傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件

篠の目

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第14章 大胆に進言

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食事の席で状況を耳にしたフィルードの顔色は、ほんの少しだけ明るさを取り戻した。
――が、やっぱり諦めたい気持ちは拭えない。
(はぁ……正直、命がけなんてまっぴらだ。けど、財布の中身は空っぽ。結局、やるしかないんだよな……)
諦めきれぬ思いと、現実の板挟みに呻きながら、彼は覚悟を決める。
やがて食事が配られた。商隊の管理者は妙に太っ腹で、黒パンを全員に一つずつ、それに濃厚なオートミール粥を一杯ずつ分け与えた。
空腹だった傭兵たちは歓声を上げ、がっつくように食べはじめる。
しかし、雰囲気はすぐに暗転した。
彼らが商隊の従業員に「貴族の援軍は来ないのか」と問いただすと――返ってきた答えは「参加はない」という残酷な現実だった。
怒号が飛び交い、傭兵たちの顔は一斉に青ざめる。
管理者ブライアンは、もはや隠し立てできず、前に出て頭を下げた。
「勇士の皆さん、大変申し訳ありません! 確かに一人の騎士が来てくれると約束していたのですが……奴は名誉を裏切り、直前で反故にしました! ですから、我々自身で戦うしかないのです!」
傭兵たちの視線は険しい。
ブライアンは慌てて言葉を重ねた。
「その代わりに……追加で銀貨一枚を支給します! さらに戦利品の分配も、これまでの三対七から五対五に改めましょう! ただし、商隊の貨物と馬車は除外させていただきますが……」
その場に漂っていた怒気は、少しだけ和らいだ。
――だが、それでも冷静な八人の傭兵は、荷物をまとめて黙って去っていった。
残されたのは百五十人に満たない即席の傭兵団。
その隊列は、目的地に向かって再び動き出す。
(……ったく、勇敢っていうより無謀の集まりじゃないか?)
フィルードはため息をつきつつも、結局は同行を選んだ。
――命が惜しいからだ。
やがて、彼は決心し、ブライアンのもとへ歩み寄る。
「ブライアン管理者、少々お時間をいただけませんか。ご相談がありまして」
「……フィルドーさん?」
振り返ったブライアンの表情には、訝しさと同時に少しの興味が浮かんでいた。
「はい。実は、今後の行動について、私の意見をお伝えしたいのです」
「ふむ……ぜひ聞かせてください」
フィルードは深呼吸を一つしてから口を開いた。
「今回の攻撃は……危険が大きすぎると思います。おそらく、猪人族の部落にいる老若男女の存在を考慮されていないのでは? もし本拠地を直接攻めれば、奴らの気質からして、子供も老婆も必死で抵抗してくるでしょう」
そこで、彼はさらに一歩近づき、声を潜める。
「……そして何より、あなたもご存じのはずです。この部隊の大半は、まともな戦闘力を持っていません。そんな連中が、死に物狂いの抵抗を受けたらどうなるか――目に見えてます。崩壊は一瞬でしょう」
ブライアンの顔には最初、不快の色が浮かんでいた。
だがフィルードの言葉が続くにつれて、その表情は真剣味を帯びていく。
彼自身も内心では分かっていたのだ。今回の戦いは危険すぎる、と。
しかし、彼には退けない理由があった。
商隊の貨物は、彼の財産のほとんど。失えば破産だ。
しかも、吸血鬼たちに借金まで抱えている。返済できなければ、帝国の法律によって破滅は必至……。
(……つまり、この男も崖っぷちってことか)
ブライアンの目に宿る決意を見て、フィルードは心の底で呆れを覚えた。
「ハハハ! 心配はいりませんよ、フィルードさん!」
ブライアンは大仰に笑ってみせる。
「今回の攻撃は不意を突くもの。奴らが警戒している可能性は低い。今ならまだ勝算があります!」
――いやいや、楽観的すぎだろ。
フィルードは苦笑しつつ、傭兵たちの騒ぎ立てる声に目をやる。まるで宴会だ。二マイル先まで響きそうな喧騒。
ブライアンも同じものを見て、気まずそうに咳払いした。
「もちろん危険が全くないわけではありません。しかし、ご安心を! 部落を制圧すれば、莫大な戦利品が手に入ります。家畜だって山ほどいるはずです! フィルードさんなら、その素晴らしい装備で大きな分け前にあずかれるでしょう!」
(……こいつ、完全に商売人だな。戦争のことなんて素人同然じゃないか)
フィルードは呆れつつも、辛抱強くその空虚な演説を聞き終え、ようやく口を開いた。
「ブライアン管理者。お気持ちは理解しました。貨物を失えないのも分かります。ですが――今回の行動は慎重にすべきです」
その声には、確信めいた響きがあった。
「勝算を増やす方法があります。……聞いていただけますか?」
ブライアンの目がわずかに光った。
「もちろんですとも! どうぞ、遠慮なく!」
内心では強がっているだけ。彼は盗賊に襲われた経験こそあれ、正式な戦争の経験など一度もなかったのだ。
本来なら騎士に指揮を任せるつもりだったが、その望みは潰えた。
ブライアンの沈黙を了承と見て、フィールドは小さく咳払いし、言葉を続ける。
「――部落を直接攻める必要はありません。それでは敵を刺激しすぎる。むしろ勝算を下げるだけです」
「ではどうするのです?」
「部落から十数マイル離れた地点に潜み、精鋭傭兵を偵察に出すのです。奴らが放牧や狩りに出てきたら、我々が仕掛けて一部をわざと逃がす。そして部落の戦士を全員引きずり出した上で、決戦に持ち込む。――これが一番確実です」
そして彼は付け加えた。
「さらに、戦闘の最初に質の悪い傭兵を出してはいけません。精鋭が前線を支え、その後に雑兵を投入するべきです」
提案を言い切ったとき、ブライアンの顔に浮かんだのは――動揺と、そしてほんのわずかな希望だった。
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