ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第4章:過去の呪縛、絆の証明

第117話:伝統の敗北

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ボルガンに導かれ、一行は地獄の釜の底へと向かうかのように、地下王国のさらに深部へと駆け下りていった。通路の壁からは灼熱の蒸気が絶え間なく噴き出し、すれ違うドワーフたちは誰もが恐怖と混乱に顔を引きつらせている。鍛冶場の力強い槌の音は完全に止み、代わりに鳴り響くのは甲高い警報音と、巨大な機械が鋼鉄の悲鳴を上げる断末魔の轟音だけだった。

やがて一行がたどり着いたのは、王国の最も神聖な場所。地熱コアを直接管理する、巨大な半球状の制御室だった。
部屋の壁は黒曜石でできており、その向こう側には、まるで太陽そのものが脈動しているかのような、地熱コアの圧倒的な光景が広がっていた。だが、その輝きはもはや生命を育む穏やかなものではない。制御を失い、いつ噴火してもおかしくない火山の火口のように、見る者の肌を焼き焦がすほどのエネルギーを不規則に放っていた。

制御室の中は、まさに戦場だった。
「第一圧力弁、解放不能!」
「冷却水路、流量が規定値の30%以下!パイプがもたんぞ!」
白髭の老技術者たちが、汗まみれで怒号を飛ばし合いながら、壁に設置された巨大なレバーやバルブを必死に操作している。だが、彼らの熟練の技も、この未知の暴走の前にはあまりにも無力だった。

ボルガンは、その絶望的な光景を前に、ただ唇を噛み締めることしかできない。
その混沌の中心で、ケンジだけが冷静だった。彼は、パニックに陥る技術者たちをかき分けると、部屋の中央に鎮座する巨大な制御盤の前へと進み出た。

「…下がっていてください」
ケンジの静かな、しかし有無を言わせぬ声に、ドワーフたちが訝しげな視線を向ける。
彼は、その視線を意にも介さず、静かに目を閉じた。

(―――スキル起動、【プロジェクト管理】!)

ケンジの視界から、混沌とした制御室の光景が消え失せる。代わりに現れたのは、地熱コアという巨大なシステム全体の、完璧な設計図だった。無数のルーン文字がプログラムのコードのように流れ、エネルギーのラインが回路図のようにその流れを可視化していく。

そして、彼は、ものの数秒で、その暴走の根本原因を特定した。

(…なるほど。これは…)

彼のプロジェクトマネージャーとしての頭脳が、その現象に前世で聞き慣れた、最も厄介なシステムエラーの名を与えた。

ケンジはゆっくりと目を開けた。彼の顔は蒼白だったが、その瞳には、謎を解き明かした者だけが持つ、揺るぎない確信の光が宿っていた。

彼は、制御盤に刻まれた二つの古代ルーンを指し示した。一つはエネルギーの「抑制」を司るルーン。もう一つは「放出」を司るルーン。

「ボルガン殿」
ケンジの声が、静寂を取り戻したかのような制御室に響き渡る。
「この暴走の原因は、故障ではありません。二つの古い制御機構が、互いの処理を、永遠に待ち続けている…『デッドロック』状態に陥っているのです」

デッドロック。
その、ドワーフたちが一度も聞いたことのない異世界の言葉。だが、ケンジのそのあまりにも的確な指摘に、老技術者たちがハッと息をのんだ。

「抑制のシステムが、放出のシステムが完了するのを待っている。しかし、放出のシステムは、抑制のシステムが完了しない限り、起動できない。二つの完璧なはずだった伝統的な安全装置が、互いに足を引っ張り合い、システム全体をフリーズさせているのです」

その完璧な分析に、ボルガンは言葉を失った。この若き人間は、たった一瞬で、自分たちが何時間もかけて解明できなかった、この悪夢の正体を、いともたやすく見抜きおった。

ケンジは、そこで一度、言葉を切った。そして、非情なタイムリミットを宣告する。

「僕のシミュレーションによれば、このまま圧力が上昇し続ければ、あと三時間以内にコアは臨界点を超え、メルトダウンを引き起こします。そうなれば、このグリムフォージは、溶岩の海に沈むことになるでしょう」

