俺の完璧な潜入作戦が、いつも謎の令嬢にめちゃくちゃにされる件について

YY

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第18話:証拠書簡の回収

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前回の任務妨害を受け、俺は作戦を根本から変更した。苛立ちを無理やり思考の奥に押し込め、冷徹な分析に集中した。

あの魔導師は俺の存在に気づいた。だが、奴はまだ、俺が何をどこまで知っているかを把握できていないはずだ。奴は必ず、あの教会跡地に戻ってくる。仲間との接触が失敗した今、奴にとって最も優先すべきは、そこに隠したであろう重要情報の回収だ。彼自身が、万が一のために隠しておいた「連絡用の書簡」を回収し、潜伏先を移動するはず。あの場所は、もはや奴にとっても安全ではないからだ。

俺の狙いはその一点。奴が書簡を手にし、アジトへと戻る、その瞬間を狙って追跡する。アジトの場所さえ割れれば、結社のネットワークを大きく断ち切ることができる。今度こそ、誰にも邪魔はさせない。俺は前回よりもさらに深く気配を殺し、教会の闇に溶け込んでいた。鐘楼の石壁に背を預け、俺は夜の一部と化していた。眼下の廃墟は、俺のためだけに用意された狩場だった。

予測通り、月が中天に差し掛かった頃、あの魔導師が姿を現した。奴は、前回以上に周囲を警戒し、幾重にも探知の魔法を張り巡らせながら、慎重に祭壇の跡地へと近づく。その足取りには、前回にはなかった焦りの色が見えた。俺は呼吸を止め、魔力の流れを完全に制御し、奴の探知網から自らの存在を隠蔽する。俺の隠密技術は、奴ごときの魔術師に見破れるものではない。そして、崩れた石材の隙間から、一通の厳重に封蝋された書簡を手に取った。

……今だ。

俺が、追跡を開始すべく鐘楼の縁にかけた足に力を込めた、まさにその時だった。

「観念なさい!」

背後の茂みから、甲高く、そして聞き覚えがありすぎる声と共に、あの女が飛び出してきた。月明かりを背に、まるで舞台女優のようにポーズを決めている。その姿は、この緊迫した状況において、あまりにも場違いで、滑稽ですらあった。

……また、お前か。

俺の完璧に張り巡らされた計画が、脳内で音を立てて崩れていくのを感じた。なぜだ。なぜ、この女はいつも、俺の作戦の最も重要な瞬間に現れる?俺の思考を読んでいるのか?それとも、俺の人生を破壊するためだけに神が遣わした、何かの厄災なのか?この女の存在そのものが、俺という騎士に対する最大の呪いなのかもしれない。

リリアーナが投げつけたのは、一枚のハンカチだった。だが、それはただの布ではない。込められた魔力が、夜の闇の中ですら視認できるほどに揺らめいている。何らかの魔道具。それが宙を舞った瞬間、なぜかまばゆい七色の光を放って爆発し、あたりに粘着性のキラキラとした粒子を撒き散らした。なんだ、あの意味不明な武器は。甘い花の香りと、金属が焼けるような匂いが混じり合い、鼻を突く。視覚と嗅覚を同時に攻撃する、悪趣味極まりない代物だ。

魔導師は、その常軌を逸した奇襲に完全に意表を突かれたのだろう。咄嗟に防御障壁を展開するが、粘着性の粒子が障壁に張り付き、術式の維持を阻害しているようだ。彼は舌打ちすると、懐から転移の魔石を取り出し、砕いた。その場から姿を消す。……また、取り逃がした。万事休すか。俺の数週間にわたる地道な捜査が、この女のせいで、またしても水の泡と化した。

そう思った矢先、俺は信じられないものを見た。

魔導師が逃げた跡に、奴が手にしていたはずの、あの証拠の書簡が落ちている。そして、それを、キラキラの粒子にまみれながらも、まるで当然のように、何食わぬ顔でリリアーナが拾い上げたのだ。彼女は、その書簡を埃を払うように軽く叩くと、まるでテストで満点を取った子供のように、満足げに頷いている。

……まただ。

あの女は、俺の周到な作戦を台無しにし、最大のターゲットを逃した。これは、紛れもない事実だ。だが、その代償として、俺が喉から手が出るほど欲しかった、結社の核心に迫る最重要の物証を、いとも簡単に手に入れた。これもまた、事実だ。

失敗のようで、結果だけ見れば、これ以上ないほどの大成功。この過程と結果の矛盾が、俺の理性を激しく揺さぶる。俺の騎士としての価値観が、根底から覆されるような感覚に襲われた。

俺は、鐘楼の物陰で、思わず頭を抱えた。「なぜ毎回、この女は核心を掠め取る……?」

幸運?天才?いや、そんな言葉では説明がつかない。彼女の行動は、もはや因果律そのものを捻じ曲げているかのようだ。俺が積み上げた努力と計画を嘲笑うかのように、彼女は常に最短距離で結果だけを掴み取る。俺の騎士としての経験則の全てが、この女の前では無力だった。彼女は、俺の世界のルールそのものの外側にいる。そして、その手に、今、王国の運命を左右する証拠が握られている。最悪だ。これ以上ないほど、最悪の状況だった。
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