傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件

篠の目

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第239章 獣人義軍の結成――血で作る緩衝地帯

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フィルードは山脈に沿い、慎重に軍を進めさせた。
進軍速度は速すぎず、遅すぎず。
――獣人の警戒線を刺激しない、ぎりぎりの線だ。
三日後、一行は辺境山脈の外縁に到達した。
ここから先は、秩序ではなく本能が支配する地帯である。
フィルードはまず、ローセイたちを後方へ撤収させた。
彼らは“次の段階”で使う。今ではない。
その後、周囲の獣人部落の探索を命じる。
前回の大規模襲撃の影響は明白だった。
国境付近の獣人部落は、ほぼ壊滅。
いくら探しても、小規模な部落すら見当たらない。
(……警戒が徹底されているな)
仕方なく、探索範囲をさらに拡大。
数時間の捜索の末、ようやく騎兵隊が獣人部落の痕跡を発見した。
前回で懲りたのだろう。
その獣人たちは、部落を二十里も後退させていた。
さらに、部落同士の距離も極端に近い。
――明らかに、偷襲を警戒している。
その配置を確認した瞬間、フィルードは大声で笑った。
「ははは……寄り集まっているとは、好都合だ!」
笑みの奥は冷たい。
「わざわざ探す手間が省けたな!」
即座に命令を下す。
「止まるな!
全軍、全力前進!」
急行軍が始まった。
こうした小部落相手では、フィルード軍は摧枯拉朽。
今回は古参兵をほとんど動かさない。
掃討は農奴兵に任せる。
経験を積ませるためだ。
古参兵は側面と後方から援護に回り、
致命的な崩れだけを防ぐ。
(血を見る経験は必要だが、無駄死にはいらない)
その後の日々、獣人辺境地帯は完全な混乱に陥った。
人族側では大飢饉が発生している。
今回は、奴隷を大量に連れ帰るつもりはなかった。
数百人単位で獣人青壮年を捕えるたび、
ローセイ部落の青壮年を一人、義軍の先鋒として潜り込ませる。
これは偶発ではない。
意図的な“混入”だ。
(混乱は、内部から起こす方が早い)
半月後。
戦果は明白だった。
大型部落一つ。
中型部落三つ。
小型部落は十数。
――人間の子爵領一つを滅ぼしたに等しい。
捕らえた獣人青壮年は、すでに万単位。
フィルードは彼らをすべてローセイへ引き渡した。
条件は一つ。
――殲滅されないこと。
フィルードはローセイの肩を叩いた。
「古い仲間だな。
お前とは、ずいぶん長い付き合いになった」
言葉は静かだが、重い。
「この青壮年たちは、すべてお前にやる。
率いて父親と手腕を競うもよし、
各地の部落を襲撃するもよし」
視線を合わせる。
「すべて、お前の采配だ」
一拍置き、現実を告げる。
「具体的な軍事目標があれば連絡しろ。
領地からの支援も考えるが……今年は無理だ」
理由は互いに分かっている。
「我が領地も飢饉だ。
とにかく今年は、自分で生き延びろ」
だが、希望は残す。
「秋収を越えれば、穀物も鉄器も送ってやる。
軍団を拡大できるようにする」
戦術指示も忘れない。
「前期は辺境地域を中心に動け。
獣人王族が掃討を仕掛けてきたら、山脈へ逃げ込め」
声が低くなる。
「地形を使え。
遊撃戦で削れ」
この時のローセイは、すでに通用語を理解していた。
少しぎこちないが、はっきりと頷く。
「団長閣下、ご安心ください。
必ず命令に従います」
決意は明確だった。
「今回は父のもとへ戻りません。
表に出れば、王族が我が一族を咎めるでしょう」
現実をよく見ている。
「南部辺境で敵対部落を襲撃するだけにします。
奪った青壮年は軍に編入します」
装備についても理解していた。
「いただいた皮甲と武器で、数万の兵を装備できます。
正規兵には及びませんが、
普通の獣人戦士相手なら十分です」
そして、はっきりと言い切った。
「我々の存在こそが、
彼らの支配に対する最大の障害です!」
フィルードは満足げに頷いた。
「考えは非常に良い」
だが、忠告も忘れない。
「ただし――在外の将は、軍命あるところに受けざるもありだ」
視線が鋭くなる。
「賢くやれ。
ここは遠い。俺は即応できない」
最後の一言は、真剣だった。
「事態が絶望的になったら、必ず逃げろ。
お前は今や超凡者だ。
生きて帰れば、いくらでもやり直せる」
そして命じる。
「行け。
偵察によれば、前方に中型部落一つ、小型三つがある」
冷酷な指示。
「血を見せろ。
奪えば、十日半月は食いつなげる」
ローセイは力強く頷き、軍礼を捧げると、振り返らずに去った。
フィルードはその背中を見送り、複雑な表情を浮かべた。
(……権力の味を知った後、
まだ俺に従うかは分からん)
獣人の家族への絆。
それがどこまで有効かは未知数だ。
――だが、今回は賭けだ。
勝てば、獣人の物資で自分を養える。
負けても、ローセイが獣人社会を混乱させる。
(どちらに転んでも、俺は得をする)
雪玉は、もう転がり始めた。
その後もフィルードは劫掠を続けた。
言うまでもなく、これらの獣人は人族領を略奪した直後。
どの部落も、油ぎった富を溜め込んでいた。
小さな部落ですら、数万ポンドの穀物。
――天道好輪回。
この期間、三千人規模の獣人援軍を撃破。
すべての黄牛には穀物が満載となった。
頃合いを見て、フィルードは即座に撤退を命じる。
牛羊を駆り、穀物を積み、帰還。
今回の収穫は、
二百万から三百万ポンドの穀物。
加えて、大量の牛羊。
撤退翌日。
ライドンが黒牛魔獣に跨って駆け込んできた。
「軍団長閣下!
前方に二万の獣人大軍が急速に接近しています!」
方向も即答だ。
「モニーク城方面からです。
ここは防衛重点ではないはずですが……」
フィルードは眉をわずかに上げた。
(……反応が早すぎる)
すぐに問い返す。
「強戦種族はどれほどだ?
距離は?」
ライドンは即答した。
「ボア・マンが三千。
距離はおよそ二十里」
憎悪は隠せない速度だ。
フィルードは即座に計算する。
山脈までは四、五十里。
正規兵二千なら一日以内。
農奴兵は無理。最低でも一日以上。
地形は丘陵。
有利とは言えない。
判断は一瞬だった。
「全軍に伝えろ!」
声が鋭く響く。
「急行軍だ!
運粮の黄牛にさらに荷を積め!」
そして、決定打。
「夜も休むな!
明朝までに、必ず山脈近くへ到達させろ!」
――ここからが、本当の勝負だ。
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