ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第5章:オペレーション・ジェネシス

第137話:我々は、世界を救う、破壊者だ

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「―――『真実であり、かつ嘘であるものを捧げよ』」

ケンジが告げた神の不条理なパズルは、世界の果ての絶対的な静寂に、不気味なこだまとなって響いた。仲間たちはただ呆然と、その言葉の意味を理解しようと必死に思考を巡らせる。

「…真実で、嘘…?」

困惑に満ちたルリエルの声が繰り返す。「まるで古代の賢者が残した禅問答のようですわ…」

シーナは忌々しげに吐き捨てた。「ふざけやがって…。こんな土壇場で、なぞなぞ遊びに付き合えってのかよ。俺たちには、もう時間がないってのに…」

焦燥が満ちる空気の中、最初に動いたのはゴードンだった。パーティーで最も実直で、物理的な思考を持つ男。彼はこの抽象的な問題を、自らの専門である「物質」と「技術」の観点から解き明かそうとした。

「…真実であり、嘘であるもの…」

謎を反芻しながら、ゴードンは背負っていた荷物から一つの小さな布包みを取り出した。現れたのは、息をのむほど美しい一本の短剣。黒曜石のような漆黒の刃、柄には竜の鱗が緻密に編み込まれている。それは、彼がこの旅の合間に鍛え上げた、渾身の最高傑作だった。

「この短剣は、俺が作り上げた最高の武具だ」

彼は仲間たちに見せるように掲げた。「切れ味、強度、重心の完璧さ。どれをとっても俺のこれまでの作品とは比べ物にならん。これは、紛れもない『真実』だ」

一度言葉を切った後、肉眼では捉えられないほど微細な箇所を指し示す。

「だが、この刃には、たった一つだけ意図的な『欠陥』がある。焼き入れの最後の工程で、俺は故意に温度を一度だけ下げた。そのせいで、この刃は特定の角度からの衝撃に、驚くほど脆く砕け散る。完璧に見えて、その実、不完全。これこそが、俺が作り出した『嘘』だ」

完璧な武具という「真実」と、内に秘めた致命的な欠陥という「嘘」。職人である彼が導き出した、あまりにも彼らしい答えだった。

ゴードンは、その短剣をまるで神への供物のように、ファイアウォールの見えない壁へと静かに差し出した。

だが、ファイアウォールは沈黙したままだった。

短剣が壁に触れる寸前、まるで磁石の反発のように宙に浮き上がり、乾いた音を立ててゴードンの足元に力なく落ちる。

静かで、無慈悲な、完全な拒絶。

「…ダメか…」

ゴードンが悔しそうに呻いた。

次に挑んだのは、リードエンジニアのルリエルだ。ゴードンの物理的アプローチが失敗したのを見て、彼女は自らの専門である「魔法」と「概念」でこの論理パズルを解こうとした。

「…なるほど。物理的な存在ではダメなのですね」

杖を構え、翡翠の瞳に深い思索の色を浮かべる。「ならば、わたくしが捧げるのは、『概念』そのものですわ」

唇から古代エルフ語の複雑で美しい詠唱が紡がれ、指先から放たれた光の粒子が、空中で一つの形を結ぶ。一輪の、青白く輝く幻想的な花。月光を固めたかのような、儚く神々しい『月光華(セレネ・フィオーレ)』だ。

「この花は、この世のどこにも存在しない。けれど、わたくしの魔法が今、確かにそれを形にした。これは『真実』ですわ」

「ですが、同時に、これには実体がない。ただの魔力の集合体に過ぎない、触れることのできない幻。これは、紛れもない『嘘』です」

存在するが、実体のない幻。魔術師である彼女が導き出した、あまりにも彼女らしい答えだった。

ルリエルは、その幻の花をそっとファイアウォールへと差し出した。

だが、結果は同じ。

幻の花が壁に触れた瞬間、陽炎のように形を失い、光の粒子となって虚空に霧散した。

再び、沈黙の拒絶。

「…そんな…」

ルリエルの顔に、焦りの色が浮かんだ。

物理的な矛盾も、概念的な矛盾も通用しない。時間だけが無慈悲に過ぎていく。世界の崩壊は確実に進行しているのだ。

ゴードンは苛立ちに戦斧の柄を握りしめ、ルリエルは有効な魔法はないかと記憶の書庫を必死にめくる。ケンジもまた、あらゆる可能性をシミュレーションしていたが、どれもが成功確率の低い絶望的なものだった。