三時間。
そのあまりにも短く、そして絶望的な宣告が、制御室にいるすべてのドワーフの心に、死刑宣告のように重くのしかかった。
彼らの誇り高き地下王国が、今、まさに、その歴史に幕を下ろそうとしていた。

三時間。
そのあまりにも無慈悲なタイムリミットを前に、制御室は完全なパニックに陥った。

「馬鹿な!『先祖の儀』が、効かん!」
「緊急冷却弁、手動でも開かんぞ!」
「圧力が、まだ上がる…!もうダメだ、おしまいだ…ッ!」

ドワーフの技術者たちが、これまで彼らの一族が何百年もの長きにわたり培ってきた、あらゆる伝統的な復旧手順を試みる。古文書に記された緊急停止の儀式を唱え、巨大な緊急停止レバーに数人がかりでぶら下がる。だが、彼らが絶対の信頼を置いてきたはずの「レガシーシステム」は、この未知なる「デッドロック」という病魔の前では、あまりにも無力だった。
制御盤は沈黙を保ったまま、計器の針だけが、まるで死へのカウントダウンを刻むかのように、無慈悲に右へと振れ続けていく。

その絶望的な光景の中心で、ボルガンは、ただ呆然と立ち尽くしていた。
(……どうしてだ。父上、先祖の教えは、このときのためにあるのではなかったのか……!)
彼が信じてきたすべてが、今、目の前で音を立てて崩れ去っていく。伝統も、経験則も、先祖への敬意も、この絶対的なシステムの暴走の前では、何の意味もなさなかったのだ。
やがて、彼のその巨大な身体から、ふっと力が抜けた。

「…あぁ…」

ボルガンは、その場に崩れ落ちるように膝をついた。誇り高き警備隊長のその姿は、もはやどこにもない。ただ、自らが守るべき故郷が滅びゆくのを、なすすべもなく見つめることしかできない、一人の無力な男が、そこにいただけだった。

万策、尽きた。
誰もが、そう思った。
制御室にいるすべてのドワーフが、その顔に深い絶望の色を浮かべ、ただ王国の最期の瞬間を待つだけだった。

その、混沌と諦念が支配する空間の中で。
たった一人だけ、違う動きを見せている男がいた。
ゴードンだった。

彼は、パニックに陥る同胞たちにも、膝をつく兄にも目もくれなかった。
彼は、その混沌の中心で、ただ静かに、巨大な制御盤を見つめていた。その瞳は、もはやただの戦士のものではない。複雑に絡み合った機械の構造を、その奥に流れるエネルギーの法則を、すべて見通そうとする、天才的な職人の目だった。

彼の脳裏には、若い頃、自らが考案したあの革新的な理論が、鮮明に蘇っていた。
(……これが、俺の役割か)
地熱コアのエネルギーが持つ、予測不能な『ゆらぎ』。
あの事故の原因となった、あまりにも不安定なその力。
だが、今のこの『デッドロック』状態は、その『ゆらぎ』さえも、完全に静止させている。
二つの巨大な力が拮抗し、奇跡的なまでの「静寂」を生み出しているのだ。
ならば。
その静寂の中にこそ、活路があるはずだ。

ゴードンの指先が、まるでピアノでも奏でるかのように、空中で複雑な軌跡を描き始める。
彼の頭脳は、この暴走するシステムを、一度、完全に分解し、そして、自らの理論に基づいて、再構築していた。

やがて、彼の唇から、誰に言うでもない、静かな呟きが漏れた。
それは、絶望に満ちたこの制御室に灯った、唯一の、そして、あまりにもか細い希望の光だった。

「…………俺なら、止められるかもしれん」
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