傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件

篠の目

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第21章 傭兵団の設立

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「……本当に残念です。一生後悔するかもしれませんが、私には家族がいます。だから、この機会を逃すしかありません」
そう言って、ユリアンは手に持った黒パンを寂しそうにかじった。
その様子を見て、フィルードは心の中でため息をつく。
――領地がないというのは、こういうことか。
もし土地を持っていれば、家族ごと迎え入れて安心させることもできたのに。今は絵に描いた餅を見せて、信頼をつなぎとめるしかない。しかも金の上に成り立つ信頼なんて、ちょっとした失敗で崩れてしまう脆いものだ。
「……ユリアン兄弟、気を落とさないでくれ。参加できなくても、俺たちは仲間だ。いつか土地を買い、兵士たちの家族も住めるようにする。その時は必ず声をかけるよ。大きな任務が入ればまた一緒に戦えるさ」
フィルードの言葉に、ユリアンの顔色は少し和らいだ。
その横でマイクが口を開く。
「実は、俺も今の生活にうんざりしていたんです。あなたに出会わなくても、大都市に行って正式な傭兵団に入るつもりでした。でも……これは運命かもしれません。あなたの条件は、俺が想像していたよりずっといい。ゼロから団を作るなんて、面白そうじゃないですか! 俺も古参メンバーの一人ってことですよね?」
「ハハハ! そうだとも!」
フィルードは豪快に笑った。「今日からブラックウォーター傭兵団に、二人の新しい仲間を迎える! これからは戦友だ。お前たちも戻って、仲間に声をかけてみてくれ。今は資金が限られているから、雇えるのは十人程度だがな」
するとマイクが突然、懐から財布を取り出し机の上に置いた。
「団長、これは俺の貯えと、父からもらった定住用の資金です。大した額じゃありませんが、きっと役に立つはずです」
ちらりと覗くと、銀貨どころか金貨まで混じっている。
「……おいおい、まさか金持ちの坊ちゃんだったとはな」
フィルードは思わず苦笑した。欲しいのは山々だが、簡単に受け取っていい金額じゃない。
「マイク兄弟、これは君の財産だ。俺は受け取れない」
「これは預けておくだけです。利息はいりません。あなたに貸したと思ってください」
マイクは真剣な顔で首を振る。
しばらく葛藤した末、フィルードは財布を手に取った。
「……わかった。だが利息はつけて記録しておく。返せる時が来たら必ず返す。それでもいいか?」
「ええ、団長がそう言うなら」
マイクは満足げに頷いた。
「ただ一つお願いがあります。俺を最初の騎兵にしてください」
「もちろんだ」
即答するフィルード。マイクが馬に乗れると知り、心の中で密かにガッツポーズをした。
それを見ていたブルースも、懐から数枚の銀貨を取り出して机に置いた。
「あの……俺はマイクほど持ってないけど、昨日の報酬です。少しでも役に立てれば……」
「ブルース兄弟、気持ちだけで十分だ」
フィルードは笑って二枚だけ受け取り、残りを押し返した。「飲む時の資金は残しておけ。ただし、昼酒は禁止だぞ」
「はは……了解です」
ブルースは少し恥ずかしそうに頭をかいた。
こうして資金と人員の目処が立ち、マイクとブルースはそれぞれの町に戻って仲間を勧誘することになった。
数日後、二十名の傭兵が集まる。皆、二人の信頼できる知人で、実力も勇気も兼ね備えた者たちだった。ほとんどが独身で、規律の厳しい団生活に馴染みやすい。
――こうして「ブラックウォーター傭兵団」は、ついにその第一歩を踏み出したのである。
◇◇◇
ちなみに、この時点での団の財産は――
マイクの財布に金貨二枚と銀貨四十枚。フィルードの手持ち四十枚を合わせて、総額はおよそ百四十銀貨。数字だけ見れば大金だが、二十四人の団員と一頭の駄馬を養うとなると話は別だ。
幸い、フィルードの荷物には干し肉百ポンドが残っていた。計算上、一人一日三分の一ポンド食べれば十四日間は持つ……が、肉が尽きればただの黒パン生活。しかも一人あたり銅貨数枚はかかる。
――要するに、「一ヶ月以内に稼がなければ全滅コース」。
傭兵団の船出は、想像以上にギリギリなスタートだった。

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