傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件

篠の目

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第293章 血と土の“発展計画”

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耀獣城へ帰還するやいなや、ローセイは戦利品の牛羊を各木寨へ分配し始めた。
勢いだけじゃない。配給の順序、量、護送の手配――その動きは、もはや一人の軍閥というより「統治者」のそれだった。
同時にフィルードは、人間側の農奴兵から三千名を選抜し、耕牛を割り当てて木寨へ派遣する。
目的は荒地の開墾と、アルファルファ草の栽培だ。
(草は兵糧だ。
牛羊の胃袋を満たすだけじゃない。糞尿が増えれば硝土も増える。
つまり――戦争の“燃料”まで回ってくる)
ローセイの威信はいま、日中天に達していた。
彼の命令に逆らう者など、ほとんどいない。
一方でローセイは数百の獣人兵を派遣し、三千を超えるミノタウロスの首級をボア・マン王庭へ送り届けた。
両者が結んだ魔法契約を履行するためだ。
魔法契約は軽い冗談じゃない。
破れば――代償は命で払うことになる。

人間側でも、動きは大きい。
フィルードが管轄していた子爵領の農奴たちが、大規模に移動を開始したのだ。
フィルードは彼らを峡谷内へ配置する。
そこには広大な耕作地が広がっている。
百人単位で分散させ、負傷兵を村長に任命した。
そして――フィルードは“命令”を一つだけ足した。
「三日に一度、村人に戦争の話を語れ」
何を語るか。
傭兵団の強大さ。自分の指導の英明さ。勝った理由。守れた理由。生き残れた理由。
(忠誠は、鎖で繋ぐものじゃない。
“物語”で刷り込む。
少年たちの頭に、先に旗を立てるんだ)
移住の工程は複雑だったため、数千の兵を動員して秩序を維持させた。
さらに撤退の際、自由民にも招待状を出す。
峡谷外の空き地を開墾してくれれば、一年間の口糧――薄い粥だが――を支給。
一人あたり五ムーの開墾を認め、収穫はすべて本人のもの。
噂はもう回っている。
「フィルードのもとなら、獣人の略奪を恐れなくていい」
生活に困窮する自由民が、家族連れで流れ込んだ。
エドモンが頭を抱えても、この流れまでは計算できなかったはずだ。
(勢力を散らせば弱る。
……そう思い込んでいる連中は、いつも“集中”の価値を理解していない)
王国はフィルードを“遠ざけた”つもりだろう。
だが実際には、フィルードの力を一点に押し固めただけだった。
いずれ峡谷から新都市へ通じる秘密の地下通路を掘る。
城壁が完成すれば――この防衛網を破れる勢力は、ほぼ存在しない。

北域全体が建設ブームに沸いていた。
時間が止まったかのように、すべてが急ピッチで進む。
その裏で、ボア・マンとミノタウロスの戦争は続く。
勝ったり負けたりだが、ボア・マンは以前より戦術が上手くなっている。
――皮肉にも、長年フィルードと渡り合った成果だ。
ミノタウロスの奇襲を潰した報も入る。
ある山脈では、ボア・マンが数千のミノタウロスを包囲殲滅したとも聞いた。
それでも全体では劣勢。
領土の半分以上が壊滅し、本族も眷属も損耗は甚大だった。
その間、ボア・マン獣皇はローセイに救援要請を何度も送ってきた。
条件は、露骨なほど魅力的だ。
――上位魔薬二十株。
フィルードの心が揺れたのは事実だ。
だが、前線に大軍を率いて並び立つ勇気は出なかった。
(もしボア・マンが“その場で”裏切ったら?
俺の北の計画は、一瞬で全部泡になる)
欲しい。だが、賭けるには危険が大きすぎる。
フィルードはその誘惑を、歯で噛み砕いて飲み込んだ。

数ヶ月が過ぎ、冬が来た。
獣定城側はすでに基礎工事が完了し、冬でも工事は止まらない。
フィルード側でも新都市の基礎が完成し、獣人奴隷が休みなくレンガを積み続ける。
ローセイが捕虜にした七~八万のジャッカルマンのうち、残虐性の高い三万余りをここへ回した。
彼らは“矯正”が難しい。
心の奥に、野獣のような残忍さが巣食っている。
フィルードは両足を縄で縛り、人間型の運搬機として使った。
説教より鞭。理念より長刀。
階級分けは明確だ。
従順な者。
不従順な者。
そして、暴れて人を傷つける者。
従順なら、待遇は悪くない。少なくとも毎日、乾いた食事が出る。
不従順であればあるほど、待遇は落ちる。
特に悪質な七~八千名は、見せしめとして公開処刑を行った。
十人に一人――という比率で、淡々と。
(残暴な者に効く薬は一つだ。
“それ以上の残暴”――ただし、俺のルールで)
効果はあった。
時間が経つにつれ、ジャッカルマンは痩せ細り、弱り、減っていく。
ほぼ毎日死者が出た。
最近移住してきた自由民たちは、その光景を見て震え上がった。
「フィルード団長が獣人にここまでやるのか」と。
だがフィルードは、冷静だった。
(都市は、慈善で建たない。
守りたいものがあるなら、まず壁を作る。壁には……代価が要る)

その冬、硝石の生産量は飛躍的に増えた。
倉庫にはすでに相当量が積み上がり、硫黄も備蓄が進む。
フィルードは小型の投擲爆発物を何度も試作し、ようやく“消耗品として回る”最適解にたどり着いた。
採用したのは、陶器の壺+竹筒の設計。
乾燥させた竹筒に火薬を詰め、特製の薄い小陶器壺へ収める。
掌サイズ。壺は薄い。
中には鋭利な鉄片を大量に入れる。
鉄片は作りやすい。
溶鉱の際に薄い鉄板を意図的に作り、叩いて脆い小片にする。
領内の鉄鉱は質が悪い――だからこそ、こういう用途に向く。
欠点は一つ。手動点火が必要なことだ。
もっと安くするため鉛も考えたが、まだ鉛鉱が見つかっていない。
すでに北の山脈へ探査隊を出している。
鉛だけじゃない。
鉄、銅――可能な限り、あらゆる鉱物を掘り当てさせるつもりだ。
(火薬は武器じゃない。
俺の国を“早回し”する道具だ。
そして――次は、火槍と火砲の番だ)
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