追放された天才錬金術師は、冷徹公爵に拾われ、もふもふに溺愛される

YY

文字の大きさ
5 / 6

第五話:氷の公爵と輝く至宝

しおりを挟む
舞踏会の夜、王宮の大広間は、期待と熱気に満ちていた。公爵が王への報告を終え、その功績が称えられるたびに、拍手が沸き起こる。その全てが、リリアの錬金術による成果だった。リリアは公爵の隣で、毅然とした態度で立っていた。もう、あの頃の怯えた自分はいない。

公爵が王との談笑を終え、リリアの隣に戻ったその時、広間の隅から甲高い声が響いた。

「公爵閣下!このような公の場で、怪しげな女を侍らすとは、一体どういうご冗談でしょうか!」

ユリウスが、顔を真っ赤にしてこちらへ向かってくる。その隣には、アメリアが薄ら笑いを浮かべていた。彼らの後ろには、王都錬金術ギルドの主席であるバルザック子爵と、数名の貴族が控えている。リリアの心に、一瞬、冷たい影がよぎった。

(やはり、こうなるのね……)

だが、恐怖はすぐに決意に変わった。もう、逃げない。

「ユリウス男爵。私が誰を伴おうと、貴殿に口を挟む権利はない」

公爵の冷え切った声が、広間に響き渡る。その威圧感に、ユリウスは一瞬怯んだが、バルザック子爵に目をやり、再度声を荒げた。

「しかし閣下!この女は、先日男爵家を追放された無能な庶子であり、錬金術の腕も怪しい詐欺師にございます!公爵閣下は、惑わされているに違いありません!」

ユリウスの言葉に、貴族たちがざわめき立つ。アメリアが前に進み出た。

「そうよ!私の兄が言う通りよ!この女の錬金術など、ただのまやかし!現に、彼女の作った美容ポーションは、肌荒れを引き起こしたわ!これは私の名誉にかかわることなのよ!」

アメリアはそう叫ぶと、バルザック子爵に合図を送った。子爵は傲慢な笑みを浮かべ、杖を床に打ち鳴らした。

「静粛に!公爵閣下。我々錬金術ギルドは、このリリアという女の錬金術を『異端』と断定いたしました。彼女の術は、古来より伝わる錬金術の理を無視した危険なものであり、王国に災厄をもたらしかねません!」

バルザック子爵が差し出したのは、リリアが王都で失敗作とされた美容ポーションの「残骸」と、それによって肌荒れを起こした貴婦人からの「証言」をまとめた書類だった。巧妙に偽造されたその書類は、リリアが意図的に粗悪なポーションを製造したかのように示唆していた。

「この女は、我々錬金術師の誇りを汚す存在!即刻、逮捕し、裁きにかけるべきです!」

彼らは、リリアの「科学的錬金術」が既存の体系を揺るがしかねないことを恐れ、彼女を排除しようと画策したのだ。そして、彼らがリリアの錬金術の「真の仕組み」を全く理解していないからこそ、こんな浅はかな策を思いつくのだと、リリアは冷静に見ていた。

会場の視線が、一斉に公爵とリリアに注がれる。公爵は静かにその成り行きを見ていたが、ユリウスとアメリアの言葉、そしてバルザック子爵の糾弾を聞くうちに、その顔に微かな変化が現れた。普段の氷のような表情は消え去り、瞳の奥に、静かな怒りの炎が燃え盛るのが見えた。彼の周囲の空気が、かすかに歪むほどの魔力が発せられる。

「黙れ、愚か者め」

公爵の低い声が、広間の喧騒を一瞬にしてかき消した。その声には、一切の慈悲も、迷いもなかった。

「彼女は我が公爵領の錬金術師であり、我が至宝だ。そして――お前のような下衆が、彼女の光を二度と汚すことなど、この私が断じて許しはしない!」

公爵が、激しい音を立てて近くのテーブルを叩いた。その衝撃で、テーブルの上のグラスが震え、広間のシャンデリアがかすかに揺れる。彼の背後に控えていたアルバスが、低く唸りを上げ、その漆黒の瞳がユリウスたちを威嚇する。公爵が感情を露わにする姿に、会場の貴族たちは息を呑んだ。

「公爵閣下……何を!」

ユリウスが狼狽する。公爵は冷たい視線をユリウスとアメリア、そしてバルザック子爵に向ける。

「彼女の錬金術が異端だと?愚にもつかない。ならば、その『異端』とやらが、この王国の地にもたらした真の奇跡を、今ここで貴様らに見せてやろう」

公爵はそう言うと、リリアの手から、予め用意していた小さな小瓶を手に取った。それは、リリアが改良した土壌活性ポーションだった。

「リリアの錬金術は、土壌の微生物を活性化させ、生命力を引き出す。枯れた大地を蘇らせる、真の奇跡だ」

公爵は、会場に飾られていた枯れかけた巨大な鉢植えに、そのポーションを数滴垂らした。

その瞬間――。

枯れた土から、まばゆい緑の光が溢れ出した。見る見るうちに、枝の先から新たな芽が吹き出し、鮮やかな花々が咲き乱れる。広間いっぱいに、芳醇な花の香りが満ち溢れた。それは、公爵の魔力によるものではなく、ポーションが引き起こした純粋な化学反応と生命力の爆発だった。

