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第32章 豊作の喜び
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「我々はモニーク市へ向かうつもりだ。そちらはこれからどうする?」
フィルードの問いに、商隊管理人のエイミーは首を振り、青ざめた顔で答えた。
「……もう進むつもりはありません。再び獣人に襲われれば、先ほどのような幸運は二度と訪れないでしょう。私はここで引き返します」
逃げ腰の態度に兵たちが眉をひそめる中、フィルードは淡々と告げる。
「では我々と同行しないか? モニークまでは四日の道のりだ。安全を保証する代わりに、報酬は二枚の金貨でどうだ」
エイミーは即座にかぶりを振った。
「残りの荷台は一台半。食料は金貨四、五枚の価値しかありません。加えて、いま私は一枚の金貨すら持っていない。支払いは街に着いてからになります」
そのやり取りを聞きながら、フィルードの目が細くなる。
「……この道を今後も商隊で使うつもりは?」
「あり得ません」エイミーは即答した。「私はこれまで慎重に進んできましたが、それでも捕まった。これから情勢は悪化する一方でしょう。商売を続けるつもりはありません」
フィルードは静かに笑みを浮かべた。
「ならば、馬車を売る気はあるか?」
「もちろんです!」エイミーは食い気味に頷いた。「助けていただいたお礼に、馬車一台につき金貨七枚で結構です。城で売れば八枚以上で売れますし、馬も壮年でまだまだ働けます」
「問題ない。食料と飼料も含め、金貨二十枚でどうだ」
「感謝します、その条件で!」
こうして取引は成立した。フィルードの手勢は七台の馬車を抱える大部隊へと変貌する。
エイミーは住所を告げると、残った傭兵たちを率いて南へと去っていった。
戦いの余韻が冷めたとき、フィルードは兵たちを立ち止まらせ、改めて被害を確認した。
即死者六、重傷八、行方不明五。軽傷者も十数名。生き残ったのはわずか四十名。
傭兵団は壊滅寸前と言っても過言ではなかった。
しかし──戦場を生き延びた者たちの瞳には、確かに新たな強さが宿っていた。
戦利品の量は驚くべきものだった。
牛七頭(うち大牛四、子牛三)、駄馬三頭(大馬二、子馬一)、羊百五十匹。干し肉は八百ポンド近く、牛皮二十一枚、羊皮三百十枚以上。まさに“大豊作”である。
価値にして数十枚の金貨に匹敵するだろう。
正午、逃げ出していた傭兵たちも戻り始めたが、二人は戻らなかった。恐らく二度と帰らないだろう。
フィルードは心中で彼らの故郷を訪ねる決意をし、戻った三人に冷徹な裁定を下す。
「選べ。退団か、補助兵への降格か」
退団を選べば給料は一切なし。補助兵なら黒パン二ポンドのみ。再び正式兵となるには、敵を一人討ち取らねばならない。
一人は即座に去り、二人は残った。飢えた平民にとって、食える場所があること自体が救いだったからだ。
フィルードは一行を森の奥に導き、隠れた場所で野営させる。
その夜、彼は幹部六人──ケビン、ブルース、ユリオン、マイク、ゾルン──を呼び集めた。
「人手を集めろ。条件はこうだ。十五歳以上、四十歳未満。飢えていても勇気を失わぬ自由民だ。食事は黒パン二ポンド。働き次第で給金を与える」
一人あたりの募集枠は三十。これ以上は食料が足りない。
今回の戦いで彼は痛感した。
勇気とは筋力や給料ではなく、心の在り方にこそ宿る──。
フィルードは募集に必要な金貨を一人一枚ずつ渡し、十日以内に戻るよう命じた。その頃には重傷者も歩けるだろう。彼はその間に兵を鍛えるつもりだった。
翌朝から訓練が始まった。
まず整列。しかし、農民上がりの新兵たちは左右すら怪しい。やむなく足に紐を結び、右と左を区別させる。
投槍兵は投槍器に槍を装着する反復練習を一日百回。さらにかかしを突く訓練を二百回。
長槍兵には槍の柄に石を結びつけさせ、毎日一時間の基礎訓練。
刀盾兵には盾に重りを付け、基礎の斬り・払い・突きを繰り返させ、さらに革で覆った武器で模擬戦を行う。
弓兵には射撃に加え、両手武器の練習を課した。体格に恵まれた彼らは前線に立つ力を秘めていたからだ。
フィルードは負傷者に自作の薬粉を塗り、祈るような思いで様子を見守った。
十日後。
兵たちは見違えるように変わっていた。
足並みを揃えて突撃し、投槍器も形だけは様になった。命中精度はまだ低いが、それは時間が解決するだろう。
戦場を潜り抜け、訓練に耐えた彼らの瞳には、もはや「農奴になるしかない」と諦めていた頃の影はなかった。
フィルードはその姿を見つめ、心の底から確信する。
「──この兵団は、必ず強くなる」
PS:最近は週末におまけで一話追加更新することにしました!
