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第40話:白日の下の真実
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戦勝報告会の日、王宮の大ホールは王国の権威と栄光に満ちていた。高い天井から吊るされた巨大なシャンデリアが磨き上げられた大理石の床を照らす。壁には歴代の王たちの偉業を描いたタペストリーが掛けられていた。
玉座には国王陛下が座り、その前には王国全土から集った有力な貴族や官僚が列席している。誰もがこれから語られる歴史的な勝利を固唾をのんで見守っていた。
最初に報告者として壇上に立ったのは、エドワード王子だ。彼は自信に満ちた完璧な笑みを浮かべ、優雅に一礼する。傍らに置かれた巨大な軍事地図を指し示しながら、雄弁な舌を滑らせ始めた。
「――私が立案した三段階の作戦に則り、我が軍は魔王軍を討ち滅ぼしました。第一段階、辺境の地をあえて捨て駒として利用し敵主力を引きつけます。第二段階、その隙に勇者タイヨウ殿を単独で魔王城へと潜入させ、内部から撹乱する」
彼の声はホール全体に朗々と響き渡る。全てが彼の完璧な脚本の上で演じられた壮大な英雄譚として語られていく。その見事な虚構の物語に、真実を知らない貴族たちは感嘆のため息を漏らし、彼の取り巻きからは大きな拍手が巻き起こった。
しかし、広間のもう半分は静まり返っていた。最前線で地獄を見た将軍たちは石像のように固い表情で沈黙している。後方に控える辺境警備隊の生き残りの男たちは、屈辱と怒りに顔を赤く染め、ただ拳を固く握りしめていた。
エドワードが満足げに席へ戻る。その静寂の中、玉座の国王陛下が口を開いた。
「見事な報告であった、エドワード。次に戦いの中心にいた勇者の証言を聞こう。勇者タイヨウ、前へ」
その声に全ての視線がタイヨウへと注がれる。彼は静かに立ち上がった。一歩、また一歩と壇上へと向かう。その足取りには華やかな自信はない。しかし戦場を生き抜いた者だけが持つ、揺るぎない重みがあった。
壇上に立った彼は、国王と貴族たちをまっすぐに見据えた。やがて彼は口を開く。その声は王子の朗々とした美声とは違う。訥々として、しかしその一言一句に真実の重みがこもった力強い声だった。
「国王陛下、並びに議会の皆様。先ほどのエドワード王子殿下のご報告は素晴らしいものでした。しかし、散っていった名もなき兵士たちの名誉のため、戦場で起こった重要な事実を補足させていただきたく思います」
丁寧で明確な前置きに、エドワードの眉がかすかにひそめられた。
「辺境での戦いは『作戦通りの捨て駒』ではありません。それは愛する故郷と、敬愛すべき指導者を守るための英雄的な抵抗でした」
タイヨウはそこで一度言葉を切る。そして静かに、しかしホール全体に響き渡る声で続けた。
「この戦いにおける真の勝因は二つあります。一つは辺境警備隊の不屈の魂。そしてもう一つは――」
彼は列席する私のことを一瞥した。
「――月の雫の乙女、セレスティアの存在です」
その言葉に広間が大きくどよめいた。
「戦術的な観点から申し上げます。彼女の広範囲に及ぶ癒やしの力なくして、戦線維持は不可能でした。そして最終局面、魔王を前に私が一度は倒れた後、戦況を完全に覆したのは彼女の覚醒した奇跡の力に他なりません」
彼の証言は一切の感情を排していた。ただ事実を、戦場の厳然たる真実をありのままに語るだけ。その圧倒的な説得力が、エドワードが作り上げた虚構の物語を根底から覆していく。
タイヨウの証言が終わった。重苦しい沈黙が広間を支配する。それを破ったのは玉座の国王陛下だった。
「……他に証言すべき者は、おるか」
その静かな問いに、一人の男が立ち上がった。辺境警備隊の生き残り、あのベテラン兵士だ。傷だらけだが、誇り高い足取りで前へと進み出る。
「陛下。勇者様の言葉に偽りはございません。カイン隊長の命懸けの指揮と乙女様の奇跡の力がなければ、今頃王都は魔王軍の蹂躙を受けていたでしょう。王子殿下のご立派な作戦については……戦場の片隅にいた我らにはとんと聞こえては参りませんでしたな」
その実直で痛烈な皮肉に、広間はさらにざわめいた。声が収まらぬうちに、今度はタイヨウの隣にいたバルガスが立ち上がる。
「陛下!一騎士として申し上げたい!勇者様と乙女様、そして名もなき兵士たちの誇りが、この勝利を掴んだのです!王子殿下の計画書など、俺たちは一度も見たことはない!」
勇者の客観的な証言。一兵士の魂の叫び。そして一騎士の名誉を懸けた訴え。その全てが、エドワードの報告が完全な虚偽であったことを指し示していた。
エドワードの顔から血の気が引いていく。彼は何かを叫ぼうとして、しかし声にならず唇を震わせるだけだった。
その決定的な瞬間、タイヨウが再び静かにホールの中心へと歩み出た。彼は広間の隅で静かに佇む私を、その手で指し示す。
「皆様、どうか聞いていただきたい」
彼の声は、ホール全体に、そして王国の歴史に刻まれるように響き渡った。
「この戦いにおける真の英雄は、勇者である俺ではない。絶望の淵から民を導き、自らの身を犠牲にして奇跡を起こし、そして我々全てに勝利をもたらした彼女…」
「――セレスティア、ただ一人です」
その宣言に、ホールは水を打ったように静まり返った。エドワードの顔は土気色になり、何事かを言おうとしたが、言葉は出なかった。
