107 / 345
第107章 獣人掃討戦 ―冷徹なる采配
しおりを挟む
一箇所を滅ぼすのはまだ容易い。だが、複数を同時に殲滅すれば、余計な警戒を招く恐れがある。最悪、彼らが連合を組んでこちらに牙を剥く可能性もあった。
俺――フィルードは、利害を天秤にかけながら静かに結論を出す。無闇な虐殺は得策ではない。だが、牙を抜かぬまま放置するのも愚かだ。
ゆえに、今回は「試練」を与えることにした。獣人たちを徴集し、その力と忠誠を測る。もし期待に応えられれば、見返りも与えよう。
――彼らが“使える”と証明するなら、俺は食糧貿易の一部を解禁し、部族の発展を支援してやるつもりだ。だが、もし反旗を翻せば……その瞬間、灰になるまで叩き潰す。
ローセイを呼び寄せ、彼の配下であるジャッカルマンたちを通じて命令を伝達させた。
対象は領地直下の甲等部族八つ、乙等部族十二。各部族に最低三十名の戦士を徴集させ、戦闘の補助にあたらせる。報酬は、部族ごとに百ポンドの麦酒――獣人にとっては十分すぎる額だ。
さらに、犠牲者一人につき補償を行う。人を使うなら、対価は明確でなければならない。奴隷ではなく「兵」として扱う方が、忠誠は長持ちする。
手配を終えた俺は、再び毒性ドングリの研究へと戻った。
魔導実験と同じだ。結果が出るまで何度でも試す。最も効率のよい解毒法は、鍋で煮て水を数回入れ替えること――それだけで下痢の症状は防げた。だが、わずかな毒素は残る。
俺は腕を組み、湯気の立つ鍋を眺めながら思考を巡らせた。
「もう一工程……そうだ、川に浸すか。」
殻を剥いたドングリを一ヶ月川に漬け、その後二度煮て乾燥させ粉にする。
この手法を確立し、ケビンに渡した。奴隷たちを使い、全工程を厳守させるよう命じる。
十日後。
領地の外には、黒々とした影のように獣人戦士たちが集結していた。大半はジャッカルマン、豚頭族(ぶたがしらぞく)はごく少数。
統計を取ると七百を超える獣人戦士、そして騎兵二十四。
だが、彼らの隊列は無秩序そのもの――まるで戦よりも宴を開きに来たかのような有様だ。
獣人特有の強烈な獣臭が風に乗って漂い、俺は思わず眉をひそめた。
「……戦う前に、まず洗わせるべきか。」
それでも、いないよりはましだ。利用価値さえあれば、臭いなど些末な問題だ。
俺はケビンに指示を出し、獣人全員に赤い布を配らせた。味方識別用だ。
同族同士の戦では、誤射が最も多い。無駄な損耗は許さない。
進軍開始。
黒水傭兵団が先頭、獣人軍が続く。隊列は数マイルにも及び、まるで地を這う黒蛇のようだった。
食事の時間になれば、獣人どもは我先にと群がり、配給を待つ。
騎兵の多くは小部族の首領であり、己の馬を駆ることしか頭にない。手下など眼中にないのだろう。
人と獣の混成軍――その異様な行進は、周囲の部族や開拓者を震え上がらせた。
だが、峡谷領地の旗を見て彼らは安堵し、俺の名を囁く。
「フィルード様の軍だ」と。
二日後、最初の中級部族に到達。
包囲された部族首領は蒼白になり、牛と羊を差し出して命乞いをした。
だが俺は、微動だにしない。
「交渉の余地はない。」
合図一つで突撃が始まる。
獣人戦士たちは雑然と前へ押し寄せ、人間兵士たちは整然と後続した。
敵の首領は逃げを試みたが、矢の雨がそれを許さなかった。
俺は魔弓を手に取り、馬上の首領を狙う。矢に魔力を流し込み、静かに息を整え――放つ。
「ブスッ」
矢は肩を貫き、首領は落馬した。
俺の弓技はすでに中級見習いの域。矢に込められる魔力量は増し、威力は三割上昇。
だが、全力射撃は五発が限度。効率と威力の両立――それが今の俺の課題だった。
首領を失った敵軍は即座に崩壊した。
同族相手では、降伏への心理的障壁も低い。次々と武器を捨て、膝をつく獣人たち。
俺は淡々と命じた。
「全員拘束しろ。負傷者は後で処理する。」
捕虜の首領はミイラのように縛り上げられた。
