156 / 156
第5章:オペレーション・ジェネシス
第157話:キックオフミーティングを始めましょう
しおりを挟む
ケンジの頼もしい言葉に、ガイは安堵と新たな希望の光に瞳を輝かせた。
「…ああ。よろしく頼む」
その声は、もはやライバルのそれではない。自らが率いる組織の未来を、信頼するコンサルタントに託す、一人の真摯なクライアントの声だった。
こうして、ケンジたちの、おそらく最も困難なプロジェクトが幕を開けた。
クライアントは勇者ガイ。プロジェクト名は『王立騎士団・組織改革計画』。
最初の数週間は、まさに混沌を極めた。ケンジが導入しようとする新しい「手法」は、伝統と経験則を絶対の真理としてきた騎士団のベテランたちから猛烈な反発を受けたのだ。
「けーぴーあい、だと?」
歴戦の騎士団長が、ケンジが提示したパフォーマンス評価シートを鼻で笑う。「我ら騎士の価値は勝利への貢献度で決まる!このような子供騙しの数字遊びで、我らの何が分かると言うのだ!」
「だぶりゅーびーえす、ですって?」
若い女性騎士が、ケンジが描いたタスクの分解図を前に困惑の表情を浮かべる。「わたくしたちの仕事は、ただガイ様の指示に従い剣を振ること。このように細かく作業を分けられても、かえって混乱するだけですわ…」
彼らの頑なな抵抗。それは、かつてゴードンがその身に刻み込んできた、ドワーフの国の「レガシーシステム」の呪縛とまったく同じものだった。
だが、ケンジは諦めなかった。彼は一人ひとりの騎士と粘り強く対話を重ねた。なぜこの指標が必要なのか、なぜこのタスク分解が全体の効率を上げるのか。そのすべてを、感情論ではなく具体的なデータと論理で説き続けた。
そして、そのケンジの孤高な戦いを、仲間たちが支えた。
ゴードンはCTOとして、騎士団の旧式の訓練メニューを科学的根拠に基づいて刷新した。彼のドワーフとしての揺るぎない説得力は、頑固な騎士たちの心を少しずつ動かしていく。
ルリエルはリードエンジニアとして、魔法部隊の連携の脆弱性を具体的なシミュレーションで見せつけた。彼女の天才的な分析力は、これまでの自分たちの戦い方がいかに非効率で危険であったかを彼らに痛感させた。
シーナはCSOとして、騎士団の情報伝達システムの致命的な欠陥を指摘した。裏社会で培われた彼女のリスク管理能力は、彼らが見過ごしてきた数々のインシデントの根本原因を白日の下に晒した。
何よりも大きかったのは、ガイ自身の変化だった。彼は勇者としてのプライドを完全に捨てた。ケンジの一人の「部下」として、誰よりも率先して新しい手法を学び、実践し、その有効性を自らの背中で仲間たちに示し続けたのだ。
数ヶ月が過ぎる頃には、騎士団の空気は完全に変わっていた。彼らはもはやただの個の集まりではない。自らの役割を理解し、仲間と連携し、一つの目的のために機能する、近代的な「組織」へと生まれ変わっていた。
その集大成となる大規模な演習の日。
国王や宰相、そして女神が見守る中、ガイが率いる新生・王立騎士団は、これまでにない完璧な連携を見せつけた。それはもはや力押しではない。情報伝達、後方支援、そして各部隊のシームレスな連携。ケンジが教え込んだプロジェクトマネジメントのすべてがそこにあった。
演習が終わった時、観客席からは割れんばかりの拍手喝采が巻き起こった。ガイはその中心で誇らしげに胸を張る。だが彼の視線は観客席ではなく、その片隅で静かに「成果」を見届けていた一人のプロジェクトマネージャーに向けられていた。その瞳には、ライバルへのそれではない。自らを、そして自らの組織を救ってくれた最高の師への、深い感謝と尊敬の念が宿っていた。
ケンジはその視線に静かに頷き返すと、誰にも気づかれないようにそっとその場を後にした。彼の仕事はもう終わったのだ。
オフィスへと戻る道すがら、ケンジの心はこれまでにないほどの穏やかな満足感に満たされていた。自分がこの世界で本当に為すべきこと。それは世界を救う英雄になることではなかった。ただ、この世界に生きる人々が、より良く、そしてより幸せになるための手助けをすること。そのささやかで、しかし何よりも価値のある「仕事」。それこそが彼の天職だと、彼は今確信していた。
オフィスに戻ると、仲間たちが彼を出迎えた。
「どうだった、ボス?」
「当然、大成功でしたわよね?」
その温かい声に、ケンジはただ微笑んだ。そして、彼は自らのデスクへと向かう。そこには、彼がこの世界に来てからずっと心の片隅で温めてきた、一つの小さな「プロジェクト」が待っていた。
彼は一枚の真新しい羊皮紙を取り出し、その一番上に少し照れくさそうにタイトルを書き記した。
【私的プロジェクト:老後の生活設計(ライフ・プランニング)】
その下には、いくつかの項目が並んでいる。
『タスク1:静かな田舎に小さな家を建てる』
『タスク2:可愛らしい猫を一匹飼う』
『タスク3:仲間たちを時々招待してバーベキューをする』
