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第249章 戦支度は、収穫から始まる
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それでも――これはフィルードが大量の堆肥を土地に撒き続けた、その積み重ねの結果だった。
最後に秤量を終えた時、領地の今年の穀物収穫は総計で二千万ポンドを超えていた。ついに、自給自足の線を越えたのだ。
(飢えない。――それだけで、この世界では勝ちに等しい)
それだけではない。毒橡果も推定で千万ポンド近く収穫できる見込みだった。
これで領地内の全員が満腹飯を食えるようになる。いや、満腹どころか――ローセイたちへ大規模支援すら可能になる。
(兵は腹で動く。
剣より先に、麦を握る。俺が欲しいのは“勝利”じゃない。“持続”だ)
収穫と備蓄の算段を頭の中で組み終えたフィルードは、大黒に跨って鉄鉱山へ向かった。ユリアンの工事進捗を確認したかった。
鉄鉱山を手に入れてから、すでにかなりの時間が経っている。
あれだけの奴隷たちが昼夜を問わず建設に当たっているのだ。主体部分は、もう形になっているはずだった。
到着すると、ユリアンは奴隷たちを率いて山を切り開き、石を削っていた。
三箇所の缺口には、すでに高い木寨が築かれている。木寨の背後では獣人奴隷たちが石質の城壁を建設中で、どうやら防御を強化するつもりらしい。
(入口を三つに絞ったか。
守りの計算ができている。……いい)
フィルードの姿を見つけると、ユリアンが小走りで駆け寄ってきた。
フィルードは全体を一望し、ほぼ操業開始可能だと判断して、大いに満足げに頷いた。
「ユリアン千夫長。お前の進捗には大変満足だ。来年なら、ほぼ操業開始できそうだな。
私はすでにシャルドゥンに多数の大型水車を製作させてある。お前が基礎建設を終え次第、運び込んで操業開始だ」
ユリアンの顔には疲労が濃く出ていた。土埃と汗が乾いて固まり、目の奥まで鈍い。
「団長閣下、この山脈周辺はすべて鉱石で……掘削があまりに労力を要します。さもなくば、とっくに完成していました。
この場所は今、外部に向いた山脈をすべて崩落させました。出入は三箇所の木寨を通るしかありません。
各木寨に数百名の兵を配置するだけで、万を超える大軍が来ようとも短期間で落とすことは不可能です」
フィルードはそれを聞き、胸の内で小さく頷く。
(“落とせない”鉱山。
これが一つあるだけで、俺の背骨は折れにくくなる)
「それなら、この冬を越せば来年の春に水車を設置させる。ここは引き続きお前が見張っていろ。
我が領地の人手は今、本当に逼迫している」
ユリアンは仕方なく頷くしかなかった。
それでも彼の表情は、任務を投げ出す男のものではない。重い荷を知った上で、背負う顔だ。
領地に戻ったフィルードは、ようやく安眠を取ることができた。
この期間、彼は領地のすべての事柄を一通り整理し終えていた。
現在、配下の軍勢は数倍に膨れ上がっている。農奴軍も訓練の成果を上げ始めていた。
この時点で、フィルードが掌握する全戦力は驚異の三万人に達していた。
――だが、数字が増えればそれで勝ち、というほど戦は単純ではない。
フィルード領地の人口構造は極めて不健康だった。七割以上が青壮年で、青少年や子供の数は極めて少ない。
(今は強い。だが十年後に折れる。
……だからこそ、“今”に勝ち切って基盤を作る)
フィルードはこの三万人を再編し、そのうち二万五千人を完全脱産の兵士とした。
ここまで踏み切れたのは、領地に大量の耕牛があり、大規模な広面積耕作が可能だったためだ。
もちろん脱産とはいえ、戦闘任務がなければ耕作や収穫の超繁忙期には手伝わせる。
兵は兵であり、同時に労働力でもある。切り離しすぎれば維持費が膨らみ、戻しすぎれば訓練が鈍る。――その均衡を、フィルードは冷静に測っていた。
この二万五千人のうち、鉄鉱山側に三千人を守備兵団として駐屯させる。領地側にも五千人を駐屯。