中級部族は消滅し、その地は空白地帯となる。
水と草に恵まれた良地――放棄するのは惜しい。俺は捕虜の一部を再教育し、ローセイ配下の小首領を配置して支配地に組み込むことにした。
「反乱を起こす芽は、芽のうちに摘む。それが管理というものだ。」
隊列は再び進軍。領地から常に二日分の距離を保ちながら、周囲を旋回するように進む。
半日も経たぬうちに、また別の中級部族を発見した。
今回は豚頭族。しかも、先ほどとは違い、首領は逃げる気配もなく陣を敷いて待ち構えている。
「ほう……多少はやる気があるらしい。」
退屈していた俺は思わず笑みを浮かべた。
ローセイに命じる。
「お前が各小首領に伝えろ。手下を率いて正面から攻撃だ。私は人族兵で側面を固める。お前のジャッカルマンは支援に回れ。」
「了解しました!」
ローセイが隊を率いて前進していく。
俺は高台に立ち、その戦場を見下ろした。
「さて……俺の“部下たち”が、どれほどの戦いを見せてくれるか。」
獣人連合軍は一斉に吠え声を上げながら突撃する。
相手もまた部族としてまとまり、緩やかな陣形を維持していた。
距離十数メートル――
こちらの獣人たちが石斧を抜き放ち、汚れた毛皮のローブを翻して、対峙する敵へと投げつけた。
その瞬間、俺は胸の奥で小さく笑った。
「いい。これでこそ、“掃討戦”の始まりだ。」
俺――フィルードは、利害を天秤にかけながら静かに結論を出す。無闇な虐殺は得策ではない。だが、牙を抜かぬまま放置するのも愚かだ。
ゆえに、今回は「試練」を与えることにした。獣人たちを徴集し、その力と忠誠を測る。もし期待に応えられれば、見返りも与えよう。
――彼らが“使える”と証明するなら、俺は食糧貿易の一部を解禁し、部族の発展を支援してやるつもりだ。だが、もし反旗を翻せば……その瞬間、灰になるまで叩き潰す。
ローセイを呼び寄せ、彼の配下であるジャッカルマンたちを通じて命令を伝達させた。
対象は領地直下の甲等部族八つ、乙等部族十二。各部族に最低三十名の戦士を徴集させ、戦闘の補助にあたらせる。報酬は、部族ごとに百ポンドの麦酒――獣人にとっては十分すぎる額だ。
さらに、犠牲者一人につき補償を行う。人を使うなら、対価は明確でなければならない。奴隷ではなく「兵」として扱う方が、忠誠は長持ちする。
手配を終えた俺は、再び毒性ドングリの研究へと戻った。
魔導実験と同じだ。結果が出るまで何度でも試す。最も効率のよい解毒法は、鍋で煮て水を数回入れ替えること――それだけで下痢の症状は防げた。だが、わずかな毒素は残る。
俺は腕を組み、湯気の立つ鍋を眺めながら思考を巡らせた。
「もう一工程……そうだ、川に浸すか。」
殻を剥いたドングリを一ヶ月川に漬け、その後二度煮て乾燥させ粉にする。
この手法を確立し、ケビンに渡した。奴隷たちを使い、全工程を厳守させるよう命じる。
十日後。
領地の外には、黒々とした影のように獣人戦士たちが集結していた。大半はジャッカルマン、豚頭族(ぶたがしらぞく)はごく少数。
統計を取ると七百を超える獣人戦士、そして騎兵二十四。
だが、彼らの隊列は無秩序そのもの――まるで戦よりも宴を開きに来たかのような有様だ。
獣人特有の強烈な獣臭が風に乗って漂い、俺は思わず眉をひそめた。
「……戦う前に、まず洗わせるべきか。」
それでも、いないよりはましだ。利用価値さえあれば、臭いなど些末な問題だ。
俺はケビンに指示を出し、獣人全員に赤い布を配らせた。味方識別用だ。
同族同士の戦では、誤射が最も多い。無駄な損耗は許さない。
進軍開始。
黒水傭兵団が先頭、獣人軍が続く。隊列は数マイルにも及び、まるで地を這う黒蛇のようだった。
食事の時間になれば、獣人どもは我先にと群がり、配給を待つ。
騎兵の多くは小部族の首領であり、己の馬を駆ることしか頭にない。手下など眼中にないのだろう。
