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「リュカ? 一体どうしたんだよ!」
無言のリュカに腕を引っ張られながら連れてこられたのは、学園自慢の空中庭園。
普段は学生達の憩いの場となっているこの場所は、今は生徒の殆どがホールに居るためか俺達以外の気配を感じない。
空には満天の星の瞬きすら霞む程の大きな月が放つ光の下、色とりどりの花が甘い芳香を風に乗せながら揺れている。
「なあ、リュカ……ぅあっ!」
女の子ならイケメンのリュカと二人、きっと胸をときめかせそうと余所見をしていた俺は、庭園の中央に設えられた四阿に置かれたソファに投げ出された。
フカフカな座面のおかげで体に痛みはないけど、背中を打つ衝撃に一瞬だけ息が詰まる。一体、リュカは何を怒っているのだ。
「リュ……んむっ!?」
不条理な扱いにキッと睨んでみたものの、不意にリュカの無駄な部分がない体躯が月を背にしたかと思えば、何をするんだ、という俺の抗議は、塞がれたリュカの唇によって霧散する。
キス……されて、る?
何度も言うようだが、俺は前世を含めて童貞だ。故にキスも今世を含めて一度もない。まあ、あっても挨拶がわりに頬や手の甲位はあるけども。
故に初めて他人との唇の接触に俺の頭は真っ白で、抵抗どころか指一本も動かせないまま、リュカが与えてくる口付けを受けていた。
角度をいくつも変えて食んでくる自分の体温とは違うその温もりに、嫌悪感というより戸惑いが大きい。
まさか同性で、親友だと思っていた相手からの攻撃だったから、尚更とも言えよう。
リュカは俺が学園に入学してから、次期宰相と呼び声も高く、ルシアの婚約者であった──俺の中では過去形で十分だ──ジュリアンから、当時から騎士団に所属していたディアンサスと共に紹介され、冷たそうな表情が融解し、柔らかく微笑んで「よろしく」と手を差し伸べてきて以来、ずっと影の薄い俺の傍に居てくれて、俺の変化にもいち早く気づいてくれる優しい奴だと思っていた。
だからこそ、カリーン嬢がジュリアンを選んだと知った時、ルシアをリュカに託したいな、と思案しつつ、心のどこかでチクンと痛む気がしたのは否定しない。
ずっとノーマル嗜好だと自分自身信じてたし、男とキスしたって絶対気持ちよくなんてないって思ってたし、それ以上なんて前世の姉や妹達から与えられた無駄知識があっても、実際自分がそうなるなんて予想だにしてなかったし。
いきなりこんな形でリュカにキスされるとか、俺だって想像できなかったし。
「むぐっ……んんぅ……んっ……ふぁっ」
口を塞がれ、すっかり鼻呼吸の存在を忘れてしまった俺は、空気を求め喘ぐように口を開く。すると隙間から厚く蠢くものが侵入してきて、肩がビクリと跳ねる。
リュカの舌先が、咄嗟に閉じた歯列を形を確かめるように丁寧に撫で、
「ルシアン、歯を開いて?」
と、唇の僅かな間から甘く囁かれ、心臓がドクンと波打つ。すぐ近くにある彼の紫の瞳は欲情に濡れ、同性である俺でもドギマギしてしまい、声に導かれるまま噛み締めていていた歯の扉が綻んでいく。
開門を許されたリュカの舌はヌルリと潜り込み、ビクつく俺の舌を見つけては、まるで擽るように固くした舌先で愛撫してくる。
「う、んっ、ふぁ……ひゃぁ」
ザラリとした筆を刷くように俺の舌を滑っていく。むず痒い感覚だったソレが、絡みついてきた途端、熱い欲望の塊が下半身に降りて行き、慎ましい男の象徴が頭をもたげる。
吐息すらも奪われた俺の口の中は、溢れた唾液に次第に満たされていき、溺れそうな苦しさについゴクリと自分とリュカの混じったそれを嚥下してしまう。
リュカはうっとりと俺の口腔を蹂躙しながらも目を細め、俺のうなじに手を添えると、ぐっと口付けを深めてきた。
チュクチュクと舌がねっとりと絡んでくる度、聞くに堪えない水音が空洞に響き、酸欠と羞恥で何故こんな時に失神しないんだ自分の馬鹿、と自分を罵っていると。
「こんな時に余裕だな、ルシアン」
普段は丁寧な口調で話すリュカの、野性味感じる台詞が俺の唇を震わす距離から発せられ、ゾクゾクと悪寒が全身を走る。
待って。待ってください、リュカさん。俺には被虐の嗜好はありませんよ。本当だってば!
