傭兵から商売を始めたら、いつの間にか領主になっていた件

篠の目

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第330章 角を撫で、牙を縛る

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仕方のないことだった。
そう割り切らなければ、反乱は永久に終わらない。
フィルードは知らなかったが、新たに駐屯した獣人領主たちの搾取は、彼自身のそれよりも遥かに苛烈だった。
「食い扶持を独占し、下層を徹底的に擦り潰す」――
その点において、彼らは熟練者であり、フィルードなど新兵に等しい。
(……結局、俺は“優しすぎた”というだけか)
フィルードは、これまで掲げてきた核心理念を一度解体し、再構築することを選んだ。
獣人たちが当然のように受け入れてきた「弱肉強食」を、理屈と制度で包み直したに過ぎない。
弱者は、強者の前では反抗しない。
いや、正確には――反抗する勇気すら持てない。
今は非常時だった。
理想論を掲げる余裕はない。
だからこそ、かつて否定したこの古い手法を、再び手に取るしかなかった。
ここまで事態を悪化させたのは、自分自身だ。
一気に飲み込みすぎた。
勢力拡張の反動が、今になって牙を剥いている。
(……今から軌道修正しても、遅いかもしれない)
この町レベルの反乱は、前兆に過ぎない。
だからこそ、一刻も早く指令を出す必要があった。
フィルードは騎兵隊をローセイに預け、
エレナとメイヴには指令の分散伝達を命じた。
自分もまた、同時に動き出す。
一人につき、一つの超大型都市圏を担当。
数日以内に、必ず命令を届ける。
すでに反乱が起きている町や城は後回し。
まだ秩序が保たれている都市・町を優先する。
(火が点いた場所より、火種を潰す方が早い)
任務量は膨大だった。
町だけで四百箇所以上。
一人あたり百箇所を超える。
移動時間を含めれば――
最低でも四、五日はかかる。
三人は大鳥に跨り、空を裂くように飛び続けた。
途中、疲弊を防ぐために魔薬を何度も与える。
その道中、さらに多くの町で反乱が発生していることを確認した。
予想通り、どこも似たような惨状だった。
四日間、死に物狂いで駆け回り、
ようやく全ての町の守備官に政令を届け終える。
これで、最悪の連鎖は断ち切られた。
だが、すでに燃え上がった反乱は止まらない。
十数の町、そして小城二つ。
フィルードは騎兵を分割し、鎮圧を開始した。
一時、北部獣人領地全体が狼煙に包まれる。
フィルード自身も魔獣に乗り、最前線に立った。
殺戮は翌年の春先まで続き、
ようやく大規模反乱は沈静化する。
最大の要因は、新規反乱の激減だった。
軍制政策の変更が、明確に効いている。
この期間、フィルードは長く心を病んだ。
経験がなかった。
挫折の中でしか、成長できない。
(……理想だけでは、人は守れない)
今回の反乱は危機であり、同時に機会だった。
首謀者には一切の慈悲を与えず、
文字通り、首が転がるほどの粛清を行った。
巻き込まれただけの青壮年も、
顔に囚人印を刻まれ、完全な獣人奴隷へと落とされる。
家畜と、ほとんど変わらない。
この効果は絶大だった。
最近の戦闘では、逃走中の反乱軍の背後から、獣人が次々と消えていく。
夜陰に紛れて逃げ出したのだ。
「殲滅=奴隷化」という恐怖が、確実に浸透していた。
この警告は、兵士等級制度と同時に布告している。
十分な抑止力だった。
今回の反乱は、
大城一つ、小城六つ、町四十以上を巻き込み、
家畜と人員に壊滅的被害をもたらした。
フィルードの胸に、深く刻まれる教訓となる。
今なお、散発的な反乱は続いている。
彼を疲弊させ、思考を削り続ける日々だ。
だが、次の問題が浮上した。
多くの人間守備官が殺された結果、
一部の守備団長が極端に腰を低くし、
中には露骨に媚びへつらう者まで現れた。
彼らは必死だった。
再び反乱を起こさせないため、
配下のミノタウロスの機嫌を取り続けている。
フィルードは、今は黙認するしかなかった。
必要なのは安定だ。
数年耐え、人口を増やし、
人間兵の比率を上げられれば、自然と是正される。
耳に入ったのは数件だが、
実際には領地全体の相当数――
下手をすれば半数近くが、同様の状態だろう。
今、彼が望むのは三つの超大型城の安定。
そして、大型城を可能な限り掌握すること。
小城は、自分の存在を誇示できれば十分。
下位の町は、各守備団に委ねる。
事実上の放任だ。
狙いは明確だった。
獣人たちに、「人間という同僚」の存在を慣れさせる。
数年後。
自分の力が十分に強まった時点で、一気に締め上げる。
実質的に人間を出し抜いているミノタウロス領主を粛清・追放し、
人間を派遣して、再掌握する。
これだけの領地を一度に飲み込めば、後遺症は避けられない。
だが――耐え切れば、建国は見えてくる。
各町の状況把握のため、
フィルードは毎月、守備団長を小城へ出頭させ、詳細な報告を義務付けた。
さらに、各小城に識字できる人間奴隷を一名配置。
すべて、高額で買い取った者たちだ。
命令は羊皮紙や樹皮に記し、
メイヴやエレナが届ける。
大幅な時間短縮になる。
加えて、各町の守備官に一頭ずつ馬を支給した。
その町で、唯一の馬だ。
移動時間は劇的に短縮され、
半日が数時間に、一日が半日に変わる。
フィルードは、この勢力のために、
考え得る限りの手を打った。
一冬まるごと、彼は酷使され続ける。
今も反乱は散発的に起きている。
だがこの期間を経て、
一万四千を超える騎馬歩兵は、ほぼ本物の騎兵へと変貌しつつあった。
毎日、狂ったように馬を駆る。
最初は太腿を擦りむき、血にまみれた新兵たちも、
やがて厚い皮を得る。
今では、馬上戦闘も散兵突撃も難なくこなす。
この反乱を機に、フィルードは防衛思想を改めた。
今後、城や木寨を築く際は、規模を問わず必ず小型内城を設け、
人間兵専用の区画とする。
門を閉ざせば、長時間籠城できる。
さらに、暇な時間を使い、城外へ通じる密道を掘らせる。
生存率は大きく向上する。
すべては――
人が、あまりにも少ないからだ。
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