会場は静まり返った。貴族たちは、目の前の信じられない光景に、ただ呆然と立ち尽くしていた。

「この光景が、貴様らの言う『異端』か?」

公爵の声が、冷徹に響く。バルザック子爵は顔を青ざめさせ、ユリウスとアメリアは震え上がった。

「そ、そんなはずは……!あ、あれは、偶然だ!きっと、公爵様の魔力で……!」

ユリウスが喚き散らすが、公爵は彼を一瞥もせず、リリアを自分の腕の中に引き寄せた。

「そして、私は今、公衆の面前で宣言する」

公爵の声は、澄み切った鐘の音のように広間に響き渡った。

「彼女は我が妻となる存在だ」

会場に、再びどよめきが走る。

「公爵様……!?」

リリアが驚いて顔を上げると、公爵は彼女の瞳を見つめ、微かに口角を上げた。その顔に浮かんだのは、初めて見る、優しげな微笑だった。

「彼女は、私が人生で初めて、心から求めた光だ。この光を隠す必要など、どこにもない。君は、ありのままの君で、私にとっての至宝だ」

その言葉は、リリアの心に深く根付いていた「嘘」を、完全に打ち砕いた。完璧でなくても、ありのままの自分でも、こんなにも深く愛され、必要とされるのだと。彼女の目から、一筋の涙が溢れ落ちた。

ユリウスとアメリア、そしてバルザック子爵は、その場で完全に凍り付いた。リリアの錬金術が本物であり、それがどれほどの価値を持つかを、彼らはこの場でまざまざと見せつけられたのだ。彼らがリリアの才能を「誰にでも真似できる簡単なもの」と過信し、利用できる道具としか見ていなかった傲慢さが、今、彼ら自身の首を絞めていた。

「ま、まさか……あの女の錬金術が……本物だと……?」

ユリウスが呻く。アメリアは、その場に崩れ落ち、震える声で呟いた。

「ありえない……なぜ、私ではないの……っ!私が、もっと、きちんと……」

彼女の目に宿るのは、リリアへの嫉妬だけでなく、自らの選択の誤り、そして、もしリリアを正しく評価し、共存していれば、男爵家も、そして彼女自身も、もっと違う未来があったかもしれない、という微かな、しかし確かな「もしも」の絶望だった。

会場の貴族たちの視線は、もはやユリウスたちには向けられていなかった。彼らは、リリアを蔑み、公爵を愚弄した者たちを、軽蔑の眼差しで見つめていた。その表情には、男爵家への嘲笑と、公爵への畏敬が混じり合っていた。

公爵は、リリアを腕に抱いたまま、ユリウスたちを一瞥した。その視線は、もはや怒りさえ感じさせない、ただの“無”だった。公爵に命じられた衛兵たちが、ユリウスたちを連行していく。彼らの哀れな姿は、二度と社交界に顔を出すことはないだろう。

リリアは、かつての彼らの姿を冷めた目で見つめた。もはや彼らに対して憎しみも悲しみも抱かない。むしろ、彼らの愚かさに憐れみすら覚える。公爵の腕の中で、リリアはただ、深く、安堵の息を漏らした。

(私はもう、あの『嘘』に囚われていない。彼らが私をどう見ようと、私の価値は揺るがない)

彼女の心は、完全に解き放たれていた。ありのままの自分を、公爵は受け入れてくれた。そして、彼女の隣には、かけがえのない公爵と、愛らしいアルバスがいる。

公爵はリリアの頭を優しく撫でた。アルバスもまた、その大きな体でリリアの足元にそっと寄り添い、安心させるように喉を鳴らした。

輝く至宝は、もう二度と、闇に埋もれることはない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

断罪された悪役令嬢、拾ってくれたもふもふに餌付けされて過保護に育てられています

白桃
恋愛
記憶喪失の悪役令嬢エリアーヌが森で出会ったのは、もふもふの巨大な白い獣。 獣はエリアーヌを気に入り、餌付けし過保護に世話を焼く。 記憶がなくても、もふもふがいれば大丈夫!? 神獣様の激甘過保護ライフが始まる!

追放聖女の薬草店~光らない無能と言われた私の治癒力は、最強騎士団長の呪いにだけ効くようです。辺境で始める溺愛スローライフ~

黒崎隼人
恋愛
「君の力だけが、俺を救ってくれる」 派手な光を放つ魔法が使えず、「光らない無能」として国を追放された聖女エリナ。 彼女は辺境の村で廃屋を買い取り、念願だった薬草店をオープンする。 相棒の精霊獣ポポと共にスローライフを始めたある嵐の夜、店の前に倒れていたのは、国の最強騎士団長ゼフィルだった。 「黒竜の呪い」に侵され、あらゆる魔法を受け付けない彼の体。 しかし、エリナの持つ「細胞そのものを活性化させる」地味な治癒力だけが、彼の呪いを解く唯一の鍵で……!? 無能扱いされた聖女と、余命わずかの最強騎士。 二人が辺境で紡ぐ、温かくて幸せな再生と溺愛の物語。

【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす☆VTuber
恋愛
*毎日投稿・完結保証・ハッピーエンド  どこにでも居る普通の令嬢レージュ。  冷気を放つ魔法を使えば、部屋一帯がや雪山に。  風魔法を使えば、山が吹っ飛び。  水魔法を使えば大洪水。  レージュの正体は無尽蔵の魔力を持つ、チート令嬢であり、力の強さゆえに聖女となったのだ。  聖女として国のために魔力を捧げてきたレージュ。しかし、義妹イゼルマの策略により、国からは追放され、婚約者からは「お前みたいな可愛げがないやつと結婚するつもりはない」と婚約者破棄されてしまう。  一人で泥道を歩くレージュの前に一人の男が現れた。 「その命。要らないなら俺にくれないか?」  彼はダーレン。理不尽な理由で魔界から追放された皇子であった。  もうこれ以上、どんな苦難が訪れようとも私はめげない!  ダーレンの助けもあって、自信を取り戻したレージュは、聖女としての最強魔力を駆使しながら薬師としてのセカンドライフを始める。  レージュの噂は隣国までも伝わり、評判はうなぎ登り。  一方、レージュを追放した帝国は……。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

処理中です...