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第5章:オペレーション・ジェネシス
第126話:最終プロジェクト「世界システムの修正」
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夜が明け、王都に新しい朝が来た。
昨夜、一つのチームとして魂を固く結び直した一行。彼らが目覚めたのは、もはや埃っぽい安宿のベッドではない。国王の特別な計らいで与えられた、王城の一角にある広大な作戦司令室だった。窓から差し込む朝日は、まるで彼らの新たな門出を祝福するかのように、床に光の道をまっすぐに描く。
部屋の空気は、張りつめていた。決戦前夜特有の、静かで、しかし何よりも濃密な緊張感。仲間たちに無駄な言葉はない。それぞれが新しい役割を胸に刻み、ただリーダーの言葉を待っていた。
ルリエルは窓辺に立ち、朝日に照らされる王都の街並みを見下ろす。その翡翠の瞳には、かつてのように力を持て余していた頃の不安や、シルヴィアに「大雑把な欠陥品」と断罪された自己嫌悪の色は欠片もない。自らが「リードエンジニア」として、世界の魔力循環という繊細なシステムを修正するのだという、慈愛に満ちた静かな覚悟だけがそこにあった。
ゴードンは、壁にかけられた巨大な大陸地図の前で微動だにせず腕を組む。その鋼鉄の巨体は、もはやただの守護の壁ではない。ケンジから与えられた「CTO」という名に、ドワーフとしての誇りと、それを乗り越えようとする革新の魂を宿した、静かなる火山だ。彼の視線は、地図に記されたマナの流脈を捉え、その全てを読み取ろうとしていた。
シーナは、部屋の隅の影の中に身を溶け込ませていた。だが、その気配は、誰にも心を開かない孤独な暗殺者のそれではない。「CSO」として、これから始まる危険なプロジェクトのあらゆるリスクと脅威から、絶対的な守護の眼差しを光らせる。その指先は、まるで触れるだけで世界のセキュリティホールを見抜くかのように、静かに震える。
そして、その三つの強大な個性を、一つの揺るぎない意志のもとに束ねる男、ケンジ。
彼は巨大な作戦テーブルの中心に立ち、仲間たちが揃うのを静かに待つ。目の下の深い隈が、この数日間、片時も休まることがなかったことを物語る。だが、その瞳だけは、これまでにないほど力強く、どこまでも澄み切った光を宿していた。
彼はもう、ただのプロジェクトマネージャーではない。世界の運命そのものを、その双肩に背負う覚悟を決めた、唯一無二の、総責任者だ。
やがて、部屋にいる全員の視線が、自然と彼という一点へと収束する。
ケンジは、仲間たち一人ひとりの顔を、その目に焼き付けるように見つめた。
そして、厳かに、その口を開く。
その声は静かだ。しかし、その響きは、この世界の歴史の新たな一ページが、今、まさにめくられようとしていることを告げる、荘厳な鐘の音のように、部屋の隅々まで響き渡った。
「―――これより、最終プロジェクト、『世界システム修正』に関する、キックオフミーティングを開始します」
それは、彼らの、あまりにも長く、そして、あまりにも過酷だった冒険の終わりと、本当の戦いの始まりを告げる、静かで、しかし揺るぎない号令だった。
仲間たちは誰一人、言葉を発しない。ただ、その真っ直ぐな瞳で、リーダーの次なる言葉を待っている。
ケンジのその厳かな号令を合図に、作戦司令室の空気が、これまでとは比較にならないほど、濃密な緊張感で満たされる。
ケンジは無言で部屋の壁へと歩み寄り、その白く巨大な壁にそっと掌を置く。
次の瞬間、彼の身体から放たれた蒼い光が、まるで生き物のように壁全体へと広がり、そこに一枚の巨大な、半透明のスクリーンを投影した。
それは、ケンジのスキル【プロジェクト管理】の新たな応用――彼がこれまでの旅で得た、すべての情報を、一つの巨大な相関図として可視化したものだった。
「まず、我々が今、どこに立っているのか。その全体像を、全員で、共有します」
ケンジの声が静かな司令室に響き渡る。
スクリーンの中央には、大陸全土の地図。そして、その上に、彼らの旅の軌跡が、一本の光の線となって描かれていた。