その人間的で幸せな計画書を、仲間たちが後ろから覗き込む。そして、オフィスにはこれまでにないほど温かく、優しい笑い声が響き渡った。
彼の異世界での仕事(人生)は、これからも続いていく。それは、もはやデスマーチなどではない。信頼できる仲間と、価値ある未来を創造していく、希望に満ちた日常(サービス)として。
物語は、ここで終わる。そして、彼らの新しい物語が、ここから始まるのだ。
「…ああ。よろしく頼む」
その声は、もはやライバルのそれではない。自らが率いる組織の未来を、信頼するコンサルタントに託す、一人の真摯なクライアントの声だった。
こうして、ケンジたちの、おそらく最も困難なプロジェクトが幕を開けた。
クライアントは勇者ガイ。プロジェクト名は『王立騎士団・組織改革計画』。
最初の数週間は、まさに混沌を極めた。ケンジが導入しようとする新しい「手法」は、伝統と経験則を絶対の真理としてきた騎士団のベテランたちから猛烈な反発を受けたのだ。
「けーぴーあい、だと?」
歴戦の騎士団長が、ケンジが提示したパフォーマンス評価シートを鼻で笑う。「我ら騎士の価値は勝利への貢献度で決まる!このような子供騙しの数字遊びで、我らの何が分かると言うのだ!」
「だぶりゅーびーえす、ですって?」
若い女性騎士が、ケンジが描いたタスクの分解図を前に困惑の表情を浮かべる。「わたくしたちの仕事は、ただガイ様の指示に従い剣を振ること。このように細かく作業を分けられても、かえって混乱するだけですわ…」
彼らの頑なな抵抗。それは、かつてゴードンがその身に刻み込んできた、ドワーフの国の「レガシーシステム」の呪縛とまったく同じものだった。
だが、ケンジは諦めなかった。彼は一人ひとりの騎士と粘り強く対話を重ねた。なぜこの指標が必要なのか、なぜこのタスク分解が全体の効率を上げるのか。そのすべてを、感情論ではなく具体的なデータと論理で説き続けた。
そして、そのケンジの孤高な戦いを、仲間たちが支えた。
ゴードンはCTOとして、騎士団の旧式の訓練メニューを科学的根拠に基づいて刷新した。彼のドワーフとしての揺るぎない説得力は、頑固な騎士たちの心を少しずつ動かしていく。
ルリエルはリードエンジニアとして、魔法部隊の連携の脆弱性を具体的なシミュレーションで見せつけた。彼女の天才的な分析力は、これまでの自分たちの戦い方がいかに非効率で危険であったかを彼らに痛感させた。
シーナはCSOとして、騎士団の情報伝達システムの致命的な欠陥を指摘した。裏社会で培われた彼女のリスク管理能力は、彼らが見過ごしてきた数々のインシデントの根本原因を白日の下に晒した。
何よりも大きかったのは、ガイ自身の変化だった。彼は勇者としてのプライドを完全に捨てた。ケンジの一人の「部下」として、誰よりも率先して新しい手法を学び、実践し、その有効性を自らの背中で仲間たちに示し続けたのだ。
数ヶ月が過ぎる頃には、騎士団の空気は完全に変わっていた。彼らはもはやただの個の集まりではない。自らの役割を理解し、仲間と連携し、一つの目的のために機能する、近代的な「組織」へと生まれ変わっていた。
その集大成となる大規模な演習の日。
国王や宰相、そして女神が見守る中、ガイが率いる新生・王立騎士団は、これまでにない完璧な連携を見せつけた。それはもはや力押しではない。情報伝達、後方支援、そして各部隊のシームレスな連携。ケンジが教え込んだプロジェクトマネジメントのすべてがそこにあった。
演習が終わった時、観客席からは割れんばかりの拍手喝采が巻き起こった。ガイはその中心で誇らしげに胸を張る。だが彼の視線は観客席ではなく、その片隅で静かに「成果」を見届けていた一人のプロジェクトマネージャーに向けられていた。その瞳には、ライバルへのそれではない。自らを、そして自らの組織を救ってくれた最高の師への、深い感謝と尊敬の念が宿っていた。
ケンジはその視線に静かに頷き返すと、誰にも気づかれないようにそっとその場を後にした。彼の仕事はもう終わったのだ。
オフィスへと戻る道すがら、ケンジの心はこれまでにないほどの穏やかな満足感に満たされていた。自分がこの世界で本当に為すべきこと。それは世界を救う英雄になることではなかった。ただ、この世界に生きる人々が、より良く、そしてより幸せになるための手助けをすること。そのささやかで、しかし何よりも価値のある「仕事」。それこそが彼の天職だと、彼は今確信していた。
オフィスに戻ると、仲間たちが彼を出迎えた。
「どうだった、ボス?」
「当然、大成功でしたわよね?」
その温かい声に、ケンジはただ微笑んだ。そして、彼は自らのデスクへと向かう。そこには、彼がこの世界に来てからずっと心の片隅で温めてきた、一つの小さな「プロジェクト」が待っていた。
彼は一枚の真新しい羊皮紙を取り出し、その一番上に少し照れくさそうにタイトルを書き記した。
【私的プロジェクト:老後の生活設計(ライフ・プランニング)】
