結論付けていた。
(人と人との、壊れかけた信頼関係を、再構築する…リファクタリングだったのだ)

それは、ケンジならではの、不器用で、そして人間的な「交渉」の勝利だった。

「ゴードンさん」
ケンジの声が、新たなプロジェクトの開始を告げる。

ゴードンは、力強く頷くと、兄に一礼し、制御盤へと向かった。彼の瞳には、もはや迷いはない。自らの理論を証明し、この国を、そして兄の心を救うという、強い決意だけが宿っていた。

彼らの、本当の戦いが、今、始まる。
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