月の雫と地の底の誓い

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第39話:凱旋と不協和音

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魔王討伐を終え、王都への帰路についた。長かった旅の終わりだ。疲労はあったが、道中の人々の笑顔がそれを吹き飛ばしてくれた。魔王軍から解放された村や町では、私たちを英雄として迎え、惜しみない歓声と感謝を投げかけてくれた。その一つ一つが、私たちのしてきたことの価値を教えてくれる。私はタイヨウと共に、この人々の未来を守れたことを誇りに思った。

遠くに見えてきた王都アステルの城壁。すべてを奪われ、追放された場所だ。二度と足を踏み入れることはないと思っていた場所に、今、私は胸を張って戻ってきた。隣を歩くタイヨウの力強い足取りと、その隣にいる自分自身に、もはや迷いはなかった。

王都の正門をくぐると、民衆の熱狂的な歓迎が待っていた。メインストリートは人波で埋め尽くされ、窓から降り注ぐ色とりどりの紙吹雪が、祝福の雨のようだった。白馬にまたがったタイヨウが先頭を進み、私もその横に並ぶ。私に向けられる視線は、かつての蔑みや哀れみとは違う、温かい敬意に満ちていた。

「勇者タイヨウ様! 英雄タイヨウ様だ!」
「王国万歳! 英雄万歳!」

最初はタイヨウへの歓声が主だった。尊敬する勇者様が称賛される姿を間近で見ることができ、心が震える。だが、やがてその熱狂の中に、聞き慣れない声が混じり始めた。

「月の雫の乙女様だ! セレスティア様!」
「あなたのおかげで、私たちの村は再び豊かな実りを得ました!」

驚きに目を見開くと、人々が私に手を振っていた。その手には、私が辺境の地で作り上げた干し実が掲げられている。私の「魔法」が、確かに人々の役に立っている証拠だった。込み上げてくる感謝の念に目を伏せたが、その気持ちがやがて私に勇気を与えてくれる。私は顔を上げ、初めて民衆の歓声に穏やかな笑みで応えた。

その瞬間、確信した。私の居場所は、もはやこの王宮の中ではない。私の故郷、あの辺境の町にこそ、成すべきことがあるのだと。

パレードの熱狂を、王宮の大バルコニーから見下ろす冷たい視線に気づいていた。エドワード王子だ。歓声が私へと移るにつれて、彼の完璧な王子の微笑みがほんのわずかに引きつったのを私は見逃さなかった。かつての私が彼にとって「邪魔者」でしかなかった頃と、その表情は何も変わっていなかった。

パレードが終わり、私たちは王宮の大広間へ通された。私にとって記憶の中にしかない、華やかで、しかし冷たい世界だった。磨き上げられた大理石の床、巨大なシャンデリア、そして壁際に整列する、感情の読めない貴族たちの顔。民衆の熱狂とはあまりにも違う、冷たい空気がこの場所を支配していた。

玉座に座る国王陛下が、威厳に満ちた声で私たちを労ってくださる。その言葉に、共に戦った将軍たちの顔が誇らしげにほころんだ。

だが、その穏やかな空気を引き裂いたのは、国王の隣に立つエドワード王子だった。当然のように一歩前に出ると、まるで自分がこの謁見の主催者であるかのように振る舞い始めた。

「父上のお言葉、まことにその通りです。私が王太子として立案した今回の魔王討伐計画。その戦略の要として、勇者タイヨウ殿は実によくその役目を果たしてくれました」

彼の言葉に、広間がかすかにざわめく。隣にいたタイヨウ様の呼吸が、わずかに荒くなるのが分かった。エドワードはそんな空気など意にも介さず続ける。

「辺境の地を一大拠点として活用し、勇者という絶対的な力で魔王軍の中枢を叩く。すべては私の読み通りでした。タイヨウ殿の比類なき武勇は、我が王国の歴史に永遠に刻まれることでしょう」

彼は勝利の物語を、自分と、自分の選んだ勇者だけのものへと書き換えていた。彼の言葉は、将軍や兵士たちの命を軽んじる、あまりにも傲慢で幼稚な策略だった。

「ふざけるな……」

タイヨウの口から、怒りを抑えきれない低い唸り声が漏れた。彼の誇り、そして散っていった仲間たちの名誉が、今、目の前で踏みにじられている。私には、その激しい怒りが痛いほど伝わってきた。しかし、感情に任せて動いてはならない。それは彼の思う壺だ。私はただ静かに、その様子を観察していた。

そして、エドワードの茶番はクライマックスを迎えた。まるでゴミでも見るかのような侮蔑の視線を、私へと向けたのだ。

「もちろん、辺境で魔王軍の第一次侵攻を食い止めた現地民兵たちの勇敢さも称賛に値するでしょう。彼らが作戦通り貴重な『時間』を稼いでくれたおかげで、本隊の到着が間に合ったのですから」

その言葉は、カインやアルベルトの死を、ただの計算通りの消耗品だと断ずるに等しかった。彼は、私に目を向け、とどめの一言を放つ。

「また、追放されていたかの令嬢も、後方でささやかながら治癒活動に貢献したと聞いております。過去の過ちを悔い改める、良い機会となったことでしょう」

その瞬間、タイヨウの全身から凍てつくような殺気が放たれた。隣にいたバルガス様でさえ肩を震わせるほどの、純粋な殺意。聖剣の柄に手をかけたタイヨウの衝動が、私にまで伝わってきた。私は、静かにタイヨウ様の袖を掴む。

タイヨウは一瞬、私に目を向けた。その瞳に、個人的な怒りではない、氷のように冷たい闘志が燃えているのを見た。感情に任せて剣を抜けば、この茶番劇は彼の勝利に終わる。真実を語る機会は失われる。そのことを理解したタイヨウは、静かに剣から手を離した。

形式的な謁見は、国王陛下からの当たり障りのない慰労の言葉で締めくくられた。エドワードの虚構の物語が、このまま王国の公式見解とされようとしていた。

この王宮は、すでに腐敗している。そして、これから始まるのは、最後の戦いだと確信した。その時だった。

回廊の向こうから侍従長が足早に近づいてくる。国王陛下の布告を告げた。

「勇者タイヨウ様、並びに各部隊の指揮官の方々へ。三日後、大広間にて正式な戦勝報告会を執り行うとの御命令です」

戦勝報告会。

それは、真実を語るための、最後の舞台。私はタイヨウと視線を交わした。互いの瞳には、静かで、しかし揺るぎない同じ決意の光が宿っていた。

本当の戦いは、まだ終わっていない。
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