ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第5章:オペレーション・ジェネシス

第128話:“改竄者”のプロファイリング

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【創世の仕様書】に記された真実を知って数日。王城の作戦司令室は静寂に満ちていた。それは諦めではない。世界の運命を背負う現実が彼らの心を鋼の覚悟へと鍛え上げた。

静寂を破ったのはチームの頭脳ケンジの声だ。この数日間彼はほとんど眠らず思考を続けた。額ににじむ冷や汗深い隈。過酷な精神労働がそこにあった。だがその瞳だけは力強く澄み切った光を宿している。

「―――敵を知ることがリスク管理の第一歩です」

静かな声が部屋の隅々に響き仲間たちの意識を一つに収束させた。ケンジは大陸地図の中心を指し示す。

「これより我々は未知なる敵『改竄者』のプロファイリングを開始します。奴らが何を考えどう行動し何を目指しているか。その人物像を徹底的に分析する」

プロファイリング。聞き慣れない言葉に仲間たちが眉をひそめた。しかし彼らは本質を理解している。見えざる敵の正体目的手法を徹底的に分析しその輪郭を白日の下に晒すのだ。

「ルリエルさんお願いします」

ケンジの言葉にリードエンジニアのルリエルが頷く。彼は目を閉じた。ケンジのスキル【プロジェクト管理】が起動する。脳内に存在する【創世の仕様書】。その赤黒く汚染されたページがルリエルと共有された。

「……ッ!」

ルリエルの身体が震える。冒涜的な悪意が精神に流れ込む。理不尽な暴力性。脳を直接かき乱す感覚。彼女は歯を食いしばり精神的な苦痛に耐え抜いた。震える指先で真新しい羊皮紙に神の言葉を捻じ曲げた一行を正確に書き写し始める。ペン先が羊皮紙を裂かんばかりに力がこもった。

【―――生命は欠陥なり故に大いなる消去を始めよ】

ただのインクの染みではない。ルリエルが魔力を込めて書き写した文字は生きているように禍々しいオーラを放つ。遠い不協和音が耳鳴りのように響き誰もいないはずの部屋の隅に影が揺らめいた。

「……ひでえもんだ。まるで呪われた剣だ」

CSOのシーナがフードの奥で低く唸った。裏社会に生き悪意をいくつも見てきた彼女は異様さを肌で感じた。理屈では理解できても本能的な寒気が背筋を這い上がる。刃文は完璧だが最も深い場所に決して消えぬ猛毒が練り込まれている。振るうだけで使い手さえ蝕む呪われた代物だ。

CTOのゴードンも重々しく同意した。最高の技術を追い求めてきた彼はその完璧さの中に潜む冒涜的な悪意を見抜いた。

「それが敵が残した唯一の『痕跡(トレース)』です」

ケンジは禍々しい文字列を背に仲間たちへ向き直る。その瞳にプロジェクトマネージャーとしての揺るぎない光が宿った。

「我々はこの一行のコードから敵のすべてを読み解きます。思考パターン行動原理そして最終的な目的を。さあ皆さん仕事を始めましょう」

ケンジの静かな号令が人類と世界の運命を賭けた最後の分析作業の始まりを告げる。彼らはもはやただの冒険者ではない。神をも恐れぬハッカーに挑む特務分析チーム。彼らの本当の戦いがこの一室で静かに熱く始まろうとしていた。

作戦司令室の空気は深海のよう。壁の禍々しいコードが部屋の唯一の熱源だ。同時に希望を凍てつかせる絶対零度の冷気でもあった。ケンジの号令一下最も困難な分析作業が始まった。

