傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件

篠の目

文字の大きさ
34 / 345

第34章 攻撃されたハイエナゴブリンの部族

しおりを挟む
まず、4900ポンドの大豆を買い、続いて6300ポンドのライ麦を仕入れた。
店主は目を丸くし、これほどの大口取引に慌てて端数を切り捨て、金貨26枚を受け取った。
「……はぁ、やっぱり財布が一気に軽くなるな。」
馬車の中で勘定を確認したフィルードは、胸の奥がチクリと痛んだ。せっかく手に入れた金貨七十余枚が、もう半分以上消えている。領地を持たぬ身の辛さ――加工や保管のたびに余計な出費がかさむのだ。
さらに加工費として金貨2枚を支払い、大豆とライ麦を混ぜて特製のパンを作らせる。
そして五日分の馬の飼料を購入、馬車は一台半がそれで埋まり、残る空きは病弱な傭兵の交代搬送に回すしかなかった。
もちろん、傭兵たち自身にも三十ポンドほどの食糧を背負わせる。二十日分に相当する重さだ。
「……これを耐え抜いたら、本物の兵士になれる。荷物運びの力も鍛えられるしな。」
フィルードはそう言って肩をすくめた。速度の出ない馬車なら、兵士たちも追いつけるはずだ。
編成も見直した。
ゾーンは商隊副長として取引を担当。
マイクは副団長に昇進。騎士訓練を受け、弓も馬も扱える彼は戦略眼も持つ。そして何より、債権者であるため責任を負わせやすい。
古参のケビンは刀盾兵を束ねる隊長に、ブルースとユリアンは槍兵の隊長に任じた。
それぞれ二十名を預かり、さらに全正式メンバーには三名ずつ新兵を付けた。
「無茶な命令はするな。ただし合理的なものなら従わせろ。……勇敢さを示した者だけを正式に加える。」
フィルードの声は厳しかった。傭兵団の上限は百人。収入が増えるか、古参が戦死でもしない限り、無闇に拡張はしないつもりだ。
辺境に踏み入ると、日はすでに暮れかけ、二日ほど慎重に進んだある夕方のこと。
仮眠を取っていたフィルードのもとへ、マイクが馬を駆けて戻ってきた。
「隊長! コボルトの部族は見当たりませんでした。ですが……十マイル先にハイエナゴブリンの部族を発見。その部族がピッグヘッドに襲われています。形勢は圧倒的に不利!」
「……ハイエナゴブリンが?」
フィルードは跳ね起きたが、すぐに葛藤に沈んだ。脳裏に甦るのは、前回の軍崩壊の記憶だ。もし二つの部族が共に人間へ矛先を向ければ、被害は計り知れない。
小隊長たちもざわめき始めた。
「隊長、干し肉も家畜もないんだ! これじゃ行軍が持たねえ!」ケビンが食い気味に言う。
「訓練は積んだ。そろそろ実戦を!」ブルースは拳を握りしめる。
ユリアンは冷ややかに笑った。「これだけ金をかけて養ってるんだ。贅沢な暮らしをしてる連中だ……そろそろ選別してもいい頃合いだろ?」
兵の目は血が騒いでいた。フィルードは深く息を吐き、頷いた。
「……よし、出るぞ!」
馬車を森の陰に置き、百五十の兵を率いて接近。補助兵には見張りを任せる。
戦闘の最中だった両部族は、人間の一団に気づき、動きを止めた。だが次の瞬間、ハイエナゴブリンがピッグヘッドに奇襲を仕掛けた。
「――この機に乗じてピッグヘッドを叩け!」
フィルードの号令とともに、弓兵たちが一斉に矢を放つ。矢雨に晒されたピッグヘッドは次々と地に倒れた。
二十メートルまで迫ると、兵士たちは投槍を放ち、槍兵の突進が続く。
やがて残存は二十に満たず、恐怖したピッグヘッドは散り散りに逃げ去った。
追撃に走るハイエナゴブリンを横目に、フィルードは兵を止め、その帰還を待った。
やがて戻ったハイエナゴブリンの首領は、牙を剥いて笑い、大きな羊二十頭、成牛二頭、干し肉の山を差し出してきた。
「……隊長、今こそ奴らを潰せば、ほとんど代償なしで済みます!」
ユリアンが囁き、ブルースも賛同する。だがケビンは押し黙ったままだった。
フィルードは一歩前に出て、即興の身振りで「服従」を伝えようとした。指差し、胸を叩き、繰り返し示す。
首領は歯噛みしつつも「ウラワラ」と叫び、羊十頭、牛一頭、干し肉をさらに差し出した。
「……なるほど。服従はせずとも、財で災厄を避けたいわけか。」
フィルードは冷ややかに目を細め、大きく手を振った。
「前進。ただし攻撃はするな。」
兵が一歩進むたびに、ハイエナゴブリンの顔色は蒼白になっていく。
やがて五十メートルの距離に迫った時、首領は耐え切れず両手を振り上げ、絶叫を繰り返した。
――交渉の天秤は、完全に人間側へと傾いたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

元勇者は魔力無限の闇属性使い ~世界の中心に理想郷を作り上げて無双します~

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
  魔王を倒した(和解)した元勇者・ユメは、平和になった異世界を満喫していた。しかしある日、風の帝王に呼び出されるといきなり『追放』を言い渡された。絶望したユメは、魔法使い、聖女、超初心者の仲間と共に、理想郷を作ることを決意。  帝国に負けない【防衛値】を極めることにした。  信頼できる仲間と共に守備を固めていれば、どんなモンスターに襲われてもビクともしないほどに国は盤石となった。  そうしてある日、今度は魔神が復活。各地で暴れまわり、その魔の手は帝国にも襲い掛かった。すると、帝王から帝国防衛に戻れと言われた。だが、もう遅い。  すでに理想郷を築き上げたユメは、自分の国を守ることだけに全力を尽くしていく。

追放されたけど実は世界最強だった件 〜異世界でスローライフを満喫してたら、元婚約者が泣きついてきた〜

にゃ-さん
ファンタジー
王国一の魔術師と呼ばれながらも、冤罪で追放された青年レオン。 田舎でのんびり暮らすつもりが、助けた村娘が実は聖女、拾った猫が神獣、弄った畑が伝説の大地に!? やがて彼の存在は国を超えて伝説となり、かつて彼を見下した者たちが次々とひざまずく――。 ざまぁあり、無自覚ハーレムありの、スカッと系異世界リベンジ譚。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

辺境の落ちこぼれと呼ばれた少年、実は王も龍も跪く最強でした

たまごころ
ファンタジー
村で「落ちこぼれ」と呼ばれた少年アレン。魔法も剣も使えず、追放される運命だった。 だが彼の力は、世界の理そのものに干渉する“神級スキル”だった。 自覚のないまま危機を救い、美女を助け、敵を粉砕し、気づけば各国の王も、竜すらも彼に頭を下げる。 勘違いと優しさと恐るべき力が織りなす、最強無自覚ハーレムファンタジー、ここに開幕!

辺境で静かに暮らしていた俺、実は竜王の末裔だったらしく気づけば国ができていた

平木明日香
ファンタジー
はるか五億四千万年前、この星は六柱の竜王によって治められていた。火・水・風・土・闇・光――それぞれの力が均衡を保ち、世界は一つの大きな生命のように静かに巡っていた。だが星の異変をきっかけに竜の力は揺らぎ、その欠片は“魂”となって新たな生命に宿る。やがて誕生した人類は文明を築き、竜の力を利用し、ついには六大陸そのものを巨大な封印装置へと変えて竜王を眠りにつかせた。 それから幾千年。 現代では六つの大国がそれぞれ封印を管理し、かろうじて世界の均衡を保っている。しかし各地で異常な魔獣が出現し、封印の揺らぎが噂されはじめていた。 そんな世界を気ままに旅する青年がいる。名はブラック・ドラグニル。三年前からハンターとして魔獣を討伐し、その肉を味わいながら各地を渡り歩く放浪者だ。規格外の実力を持ちながら名誉や地位には興味がなく、ただ「世界のうまいものを食べ尽くす」ことを楽しみに生きている。 ある日、光の王国ルミナリア近郊で王女ユリアナが大型魔獣に襲われる事件が起きる。死を覚悟した騎士団の前に現れたブラックは、その怪物をわずか数十秒で討ち倒す。彼にとっては雑魚同然だったが、その圧倒的な強さは王国中に知れ渡る。王女は自由に生きる彼の姿に心を奪われるが、ブラックは次の目的地へ向かう計画を練るばかり。 だが彼自身はまだ知らない。 自らが竜族の末裔であり、世界を再び“統合”へ導く鍵となる存在であることを。 竜の封印が揺らぐとき、自由を愛する青年は世界の命運を左右する選択を迫られる。 これは、竜の記憶と人の魂が交錯する壮大なファンタジー叙事譚である。

英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~

ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。 彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。 敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。 この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。 「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」 無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。 正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

処理中です...