つまり、フィルードがいつでも動かせるのは一万七千人だけだった。
(十分だ。
“いつでも”動かせる兵が一万を越える子爵なんて、普通は存在しない)
長期の征戦を経て、領地の奴隷も一万四千人を超えていた。これは大量の奴隷を淘汰した結果でもある。
この規模の軍勢は、普通の子爵が動かせる兵数を遥かに超える。伯爵でさえ、封臣召集なしで自力で出すのは難しい規模だ。農奴を大面積動員しない限り。
兵員の質に至っては――他と比べること自体が無意味だった。
ここまでできたのは、純粋にフィルードの集団化生産、肥皂などの高額利益、そして“軍団称号”のおかげだ。
なにせ王国は毎年一万人分の兵糧を支給してくれる。
政治的には鎖でも、軍事的には槍だ。――使い方次第で、どちらにもなる。
フィルードはあと数年は慎重に過ごすつもりだった。北のローセイ側の情勢が開ければ、次の大行動に移る。
焦って刃を振れば、刃こぼれする。今の自分の強みは“刃の鋭さ”ではなく、“刃を補給できる仕組み”だ。
さらに、北地で半年の飢饉が発生したため、フィルードは追加で約二万名の自由民人口を収容していた。
彼らはすべて身売りして農奴となり、そのうち青壮年は一万人を超え、男性だけでも六千人以上。
ただし今は、彼らは毎日薄い粥で命をつないでいるだけだ。フィルードにも、これだけの食料を一気に回す余裕はない。
全体として外界の子爵領に放養し、少しずつ種子を支給し、兵士たちに監督させて耕作させていた。
植え付け時期がまちまちでも、ある程度の収穫は見込める。
今年は獣人の略奪も受けなかった。フィルードが補助すれば、今年は満腹できるだろう。
中の青壮が体力を回復すれば、良好な兵員となる。
(飢えた民は、敵にも味方にもなる。
俺が先に“飯”を渡せば、彼らは“俺の戦力”になる)
実は二万人というのも大まかな数字だった。流民が三万人を超える時もあれば、二万人に満たない時もある。
薄い粥だけでは生きていけない。登録されたのは二万人だけで、未登録の者が非常に多い。大半は領地周辺をうろついている。
フィルードは人を派遣し、彼らを再度詳細に統計させ、土地を分与して完全に自分の統治下に組み込むつもりだった。
今は食料に困っていない。――困らない時にこそ、制度を作る。困ってからでは遅い。
これらを終えれば、領地は完全に基盤を固めたことになる。
流民収容だけで人口は普通の子爵と大差なく、しかも流民中の青壮年比率は低くない。
これほど慎重に過ごしてきたのだ。そろそろ――配下の兵を率いて秋風を打ちに出る時が来た。
ローセイと協力すれば、相当な大騒ぎを起こせるかもしれない。
フィルードは二万の大軍と五千名の獣人輔兵を率いて山谷を衝き出し、二千名だけを残して城寨を守らせた。
この二千人が残りの五千名の農奴兵を率いて守城するのは問題ないはずだ。
なにせ農奴兵も毎年大量の訓練を受けている。
二万人の大軍は、一望の果てが見えない。
そのうち近六千人が鉄甲を着込んでいた。歩く姿は威風堂々、圧迫感に満ちる。先頭の鉄甲兵は高く、双蛇纏繞の旗を掲げていた。
軍団は数里にわたって連なり、皆が比較的整然とした歩調を保っている。
その様子を見つめながら、フィルードは静かに――そして少しだけ不満を覚えた。
(鉄甲が足りない。
本来なら、もっと揃えられたはずだ)
零零総総、フィルードが獲得した鉄甲は元々一万を超えていた。
だが長期戦闘の消耗で、今残ったのはこの程度。だからこそ彼はユリアンに筛鉱峡谷の建設を急かしていた。早く鉄鋼製作に投入したい。
この六千名の鉄甲兵以外も、兵士たちの大半は鉄張りレザーアーマーか蛮牛レザーアーマーを着込んでいた。
完全武装ではない。それでも――“飢えた農奴の群れ”ではない。戦える軍隊だ。
フィルードは大黒の背で、隊列を一つ一つ目でなぞった。
数を誇るためではない。弱点を探し、次の改善点を拾うためだ。
(戦は始まる前に九割決まる。
俺がやるのは、勝ってから驕ることじゃない。
