俺の完璧な潜入作戦が、いつも謎の令嬢にめちゃくちゃにされる件について

YY

文字の大きさ
17 / 40

第17話:結社の魔導師を追う

しおりを挟む
先日捕らえた誘拐事件の実行犯の口は想像以上に硬かった。結社『ノクティス』の末端は、強固な精神汚染系の魔術で縛られている。拷問も、自白剤も、奴らの忠誠心の前では意味をなさなかった。だが、俺たち暗部の尋問技術は力技ではない。数日間にわたる厳しい尋問の末、精神的な疲労と巧みな誘導尋問の罠に嵌った男は、ついに結社に関する新たな情報を吐いた。

「今夜…幹部クラスの魔導師様が、王都のはずれで何者かと接触する…」

男はやつれた顔でそう白状した。これはこれ以上ないほど重要な情報だ。幹部クラスの魔導師、そしてその接触相手。その両方を特定できれば、これまで謎に包まれていた結社の全貌が明らかになる。俺は単独で追跡任務に就いた。この任務の成否が今後の戦局を左右する。失敗は許されない。

夜の闇に紛れ、俺は指定された区域で息を殺していた。湿った石畳の匂い、遠くで聞こえる酒場の喧騒。その全てを意識の外へ追いやり、五感を研ぎ澄ませる。やがて、ターゲットである魔導師が姿を現す。黒いローブで全身を覆い、その足取りは音もなく、まるで幽霊のようだ。俺は気配を完全に消し、屋根から屋根へと飛び移りながら、慎重にその後を追った。奴は時折、警戒して背後を振り返るが、俺の影を捉えることはできない。

ターゲットの魔導師を追い、たどり着いたのは王都のはずれにある古い教会の跡地だった。崩れかけた壁、蔦の絡まる鐘楼。密会場所としてはあまりにも定石だ。だが、それゆえに罠を仕掛けるにも都合がいい。俺は教会の鐘楼の、闇に沈んだ一角に身を潜めた。そこは、教会跡地の全体を見渡せる最高の狙撃地点であり、監視場所でもあった。ここからなら、奴らの会話を読唇術で読み取ることも、魔力の流れを観測することも可能だ。

しばらくすると、魔導師は祭壇があったであろう場所で足を止め、懐から水晶玉のようなものを取り出した。魔法的な通信機か、あるいは何らかの儀式の触媒か。奴はそれを掲げ、古の言語で呪文を唱え始めた。空気が震え、地面に描かれた微かな魔法陣が反応する。水晶玉が不気味な青い光を放ち始める。…来たか。接触相手の魔力パターンを読み取れる、またとない好機だ。この魔力の波長を記録できれば、相手が王都のどこにいようと、特定が可能になる。俺は全神経を集中させ、その魔力の流れを読み取ろうとした。

だが、その瞬間だった。背後の茂みから、信じられないほど場違いな、そして聞き覚えのある甲高い囁き声が聞こえたのだ。

「まあ、なんてロマンチックですの!」

…あの女だ。リリアーナ・フォン・エルドラド。なぜ、お前が、この場所に、このタイミングでいる!? 俺の声にならない叫びと同時に、俺の背後でガサリ、と大きな物音がした。おそらく、彼女か、あるいは彼女の連れが、不用意に枝でも踏んだのだろう。

その音に、魔導師は即座に反応した。彼は儀式を中断し、水晶玉の光を消し去ると、獣のような鋭い視線で周囲を警戒する。そして、俺が動くよりも早く、その姿は闇の中へと溶けるように消えてしまった。転移魔術か。手練れだ。

……現場を、台無しにされた。あと一歩で結社の核心に迫る重要な情報を掴めたのに。全てが水の泡だ。俺は鐘楼の暗闇の中で、怒りで拳を強く握りしめた。爪が掌に食い込む痛みだけが、俺の理性をかろうじて繋ぎとめていた。

偶然か?こんなことが偶然であっていいはずがない。なぜ彼女は、この時間、この場所を知っていた?俺の任務は最高機密のはずだ。この情報を知る者は、王城の暗部でもごく一握り。情報が漏れたとは考えにくい。考えられる可能性は一つしかない。やはり、あの女は結社と繋がっている。彼女は俺とは別のルートでこの密会の情報を得ていた。いや、それどころか、俺の動きを完全に読み、俺が情報を掴む、まさにその寸前を狙って、意図的にこの任務を妨害しに来たとしか考えられない。

あの狂信者集団(カルト)のリーダーは、俺の最も危険な敵対者だ。俺は闇に消えた魔導師と、そして茂みの中で呑気な声を上げているであろう彼女を思い浮かべ、静かに、しかし深く、燃えるような怒りを滾らせていた。もはや、ただの監視対象ではない。明確な、排除すべき敵だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】小さな元大賢者の幸せ騎士団大作戦〜ひとりは寂しいからみんなで幸せ目指します〜

るあか
ファンタジー
 僕はフィル・ガーネット5歳。田舎のガーネット領の領主の息子だ。  でも、ただの5歳児ではない。前世は別の世界で“大賢者”という称号を持つ大魔道士。そのまた前世は日本という島国で“独身貴族”の称号を持つ者だった。  どちらも決して不自由な生活ではなかったのだが、特に大賢者はその力が強すぎたために側に寄る者は誰もおらず、寂しく孤独死をした。  そんな僕はメイドのレベッカと近所の森を散歩中に“根無し草の鬼族のおじさん”を拾う。彼との出会いをきっかけに、ガーネット領にはなかった“騎士団”の結成を目指す事に。  家族や領民のみんなで幸せになる事を夢見て、元大賢者の5歳の僕の幸せ騎士団大作戦が幕を開ける。

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

追放された公爵令息、神竜と共に辺境スローライフを満喫する〜無敵領主のまったり改革記〜

たまごころ
ファンタジー
無実の罪で辺境に追放された公爵令息アレン。 だが、その地では神竜アルディネアが眠っていた。 契約によって最強の力を得た彼は、戦いよりも「穏やかな暮らし」を選ぶ。 農地改革、温泉開発、魔導具づくり──次々と繁栄する辺境領。 そして、かつて彼を貶めた貴族たちが、その繁栄にひれ伏す時が来る。 戦わずとも勝つ、まったりざまぁ無双ファンタジー!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...