ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第4章:過去の呪縛、絆の証明

第118話:掟とリファクタリング

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「…………俺なら、止められるかもしれん」

ゴードンの静かだが、重い呟きが、絶望に満ちた制御室の空気を切り裂いた。その声に一切の躊躇いはなかった。それは、事態を収拾しようとするだけの決意ではない。長年、心の奥底で燃え続けていた、彼の職人としての誇りが放った言葉だった。

パニックに陥っていた技術者たちの怒号が止まる。万策尽きて膝をついていたボルガンの肩が、びくりと震えた。制御室のすべてのドワーフ、そしてケンジたちが、ただ一点、ゴードンという鋼鉄の巨人へと一斉に視線を向けた。誰もが息をのんで、彼の次の言葉を待っていた。

彼は、兄の絶望にも、同胞たちの混乱にも、もはや目を向けていなかった。ゴードンの視線の先にあるのは、暴走する巨大な制御盤だけだ。何かに憑かれたかのように、彼はゆっくりと、しかし確実に、その機械の心臓部へと歩み寄る。その瞳は、ただの戦士のものではない。自らが作り上げた機械の鼓動を聞き、その魂を読み解こうとする、天才的な職人の、研ぎ澄まされた目だった。

彼の指先が、空中で複雑な軌跡を描き始める。それは、この場にいるどのドワーフも見たことのない、異端の設計思想。この国の技術を司る、あらゆる掟(レガシーシステム)から逸脱した、危険な理論の具現化だった。

「…『抑制』と『放出』。二つの掟が、互いを縛り付け、身動きが取れなくなっている…。この状況を、この国の技術者たちは『安全なデッドロック』と呼んでいるが、それはただの傲慢だ。真のデッドロックは、この瞬間から始まる。互いにエネルギーを求め、どちらも譲らない。……ならば」

ゴードンの声に、確信が満ちていた。それは、長年彼が心の奥底に封印してきた、革新者としての魂の輝きだった。

「デッドロックそのものを解除しようとするから失敗する。そうじゃない。二つの機構を完全に無視し、新たな『道』を、この制御盤の上に強制的に作り出すのだ」

彼は、制御盤の隅にある、今は使われていない古い補助回路を指し示した。その回路は、もはや誰もその存在すら知らず、埃をかぶっていた。

「ここの予備回路を使い、コアから溢れ出すエネルギーを一時的に受け流す、新たな循環路(バイパス)を構築する。そして、そのエネルギーを利用して、外部から二つのシステムに物理的な衝撃を与え、デッドロックを強制的に解除する!」

それは、大胆で、独創的な発想だった。伝統的な手順を踏むのではない。暴走するシステムそのものを、さらに危険な方法でハッキングし、制御下に置く。それは、この国の誰もが「禁忌」としてきた、掟破りの手法。

だが、その理論は完璧だった。ケンジのプロジェクトマネージャーとしての頭脳が、成功確率を瞬時に弾き出す。リスクは高い。しかし、現時点で、唯一この絶望を覆し得る可能性を秘めた、光の道筋。成功すれば、この国の技術は革命的な進化を遂げるだろう。

ケンジは、ゴードンの横顔を、深い尊敬の念を込めて見つめていた。彼はただの寡黙な戦士ではなかった。自らの信念と、それを実現するための卓越した技術を持つ、本物の革新者だったのだ。

「…やらせてくれ、兄さん」

ゴードンは、初めて、膝をついたままの兄へと向き直った。その声には、懇願と、そして自らの理論を証明したいという、職人としての切実な想いが込められていた。

制御室にいるすべてのドワーフが固唾をのんで、警備隊長の決断を待っていた。
絶望の淵に灯った、あまりにも危険で眩しい、最後の希望。
すべての運命は、ボルガンのその一言に委ねられていた。

絶望の淵に灯った、か細い希望の光。ゴードンの静かだが確信に満ちた呟きに、制御室のドワーフたちが息をのんだ。床に膝をついていたボルガンの顔が、まるで亡霊でも見たかのように、ゆっくりと弟へ向けられる。その瞳に宿っていたのは、希望ではなかった。自らが最も恐れていた悪夢が、再び現実になろうとしていることへの、深い絶望と、そして怒りだった。