勝ち続ける仕組みを、淡々と積み上げることだ)
そして彼は、旗の先にある風を見た。
秋風は、もう刃の匂いを運んでいた。
最後に秤量を終えた時、領地の今年の穀物収穫は総計で二千万ポンドを超えていた。ついに、自給自足の線を越えたのだ。
(飢えない。――それだけで、この世界では勝ちに等しい)
それだけではない。毒橡果も推定で千万ポンド近く収穫できる見込みだった。
これで領地内の全員が満腹飯を食えるようになる。いや、満腹どころか――ローセイたちへ大規模支援すら可能になる。
(兵は腹で動く。
剣より先に、麦を握る。俺が欲しいのは“勝利”じゃない。“持続”だ)
収穫と備蓄の算段を頭の中で組み終えたフィルードは、大黒に跨って鉄鉱山へ向かった。ユリアンの工事進捗を確認したかった。
鉄鉱山を手に入れてから、すでにかなりの時間が経っている。
あれだけの奴隷たちが昼夜を問わず建設に当たっているのだ。主体部分は、もう形になっているはずだった。
到着すると、ユリアンは奴隷たちを率いて山を切り開き、石を削っていた。
三箇所の缺口には、すでに高い木寨が築かれている。木寨の背後では獣人奴隷たちが石質の城壁を建設中で、どうやら防御を強化するつもりらしい。
(入口を三つに絞ったか。
守りの計算ができている。……いい)
フィルードの姿を見つけると、ユリアンが小走りで駆け寄ってきた。
フィルードは全体を一望し、ほぼ操業開始可能だと判断して、大いに満足げに頷いた。
「ユリアン千夫長。お前の進捗には大変満足だ。来年なら、ほぼ操業開始できそうだな。
私はすでにシャルドゥンに多数の大型水車を製作させてある。お前が基礎建設を終え次第、運び込んで操業開始だ」
ユリアンの顔には疲労が濃く出ていた。土埃と汗が乾いて固まり、目の奥まで鈍い。
「団長閣下、この山脈周辺はすべて鉱石で……掘削があまりに労力を要します。さもなくば、とっくに完成していました。
この場所は今、外部に向いた山脈をすべて崩落させました。出入は三箇所の木寨を通るしかありません。
各木寨に数百名の兵を配置するだけで、万を超える大軍が来ようとも短期間で落とすことは不可能です」
フィルードはそれを聞き、胸の内で小さく頷く。
(“落とせない”鉱山。
これが一つあるだけで、俺の背骨は折れにくくなる)
「それなら、この冬を越せば来年の春に水車を設置させる。ここは引き続きお前が見張っていろ。
我が領地の人手は今、本当に逼迫している」
ユリアンは仕方なく頷くしかなかった。
それでも彼の表情は、任務を投げ出す男のものではない。重い荷を知った上で、背負う顔だ。
領地に戻ったフィルードは、ようやく安眠を取ることができた。
この期間、彼は領地のすべての事柄を一通り整理し終えていた。
現在、配下の軍勢は数倍に膨れ上がっている。農奴軍も訓練の成果を上げ始めていた。
この時点で、フィルードが掌握する全戦力は驚異の三万人に達していた。
――だが、数字が増えればそれで勝ち、というほど戦は単純ではない。
フィルード領地の人口構造は極めて不健康だった。七割以上が青壮年で、青少年や子供の数は極めて少ない。
(今は強い。だが十年後に折れる。
……だからこそ、“今”に勝ち切って基盤を作る)
フィルードはこの三万人を再編し、そのうち二万五千人を完全脱産の兵士とした。
ここまで踏み切れたのは、領地に大量の耕牛があり、大規模な広面積耕作が可能だったためだ。
もちろん脱産とはいえ、戦闘任務がなければ耕作や収穫の超繁忙期には手伝わせる。
兵は兵であり、同時に労働力でもある。切り離しすぎれば維持費が膨らみ、戻しすぎれば訓練が鈍る。――その均衡を、フィルードは冷静に測っていた。
この二万五千人のうち、鉄鉱山側に三千人を守備兵団として駐屯させる。領地側にも五千人を駐屯。
つまり、フィルードがいつでも動かせるのは一万七千人だけだった。
(十分だ。
“いつでも”動かせる兵が一万を越える子爵なんて、普通は存在しない)