ケンジの指先が、最初の地点を指し示す。ミレット村と、交易都市フラックス。
「すべては、ここから始まりました。我々は、ここで初めて、世界の“バグ”――『リソース枯渇アノマリー』と、その原因である古代アーティファクトの存在を突き止めました」
スクリーンに、シーナが持ち帰った報告書と、ケンジがスキルで観測した、生命力が吸引されていく禍々しい光の奔流の映像が、重ねて表示される。その映像は、彼らの冒険の、痛ましい、しかし、紛れもない原点だった。
次に、彼の指先は、魔法都市アイドスを指す。
「次に、我々はアイドスで、世界の魔力循環を司る『マナ・レギュレーター』の機能不全を観測しました。これは、世界の“ソフトウェア”に発生した、深刻なエラーです」
ルリエルが解析した魔力データと、シルヴィアから提供された設計図がそこに映し出される。ルリエルは、その光景を食い入るように見つめ、自らの力で世界のシステムを解析できるようになった成長を噛みしめていた。
そして、最後に、ドワーフの地下王国グリムフォージ。
「グリムフォージでは、世界のエネルギーを司る『地熱コア』の暴走に直面しました。これは、世界の“ハードウェア”が、物理的な崩壊の危機に瀕していたことを示しています」
ゴードンの理論に基づいた修復作業のログと、暴走するコアの映像が、スクリーンに焼き付いた。ゴードンは、その映像にかつての過ちの記憶を重ねながらも、それを乗り越えた今の技術への、静かな自信を漲らせていた。
ミレット村の悲劇。アイドスの危機。グリムフォージの絶望。
これまで、個別の事件だと思われていたすべての点と点が、今、スクリーン上で、無数の光の線によって結ばれていく。
それらは、すべて、一つの巨大な病巣から発生した、致命的な症状だったのだ。
仲間たちは、ただ言葉を失い、そのあまりにも巨大で、そして絶望的な問題の全体像を、目の当たりにしていた。
そして、ケンジは、そのすべての情報の中心にあるものを指し示す。
スクリーンに、彼が精神を賭して解読した、【創世の仕様書】の、あの禁断の一節が、大きく、大きく、映し出される。
一つは、創造主が遺した、黄金色に輝く、慈愛の言葉。
【―――生命に欠陥在らば、大いなる癒しを始めよ】
そして、その神聖な記述を、まるで冒涜するかのように、上から塗りつぶす、赤黒い、悪意の文字列。
【―――生命は欠陥なり、故に大いなる消去を始めよ】
「これが、我々が戦うべき、敵の、正体です」
ケンジの声は静かだった。だが、その響きには、抑えきれない怒りと、そして、何よりも強い決意が込められていた。
「我々の最終目標は、もはや『魔王の討伐』ではありません。そんなものは、この巨大な悲劇の、ほんの表層的な症状に過ぎない」
彼は、仲間たち一人ひとりの顔を、その目に焼き付けるように見つめた。
そして、彼らの、本当の、そして最後のプロジェクト目標を、全員で、再確認する。
「我々の真の目的は、この改竄された仕様書の記述を、本来の『癒し』のコードへとリファクタリングする、システムの根幹からの修正作業です。ただの『バグ』を直すだけではない。絡み合ったコードを解きほぐし、より美しく、強固なシステムに組み直すこと。そして、この悪意ある書き換えを行った『改竄者』を特定し、そのシステムへのアクセス権を、完全に剥奪することです」
その、あまりにも壮大な目標。
だが、その言葉は、不思議なほど、仲間たちの心に、すとんと落ちた。
そうだ。これこそが、自分たちが、本当に、為すべきことなのだと。
シーナの瞳に、冷徹な殺意が宿る。彼女は、もはや個人的な復讐心ではなく、世界を脅かすシステムそのものへの怒りを感じていた。
ルリエルの瞳に、聖なる怒りの炎が灯る。彼女は、静かに拳を握りしめた。かつて不完全だと断罪された自らの魔法が、世界の根源を修復するための、唯一の手段であると、その心は確信していた。
ゴードンの瞳に、揺るぎない守護の覚悟が固まる。彼の手は、もはや何かを破壊するためではなく、世界の物理的な崩壊を防ぐためにこそあるのだと、強く確信していた。
彼らの心は、今、完全に一つになった。
ただ一つの、あまりにも気高く、そして、あまりにも困難な目標のもとに。
世界の夜明けを取り戻すという、その、ただ一つの目的のために。
昨夜、一つのチームとして魂を固く結び直した一行。彼らが目覚めたのは、もはや埃っぽい安宿のベッドではない。国王の特別な計らいで与えられた、王城の一角にある広大な作戦司令室だった。窓から差し込む朝日は、まるで彼らの新たな門出を祝福するかのように、床に光の道をまっすぐに描く。
部屋の空気は、張りつめていた。決戦前夜特有の、静かで、しかし何よりも濃密な緊張感。仲間たちに無駄な言葉はない。それぞれが新しい役割を胸に刻み、ただリーダーの言葉を待っていた。
ルリエルは窓辺に立ち、朝日に照らされる王都の街並みを見下ろす。その翡翠の瞳には、かつてのように力を持て余していた頃の不安や、シルヴィアに「大雑把な欠陥品」と断罪された自己嫌悪の色は欠片もない。自らが「リードエンジニア」として、世界の魔力循環という繊細なシステムを修正するのだという、慈愛に満ちた静かな覚悟だけがそこにあった。
ゴードンは、壁にかけられた巨大な大陸地図の前で微動だにせず腕を組む。その鋼鉄の巨体は、もはやただの守護の壁ではない。ケンジから与えられた「CTO」という名に、ドワーフとしての誇りと、それを乗り越えようとする革新の魂を宿した、静かなる火山だ。彼の視線は、地図に記されたマナの流脈を捉え、その全てを読み取ろうとしていた。
シーナは、部屋の隅の影の中に身を溶け込ませていた。だが、その気配は、誰にも心を開かない孤独な暗殺者のそれではない。「CSO」として、これから始まる危険なプロジェクトのあらゆるリスクと脅威から、絶対的な守護の眼差しを光らせる。その指先は、まるで触れるだけで世界のセキュリティホールを見抜くかのように、静かに震える。
そして、その三つの強大な個性を、一つの揺るぎない意志のもとに束ねる男、ケンジ。
彼は巨大な作戦テーブルの中心に立ち、仲間たちが揃うのを静かに待つ。目の下の深い隈が、この数日間、片時も休まることがなかったことを物語る。だが、その瞳だけは、これまでにないほど力強く、どこまでも澄み切った光を宿していた。
彼はもう、ただのプロジェクトマネージャーではない。世界の運命そのものを、その双肩に背負う覚悟を決めた、唯一無二の、総責任者だ。
やがて、部屋にいる全員の視線が、自然と彼という一点へと収束する。
ケンジは、仲間たち一人ひとりの顔を、その目に焼き付けるように見つめた。
そして、厳かに、その口を開く。
その声は静かだ。しかし、その響きは、この世界の歴史の新たな一ページが、今、まさにめくられようとしていることを告げる、荘厳な鐘の音のように、部屋の隅々まで響き渡った。
「―――これより、最終プロジェクト、『世界システム修正』に関する、キックオフミーティングを開始します」
それは、彼らの、あまりにも長く、そして、あまりにも過酷だった冒険の終わりと、本当の戦いの始まりを告げる、静かで、しかし揺るぎない号令だった。
仲間たちは誰一人、言葉を発しない。ただ、その真っ直ぐな瞳で、リーダーの次なる言葉を待っている。
ケンジのその厳かな号令を合図に、作戦司令室の空気が、これまでとは比較にならないほど、濃密な緊張感で満たされる。
ケンジは無言で部屋の壁へと歩み寄り、その白く巨大な壁にそっと掌を置く。
次の瞬間、彼の身体から放たれた蒼い光が、まるで生き物のように壁全体へと広がり、そこに一枚の巨大な、半透明のスクリーンを投影した。
それは、ケンジのスキル【プロジェクト管理】の新たな応用――彼がこれまでの旅で得た、すべての情報を、一つの巨大な相関図として可視化したものだった。
「まず、我々が今、どこに立っているのか。その全体像を、全員で、共有します」
ケンジの声が静かな司令室に響き渡る。
スクリーンの中央には、大陸全土の地図。そして、その上に、彼らの旅の軌跡が、一本の光の線となって描かれていた。
ケンジの指先が、最初の地点を指し示す。ミレット村と、交易都市フラックス。
「すべては、ここから始まりました。我々は、ここで初めて、世界の“バグ”――『リソース枯渇アノマリー』と、その原因である古代アーティファクトの存在を突き止めました」