彼が作り上げた華麗で自己満足に満ちた物語は、今、完全に、そして永遠に崩壊したのだ。白日の下に晒された真実。王子の権威が失墜した、歴史的な瞬間だった。
玉座には国王陛下が座り、その前には王国全土から集った有力な貴族や官僚が列席している。誰もがこれから語られる歴史的な勝利を固唾をのんで見守っていた。
最初に報告者として壇上に立ったのは、エドワード王子だ。彼は自信に満ちた完璧な笑みを浮かべ、優雅に一礼する。傍らに置かれた巨大な軍事地図を指し示しながら、雄弁な舌を滑らせ始めた。
「――私が立案した三段階の作戦に則り、我が軍は魔王軍を討ち滅ぼしました。第一段階、辺境の地をあえて捨て駒として利用し敵主力を引きつけます。第二段階、その隙に勇者タイヨウ殿を単独で魔王城へと潜入させ、内部から撹乱する」
彼の声はホール全体に朗々と響き渡る。全てが彼の完璧な脚本の上で演じられた壮大な英雄譚として語られていく。その見事な虚構の物語に、真実を知らない貴族たちは感嘆のため息を漏らし、彼の取り巻きからは大きな拍手が巻き起こった。
しかし、広間のもう半分は静まり返っていた。最前線で地獄を見た将軍たちは石像のように固い表情で沈黙している。後方に控える辺境警備隊の生き残りの男たちは、屈辱と怒りに顔を赤く染め、ただ拳を固く握りしめていた。
エドワードが満足げに席へ戻る。その静寂の中、玉座の国王陛下が口を開いた。
「見事な報告であった、エドワード。次に戦いの中心にいた勇者の証言を聞こう。勇者タイヨウ、前へ」
その声に全ての視線がタイヨウへと注がれる。彼は静かに立ち上がった。一歩、また一歩と壇上へと向かう。その足取りには華やかな自信はない。しかし戦場を生き抜いた者だけが持つ、揺るぎない重みがあった。
壇上に立った彼は、国王と貴族たちをまっすぐに見据えた。やがて彼は口を開く。その声は王子の朗々とした美声とは違う。訥々として、しかしその一言一句に真実の重みがこもった力強い声だった。
「国王陛下、並びに議会の皆様。先ほどのエドワード王子殿下のご報告は素晴らしいものでした。しかし、散っていった名もなき兵士たちの名誉のため、戦場で起こった重要な事実を補足させていただきたく思います」
丁寧で明確な前置きに、エドワードの眉がかすかにひそめられた。
「辺境での戦いは『作戦通りの捨て駒』ではありません。それは愛する故郷と、敬愛すべき指導者を守るための英雄的な抵抗でした」
タイヨウはそこで一度言葉を切る。そして静かに、しかしホール全体に響き渡る声で続けた。
「この戦いにおける真の勝因は二つあります。一つは辺境警備隊の不屈の魂。そしてもう一つは――」
彼は列席する私のことを一瞥した。
「――月の雫の乙女、セレスティアの存在です」
その言葉に広間が大きくどよめいた。
「戦術的な観点から申し上げます。彼女の広範囲に及ぶ癒やしの力なくして、戦線維持は不可能でした。そして最終局面、魔王を前に私が一度は倒れた後、戦況を完全に覆したのは彼女の覚醒した奇跡の力に他なりません」
彼の証言は一切の感情を排していた。ただ事実を、戦場の厳然たる真実をありのままに語るだけ。その圧倒的な説得力が、エドワードが作り上げた虚構の物語を根底から覆していく。
タイヨウの証言が終わった。重苦しい沈黙が広間を支配する。それを破ったのは玉座の国王陛下だった。
「……他に証言すべき者は、おるか」
その静かな問いに、一人の男が立ち上がった。辺境警備隊の生き残り、あのベテラン兵士だ。傷だらけだが、誇り高い足取りで前へと進み出る。
「陛下。勇者様の言葉に偽りはございません。カイン隊長の命懸けの指揮と乙女様の奇跡の力がなければ、今頃王都は魔王軍の蹂躙を受けていたでしょう。王子殿下のご立派な作戦については……戦場の片隅にいた我らにはとんと聞こえては参りませんでしたな」
その実直で痛烈な皮肉に、広間はさらにざわめいた。声が収まらぬうちに、今度はタイヨウの隣にいたバルガスが立ち上がる。
「陛下!一騎士として申し上げたい!勇者様と乙女様、そして名もなき兵士たちの誇りが、この勝利を掴んだのです!王子殿下の計画書など、俺たちは一度も見たことはない!」
勇者の客観的な証言。一兵士の魂の叫び。そして一騎士の名誉を懸けた訴え。その全てが、エドワードの報告が完全な虚偽であったことを指し示していた。
エドワードの顔から血の気が引いていく。彼は何かを叫ぼうとして、しかし声にならず唇を震わせるだけだった。
その決定的な瞬間、タイヨウが再び静かにホールの中心へと歩み出た。彼は広間の隅で静かに佇む私を、その手で指し示す。
「皆様、どうか聞いていただきたい」
彼の声は、ホール全体に、そして王国の歴史に刻まれるように響き渡った。
「この戦いにおける真の英雄は、勇者である俺ではない。絶望の淵から民を導き、自らの身を犠牲にして奇跡を起こし、そして我々全てに勝利をもたらした彼女…」
「――セレスティア、ただ一人です」
その宣言に、ホールは水を打ったように静まり返った。エドワードの顔は土気色になり、何事かを言おうとしたが、言葉は出なかった。
彼が作り上げた華麗で自己満足に満ちた物語は、今、完全に、そして永遠に崩壊したのだ。白日の下に晒された真実。王子の権威が失墜した、歴史的な瞬間だった。
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