ポンコツ女神が受注した『プロジェクト:魔王討伐』は炎上確定!? プロジェクトマネージャーの俺がデスマーチ現場を立て直して絶対FIREしてやる

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第5章:オペレーション・ジェネシス

第157話:キックオフミーティングを始めましょう

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ケンジの頼もしい言葉に、ガイは安堵と新たな希望の光に瞳を輝かせた。
「…ああ。よろしく頼む」
その声は、もはやライバルのそれではない。自らが率いる組織の未来を、信頼するコンサルタントに託す、一人の真摯なクライアントの声だった。

こうして、ケンジたちの、おそらく最も困難なプロジェクトが幕を開けた。
クライアントは勇者ガイ。プロジェクト名は『王立騎士団・組織改革計画』。

最初の数週間は、まさに混沌を極めた。ケンジが導入しようとする新しい「手法」は、伝統と経験則を絶対の真理としてきた騎士団のベテランたちから猛烈な反発を受けたのだ。

「けーぴーあい、だと?」
歴戦の騎士団長が、ケンジが提示したパフォーマンス評価シートを鼻で笑う。「我ら騎士の価値は勝利への貢献度で決まる!このような子供騙しの数字遊びで、我らの何が分かると言うのだ!」

「だぶりゅーびーえす、ですって?」
若い女性騎士が、ケンジが描いたタスクの分解図を前に困惑の表情を浮かべる。「わたくしたちの仕事は、ただガイ様の指示に従い剣を振ること。このように細かく作業を分けられても、かえって混乱するだけですわ…」

彼らの頑なな抵抗。それは、かつてゴードンがその身に刻み込んできた、ドワーフの国の「レガシーシステム」の呪縛とまったく同じものだった。

だが、ケンジは諦めなかった。彼は一人ひとりの騎士と粘り強く対話を重ねた。なぜこの指標が必要なのか、なぜこのタスク分解が全体の効率を上げるのか。そのすべてを、感情論ではなく具体的なデータと論理で説き続けた。

そして、そのケンジの孤高な戦いを、仲間たちが支えた。
ゴードンはCTOとして、騎士団の旧式の訓練メニューを科学的根拠に基づいて刷新した。彼のドワーフとしての揺るぎない説得力は、頑固な騎士たちの心を少しずつ動かしていく。
ルリエルはリードエンジニアとして、魔法部隊の連携の脆弱性を具体的なシミュレーションで見せつけた。彼女の天才的な分析力は、これまでの自分たちの戦い方がいかに非効率で危険であったかを彼らに痛感させた。
シーナはCSOとして、騎士団の情報伝達システムの致命的な欠陥を指摘した。裏社会で培われた彼女のリスク管理能力は、彼らが見過ごしてきた数々のインシデントの根本原因を白日の下に晒した。

何よりも大きかったのは、ガイ自身の変化だった。彼は勇者としてのプライドを完全に捨てた。ケンジの一人の「部下」として、誰よりも率先して新しい手法を学び、実践し、その有効性を自らの背中で仲間たちに示し続けたのだ。

数ヶ月が過ぎる頃には、騎士団の空気は完全に変わっていた。彼らはもはやただの個の集まりではない。自らの役割を理解し、仲間と連携し、一つの目的のために機能する、近代的な「組織」へと生まれ変わっていた。

その集大成となる大規模な演習の日。
国王や宰相、そして女神が見守る中、ガイが率いる新生・王立騎士団は、これまでにない完璧な連携を見せつけた。それはもはや力押しではない。情報伝達、後方支援、そして各部隊のシームレスな連携。ケンジが教え込んだプロジェクトマネジメントのすべてがそこにあった。

演習が終わった時、観客席からは割れんばかりの拍手喝采が巻き起こった。ガイはその中心で誇らしげに胸を張る。だが彼の視線は観客席ではなく、その片隅で静かに「成果」を見届けていた一人のプロジェクトマネージャーに向けられていた。その瞳には、ライバルへのそれではない。自らを、そして自らの組織を救ってくれた最高の師への、深い感謝と尊敬の念が宿っていた。

ケンジはその視線に静かに頷き返すと、誰にも気づかれないようにそっとその場を後にした。彼の仕事はもう終わったのだ。

オフィスへと戻る道すがら、ケンジの心はこれまでにないほどの穏やかな満足感に満たされていた。自分がこの世界で本当に為すべきこと。それは世界を救う英雄になることではなかった。ただ、この世界に生きる人々が、より良く、そしてより幸せになるための手助けをすること。そのささやかで、しかし何よりも価値のある「仕事」。それこそが彼の天職だと、彼は今確信していた。

オフィスに戻ると、仲間たちが彼を出迎えた。
「どうだった、ボス?」
「当然、大成功でしたわよね?」

その温かい声に、ケンジはただ微笑んだ。そして、彼は自らのデスクへと向かう。そこには、彼がこの世界に来てからずっと心の片隅で温めてきた、一つの小さな「プロジェクト」が待っていた。

彼は一枚の真新しい羊皮紙を取り出し、その一番上に少し照れくさそうにタイトルを書き記した。

【私的プロジェクト:老後の生活設計(ライフ・プランニング)】

その下には、いくつかの項目が並んでいる。
『タスク1:静かな田舎に小さな家を建てる』
『タスク2:可愛らしい猫を一匹飼う』
『タスク3:仲間たちを時々招待してバーベキューをする』

その人間的で幸せな計画書を、仲間たちが後ろから覗き込む。そして、オフィスにはこれまでにないほど温かく、優しい笑い声が響き渡った。

彼の異世界での仕事(人生)は、これからも続いていく。それは、もはやデスマーチなどではない。信頼できる仲間と、価値ある未来を創造していく、希望に満ちた日常(サービス)として。

物語は、ここで終わる。そして、彼らの新しい物語が、ここから始まるのだ。
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