人と獣の混成軍――その異様な行進は、周囲の部族や開拓者を震え上がらせた。
だが、峡谷領地の旗を見て彼らは安堵し、俺の名を囁く。
「フィルード様の軍だ」と。
二日後、最初の中級部族に到達。
包囲された部族首領は蒼白になり、牛と羊を差し出して命乞いをした。
だが俺は、微動だにしない。
「交渉の余地はない。」
合図一つで突撃が始まる。
獣人戦士たちは雑然と前へ押し寄せ、人間兵士たちは整然と後続した。
敵の首領は逃げを試みたが、矢の雨がそれを許さなかった。
俺は魔弓を手に取り、馬上の首領を狙う。矢に魔力を流し込み、静かに息を整え――放つ。
「ブスッ」
矢は肩を貫き、首領は落馬した。
俺の弓技はすでに中級見習いの域。矢に込められる魔力量は増し、威力は三割上昇。
だが、全力射撃は五発が限度。効率と威力の両立――それが今の俺の課題だった。
首領を失った敵軍は即座に崩壊した。
同族相手では、降伏への心理的障壁も低い。次々と武器を捨て、膝をつく獣人たち。
俺は淡々と命じた。
「全員拘束しろ。負傷者は後で処理する。」
捕虜の首領はミイラのように縛り上げられた。
中級部族は消滅し、その地は空白地帯となる。
水と草に恵まれた良地――放棄するのは惜しい。俺は捕虜の一部を再教育し、ローセイ配下の小首領を配置して支配地に組み込むことにした。
「反乱を起こす芽は、芽のうちに摘む。それが管理というものだ。」
隊列は再び進軍。領地から常に二日分の距離を保ちながら、周囲を旋回するように進む。
半日も経たぬうちに、また別の中級部族を発見した。
今回は豚頭族。しかも、先ほどとは違い、首領は逃げる気配もなく陣を敷いて待ち構えている。
「ほう……多少はやる気があるらしい。」
退屈していた俺は思わず笑みを浮かべた。
ローセイに命じる。
「お前が各小首領に伝えろ。手下を率いて正面から攻撃だ。私は人族兵で側面を固める。お前のジャッカルマンは支援に回れ。」
「了解しました!」
ローセイが隊を率いて前進していく。
俺は高台に立ち、その戦場を見下ろした。
「さて……俺の“部下たち”が、どれほどの戦いを見せてくれるか。」
獣人連合軍は一斉に吠え声を上げながら突撃する。
相手もまた部族としてまとまり、緩やかな陣形を維持していた。
距離十数メートル――
こちらの獣人たちが石斧を抜き放ち、汚れた毛皮のローブを翻して、対峙する敵へと投げつけた。
その瞬間、俺は胸の奥で小さく笑った。
「いい。これでこそ、“掃討戦”の始まりだ。」
12
あなたにおすすめの小説
元勇者は魔力無限の闇属性使い ~世界の中心に理想郷を作り上げて無双します~
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
魔王を倒した(和解)した元勇者・ユメは、平和になった異世界を満喫していた。しかしある日、風の帝王に呼び出されるといきなり『追放』を言い渡された。絶望したユメは、魔法使い、聖女、超初心者の仲間と共に、理想郷を作ることを決意。
帝国に負けない【防衛値】を極めることにした。
信頼できる仲間と共に守備を固めていれば、どんなモンスターに襲われてもビクともしないほどに国は盤石となった。
そうしてある日、今度は魔神が復活。各地で暴れまわり、その魔の手は帝国にも襲い掛かった。すると、帝王から帝国防衛に戻れと言われた。だが、もう遅い。
すでに理想郷を築き上げたユメは、自分の国を守ることだけに全力を尽くしていく。
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
辺境で静かに暮らしていた俺、実は竜王の末裔だったらしく気づけば国ができていた
平木明日香
ファンタジー