誰もが思考の袋小路に迷い込んでいた、その時。

影の中で黙って仲間たちの試行錯誤を観察していたシーナが、誰に言うでもなく、ぽつりと呟いた。

「…真実でも、嘘でもある、ねえ…」

彼女の声は、ひどく乾いていた。

「それって、なんだか…」

フードの奥から必死に答えを探す仲間たちを、そして自らの足元に落ちる影を、彼女は見つめていた。

「―――あたしたち自身のこと、じゃないのかい?」

そのあまりにも唐突で、核心を突いた呟き。それが、膠着した状況を打ち破る、最初で最後の鍵となった。

シーナの独り言が、ケンジの思考の中心に、まるで雷のように突き刺さった。

(…あたしたち、自身…?)

ケンジはハッとして顔を上げた。プロジェクトマネージャーとしての頭脳が、その抽象的な言葉の裏に隠された、恐るべき論理の整合性に気づいてしまったのだ。

これまでの旅のすべてが、超高速で脳内再生される。

ウィスパーウッドでの死闘。フラックスでの経済戦争。アイドスでのシステム修復。グリムフォージでの兄弟の和解。

その一つ一つのプロジェクト。そのすべてにおいて、自分たちは、一体、何者だったのか?

ケンジの視線が、仲間たち一人ひとりの姿を捉える。

ゴードン。ドワーフの伝統と掟を守る、気高き戦士。だが、その実、故郷のレガシーシステムを破壊しかねない革新の理論を胸に秘めた異端者。

ルリエル。世界の理を探求する、天才魔術師。だが、その力は、世界の調和を乱す、制御不能の破壊の奔流。

シーナ。仲間を救うため、その身を賭す義賊。だが、その手段は、盗み、騙し、脅す、裏社会の掟そのもの。

そして、自分は。

佐藤健司。プロジェクトを成功に導き、仲間と、世界を救うことを目指すリーダー。だが、その手法は、システムの脆弱性を突き、人々の心理を操り、時には神の領域である世界の理さえも書き換えようとする、ハッキングにも等しい冒涜的な行為。

そうだ。

シーナの言う通りだった。

我々は、世界を救うために行動する『勇者』。それは、紛れもない『真実』。

だが同時に、その目的を達成するために、この世界のあらゆる秩序と常識を破壊し、踏みにじってきた『異端者』であり、『破壊者』。それもまた、紛れもない『真実』。

勇者であり、破壊者。

救世主であり、世界の理への反逆者。

真実であり、かつ、嘘。

その答えは、最初から自分たち自身の中にあったのだ。

ケンジの心の中で、すべてのピースが完璧に組み合わさった。

彼は、ゆっくりと仲間たちへ向き直る。その瞳には、謎を解き明かした者だけが持つ、揺るぎない確信の光が宿っていた。

「…シーナさんの言う通りです」

静寂にケンジの声が響き渡る。「我々が捧げるべきものは、道具でも、魔法でもない。我々自身の、その存在意義そのものだ」

彼は一歩前に進み出た。そして、ファイアウォールの見えない壁に向かって、もはや回答としてではなく、自らのアイデンティティを宣言するかのように、高らかに告げた。

「我々は、世界を救うために、この世界の理を破壊する者だ!」

「我々は、未来を創造するために、過去のすべてを否定する者だ!」

そして、その矛盾に満ちた自分たちの存在を、たった一言で完璧に定義してみせた。

「―――我々は、世界を救う、破壊者だッ!!」

魂からの叫びが世界の果てに響き渡った、その瞬間。

何の音も、何の光もなかった。

ただ、それまで彼らの行く手を阻んでいた、目に見えない絶対的な壁の圧力が、ふっと霧が晴れるように消え失せた。

ゴードンの渾身の一撃さえも無力化した、神のファイアウォールが、音もなく完全に消滅したのだ。

彼らの目の前に、巨大なデータ結晶体の内部へと続く、蒼白い光の道が、静かに、そしてゆっくりとその姿を現した。

彼らは、自らの矛盾した存在意義をその身をもって証明することで、最初の、あまりにも奇妙な関門を突破したのだった。

一行は、その神聖で、どこまでも無機質な光の道を、ただ息をのんで見つめていた。

彼らの最後の戦いが、今、本当の意味で始まろうとしていた。
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