追放された天才錬金術師は、冷徹公爵に拾われ、もふもふに溺愛される

YY

文字の大きさ
4 / 6

第四話:嵐の序曲

しおりを挟む
公爵との王都への旅は、リリアにとって、過去と向き合う試練だった。豪華な馬車に揺られながら、公爵の隣に座る自分。王都に近づくにつれて、胸の奥で、まだ完全に消え去ってはいない自己否定の「嘘」がざわめいた。

(本当に、私がこの場所にいていいのだろうか……)

王都の入り口が見えた時、リリアは思わず息をのんだ。馬車の窓から見える貴族街は、男爵領の比ではない煌びやかさだ。行き交う馬車、華やかな衣装をまとった人々。あの舞踏会の夜が鮮明に蘇り、胃の腑が締め付けられるような感覚に襲われた。

公爵は、そんなリリアの僅かな動揺に気づいたのか、静かに彼女の手に触れた。

「心配ない。君は、君のままで美しい。そして、私が君を守る」

公爵の低い声が、リリアの不安をそっと包み込む。彼の視線は揺るぎなく、その表情は普段通り冷徹ながらも、どこか温かいものがあった。そして、足元では、アルバスが小さく喉を鳴らし、リリアの膝にそっと頭を乗せた。温かい毛並みの感触が、リリアの心をじんわりと解きほぐしていく。

(そう……もう、私は、一人じゃない)

リリアは深く息を吐き出した。あの時とは違う。彼女には、彼女を信じ、無条件に承認してくれる公爵と、愛らしいアルバスがいる。そして、何よりも、彼女自身の錬金術と、それに対する確固たる自信があった。

公爵邸に到着すると、すぐに王宮からの招待状が届いた。数日後に開かれる舞踏会で、公爵領の発展報告を行うという。それは、リリアの錬金術の功績が、王家にも正式に認められる機会でもあった。

舞踏会の当日。リリアは公爵邸の侍女たちによって、淡い藤色のドレスを纏わされていた。繊細なレースと刺繍が施されたそれは、これまでの地味な装いからは想像もつかないほど華やかだった。

「リリア様、本当にお綺麗になられました」

侍女たちの言葉に、リリアは鏡の中の自分を見つめた。そこにいるのは、かつて自己を否定し、怯えていた自分ではない。目には強い光が宿り、顔には自信が満ちていた。しかし、その内面には、まだほんのわずかな不安が残っていた。完璧でなければ、また利用されるのではないか。そんな古い声が、微かに囁く。

(私に、本当にこの場所が相応しいのだろうか?)

その時、扉がノックされ、公爵が入ってきた。漆黒の軍服を身につけた彼は、いつも以上に威厳があり、その冷徹な美しさに、リリアは息をのんだ。公爵はリリアをじっと見つめ、その表情に微かな満足の色を浮かべた。

「よく似合っている。君の光を、このドレスがより引き立てている」

公爵はそう言うと、リリアに腕を差し出した。リリアは、その腕にそっと手を置いた。彼の温かさが、微かな不安を溶かしていく。

舞踏会の会場は、かつてリリアが捨てられたテラスとは比べ物にならないほど、眩い光と熱気に満ちていた。華やかな貴族たちが談笑し、きらびやかな装飾が天井から吊るされている。公爵がリリアを伴って会場に入ると、一瞬にして周囲の視線が二人に集まった。囁き声が広がる。

「あれが、氷の公爵殿下……!」
「隣の女性は誰だ?見たことがないぞ」
「噂の、公爵が拾った錬金術師とかいう女か?」

好奇と警戒の視線がリリアに突き刺さる。しかし、リリアはもう、あの頃のリリアではなかった。公爵の隣で、彼は決して彼女を離さないと示すように、腕を組む手に微かに力を込める。アルバスもまた、公爵の影からリリアの足元に寄り添い、静かに彼女を守るように控えていた。

その時、会場の一角から、リリアを射抜くような視線が飛んできた。ユリウスとアメリアだった。彼らの顔は、驚きと焦燥、そして隠しきれない嫉妬に歪んでいた。リリアの変貌と、彼女が公爵の隣に立っているという事実に、明らかな動揺が走った。

「ば、馬鹿な……なぜ、あの女が公爵様の隣に……!」

ユリウスが信じられないといった様子で呟く。アメリアは、まるで蛇のような目でリリアを睨みつけ、唇を戦慄かせた。

(ありえない……あんたなんかが、こんな所にいるはずない!)

