ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第5章:オペレーション・ジェネシス

第156話:そして、日常(サービス)は続く

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女神の魅惑的な提案。そして、ケンジの温かい拒絶の言葉。

「―――僕の居場所は、もう、ここですから」

その一言が、謁見の間の張り詰めた空気を完全に溶かした。

最初に噴き出したのは、シーナだった。
「…へっ。言ってくれるじゃねえか、ボス」
照れ隠しのようにそっぽを向きながらも、口元にはこれまでにないほど嬉しそうな笑みが浮かんでいる。「あたしたちみたいな問題児だらけのチームが、そんなに居心地が良くなっちまったのかい?」

「当たり前ですわ!」
ルリエルが得意げに胸を張る。「この天才魔術師にしてリードエンジニアであるわたくしが、直々に面倒を見てさしあげているのですもの!居心地が良くないはずがありませんわ!」

ゴードンは何も言わなかった。だが、その鋼鉄の兜の奥で、彼の瞳が確かに優しく細められたのを、ケンジは見逃さなかった。

仲間たちの温かい反応。ケンジはただ、幸せだった。自分がこの世界で本当に手に入れたかったもの、そのすべてが今ここにあった。

その人間的で温かい光景を、女神は少しだけ寂しそうに、しかし心からの祝福を込めて見つめていた。彼女はケンジの決断を静かに受け入れた。

「…分かりました」
女神は穏やかに微笑んだ。「ならば、わたくしはもう、あなたを元の世界へ還すことはいたしません。ですが、その代わり、あなたにもう一つの贈り物をさしあげましょう」

彼女はそう言うと、指先で虚空に一つの美しい紋章を描き出した。それは彼らのチームの新しい「ロゴ」だった。盾と杖と短剣が、一つの歯車を支えるように組み合わさった完璧なデザイン。

「これは、あなた方がこの世界で、これからもその素晴らしい『仕事』を続けていくための、わたくしからのささやかな投資です」
女神は悪戯っぽく笑った。「あなた方がこの世界に存在する限り、わたくしはあなた方の最大の、そして最強の『クライアント』であり続けましょう。…もちろん、予算は青天井で、ね」

その、神様らしからぬ、しかし何よりも頼もしい約束。ケンジは仲間たちと顔を見合わせると、たまらないといった表情で笑い出した。

彼らの長く過酷だったデスマーチは、今、本当の意味で終わりを告げた。そして、新たな始まりを迎えようとしていたのだ。

数週間後。
王都の一角。古びた倉庫だった場所に、一つの真新しい看板が掲げられていた。磨き上げられた樫の木の一枚板に、女神が描いてくれたあの美しい紋章と、力強い文字が刻まれている。

【異世界問題解決コンサルティング『アジャイル・ヒーローズ』】

少し気取った、しかし彼らの在り方を完璧に言い表した社名。扉を開けると、そこはかつての混沌とした作戦司令室ではない。明るい陽光が差し込む広々としたオフィスだ。壁には巨大なホワイトボードが設置され、現在進行中のいくつかのプロジェクトのガントチャートが色とりどりのインクで美しく描かれている。

「ゴードンCTO! この新型ゴーレムの装甲設計ですが、もう少しコストを抑えられませんか!?」
ケンジの声がオフィスに響き渡る。

「…無理を言うな、PM。これ以上強度を落とせば、安全性(セキュリティ)に問題が出る」
ゴードンが設計図を睨みつけながら低い声で唸る。

「ならば、素材の見直しを! シーナCSO! 代替可能な新素材の市場調査を、お願いします!」
「はいよ、ボス! 今、裏のルートで最高にクールなやつを探させてるぜ!」

「ルリエル・リードエンジニア! 稼働テスト用のシミュレーション環境の構築は進んでいますか!?」
「当然ですわ! わたくしを誰だと思って!? すでに98%完了していますわよ!」

そこにあったのは、もはや世界の危機に悲壮な覚悟で挑む勇者パーティの姿ではない。ただ、自分たちの専門的なスキルを最大限に活かし、生き生きと、そして何よりも楽しそうに仕事に取り組むプロフェッショナル集団の日常の風景だった。

彼らは世界を救った後も、その歩みを止めてはいなかった。この世界に山積する、無数の小さくも切実な「問題」たち。「収穫量が安定しない」と嘆く農村。「交易路の安全が確保できない」と悩む商人ギルド。「若手の育成が進まない」と頭を抱える騎士団。それらすべての「クライアント」からの依頼を受け、彼らは自分たちの「手法」でその問題を一つ、また一つと解決していく。

それは、もはやデスマーチなどではない。信頼できる仲間と、価値ある未来を創造していく、希望に満ちた日常(サービス)だった。

その穏やかで幸せな日常を破るように、オフィスの扉が控えめにノックされた。

「…どうぞ」
ケンジが応えると、扉がゆっくりと開く。そこに立っていたのは、一人、ひどく緊張した面持ちの依頼人だった。その姿を見た瞬間、オフィスにいた全員の動きがぴたりと止まった。

金色の髪。琥珀色の瞳。輝くような白銀の鎧。勇者、ガイ。その人だった。

彼はオフィスの中の、活気に満ちた、どこまでもプロフェッショナルな空気に一瞬だけ気圧されたように立ち尽くす。そして意を決したように一歩前に進み出た。ケンジの前に立つと、これまでの人生で一度も誰にも見せたことのないほど、深く深くその頭を下げたのだ。

その意外な光景に、シーナが口笛を吹き、ルリエルが驚きに目を見開く。

ガイは顔を上げた。その表情には、かつてのような傲慢さもライバル心も欠片もない。そこにあるのは、ただ自らの組織のあまりにも根深い「問題」に、本気で向き合おうとする、一人の悩めるリーダーの真摯な顔だけだった。

「…頼みがある」
ガイは絞り出すように言った。「俺の騎士団を立て直してほしい」

彼は自らの問題を告白し始めた。「俺の騎士団は強い。だが、あまりにも旧態依然としている。伝統と経験則だけを重んじ、新しい戦術を取り入れようとしない。個々の力は強いが、組織としての連携が脆弱だ。このままでは、またいつか同じ過ちを繰り返すだろう…」

その痛切な自己分析は、彼があのワイバーンとの戦いの敗北から、本当に多くを学んだことの証だった。

「だから、頼む」
ガイはもう一度頭を下げた。「君たちのその『手法』を俺たちに教えてほしい。この古く、硬直化した組織を、君たちの手で改革してほしいのだ」

その真っ直ぐで誠実な依頼。ケンジは仲間たちと顔を見合わせると、たまらないといった表情で楽しそうに、そして自信に満ちた笑みを浮かべた。

ケンジはガイへと向き直る。そして、プロジェクトマネージャーとして最高の、唯一の答えを返した。

「―――承知いたしました。では、キックオフミーティングを始めましょう」

彼の異世界での仕事(人生)は、これからも続いていく。それは、もはやデスマーチなどではない。信頼できる仲間と、価値ある未来を創造していく、希望に満ちた日常(サービス)として。

物語は、ここで終わる。そして、彼らの新しい物語が、ここから始まるのだ。
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