スクリーンに、シーナが持ち帰った報告書と、ケンジがスキルで観測した、生命力が吸引されていく禍々しい光の奔流の映像が、重ねて表示される。その映像は、彼らの冒険の、痛ましい、しかし、紛れもない原点だった。
次に、彼の指先は、魔法都市アイドスを指す。
「次に、我々はアイドスで、世界の魔力循環を司る『マナ・レギュレーター』の機能不全を観測しました。これは、世界の“ソフトウェア”に発生した、深刻なエラーです」
ルリエルが解析した魔力データと、シルヴィアから提供された設計図がそこに映し出される。ルリエルは、その光景を食い入るように見つめ、自らの力で世界のシステムを解析できるようになった成長を噛みしめていた。
そして、最後に、ドワーフの地下王国グリムフォージ。
「グリムフォージでは、世界のエネルギーを司る『地熱コア』の暴走に直面しました。これは、世界の“ハードウェア”が、物理的な崩壊の危機に瀕していたことを示しています」
ゴードンの理論に基づいた修復作業のログと、暴走するコアの映像が、スクリーンに焼き付いた。ゴードンは、その映像にかつての過ちの記憶を重ねながらも、それを乗り越えた今の技術への、静かな自信を漲らせていた。
ミレット村の悲劇。アイドスの危機。グリムフォージの絶望。
これまで、個別の事件だと思われていたすべての点と点が、今、スクリーン上で、無数の光の線によって結ばれていく。
それらは、すべて、一つの巨大な病巣から発生した、致命的な症状だったのだ。
仲間たちは、ただ言葉を失い、そのあまりにも巨大で、そして絶望的な問題の全体像を、目の当たりにしていた。
そして、ケンジは、そのすべての情報の中心にあるものを指し示す。
スクリーンに、彼が精神を賭して解読した、【創世の仕様書】の、あの禁断の一節が、大きく、大きく、映し出される。
一つは、創造主が遺した、黄金色に輝く、慈愛の言葉。
【―――生命に欠陥在らば、大いなる癒しを始めよ】
そして、その神聖な記述を、まるで冒涜するかのように、上から塗りつぶす、赤黒い、悪意の文字列。
【―――生命は欠陥なり、故に大いなる消去を始めよ】
「これが、我々が戦うべき、敵の、正体です」
ケンジの声は静かだった。だが、その響きには、抑えきれない怒りと、そして、何よりも強い決意が込められていた。
「我々の最終目標は、もはや『魔王の討伐』ではありません。そんなものは、この巨大な悲劇の、ほんの表層的な症状に過ぎない」
彼は、仲間たち一人ひとりの顔を、その目に焼き付けるように見つめた。
そして、彼らの、本当の、そして最後のプロジェクト目標を、全員で、再確認する。
「我々の真の目的は、この改竄された仕様書の記述を、本来の『癒し』のコードへとリファクタリングする、システムの根幹からの修正作業です。ただの『バグ』を直すだけではない。絡み合ったコードを解きほぐし、より美しく、強固なシステムに組み直すこと。そして、この悪意ある書き換えを行った『改竄者』を特定し、そのシステムへのアクセス権を、完全に剥奪することです」
その、あまりにも壮大な目標。
だが、その言葉は、不思議なほど、仲間たちの心に、すとんと落ちた。
そうだ。これこそが、自分たちが、本当に、為すべきことなのだと。
シーナの瞳に、冷徹な殺意が宿る。彼女は、もはや個人的な復讐心ではなく、世界を脅かすシステムそのものへの怒りを感じていた。
ルリエルの瞳に、聖なる怒りの炎が灯る。彼女は、静かに拳を握りしめた。かつて不完全だと断罪された自らの魔法が、世界の根源を修復するための、唯一の手段であると、その心は確信していた。
ゴードンの瞳に、揺るぎない守護の覚悟が固まる。彼の手は、もはや何かを破壊するためではなく、世界の物理的な崩壊を防ぐためにこそあるのだと、強く確信していた。
彼らの心は、今、完全に一つになった。
ただ一つの、あまりにも気高く、そして、あまりにも困難な目標のもとに。
世界の夜明けを取り戻すという、その、ただ一つの目的のために。
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