そう言いたくて口を開いたら、好機とばかりに再び口は塞がれ、執拗に舌は搦め取られてしまっていた。
夜の空気にピチャピチャと舌の交わる音が卑猥すぎて、だんだんと頭がぼんやりしていって考えるのも億劫になる。
リュカは激しい口付けの間にも、俺の髪の間に指を潜らせて丁寧に撫で、普段は何ともないそれすらも、俺の息を乱させる要因となる。
「ん……はっ、りゅ……かぁ……」
甘ったるく艶を帯びた自分の声がリュカを呼ぶ。自分からこんな声が出る事に少し驚くものの、もう頭の中はドロドロにリュカのキスで蕩けてしまっていた。流石18禁ゲームではなかったけど、こういったセクシュアルな部分のスペックも高い。
「ふ……すっかり蕩けきった顔になってる。ルシアン」
「……ん、ふっ」
すう、と眇めた眼差しのリュカが俺の頬を柔く滑らせる。たったそれだけの事なのに、腰の奥がズクンと疼いて甘い吐息が自然と零れた。
もっと口付けていたい。その形の良く薄い唇の奥にある熱い舌で肌を舐められたら、どんなに気持ちがいいのだろう。でも男同士なのに、こんな事をしても許されるのだろうか。
幾らあのゲームのスピンオフで出たゲームがBL作品であったといえども、この世界の理では同性の恋愛は認められていない──が、圧倒的男性の人口が多いためか、秘密裏にそういったカップルがいるのも知っているし、学園にも密かに交際している奴らがいるのも事実だ。
だからこそ、攻略対象であるリュカが、幾ら悪役令嬢のルシアと双子の俺を組み敷いて、陵辱プレイに近しい現状をする意味が理解できない。
何故ならリュカはモテる。それこそ女だろうが男だろうが選り取りみどりだ。そうでないと、ヒロインがリュカを選ばなかったルートで、あんなに穏やかにヒロインを優しく見守るなんて出来なかっただろう。
──ズクンッ──
では何故、リュカが物語とはかけ離れた行動に出た?
なんとなく原因は分かってはいるものの、それでは納得できずに、俺は口を開く。
「リュカ……どうして」
「ん?」
「どうして……俺に、こんな……」
チュッ、チュッ、と唇音をさせて首筋を啄むリュカに問えば。
「ずっと前からルシアンが好きだったから」
「……へ?」
「出会った時から、ルシアンとこうなれればいいって切望してたから。カーリン嬢でもなく、君の妹のルシア嬢でもなく、ルシアン……お前とずっとこうなりたいと願っていた」
「リュカ……」
「ジュリアンから紹介された時。妹が王子の婚約者で、侯爵家の子息というのに存在が儚げで、庇護したい気持ちが強かった。だが、本当はとても努力家で家族思いで、本当は意地っ張りなお前を知っていく内に、自分の心が愛だというのに気づいたんだ」
「……」
「だから冗談でも、お前の口からルシア嬢を充てがう話が出て、思わず頭に血が上ってしまった」
すまない、と言葉を落とすリュカの表情に鼓動が揺れる。
切なげな眼差しで俺を見下ろしたリュカは、再びドクリと胸を高鳴らせる俺の唇を塞ぎながら、解けかけていたアスコットタイを首元から引き抜いた。
シュル、と衣擦れの音色も、口腔を犯されながら晒されていく胸元も、リュカの太腿が俺の中心で期待に燻る熱さえも、男性同士とか嫌悪感とか「リュカだったらいいか」と唯一俺をいつも見守ってくれたリュカだからこそほだされたというか、与えられる優しく労わる愛撫に、俺は彼の首に手を回して口を開く。
「なら、ルシアにはまた別の相手を探さなくちゃ、な」
普段は冴えざえとした月のように冷たく無表情を貫く親友が、額にかかる黒髪の隙間から覗く紫の目をパチクリとさせて、それから魅惑的な笑みをふわりと浮べる。
「好きだ……愛してる、ルシアン」
「俺も……」
そっと額に触れた唇の温もりに、俺はそっと瞼を落とした。
無言のリュカに腕を引っ張られながら連れてこられたのは、学園自慢の空中庭園。
普段は学生達の憩いの場となっているこの場所は、今は生徒の殆どがホールに居るためか俺達以外の気配を感じない。
空には満天の星の瞬きすら霞む程の大きな月が放つ光の下、色とりどりの花が甘い芳香を風に乗せながら揺れている。
「なあ、リュカ……ぅあっ!」
女の子ならイケメンのリュカと二人、きっと胸をときめかせそうと余所見をしていた俺は、庭園の中央に設えられた四阿に置かれたソファに投げ出された。
フカフカな座面のおかげで体に痛みはないけど、背中を打つ衝撃に一瞬だけ息が詰まる。一体、リュカは何を怒っているのだ。
「リュ……んむっ!?」
不条理な扱いにキッと睨んでみたものの、不意にリュカの無駄な部分がない体躯が月を背にしたかと思えば、何をするんだ、という俺の抗議は、塞がれたリュカの唇によって霧散する。
キス……されて、る?