彼女は、リリアの才能を「誰にでも真似できるもの」と信じ込んでいる。だからこそ、リリアが特別な存在として公爵の隣にいることが許せない。リリアがいないことで男爵領が困窮しているという現状が、彼らをさらに焦らせていた。

ユリウスはアメリアに顔を寄せ、低い声で囁いた。

「くそっ……こんなことなら、もっと早く手を打つべきだった!だが、まだ間に合う。錬金術ギルドの主席であるバルザック子爵は、我が家の後ろ盾だ。彼を味方につければ、あの女を『異端の術師』として糾弾できる!」

「そうよ……あの女の錬金術は、私たちの知る錬金術とは違うわ!きっと、禁忌の術を使ったに違いないわ!」

アメリアの目に、邪悪な光が宿った。彼女は、王都の錬金術ギルド内にいる保守的で権威主義的な錬金術師たち、そして男爵家と繋がりを持つ有力貴族たちと既に裏で接触していた。彼らは、リリアの「科学的錬金術」が既存の体系を揺るがしかねないことを恐れ、彼女を排除しようと画策していた。彼らの計画は、リリアの錬金術を「偽物」あるいは「危険な異端」と断定するための証拠捏造と情報操作を行うこと。そして、公爵をも巻き込み、その名に泥を塗ることだった。彼らは、リリアの錬金術の「真の仕組み」を全く理解していないからこそ、こんな浅はかな策を思いつくのだ。

ユリウスは高慢な笑みを浮かべ、公爵とリリアに向かって一歩踏み出した。

「公爵閣下!このような場所で、怪しげな女を侍らすとは、一体どういうご冗談でしょうか!」

彼の言葉に、会場の貴族たちのざわめきが大きくなる。公爵は一切の感情を読ませない顔で、ユリウスを冷たく見下ろした。その視線は、まるで氷点下の刃のようだった。嵐の序曲が、静かに奏でられようとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪された悪役令嬢、拾ってくれたもふもふに餌付けされて過保護に育てられています

白桃
恋愛
記憶喪失の悪役令嬢エリアーヌが森で出会ったのは、もふもふの巨大な白い獣。 獣はエリアーヌを気に入り、餌付けし過保護に世話を焼く。 記憶がなくても、もふもふがいれば大丈夫!? 神獣様の激甘過保護ライフが始まる!

追放聖女の薬草店~光らない無能と言われた私の治癒力は、最強騎士団長の呪いにだけ効くようです。辺境で始める溺愛スローライフ~

黒崎隼人
恋愛
「君の力だけが、俺を救ってくれる」 派手な光を放つ魔法が使えず、「光らない無能」として国を追放された聖女エリナ。 彼女は辺境の村で廃屋を買い取り、念願だった薬草店をオープンする。 相棒の精霊獣ポポと共にスローライフを始めたある嵐の夜、店の前に倒れていたのは、国の最強騎士団長ゼフィルだった。 「黒竜の呪い」に侵され、あらゆる魔法を受け付けない彼の体。 しかし、エリナの持つ「細胞そのものを活性化させる」地味な治癒力だけが、彼の呪いを解く唯一の鍵で……!? 無能扱いされた聖女と、余命わずかの最強騎士。 二人が辺境で紡ぐ、温かくて幸せな再生と溺愛の物語。

【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす☆VTuber
恋愛
*毎日投稿・完結保証・ハッピーエンド  どこにでも居る普通の令嬢レージュ。  冷気を放つ魔法を使えば、部屋一帯がや雪山に。  風魔法を使えば、山が吹っ飛び。  水魔法を使えば大洪水。  レージュの正体は無尽蔵の魔力を持つ、チート令嬢であり、力の強さゆえに聖女となったのだ。  聖女として国のために魔力を捧げてきたレージュ。しかし、義妹イゼルマの策略により、国からは追放され、婚約者からは「お前みたいな可愛げがないやつと結婚するつもりはない」と婚約者破棄されてしまう。  一人で泥道を歩くレージュの前に一人の男が現れた。 「その命。要らないなら俺にくれないか?」  彼はダーレン。理不尽な理由で魔界から追放された皇子であった。  もうこれ以上、どんな苦難が訪れようとも私はめげない!  ダーレンの助けもあって、自信を取り戻したレージュは、聖女としての最強魔力を駆使しながら薬師としてのセカンドライフを始める。  レージュの噂は隣国までも伝わり、評判はうなぎ登り。  一方、レージュを追放した帝国は……。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

処理中です...