傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件

篠の目

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第325章飢餓を管理する者

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ほどなく、大鍋一杯分の粥が煮上がった。
獣人たちは竹筒で作った簡易の木椀を手に、無言で配給を待っている。
列は乱れているが、暴動は起きていない。
鍋の中身は、砕いた黒麦粒と、細かく刻んだ根菜を混ぜたもの。
粘度は高く、色も濃い。
――腹は、ある程度は満たせる。
この根菜については、すでにフィルードが徹底的に検証していた。
毒性はあるが、細断して水に浸せば除去できる。
そして、彼が最初に打ち出した「食糧危機対策」は、
来春以降、この作物を獣人たちに強制的に大規模栽培させることだった。
強制。
それ以外に、選択肢はない。
本来、フィルードは守備軍団を正規軍として定義している。
だが熟慮の末、現時点の生産力と治安状況では、
これほどの兵力を一気に脱産させるのは不可能だと判断した。
――段階的に進めるしかない。
まずは生かす。
反乱を起こさせない。
それだけで、今は十分だ。
それ以外は、机上の空論にすぎない。
彼はすでに、すべての獣人町集結地に命令を出している。
来春、全兵士を動員し、
この作物を大規模に植えさせろ――と。
フィルードの実験では、このキャッサバの繁殖法は、
前世のサツマイモとほぼ同じだった。
根茎類。
しかも、驚くほど似た増え方をする。
今年の夏、彼は根菜をそのまま土に埋めてみた。
すると、複数の新芽が一斉に伸びてきた。
――これこそ、彼が求めていた結果だ。
従来、獣人たちは根菜を丸ごと埋め、
秋に掘り返して、三~五個を得るだけだった。
収穫比は、せいぜい一対三から一対五。
恐ろしく低い。
十斤の種を植えて、三十~五十斤。
栄養価の高い作物なら、まだ許容できる。
だが、この根菜はそこまで高栄養ではない。
この収量では、完全に割に合わない。
だが――
芽を分けて植えれば、話は変わる。
一部のキャッサバだけを土に埋め、
芽が出たら、それを剥いで分散して植える。
それぞれが一本の完全な株になる。
しかも、互いに養分を奪い合わない。
「最後に数本しか結ばない」という事態も避けられる。
以前は、埋めたら放置。
秋に掘るだけ。
焼畑すら行わない。
原始的というより、思考停止だ。
フィルードの観察では、獣人の中にも賢い者はいる。
知能が低いわけではない。
では、なぜここまで遅れているのか。
――答えは一つ。
極端な怠惰。
許容しがたいほどの怠け者ぶりだ。
毎日、寝るか、放牧するだけ。
少しでも働かせようとすれば、
「殺されるより辛い」と言う。
奴隷ですら、刃を突きつけなければ動かない。
だからこそ、フィルードは――
(中略)
配給は続く。
ジャッカルマン兵士には、一椀のみ。
普通の青壮、少年、幼児は、薄い粥を一日一椀。
命を、ぎりぎりで繋ぐ量だ。
何度も鍋を煮直し、
全兵士が食べ終わると、椀を舐め始めた。
特に、ミノタウロスが激しい。
レーガンはそれを見て、背筋が冷えた。
まるで、椀ごと噛み砕こうとしているようだ。
この二椀の濃い粥でも、腹の足しにしかならない。
言葉が通じない数名のミノタウロスが、
鍋を指さし、さらに煮ろと訴えてくる。
レーガンは内心で舌打ちした。
(分かっている。
 だが、無理だ)
次第に、ミノタウロスの木椀が、
人類の頭蓋骨のように見えてきて、思わず身震いする。
――弱者を切るしかない。
レーガンは決断した。
今後、ジャッカルマン兵士の配給を〇・一ポンド削減。
その分を、すべてミノタウロスに回す。
すぐに、ジャッカルマン兵士たちは察し、
鍋を指さし、椀を振り回し始めた。
レーガンは両手を広げ、
随行のジャッカルマン通訳に伝言を託す。
「ミノタウロスは体格が違う。
 配給が多いのは当然だ」
「我々は深刻な食糧不足にある。
 耐えろ」
「どうしても無理なら、
 近くの植物の根や茎を掘って煮て食え」
「生で食っていた頃より、
 今の方が、ずっとマシだ」
その後、二十名のミノタウロス兵士のために、
さらに数鍋を煮させた。
それでも、彼らの視線は、まだ飢えている。
レーガンは両手を広げ、
自分を指し、木椀を指した。
――俺は一椀。
お前たちは、すでに二椀多い。
これが、最高待遇だ。
ミノタウロスたちは、不満げに、だが頷いた。
レーガンは、内心で安堵する。
幸い、この個体たちは厳選された穏健派だ。
もし残忍な性格だったなら、
今頃すでに略奪が始まっていただろう。
だが――
(この穏やかさが、いつまで続く?)
飢えが限界に達すれば、
ミノタウロスは、ジャッカルマンすら喰う。
だからこそ、野草とニレの木を急いで探さねばならない。
でなければ、この飢えた兵士たちは抑えきれない。
しかも、この地には――
地元領主であるジャッカルマンまでいる。
もっとも、普通のジャッカルマンたちは飢えに慣れている。
何年も耐えてきた。
彼らが先に壊れる可能性は低い。
その時、レーガンは初めて、
フィルードのこの計画そのものに、
かすかな疑念を抱き始めていた。
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