何度も言うようだが、俺は前世を含めて童貞だ。故にキスも今世を含めて一度もない。まあ、あっても挨拶がわりに頬や手の甲位はあるけども。
故に初めて他人との唇の接触に俺の頭は真っ白で、抵抗どころか指一本も動かせないまま、リュカが与えてくる口付けを受けていた。
角度をいくつも変えて食んでくる自分の体温とは違うその温もりに、嫌悪感というより戸惑いが大きい。
まさか同性で、親友だと思っていた相手からの攻撃だったから、尚更とも言えよう。
リュカは俺が学園に入学してから、次期宰相と呼び声も高く、ルシアの婚約者であった──俺の中では過去形で十分だ──ジュリアンから、当時から騎士団に所属していたディアンサスと共に紹介され、冷たそうな表情が融解し、柔らかく微笑んで「よろしく」と手を差し伸べてきて以来、ずっと影の薄い俺の傍に居てくれて、俺の変化にもいち早く気づいてくれる優しい奴だと思っていた。
だからこそ、カリーン嬢がジュリアンを選んだと知った時、ルシアをリュカに託したいな、と思案しつつ、心のどこかでチクンと痛む気がしたのは否定しない。
ずっとノーマル嗜好だと自分自身信じてたし、男とキスしたって絶対気持ちよくなんてないって思ってたし、それ以上なんて前世の姉や妹達から与えられた無駄知識があっても、実際自分がそうなるなんて予想だにしてなかったし。
いきなりこんな形でリュカにキスされるとか、俺だって想像できなかったし。
「むぐっ……んんぅ……んっ……ふぁっ」
口を塞がれ、すっかり鼻呼吸の存在を忘れてしまった俺は、空気を求め喘ぐように口を開く。すると隙間から厚く蠢くものが侵入してきて、肩がビクリと跳ねる。
リュカの舌先が、咄嗟に閉じた歯列を形を確かめるように丁寧に撫で、
「ルシアン、歯を開いて?」
と、唇の僅かな間から甘く囁かれ、心臓がドクンと波打つ。すぐ近くにある彼の紫の瞳は欲情に濡れ、同性である俺でもドギマギしてしまい、声に導かれるまま噛み締めていていた歯の扉が綻んでいく。
開門を許されたリュカの舌はヌルリと潜り込み、ビクつく俺の舌を見つけては、まるで擽るように固くした舌先で愛撫してくる。
「う、んっ、ふぁ……ひゃぁ」
ザラリとした筆を刷くように俺の舌を滑っていく。むず痒い感覚だったソレが、絡みついてきた途端、熱い欲望の塊が下半身に降りて行き、慎ましい男の象徴が頭をもたげる。
吐息すらも奪われた俺の口の中は、溢れた唾液に次第に満たされていき、溺れそうな苦しさについゴクリと自分とリュカの混じったそれを嚥下してしまう。
リュカはうっとりと俺の口腔を蹂躙しながらも目を細め、俺のうなじに手を添えると、ぐっと口付けを深めてきた。
チュクチュクと舌がねっとりと絡んでくる度、聞くに堪えない水音が空洞に響き、酸欠と羞恥で何故こんな時に失神しないんだ自分の馬鹿、と自分を罵っていると。
「こんな時に余裕だな、ルシアン」
普段は丁寧な口調で話すリュカの、野性味感じる台詞が俺の唇を震わす距離から発せられ、ゾクゾクと悪寒が全身を走る。
待って。待ってください、リュカさん。俺には被虐の嗜好はありませんよ。本当だってば!
そう言いたくて口を開いたら、好機とばかりに再び口は塞がれ、執拗に舌は搦め取られてしまっていた。
夜の空気にピチャピチャと舌の交わる音が卑猥すぎて、だんだんと頭がぼんやりしていって考えるのも億劫になる。
リュカは激しい口付けの間にも、俺の髪の間に指を潜らせて丁寧に撫で、普段は何ともないそれすらも、俺の息を乱させる要因となる。
「ん……はっ、りゅ……かぁ……」
甘ったるく艶を帯びた自分の声がリュカを呼ぶ。自分からこんな声が出る事に少し驚くものの、もう頭の中はドロドロにリュカのキスで蕩けてしまっていた。流石18禁ゲームではなかったけど、こういったセクシュアルな部分のスペックも高い。
「ふ……すっかり蕩けきった顔になってる。ルシアン」
「……ん、ふっ」
すう、と眇めた眼差しのリュカが俺の頬を柔く滑らせる。たったそれだけの事なのに、腰の奥がズクンと疼いて甘い吐息が自然と零れた。
もっと口付けていたい。その形の良く薄い唇の奥にある熱い舌で肌を舐められたら、どんなに気持ちがいいのだろう。でも男同士なのに、こんな事をしても許されるのだろうか。
幾らあのゲームのスピンオフで出たゲームがBL作品であったといえども、この世界の理では同性の恋愛は認められていない──が、圧倒的男性の人口が多いためか、秘密裏にそういったカップルがいるのも知っているし、学園にも密かに交際している奴らがいるのも事実だ。
だからこそ、攻略対象であるリュカが、幾ら悪役令嬢のルシアと双子の俺を組み敷いて、陵辱プレイに近しい現状をする意味が理解できない。
何故ならリュカはモテる。それこそ女だろうが男だろうが選り取りみどりだ。そうでないと、ヒロインがリュカを選ばなかったルートで、あんなに穏やかにヒロインを優しく見守るなんて出来なかっただろう。
──ズクンッ──
では何故、リュカが物語とはかけ離れた行動に出た?
なんとなく原因は分かってはいるものの、それでは納得できずに、俺は口を開く。
「リュカ……どうして」
「ん?」
「どうして……俺に、こんな……」
チュッ、チュッ、と唇音をさせて首筋を啄むリュカに問えば。
「ずっと前からルシアンが好きだったから」
「……へ?」
「出会った時から、ルシアンとこうなれればいいって切望してたから。カーリン嬢でもなく、君の妹のルシア嬢でもなく、ルシアン……お前とずっとこうなりたいと願っていた」
「リュカ……」
「ジュリアンから紹介された時。妹が王子の婚約者で、侯爵家の子息というのに存在が儚げで、庇護したい気持ちが強かった。だが、本当はとても努力家で家族思いで、本当は意地っ張りなお前を知っていく内に、自分の心が愛だというのに気づいたんだ」
「……」
「だから冗談でも、お前の口からルシア嬢を充てがう話が出て、思わず頭に血が上ってしまった」
すまない、と言葉を落とすリュカの表情に鼓動が揺れる。
切なげな眼差しで俺を見下ろしたリュカは、再びドクリと胸を高鳴らせる俺の唇を塞ぎながら、解けかけていたアスコットタイを首元から引き抜いた。
シュル、と衣擦れの音色も、口腔を犯されながら晒されていく胸元も、リュカの太腿が俺の中心で期待に燻る熱さえも、男性同士とか嫌悪感とか「リュカだったらいいか」と唯一俺をいつも見守ってくれたリュカだからこそほだされたというか、与えられる優しく労わる愛撫に、俺は彼の首に手を回して口を開く。
「なら、ルシアにはまた別の相手を探さなくちゃ、な」
普段は冴えざえとした月のように冷たく無表情を貫く親友が、額にかかる黒髪の隙間から覗く紫の目をパチクリとさせて、それから魅惑的な笑みをふわりと浮べる。
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