ケンジがとった最初のアプローチは得意な手法。コードの「目的」と「仕様」の分析だ。

「この一行は悪意ある仕様変更(マリシャス・チェンジリクエスト)だ」

ケンジは独り言のように呟き鋭く問いかける。
「皆さん敵の『目的』は何だと思いますか?」

CSOのシーナが即座に答える。
「世界の破壊だろ。ぶっ壊すのが目的だ」

「違います」

ケンジは即座に否定した。司令室の空気が固まる。
「破壊はこのコードにとって『手段』にすぎない」

CTOのゴードンが意味を噛みしめるように口を開く。
「……なるほど。目的のための『効率』を極めているのか」

ケンジが頷いた。
「創造主のオリジナル命令は『生命に欠陥在らば大いなる癒しを始めよ』。極めて曖昧で柔軟な記述です。だが改竄者のコードは違う。この一文は驚くほど具体的。一切の例外を許さない。ただ一つの目的のためだけに最適化された極めて『効率的』な命令です」

ケンジは冷徹な瞳で断言した。

「―――『生命』という非合理的で予測不能な彼らにとって『非効率』なバグをこの世界から完全かつ最も効率よく『消去』することです」

あまりにも無機質な結論。対峙する敵は怒りや憎しみといった人間的感情を一切持たない。純粋な論理のみで動く冷血な存在だと雄弁に物語っていた。

「……論理的すぎて吐き気がするな」

裏社会を知るシーナの比喩が改竄者の人物像に冷たい輪郭を与えた。

敵の「目的」が定義された。次の分析フェーズはリードエンジニアのルリエルの独壇場だ。役割はその冷徹な殺意が「どのような技術」で実装されているかを解明すること。

ルリエルは壁の羊皮紙の前に立つと静かに目を閉じた。翡翠の瞳に全神経が集中する。身体から放たれる魔力は繊細な探針のようにコードの構造の奥深くへと潜り込んでいく。

「……美しい。だが危険すぎる……」

数分後彼女が目を開けた。顔に深い困惑自らの知識が無力であるという葛藤。そして魔術師としての純粋な驚愕が浮かんでいた。

「ケンジさんの言う通りですわ。このコードには一切の『遊び』がない。あまりにも効率的で完璧すぎる……」

声が震える。それは恐怖からではない。知識を遥かに超える未知の技術を前にした研究者の武者震いだ。

「この術式を構成する魔法理論は私が王立魔術院で学んだどの体系にも属していません。人間の魔術でも古代エルフの秘術でも神聖魔法でも禁忌とされる悪魔の呪術ですらない……。根本的な文法(シンタックス)が違うのですわ」

彼女は夢見るようにコードの美しさを語る。

「私たちの魔法が『石を積み上げる建築術』だとしたらこのコードは『理そのものを編み上げる創世の御業』……。次元が違うのです。あまりにも高度でそして異質……」

シーナが話を要約する。
「……つまり神でも悪魔でもない。世界の理そのものを組み直してるってことね」

司令室に重い沈黙がもたらされた。
世界の外から来た存在。まるでシステムの管理者がゲームに干渉しているかのようだ。対峙する敵のスケールが再び一段階引き上げられた。

「……やはりそうか」

ケンジが静かに呟く。女神の言葉が脳裏に蘇った。『この世界はシミュレーションなのよ』。ならばそのシミュレーションの外側から干渉してくる存在がいても不思議はない。

「……もし人間がこの設計思想を持っていたら?」

ケンジの声が静寂に響く。
「生命の多様性感情不確実性。すべてを無価値な『ノイズ』として削除する設計思想だ。もしこの世界に同じように『非効率』なものを排除しようとする人間がいたとしたら……」

敵は冷徹な論理で動く人知を超えた存在。プロファイリングは一つの絶望的な結論にたどり着いたかに見えた。

このままでは勝ち目はない。誰もがそう思いかけたその時だった。

重い諦念を切り裂き鋭い警告音がケンジの脳内にだけ響き渡った。Error: Unforeseen_variable_in_main_system_loop.cpp。

敵の思考を逆算する危険な作業――リバース・エンジニアリングが致命的な矛盾(バグ)を検知したのだ。

ケンジの瞳に一瞬光が走る。誰もその意味はわからない。だがその警告音は絶望的な分析の先にありえない可能性を示していた。物語はまだ終わらない。本当の謎が今ようやく始まりを告げようとしていた。
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