傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件

篠の目

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第211章 魂力と対価の交渉

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老人はフィルードをじっと見つめ、まるで価値ある鉱石でも見つけたかのように目を細めた。
「上級見習いの身で、これほど強い魂力を持つとは……わしの長い人生でも初めて見るのう。」
その声音には驚愕と興奮が混ざっていた。
フィルードはその視線を正面から受け止めつつも、内心で静かに警戒を強める。
(魂力……また新しい概念だな。だが、ここで余計な反応を見せるのは得策じゃない。)
老人は続けた。
「もし古代級の魔薬を服用しておらんのなら、それはお前の体質が特別ということじゃ。古代の魔薬は今では存在しない。ゆえに体質の異常とみるのが自然じゃろう。」
「小僧よ、お前は修練の速度が異様に速いのではないか? 修行を始めてから今に至るまで、何年かかった?」
唐突な核心への踏み込み。
フィルードは一瞬だけ思考を巡らせ、すぐに礼を崩さないまま答えた。
「先輩のお察しの通り、私は比較的早く境界を突破してきました。しかし、魂力という言葉は……恥ずかしながら、存じません。」
もちろん、嘘だ。
自分が転生者であり、この身体が元々持っていた魂力に、異界の自分が“重なっている”。
強くて当然だ。しかし、それを言うつもりは毛頭ない。
傍らのウェインも腕を組んで考え込んだ。
「そういえば……初めて会った時は初級見習いだったか。確かに異常な速度ではあるな。」
老人に言われるまで気づかなかったのは、彼の盲点だった。
老人は楽しげに笑った。
「魂力とは、その者が生まれつき持つ根源の力じゃよ。上位超凡者に至った時、わずかに増加するものだ。」
「資質の差はここに現れ、魔法の適性も魂力に左右される。お前が触れた魔法球があったじゃろう? あれこそ魂力を測る道具じゃ。」
フィルードは“分からないふり”を完璧に演じて頷いた。
老人は話題を変え、手元の樹心の木材を軽く叩きながら続けた。
「さて、武器は作れる。だが、お前の材料はかなりの量じゃ。槍の柄は……長槍を作るつもりだろう?」
「ただし、弓には弦など副材料が必要だ。お前はそれを持っておらん。」
そこで、老人は口角を上げた。
「そこで提案じゃ。わしが副資材と上位魔鉄を提供し、穂先も作ってやる。その代わり、この樹心の残りは全部わしにくれんか? 製作費用は免除してやろう。」
フィルードが口を開く前に、ウェインが低く咳払いした。
「じ、ジェイソン先輩。その条件はいくらなんでも……奪い過ぎでは?」
ウェインは苦笑しつつ、しかし毅然と言葉を続けた。
「私の蔵にも副資材は十分あります。製作費用も全額支払います。ですので、残りの材料はこの若者に返してやってはいかがでしょうか?」
ジェイソンは明らかに不機嫌そうに眉をひそめ、
「わしの邪魔をするつもりか?」
と言わんばかりの鋭い視線をウェインへ送った。
だが、やはりこの老人も大物だ。すぐに気持ちを整え、咳払いひとつ。
「……まあ、それも不可能ではない。その場合、報酬はしっかり貰うぞ。」
「それと一つ条件がある。材料の一部は、わしの收藏品としてもらう。それでどうじゃ?」
フィルードは思考を巡らせた。
(やはり……一つの上位材料は、これほど欲望を呼び込むか。)
だが、ここで怯むわけにはいかない。
戦場に立つ以上、武器の質が命を左右する。
フィルードは少し考え、決意して言った。
「先輩、もし可能であれば……弓矢をさらに二組、追加でお願いしたいのですが。」
ウェインは内心で絶句し、肩を震わせた。
(お、おい……まだ増やすのか……!)
ジェイソンはしばし沈黙し、樹心に触れて計算を始めた。
「……四組の弓矢、一本の槍柄、一つの盾。これでちょうど良い量だ。残りもまあまあの量が残る。よかろう、お前の望み通りにしてやる。」
ウェインは観念したように笑い、続けて言った。
「では、ジェイソン先輩。私の分も一組。合計五組の弓矢、一つの盾、一つの長槍。足りぬ副資材は私が揃えます。残りはすべて先輩のものということで……。」
ジェイソンは激しく葛藤した表情を浮かべたが、最終的に頷いた。
「……よかろう。これだけの上位武器を作るには時間がかかる。優先順位は?」
ウェインがフィルードへ視線を送る。
決めるのはお前だ、という意図だ。
フィルードは即答した。
「先輩、まず二組の弓矢を最優先でお願いします。その次が長槍と盾。残りの三組は後回しでも構いません。」
「ふむ、了解じゃ。最低でも一ヶ月はかかる。その頃に取りに来い。」
交渉は成立した。
ジェイソンは二人を追い出すように手を振った。
ウェインはそれを気にする様子もなく微笑んだ。
外へ出ると、ウェインは楽しげに言った。
「彼こそ、王都で唯一の上位製器師。実力は異常なレベルだ。上位高級魔法使いにあと一歩……と言われている。」
「気難しいが、依頼を受けてくれた以上、心配はいらん。」
フィルードは深く頷いた。
「侯爵様の紹介があったからこそ、ここまで話が進みました。感謝してもしきれません。」
「私とエレナを装備させるためにも、上位の武器は欠かせません。これからは南方戦線に行くことになるのですから。」
ウェインは真剣に頷いた。
「備えを怠らないのは指揮官の資質だ。お前が今日持ってきた材料のおかげで、私まで高級な魔弓を得られた。礼として――宝物庫から何か選ぶといい。」
フィルードは慌てて手を振った。
「とんでもございません。今日のことは全て侯爵様のお力添えの結果です。私たちの魔弓は、ささやかな感謝の印に過ぎません。」
だが、ウェインは譲らない。
「いや、受け取れ。お前が私に与えたものと、私がお前に与えるものは矛盾しない。」
二人が話す間に侯爵邸へ到着し、休む間もなく宝物庫へ向かった。
扉を開けた瞬間、フィルードは思わず息を飲んだ。
棚には数十本の魔器が並び、強烈な魔力の気配を放っていた。
その中には上位の武器も三本あった。
ウェインは革鎧の列を指し示し、一つを取り上げた。
「これは上級見習い魔獣の毛皮で作った鎧だ。お前の防御力は大きく向上する。」
さらにもう一つの鎧を指した。
「こちらは中級見習い魔獣の鎧。これはエレナに持たせるといい。魔紋も刻まれている。」
フィルードは一瞬迷ったが――
戦場に立つ以上、“生存率”という現実を優先した。
「……侯爵様、ありがとうございます。」
ウェインは満足げに笑った。
「さあ、裏庭で食事にしよう。もう準備させてある。」
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