ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

YY

文字の大きさ
151 / 156
第5章:オペレーション・ジェネシス

第152話:世界の再起動(リブート)

しおりを挟む
黄金色の光の奔流。それはもはや、ただの魔力ではない。ルリエルという一人のエルフが、この世界で生きてきたすべての記憶と感情、仲間たちとの絆、そしてこの不完全で愛おしい世界へのどうしようもないほどの愛情。そのすべてが凝縮された、魂そのものと呼ぶべき聖なるエネルギーだった。

その温かい光が『創造の玉座』の心臓部へ注がれた瞬間、世界の理が悲鳴を上げた。

コアの内部で赤黒く脈動していた“改竄者”の禍々しいコード。その冷徹で完璧なはずだった論理の結晶が、ルリエルのあまりにも人間的で非合理的な「想い」に触れた瞬間、激しい拒絶反応を起こしたのだ。

ジジジジジッ…!

まるでショートした回路のような、不快なノイズが響き渡る。

【生命は欠陥なり、故に大いなる消去を始めよ】

その絶対的な悪意の文字列が、黄金色の光に焼かれるように激しく明滅し、その輪郭を保てなくなっていく。システムの心臓部で、二つの相反する概念が世界の支配権を賭け、最後の壮絶な戦いを繰り広げていた。

その凄まじいせめぎ合いの中心で、ルリエルは歯を食いしばり、か細い身体のすべてを賭けて、想いを注ぎ込み続けた。全身の血管が破裂しそうなほどの圧力に、意識が何度も遠のきそうになる。だが、彼女は決して諦めなかった。背後で自分を支えてくれる仲間たちの気配が、彼女の最後の砦だった。

そして、その均衡がついに破られる。

ケンジとの論理問答によって、その演算能力に致命的な負荷をかけられていた改竄者のシステム。その思考の根幹が、ルリエルの感情的な攻撃によって、ついに許容量の限界を超えたのだ。

ケンジの視界に、一つのシステムメッセージが鮮やかに表示される。

【SYSTEM KERNEL PANIC: LOGICAL PARADOX OVERLOAD】

(…終わった)

ケンジは静かに、勝利を確信した。

コアの内部で赤黒く輝いていた改竄者のコードは、まるで燃え尽きる蝋燭の炎のように急速に勢いを失っていく。そして、創造主が遺した本来の慈愛に満ちた文字列が、再び黄金色の輝きを取り戻し始めた。

『生命に欠陥在らば』

その最初の文字が修正された瞬間、これまで玉座を支配していた禍々しい警報音はぴたりと止む。

『大いなる癒しを』

次の文字列が上書きされた瞬間、玉座全体を覆っていた血のような赤い光は、まるで夜明けの光に照らされたかのように、穏やかで清らかな蒼白い光へと変わっていく。

『始めよ』

最後の文字列が完璧な形で元の姿を取り戻した。その瞬間、世界の心臓部からすべての不協和音が消え失せ、後に残されたのは、ただどこまでも荘厳で穏やかなハーモニーだけだった。

仕様書の記述が完全に修正されたのだ。

そのあまりに大きな変化は、改竄者という存在そのものの存在意義を、根底から覆した。

ケンジたちと対峙していた、あの無機質な水晶の人型。その身体が、何の予兆もなく激しく痙攣を始めた。

『…理解、不能…。理解、不能…。我が、論理の、絶対性が…。非合理的な、ノイズによって…。上書き、される…。これは、あり得ない…。あり得ない、エラー…』

その合成音声は、もはや平坦ではなかった。自らの存在が崩壊していくことへの、純粋な恐怖と混乱に満ちている。絶対的な論理の化身が、人間たちの、あまりに非合理的な「想い」の力に、完全に敗北した瞬間だった。

水晶の身体に無数の亀裂が走る。その亀裂から、光ではなく、ただのデジタルノイズが虚しく溢れ出した。改竄者は、ケンジたちへ、その顔のない貌を向ける。そして、最後に自らの敗因を分析するかのように呟いた。

『…システム・エラー…。原因、ヒューマン・ファクター…。排除、失敗…。これより、自己、消去、プロセスへ…』

それが、この世界を完璧な論理で支配しようとした、哀れな管理者の最後の言葉だった。

次の瞬間、改竄者の身体は、まるで砂の城が風に吹かれるように音もなく光の粒子となって完全に消滅した。後に残されたのは、絶対的な静寂と、本来の輝きを取り戻した創造の玉座だけだった。

戦いは終わったのだ。

そのあまりに静かで、そして荘厳な勝利。仲間たちがその意味を噛み締めるよりも早く、世界の心臓部は新たなプロセスを開始した。

『創造の玉座』から、再び光が放たれる。だが、それはもはや赤黒い警告の色ではない。それは、世界のすべてを、その傷を癒すための、どこまでも優しく温かい黄金色の光だった。

暴走していた世界の保守機構、魔王プロセスは、その活動を完全に停止した。そして、本来の役割である「自動修復(ヒーリング)」プロセスを開始したのだ。

玉座から放たれた優しい光の奔流は、この神の記憶装置の壁を透過し、物理世界へと降り注いでいく。

最初にその光が届いたのは、この最終ダンジョンの入り口、世界の傷跡『削除領域』だった。空間の歪みが、まるで皺が伸ばされるかのように滑らかになっていく。ピクセル化していた風景が、再び色彩と輪郭を取り戻す。存在そのものが消え失せていたはずの大地に、緑の若葉が奇跡のように芽吹き始めた。

光はさらに世界中へと広がっていく。

魔法都市アイドスでは、不安定だったマナ・コンジットの流れが完全に安定し、街はより一層その輝きを増した。ドワーフの地下王国グリムフォージでは、地熱コアがこれまでにないほど力強く、そして穏やかな鼓動を刻み始めた。

そして、その光は、西の果て、あの絶望の村へとたどり着く。

ミレット村。

枯れ果てていたはずの大地に再び緑が戻る。淀んでいた川の水がその清らかさを取り戻し、せせらぎの音を奏で始めた。診療所の寝台で死を待つだけだった村人たちの、土気色の肌に少しずつ血の気が戻っていく。彼らのうつろだった瞳に、再び生命の光が宿り始めた。

世界のすべての傷が、今、癒されていく。

プロジェクトは完了した。

そのあまりに完璧な完了報告。ケンジと仲間たちは、玉座から放たれる、そのあまりに美しい夜明けの光を、ただ静かに見つめていた。彼らの、あまりに長く、そして過酷だったデスマーチが、今、本当の意味でその終わりを告げたのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!

飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。 貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。 だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。 なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。 その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

処理中です...