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第5章:オペレーション・ジェネシス
第151話:仲間たちのすべてを賭した一撃
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ケンジが命がけで作り出した、完璧な隙。
その背後で、三人の仲間たちは、ついに、最後の目的地、『創造の玉座』の、その目前へとたどり着いていた。
彼らの心臓の鼓動だけが、この世界の心臓部で、唯一の生命の音だった。
「…行くぞ」
最初に動いたのは、このチームの揺るぎない礎、CTOゴードンだった。
彼の低い、しかし絶対的な覚悟に満ちた声。シーナとルリエルは、力強く頷き返す。
彼らの目の前に立ちはだかるのは、巨大な水晶の結晶体そのもの。だが、その表面は、目には見えない、しかし神の領域に属する、あまりにも強固な物理的な保護カバーで覆われている。
ゴードンは、背負っていた巨大な戦斧を床に置いた。この神聖なオブジェクトを破壊するのではない。こじ開けるのだ。彼は、ドワーフの職人としてのすべての知識と経験を、その両腕に込めた。
「…見つけたぞ。神の仕事にも、継ぎ目くらいは、あるらしい」
彼の指先が、完璧なはずだった水晶の表面に存在する、人間の目には到底捉えられない、コンマ数ミリの継ぎ目を捉えていた。それは、この神の創造物が、完全な一体成型ではないことの、唯一の証。
ゴードンはその継ぎ目に、アダマンタイトでできた楔を打ち込むと、その巨大な身体のすべてを、一つの巨大なテコへと変えた。
「オオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
魂からの雄叫び。彼の岩のような筋肉が、鎧の下で悲鳴を上げるように隆起する。足元の水晶の床に、その凄まじい力によって、蜘蛛の巣のような亀裂が走った。
ギギギギギ……ッ!
世界の理そのものが、軋む音を立てる。神が作り上げた完璧な守りが、ただ一人のドワーフの、あまりにも人間的な膂力によって、今、こじ開けられようとしていた。
ミシリ、と。
保護カバーが、わずかに、浮き上がった。
その隙間から、これまでとは比較にならないほど、濃密で、純粋な世界の根源的なエネルギーが、奔流となって溢れ出す。
「―――今だッ!」
ゴードンのその叫びは、CSOシーナへの、最後のバトンだった。
彼女は、ゴードンが命がけで作り出した、そのわずかな隙間へと、影となって滑り込む。
そして、彼女は見た。
露出したシステムのコア。その周囲に、幾重にも張り巡らされた、あまりにも美しく、そしてあまりにも致命的な、神の「罠」を。
それは、物理的な罠ではない。
コアに近づく者の時間を奪う、蒼い光の時空トラップ。
触れた者の精神を汚染する、赤い光の情報汚染フィールド。
そして、そのすべてを隠蔽する、虹色の光学迷彩。
だが、シーナの目は、それらすべてを見抜いていた。CSOとしての彼女の鋭敏な感覚が、この世界のシステムが持つ、すべての「リスク」を、完璧に可視化していたのだ。
(…パターンは、読めた)
彼女の身体が、舞うように、その光の網の中を駆け抜ける。
時の流れを歪ませる蒼い光の線を、その流れの周期を完璧に読み切り、ステップでかわす。
精神を蝕む赤い光のフィールドを、そのエネルギーが最も弱まる一点を、直感で見抜き、すり抜ける。
彼女の動きは、もはやただの盗賊のそれではない。それは、複雑に絡み合ったシステムのリスクを、一つ、また一つと、完璧に回避していく、最高のセキュリティ・スペシャリストの神業だった。
そして、彼女はついに、最後の罠を解除し、完全に無防備となったシステムのコアの、その目前へとたどり着く。
「―――お膳立ては、済んだぜ、リードエンジニア!」
シーナの、やり遂げたという確信に満ちた声。
その声に応えるように、これまで、その瞬間のために、すべての精神を集中させていた、ルリエルが、動いた。
彼女は、静かに、コアの前へと進み出る。
その翡翠の瞳には、もはや恐怖も、迷いもない。ただ、この世界の、あまりにも哀しい運命を、自らの手で、癒すのだという、慈愛に満ちた決意だけが宿っていた。
彼女は、ゆっくりと、その両手を、コアの上へと、かざした。
ケンジの、魂を削る論理問答。ゴードンの、物理法則を捻じ曲げるほどの怪力。シーナの、神の罠さえも見抜く神業の直感。
仲間たちが、それぞれのすべてを賭して作り出した、たった一度きりの、完璧なチャンス。
ルリエルは、そのすべてを受け止め、最後のタスクへと挑む。
彼女は、静かに、目を閉じた。
その脳裏に、これまでの旅の、すべての記憶が、走馬灯のように駆け巡る。
最初に、ケンジと出会った、あの白い空間。
ゴードンと、シーナと、初めて顔を合わせた、あの半壊した会議室。
ウィスパーウッドで、初めて仲間を信じることを学んだ、あの死闘。
ミレット村で、シーナの涙と共に、守るべきものの尊さを知った、あの診療所。
アイドスで、自らの弱さと向き合い、本当の強さを見つけた、あの祭壇。
グリムフォージで、ゴードンの、哀しい過去と、その再生を、目の当たりにした、あの制御室。
喜びも、悲しみも、怒りも、そして、仲間と共に笑い合った、何でもない、温かい日常の記憶。
それらすべてが、彼女の中で、一つの巨大な感情の奔流へと変わっていく。
それは、もはや、ただの魔力ではない。
それは、彼女が、この不完全で、矛盾だらけで、そして、どうしようもなく愛おしいこの世界で生きてきた、その証そのものだった。
仲間たちとの絆、この世界への愛。
そのすべてを、彼女は、一つの、黄金色の光へと、変換していく。
「―――還りなさい」
ルリエルの唇から、祈りのように、静かな言葉が紡ぎ出される。
「あなたたちが、本来、あるべきだった、優しい姿へ…!」
彼女の両手から、温かい黄金色の光が、奔流となって、無防備になったシステムのコアへと、注ぎ込まれていった。
それは、攻撃ではない。それは、破壊でもない。
それは、悪意に満ちた『消去』の記述を、創造主が遺した、本来の、『癒し』の記述へと、力づくで「上書き(オーバーライト)」する、彼女の、そして、このチームの、魂のすべてを込めた、渾身の一撃だった。
コアの内部で、赤黒く脈動していた、改竄者の禍々しいコードが、その温かい光に触れた瞬間、悲鳴を上げるように激しく明滅を始める。
冷徹な論理が、人間的な感情の奔流に、飲み込まれていく。
破壊のプログラムが、創造の祈りに、その存在を、上書きされていく。
世界の心臓部で、二つの相反する概念が、最後の戦いを繰り広げていた。
その光景は、あまりにも美しく、そして、あまりにも壮絶だった。
物語は、今、まさに、その結末を、迎えようとしていた。
その背後で、三人の仲間たちは、ついに、最後の目的地、『創造の玉座』の、その目前へとたどり着いていた。
彼らの心臓の鼓動だけが、この世界の心臓部で、唯一の生命の音だった。
「…行くぞ」
最初に動いたのは、このチームの揺るぎない礎、CTOゴードンだった。
彼の低い、しかし絶対的な覚悟に満ちた声。シーナとルリエルは、力強く頷き返す。
彼らの目の前に立ちはだかるのは、巨大な水晶の結晶体そのもの。だが、その表面は、目には見えない、しかし神の領域に属する、あまりにも強固な物理的な保護カバーで覆われている。
ゴードンは、背負っていた巨大な戦斧を床に置いた。この神聖なオブジェクトを破壊するのではない。こじ開けるのだ。彼は、ドワーフの職人としてのすべての知識と経験を、その両腕に込めた。
「…見つけたぞ。神の仕事にも、継ぎ目くらいは、あるらしい」
彼の指先が、完璧なはずだった水晶の表面に存在する、人間の目には到底捉えられない、コンマ数ミリの継ぎ目を捉えていた。それは、この神の創造物が、完全な一体成型ではないことの、唯一の証。
ゴードンはその継ぎ目に、アダマンタイトでできた楔を打ち込むと、その巨大な身体のすべてを、一つの巨大なテコへと変えた。
「オオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
魂からの雄叫び。彼の岩のような筋肉が、鎧の下で悲鳴を上げるように隆起する。足元の水晶の床に、その凄まじい力によって、蜘蛛の巣のような亀裂が走った。
ギギギギギ……ッ!
世界の理そのものが、軋む音を立てる。神が作り上げた完璧な守りが、ただ一人のドワーフの、あまりにも人間的な膂力によって、今、こじ開けられようとしていた。
ミシリ、と。
保護カバーが、わずかに、浮き上がった。
その隙間から、これまでとは比較にならないほど、濃密で、純粋な世界の根源的なエネルギーが、奔流となって溢れ出す。
「―――今だッ!」
ゴードンのその叫びは、CSOシーナへの、最後のバトンだった。
彼女は、ゴードンが命がけで作り出した、そのわずかな隙間へと、影となって滑り込む。
そして、彼女は見た。
露出したシステムのコア。その周囲に、幾重にも張り巡らされた、あまりにも美しく、そしてあまりにも致命的な、神の「罠」を。
それは、物理的な罠ではない。
コアに近づく者の時間を奪う、蒼い光の時空トラップ。
触れた者の精神を汚染する、赤い光の情報汚染フィールド。
そして、そのすべてを隠蔽する、虹色の光学迷彩。
だが、シーナの目は、それらすべてを見抜いていた。CSOとしての彼女の鋭敏な感覚が、この世界のシステムが持つ、すべての「リスク」を、完璧に可視化していたのだ。
(…パターンは、読めた)
彼女の身体が、舞うように、その光の網の中を駆け抜ける。
時の流れを歪ませる蒼い光の線を、その流れの周期を完璧に読み切り、ステップでかわす。
精神を蝕む赤い光のフィールドを、そのエネルギーが最も弱まる一点を、直感で見抜き、すり抜ける。
彼女の動きは、もはやただの盗賊のそれではない。それは、複雑に絡み合ったシステムのリスクを、一つ、また一つと、完璧に回避していく、最高のセキュリティ・スペシャリストの神業だった。
そして、彼女はついに、最後の罠を解除し、完全に無防備となったシステムのコアの、その目前へとたどり着く。
「―――お膳立ては、済んだぜ、リードエンジニア!」
シーナの、やり遂げたという確信に満ちた声。
その声に応えるように、これまで、その瞬間のために、すべての精神を集中させていた、ルリエルが、動いた。
彼女は、静かに、コアの前へと進み出る。
その翡翠の瞳には、もはや恐怖も、迷いもない。ただ、この世界の、あまりにも哀しい運命を、自らの手で、癒すのだという、慈愛に満ちた決意だけが宿っていた。
彼女は、ゆっくりと、その両手を、コアの上へと、かざした。
ケンジの、魂を削る論理問答。ゴードンの、物理法則を捻じ曲げるほどの怪力。シーナの、神の罠さえも見抜く神業の直感。
仲間たちが、それぞれのすべてを賭して作り出した、たった一度きりの、完璧なチャンス。
ルリエルは、そのすべてを受け止め、最後のタスクへと挑む。
彼女は、静かに、目を閉じた。
その脳裏に、これまでの旅の、すべての記憶が、走馬灯のように駆け巡る。
最初に、ケンジと出会った、あの白い空間。
ゴードンと、シーナと、初めて顔を合わせた、あの半壊した会議室。
ウィスパーウッドで、初めて仲間を信じることを学んだ、あの死闘。
ミレット村で、シーナの涙と共に、守るべきものの尊さを知った、あの診療所。
アイドスで、自らの弱さと向き合い、本当の強さを見つけた、あの祭壇。
グリムフォージで、ゴードンの、哀しい過去と、その再生を、目の当たりにした、あの制御室。
喜びも、悲しみも、怒りも、そして、仲間と共に笑い合った、何でもない、温かい日常の記憶。
それらすべてが、彼女の中で、一つの巨大な感情の奔流へと変わっていく。
それは、もはや、ただの魔力ではない。
それは、彼女が、この不完全で、矛盾だらけで、そして、どうしようもなく愛おしいこの世界で生きてきた、その証そのものだった。
仲間たちとの絆、この世界への愛。
そのすべてを、彼女は、一つの、黄金色の光へと、変換していく。
「―――還りなさい」
ルリエルの唇から、祈りのように、静かな言葉が紡ぎ出される。
「あなたたちが、本来、あるべきだった、優しい姿へ…!」
彼女の両手から、温かい黄金色の光が、奔流となって、無防備になったシステムのコアへと、注ぎ込まれていった。
それは、攻撃ではない。それは、破壊でもない。
それは、悪意に満ちた『消去』の記述を、創造主が遺した、本来の、『癒し』の記述へと、力づくで「上書き(オーバーライト)」する、彼女の、そして、このチームの、魂のすべてを込めた、渾身の一撃だった。
コアの内部で、赤黒く脈動していた、改竄者の禍々しいコードが、その温かい光に触れた瞬間、悲鳴を上げるように激しく明滅を始める。
冷徹な論理が、人間的な感情の奔流に、飲み込まれていく。
破壊のプログラムが、創造の祈りに、その存在を、上書きされていく。
世界の心臓部で、二つの相反する概念が、最後の戦いを繰り広げていた。
その光景は、あまりにも美しく、そして、あまりにも壮絶だった。
物語は、今、まさに、その結末を、迎えようとしていた。
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