「…何を、馬鹿なことを言っている…」

ボルガンの唇から、絞り出すような低い声が漏れた。彼は震える足で立ち上がると、弟の前に立ちはだかる。その巨大な身体は、警備隊長としての威厳ではなく、弟を危険から守ろうとする、兄としての必死の壁だった。

「また、同じ失敗を繰り返す気かッ!」

ボルガンの魂からの絶叫が、制御室の轟音さえもかき消した。彼の脳裏には、あの日の記憶が鮮明に蘇っていた。制御盤の暴走、灼熱の蒸気、そして親友ドヴァリンの断末魔の叫び。その光景が、何年経っても彼の心を苛み続けている。

「お前のその理論は、危険すぎる!あの日のドヴァリンの腕を奪った、呪われた理論だ!俺は、この国の心臓部を、二度と、お前のような危険人物の実験台にはさせんッ!」

その痛切な拒絶の言葉。だが、ゴードンの瞳は揺るがない。彼は兄の怒りを真正面から受け止めた。

「兄さん、聞いてくれ!」

ゴードンの声は、これまでにないほど力強かった。それは、ただの論理ではない。あの日の後悔と、長い歳月をかけて練り上げてきた信念の重みが込められていた。

「あの日の事故は、俺の計算が不完全だったからだ!だが、理論そのものは間違ってはいない!今のこのデッドロック状態こそが、あの時、俺が見落としていた『ゆらぎ』のリスクを完全に抑え込んでいる!この安定した状況は、ほんの数時間しか続かない!今しか、俺の理論を安全に実行できる機会はないんだ!」

論理と、経験則。弟が語る革新の可能性と、兄がその身に刻み込んだ過去のトラウマ。二人のドワーフの、あまりにも真っ直ぐで、そして哀しい「正しさ」が、王国の存亡を前にして、真っ向から対立した。

「黙れッ!」

ボルガンは、弟の完璧な正論に耳を貸そうとしなかった。彼の脳裏には、灼熱の蒸気の中で絶叫する親友の姿が、焼き付いて離れない。

「お前のその自信が、ドヴァリンを苦しめた!お前のその完璧なはずだった理論が、この俺の人生を狂わせた!俺はもう、お前の言葉など、何一つ信じんッ!」

ボルガンは、自らの戦斧を抜き放ち、その切っ先を制御盤へと向けるゴードンの前に突きつけた。

「この制御盤に触れてみろ。その時は、たとえ弟であろうと、容赦はせん」

それは、兄が弟に向ける、哀しい最後通告だった。制御室の空気は、コアの熱気以上に張り詰める。ドワーフの技術者たちも、この壮絶な兄弟喧嘩を前に、ただ立ち尽くすことしかできない。

シーナが、苛立ちに舌打ちする。

「おいおい、マジかよ…。国が滅ぶって時に、兄弟喧嘩してる場合かよ…!」

ルリエルもまた、青ざめた顔で、そのあまりにも根深い確執に、かけるべき言葉を見失っていた。

ゴードンは、兄が突きつけた刃を、ただ黙って見つめていた。彼の心は、怒りではなく、深い悲しみで満たされていた。兄は、自分を信じていないのではない。兄は、自分自身を、そして、自らが犯した過去の過ちを、許すことができないのだ。その重い事実が、彼の心を締め付けていた。

ケンジは、その一部始終を静かに見ていた。彼のプロジェクトマネージャーとしての頭脳が、この最悪の膠着状態の根本原因を分析する。

(ダメだ…これは、技術的な議論ではない。これは、兄弟の、深く、そして哀しい心の傷の問題なのだ…)

ボルガンを論理で説得することは不可能だ。彼の心は、過去のトラウマという、強固なファイアウォールで守られている。ならば、取るべき手段は、ただ一つ。

ケンジは、静かに二人の間に割って入った。彼の穏やかで、場違いな登場に、ボルガンとゴードンは、驚いたように動きを止める。ケンジは、まず、ボルガンが突きつけた戦斧の刃を、その指先でそっと押しやった。そして、その怒りと絶望に満ちた、兄の瞳をまっすぐに見つめ返す。彼の口から紡ぎ出されたのは、もはやプロジェクトマネージャーとしての冷静な分析ではなかった。それは、一人の人間が、もう一人の傷ついた人間の心に語りかける、不器用で、真摯な言葉だった。
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