さらにデータや反応が良ければ、もう一話おまけ更新しちゃうかもしれません(笑)
これからも「お気に入り」や「♥いいね」、コメントで応援していただけると、とても励みになります✨
フィルードの問いに、商隊管理人のエイミーは首を振り、青ざめた顔で答えた。
「……もう進むつもりはありません。再び獣人に襲われれば、先ほどのような幸運は二度と訪れないでしょう。私はここで引き返します」
逃げ腰の態度に兵たちが眉をひそめる中、フィルードは淡々と告げる。
「では我々と同行しないか? モニークまでは四日の道のりだ。安全を保証する代わりに、報酬は二枚の金貨でどうだ」
エイミーは即座にかぶりを振った。
「残りの荷台は一台半。食料は金貨四、五枚の価値しかありません。加えて、いま私は一枚の金貨すら持っていない。支払いは街に着いてからになります」
そのやり取りを聞きながら、フィルードの目が細くなる。
「……この道を今後も商隊で使うつもりは?」
「あり得ません」エイミーは即答した。「私はこれまで慎重に進んできましたが、それでも捕まった。これから情勢は悪化する一方でしょう。商売を続けるつもりはありません」
フィルードは静かに笑みを浮かべた。
「ならば、馬車を売る気はあるか?」
「もちろんです!」エイミーは食い気味に頷いた。「助けていただいたお礼に、馬車一台につき金貨七枚で結構です。城で売れば八枚以上で売れますし、馬も壮年でまだまだ働けます」
「問題ない。食料と飼料も含め、金貨二十枚でどうだ」
「感謝します、その条件で!」
こうして取引は成立した。フィルードの手勢は七台の馬車を抱える大部隊へと変貌する。
エイミーは住所を告げると、残った傭兵たちを率いて南へと去っていった。
戦いの余韻が冷めたとき、フィルードは兵たちを立ち止まらせ、改めて被害を確認した。
即死者六、重傷八、行方不明五。軽傷者も十数名。生き残ったのはわずか四十名。
傭兵団は壊滅寸前と言っても過言ではなかった。
しかし──戦場を生き延びた者たちの瞳には、確かに新たな強さが宿っていた。
戦利品の量は驚くべきものだった。
牛七頭(うち大牛四、子牛三)、駄馬三頭(大馬二、子馬一)、羊百五十匹。干し肉は八百ポンド近く、牛皮二十一枚、羊皮三百十枚以上。まさに“大豊作”である。
価値にして数十枚の金貨に匹敵するだろう。
正午、逃げ出していた傭兵たちも戻り始めたが、二人は戻らなかった。恐らく二度と帰らないだろう。
フィルードは心中で彼らの故郷を訪ねる決意をし、戻った三人に冷徹な裁定を下す。
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退団を選べば給料は一切なし。補助兵なら黒パン二ポンドのみ。再び正式兵となるには、敵を一人討ち取らねばならない。
一人は即座に去り、二人は残った。飢えた平民にとって、食える場所があること自体が救いだったからだ。
フィルードは一行を森の奥に導き、隠れた場所で野営させる。
その夜、彼は幹部六人──ケビン、ブルース、ユリオン、マイク、ゾルン──を呼び集めた。
「人手を集めろ。条件はこうだ。十五歳以上、四十歳未満。飢えていても勇気を失わぬ自由民だ。食事は黒パン二ポンド。働き次第で給金を与える」
一人あたりの募集枠は三十。これ以上は食料が足りない。
今回の戦いで彼は痛感した。
勇気とは筋力や給料ではなく、心の在り方にこそ宿る──。
フィルードは募集に必要な金貨を一人一枚ずつ渡し、十日以内に戻るよう命じた。その頃には重傷者も歩けるだろう。彼はその間に兵を鍛えるつもりだった。
翌朝から訓練が始まった。
まず整列。しかし、農民上がりの新兵たちは左右すら怪しい。やむなく足に紐を結び、右と左を区別させる。
投槍兵は投槍器に槍を装着する反復練習を一日百回。さらにかかしを突く訓練を二百回。
長槍兵には槍の柄に石を結びつけさせ、毎日一時間の基礎訓練。
刀盾兵には盾に重りを付け、基礎の斬り・払い・突きを繰り返させ、さらに革で覆った武器で模擬戦を行う。
弓兵には射撃に加え、両手武器の練習を課した。体格に恵まれた彼らは前線に立つ力を秘めていたからだ。
フィルードは負傷者に自作の薬粉を塗り、祈るような思いで様子を見守った。
十日後。
兵たちは見違えるように変わっていた。
足並みを揃えて突撃し、投槍器も形だけは様になった。命中精度はまだ低いが、それは時間が解決するだろう。
戦場を潜り抜け、訓練に耐えた彼らの瞳には、もはや「農奴になるしかない」と諦めていた頃の影はなかった。
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