長期の征戦を経て、領地の奴隷も一万四千人を超えていた。これは大量の奴隷を淘汰した結果でもある。
この規模の軍勢は、普通の子爵が動かせる兵数を遥かに超える。伯爵でさえ、封臣召集なしで自力で出すのは難しい規模だ。農奴を大面積動員しない限り。
兵員の質に至っては――他と比べること自体が無意味だった。
ここまでできたのは、純粋にフィルードの集団化生産、肥皂などの高額利益、そして“軍団称号”のおかげだ。
なにせ王国は毎年一万人分の兵糧を支給してくれる。
政治的には鎖でも、軍事的には槍だ。――使い方次第で、どちらにもなる。
フィルードはあと数年は慎重に過ごすつもりだった。北のローセイ側の情勢が開ければ、次の大行動に移る。
焦って刃を振れば、刃こぼれする。今の自分の強みは“刃の鋭さ”ではなく、“刃を補給できる仕組み”だ。
さらに、北地で半年の飢饉が発生したため、フィルードは追加で約二万名の自由民人口を収容していた。
彼らはすべて身売りして農奴となり、そのうち青壮年は一万人を超え、男性だけでも六千人以上。
ただし今は、彼らは毎日薄い粥で命をつないでいるだけだ。フィルードにも、これだけの食料を一気に回す余裕はない。
全体として外界の子爵領に放養し、少しずつ種子を支給し、兵士たちに監督させて耕作させていた。
植え付け時期がまちまちでも、ある程度の収穫は見込める。
今年は獣人の略奪も受けなかった。フィルードが補助すれば、今年は満腹できるだろう。
中の青壮が体力を回復すれば、良好な兵員となる。
(飢えた民は、敵にも味方にもなる。
俺が先に“飯”を渡せば、彼らは“俺の戦力”になる)
実は二万人というのも大まかな数字だった。流民が三万人を超える時もあれば、二万人に満たない時もある。
薄い粥だけでは生きていけない。登録されたのは二万人だけで、未登録の者が非常に多い。大半は領地周辺をうろついている。
フィルードは人を派遣し、彼らを再度詳細に統計させ、土地を分与して完全に自分の統治下に組み込むつもりだった。
今は食料に困っていない。――困らない時にこそ、制度を作る。困ってからでは遅い。
これらを終えれば、領地は完全に基盤を固めたことになる。
流民収容だけで人口は普通の子爵と大差なく、しかも流民中の青壮年比率は低くない。
これほど慎重に過ごしてきたのだ。そろそろ――配下の兵を率いて秋風を打ちに出る時が来た。
ローセイと協力すれば、相当な大騒ぎを起こせるかもしれない。
フィルードは二万の大軍と五千名の獣人輔兵を率いて山谷を衝き出し、二千名だけを残して城寨を守らせた。
この二千人が残りの五千名の農奴兵を率いて守城するのは問題ないはずだ。
なにせ農奴兵も毎年大量の訓練を受けている。
二万人の大軍は、一望の果てが見えない。
そのうち近六千人が鉄甲を着込んでいた。歩く姿は威風堂々、圧迫感に満ちる。先頭の鉄甲兵は高く、双蛇纏繞の旗を掲げていた。
軍団は数里にわたって連なり、皆が比較的整然とした歩調を保っている。
その様子を見つめながら、フィルードは静かに――そして少しだけ不満を覚えた。
(鉄甲が足りない。
本来なら、もっと揃えられたはずだ)
零零総総、フィルードが獲得した鉄甲は元々一万を超えていた。
だが長期戦闘の消耗で、今残ったのはこの程度。だからこそ彼はユリアンに筛鉱峡谷の建設を急かしていた。早く鉄鋼製作に投入したい。
この六千名の鉄甲兵以外も、兵士たちの大半は鉄張りレザーアーマーか蛮牛レザーアーマーを着込んでいた。
完全武装ではない。それでも――“飢えた農奴の群れ”ではない。戦える軍隊だ。
フィルードは大黒の背で、隊列を一つ一つ目でなぞった。
数を誇るためではない。弱点を探し、次の改善点を拾うためだ。
(戦は始まる前に九割決まる。
俺がやるのは、勝ってから驕ることじゃない。
勝ち続ける仕組みを、淡々と積み上げることだ)
そして彼は、旗の先にある風を見た。
秋風は、もう刃の匂いを運んでいた。
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