はるか五億四千万年前、この星は六柱の竜王によって治められていた。火・水・風・土・闇・光――それぞれの力が均衡を保ち、世界は一つの大きな生命のように静かに巡っていた。だが星の異変をきっかけに竜の力は揺らぎ、その欠片は“魂”となって新たな生命に宿る。やがて誕生した人類は文明を築き、竜の力を利用し、ついには六大陸そのものを巨大な封印装置へと変えて竜王を眠りにつかせた。
それから幾千年。
現代では六つの大国がそれぞれ封印を管理し、かろうじて世界の均衡を保っている。しかし各地で異常な魔獣が出現し、封印の揺らぎが噂されはじめていた。
そんな世界を気ままに旅する青年がいる。名はブラック・ドラグニル。三年前からハンターとして魔獣を討伐し、その肉を味わいながら各地を渡り歩く放浪者だ。規格外の実力を持ちながら名誉や地位には興味がなく、ただ「世界のうまいものを食べ尽くす」ことを楽しみに生きている。
ある日、光の王国ルミナリア近郊で王女ユリアナが大型魔獣に襲われる事件が起きる。死を覚悟した騎士団の前に現れたブラックは、その怪物をわずか数十秒で討ち倒す。彼にとっては雑魚同然だったが、その圧倒的な強さは王国中に知れ渡る。王女は自由に生きる彼の姿に心を奪われるが、ブラックは次の目的地へ向かう計画を練るばかり。
だが彼自身はまだ知らない。
自らが竜族の末裔であり、世界を再び“統合”へ導く鍵となる存在であることを。
竜の封印が揺らぐとき、自由を愛する青年は世界の命運を左右する選択を迫られる。
これは、竜の記憶と人の魂が交錯する壮大なファンタジー叙事譚である。
追放されたけど実は世界最強だった件 〜異世界でスローライフを満喫してたら、元婚約者が泣きついてきた〜
にゃ-さん
ファンタジー
王国一の魔術師と呼ばれながらも、冤罪で追放された青年レオン。
田舎でのんびり暮らすつもりが、助けた村娘が実は聖女、拾った猫が神獣、弄った畑が伝説の大地に!?
やがて彼の存在は国を超えて伝説となり、かつて彼を見下した者たちが次々とひざまずく――。
ざまぁあり、無自覚ハーレムありの、スカッと系異世界リベンジ譚。
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国辺境でただ静かに生き延びたいだけの少年・ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、母が遺したノートに記された、物理法則を応用した「高圧魔力」の理論と、徹底した費用対効果至上主義だけだ。
敵国三千の精鋭が灰燼城に迫る絶望的状況。ヴァンは剣を振るわず、心理戦と補給線攪乱だけで、たった三日で敵軍を撤退させる。
この効率的すぎる勝利は帝国の中枢に届き、彼は最高峰の帝国軍事学院への招待状を手に入れる。
「英雄になりたいわけじゃない。ただ、母の死の真相と父の秘密を知るため、生き残らなきゃならないだけだ」
無口最強の仮面メイド・シンカク、命を取引に差し出した狼耳少女・アイリ。彼は常にコスパの高い道を選び、母の遺したノートの謎、そして生まれて一度も会ったことのない父・帝国大元帥のいる帝都の闇へと踏み込んでいく。
正義も英雄も、損をするなら意味がない。合理主義が英雄譚を侵食していく、反英雄ミリタリー学園ファンタジー。
辺境の落ちこぼれと呼ばれた少年、実は王も龍も跪く最強でした
たまごころ
ファンタジー
村で「落ちこぼれ」と呼ばれた少年アレン。魔法も剣も使えず、追放される運命だった。
だが彼の力は、世界の理そのものに干渉する“神級スキル”だった。
自覚のないまま危機を救い、美女を助け、敵を粉砕し、気づけば各国の王も、竜すらも彼に頭を下げる。
勘違いと優しさと恐るべき力が織りなす、最強無自覚ハーレムファンタジー、ここに開幕!
他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!
七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる