傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件

篠の目

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第30章 戦闘

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フィルードはすぐに振り返り、数人の小さなリーダーたちと素早く意見を交わした。結論は早かった。全員が彼の提案に賛成したのだ。
すぐに大部隊は隊列を組み直す。最前列には刀盾兵十一人。左右には両手剣や巨大な斧を持つリーダーたちが位置取り、弓兵は刀盾兵の背後に並んだ。
彼ら弓兵はまだ未熟で、矢は数メートル単位で外れることも珍しくない。それでも広範囲に矢を浴びせるくらいなら、最低限の役割は果たせる。弓兵のさらに後ろには長槍兵が続いた。彼らの顔色は蒼白で、恐怖に足がすくんでいる者もいた。
「恐れるな!」
フィルードは振り返り、大声を張り上げた。
「相手は五十匹にも満たないジャッカルの群れだ。だが我々には六十人いる! しかも見ろ、鉄甲兵が二人もいる! 武器の質でも圧倒しているんだ。勝つのは当然、まるで野菜を切るように簡単だぞ!」
隣にいたブルースが豪快に笑った。
「頭のおっしゃる通り! 俺の斧はもう血を浴びたがってますぜ!」
ユリオンもすぐに同調する。
「確かに、傭兵になって以来、これほど楽な戦いは初めてですな。俺たちが歩いて行くだけで、ジャッカルどもは恐怖で震え上がるでしょう」
古参兵たちの軽口が飛び交い、それを聞いた新兵たちの顔にも少しだけ笑みが戻る。
フィルードは畳みかけるように告げた。
「いいか! ジャッカルを一匹仕留めるごとに銀貨一枚を与える! 上限はない!」
瞬間、隊列の空気が一変した。恐怖に飲まれていた兵たちの目が、欲望に輝き始めたのだ。
――だが同時に、フィルードの胸は苦く痛んでいた。
彼の小さな軍団の魂は金銭に過ぎない。土地も保障も名誉もない。真の精鋭に育てるには、領地を持ち、家族に未来を与えなければならない。しかし今の彼には、それが一つもできなかった。
考え込むうちに、隊列は戦場の三百メートル手前に到着していた。そこでは二十人余りの傭兵が必死に戦っていたが、完全に包囲されていた。
「勇敢な方々! 助けてくれ! 金貨三十二枚を礼として差し出す!」
包囲の中から逞しい男が叫ぶ。
「さらに馬車一台分の荷もつけよう!」
「成立だ」
フィルードは即答した。
その言葉とともに隊列が動き出すと、ジャッカルたちは一瞬だけ驚いた様子を見せた。だが逃げることはなく、むしろ涎を垂らすような目でフィルードたちを睨みつける。
――人間どもなど大した敵ではない。そう思い込んでいるのだろう。
包囲されていた傭兵二十名は、救われた瞬間に背を向け、何のためらいもなく走り去った。
「……まあ、あれはあれで正解か」
フィルードは小さく吐息を漏らす。恐怖に染まった連中が残っていても、足手まといになるだけだ。
ジャッカル五十匹近い突撃。その勢いは恐るべきものだった。新兵たちの顔に再び怯えが広がっていく。
「撃て!」
フィルードは自ら弓を引き、矢を放った。
ヒュンと風を切る音とともに数匹のジャッカルが倒れる。しかし、弓兵の中には手が震えて矢を落とす者、立ち尽くす者がいた。
「投槍兵、準備!」
フィルードの号令に、後列の長槍兵が慌てて槍を構える。しかし三分の一は地面に落とし、さらに数人は手順を忘れて固まってしまった。結局、準備が整ったのは半数以下。
フィルードは手持ちの矢をすべて撃ち尽くし、六匹のジャッカルを仕留める。マイクも三匹を倒したが、新兵弓兵七人のうち当たりを出せたのは二人だけだった。
「投げろ!」
フィルードの声に合わせ、投槍が次々と飛ぶ。だが混乱は避けられず、一人は仲間の大腿部を突き刺し、悲鳴が上がった。
それでも十数本の投槍が命中し、さらに五匹を倒す。残りは三十匹ほど。
「刀盾兵! 押し返せ!」
フィルードの命令で刀盾兵が大盾を構えて突進。最前列のジャッカルを押し返す。その隙にブルースとユリオン、ゾルンが巨大武器を振るい、戦場へ突入した。
マイクも馬に跨り、騎槍を構えて加速を始める。
フィルードは後方に残り、戦場全体を見渡した。
――だが、そこで目にした光景に歯を食いしばる。
四十人近い新兵のうち、実際に武器を持って助けに走ったのは九人。八人は立ち尽くし、十三人は武器を取り替えながら転び続け、九人は恐怖に耐えられず逃げ去ったのだ。
「……クソッ」
奥歯を噛み砕くほどの怒り。
そして戦場には、剣戟と悲鳴、血の匂いが渦巻きはじめていた――。
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