その下には、いくつかの項目が並んでいる。
『タスク1:静かな田舎に小さな家を建てる』
『タスク2:可愛らしい猫を一匹飼う』
『タスク3:仲間たちを時々招待してバーベキューをする』
その人間的で幸せな計画書を、仲間たちが後ろから覗き込む。そして、オフィスにはこれまでにないほど温かく、優しい笑い声が響き渡った。
彼の異世界での仕事(人生)は、これからも続いていく。それは、もはやデスマーチなどではない。信頼できる仲間と、価値ある未来を創造していく、希望に満ちた日常(サービス)として。
物語は、ここで終わる。そして、彼らの新しい物語が、ここから始まるのだ。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主
雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。
荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。
十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、
ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。
ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、
領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。
魔物被害、経済不安、流通の断絶──
没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。
新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。
【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~
月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』
恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。
戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。
だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】
導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。
「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」
「誰も本当の私なんて見てくれない」
「私の力は……人を傷つけるだけ」
「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」
傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。
しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。
――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。
「君たちを、大陸最強にプロデュースする」
「「「「……はぁ!?」」」」
落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。
俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。
◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!
無能烙印押された貧乏準男爵家三男は、『握手スキル』で成り上がる!~外れスキル?握手スキルこそ、最強のスキルなんです!
飼猫タマ
ファンタジー
貧乏準男爵家の三男トト・カスタネット(妾の子)は、13歳の誕生日に貴族では有り得ない『握手』スキルという、握手すると人の名前が解るだけの、全く使えないスキルを女神様から授かる。
貴族は、攻撃的なスキルを授かるものという頭が固い厳格な父親からは、それ以来、実の息子とは扱われず、自分の本当の母親ではない本妻からは、嫌がらせの井戸掘りばかりさせられる毎日。
だが、しかし、『握手』スキルには、有り得ない秘密があったのだ。
なんと、ただ、人と握手するだけで、付随スキルが無限にゲットできちゃう。
その付随スキルにより、今までトト・カスタネットの事を、無能と見下してた奴らを無意識下にザマーしまくる痛快物語。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる