2
件
私は前世で、乙女ゲームのシナリオを読んでいた――そして気づけば、悪役公爵の“便利な妹”として転生していた。台本通りなら私は物語の脇役、兄のために泣き笑いし、都合が悪くなれば誰かの「犠牲」になる運命だ。
だが、待ってくれ。そんな扱いを受けるために人生をもらった覚えはない。
現代知識は少しあるし、諦めが悪い性格だし、何より――台本の外を生きるのが性に合っている。
徒に媚びるフリをして情報をかき集め、密かに外交の本を読み、公爵家の“秘密”に小さな穴をあけていく。噂と策略で固められた聖女や貴族たちの思惑──その端をつまんで引けば、思いもよらぬほど簡単に世界は揺らぐ。
そして驚くことに、兄である問題児の公爵――彼は表向き「冷酷な悪役」だが、脚本ほど単純じゃない。私の小さな反抗はいつの間にか二人の距離を変え、国の空気を変え、物語の結び目をほどいていく。
攻略される立場でも、悪役に堕ちる側でもない。便利な妹が選んだのは――自分を主人公にすること。恋も陰謀も、私が書き換える。
「私の居場所は、誰かの道具じゃない」
そうつぶやいたとき、世界の脚本は静かにページをめくった。
文字数 147,047
最終更新日 2025.12.05
登録日 2025.10.22
傭兵として荒野を駆け回り、命を張って食いつなぐ日々。戦場に立てば剣の刃先は常に隣をかすめ、契約を結んだ貴族は平気で裏切る。
「これが人生かよ……」とぼやきながらも、俺は生き残るために戦った。
だけど、ある日ふと思ったんだ。
「命を張って得られる報酬より、商売で稼いだ方が楽じゃないか?」
……そう、俺は気付いてしまった。戦場より市場の方が儲かるってことに。
こうして俺の人生は少しずつ変わっていく。
仲間と共に傭兵団を率いながら、同時に商売の才覚を磨き、時には街道で隊商を守り、時には物資を売りさばいて一財産を築く。戦いもするが、取引も怠らない。
戦場で磨いた胆力と、人の心を読む力――それは商売にも不思議と役に立った。
「領地? 俺が?」
そう、ある日突然舞い込んだのは、まさかの“領主就任”の話だった。
最初は冗談かと思った。だって俺は元々ただの傭兵だ。城もなければ農民もいない。ただ剣を振るって報酬を得ていただけの人間。
それが気が付けば、村人に慕われ、商人に頼られ、他国の貴族に目を付けられる存在になっていたのだ。
領主としての生活は、傭兵の頃とは比べ物にならないほど面倒ごとが多い。
道を整備しなければ商人は来ない。兵を鍛えなければ隣国に蹂躙される。税を軽くすれば民は喜ぶが、財政は火の車。重くすれば反乱の火種になる。
「……俺、なんでこんな算盤片手に頭抱えてんだ?」
だけど、不思議なことに――その全てが楽しいのだ。
血で血を洗う戦場で命を削るよりも、仲間と酒を飲みながら領地の未来を語る方が、ずっと生きている実感がある。
もちろん、平穏な日々なんて長くは続かない。
隣国の侵攻、裏切りの陰謀、黒い商会の思惑――領主として立つ俺の前に、次々と試練が現れる。
けれど俺には仲間がいる。かつて共に剣を振るった戦友、商売で手を取り合った相棒、そしてこの土地に暮らす人々。
「領主なんて柄じゃねぇけど――この手で守れるなら、やってやるさ」
これは、元傭兵の俺が商人となり、やがて領主へと成り上がっていく物語。
剣と算盤を武器に、時には笑い、時には悩み、時には血を流しながらも、俺はこの世界で生き抜いていく。
戦うだけじゃない。
商うだけじゃない。
どちらも選んだからこそ広がる未来がある。
気付けば俺は、もう二度と「ただの傭兵」には戻れないのかもしれない。
だが、それでいい。
――俺の物語は、ここから始まる。
文字数 423,038
最終更新日 2025.12.05
登録日 2025.08.30
2
件