【完結】公爵家の妾腹の子ですが、義母となった公爵夫人が優しすぎます!

ましゅぺちーの

文字の大きさ
27 / 32

実母

しおりを挟む
自身の出生の秘密を知ったリデルは何とも言えない気持ちになった。
オズワルドが実母を愛していないことは薄々勘付いていたが、まさか自身がそんな風にして作られた子供だったとは思いもしなかったからだ。


「……」


話を聞いてから終始俯いているリデルにシルフィーラが優しく声をかけた。


「リデル、気にしないで。貴方には何の罪もないわ。前もそう言ったじゃない」
「そうだ、むしろ悪かったな。父親としての責任を果たせなくて」


オズワルドは申し訳なさそうな顔をしていた。
おそらく本心からリデルに対して罪悪感を抱いているのだろう。


「俺も最初はお前とあの母親を重ねて見ていたんだがな……こうやって一緒に過ごしてみて一つ分かったことがある」
「分かったこと……ですか?」
「ああ、お前とあの母親はちっとも似ていない」
「お父様……」
「俺はたしかにお前の母親を憎んでいたし、正直顔も見たくないと思っていた。お前に罪が無いことは知っていたが……本当にすまなかった、リデル。血が繋がっているからといって同じ人間なわけがないのにな」


オズワルドは頭の中で何かを思い浮かべているようだった。
彼の頭に浮かんでいるもの。
それはきっと実の母である先代公爵夫人エリザベータに違いない。
オズワルドとエリザベータは血が繋がっているだけで違う人間だった。


「そうよ、リデル。貴方は紛れもなく私たち夫婦の唯一の子供だわ」
「お義母様……」


リデルは父と義母の優しい言葉に心からの笑みを浮かべた。


(本当に優しい人たちだなぁ……)


正直に言うと、リデルは実母のことが好きではなかった。
娘である自分をほったらかしにするだけではなく、理不尽に怒鳴られたり頭ごなしに罵倒されることもあった。
リデルはそのことについて自分が生まれたせいで母が変わってしまったのではないかと思っていたが、どうやらそうではなかったようだ。
実母は、最初からそういう人だったのだ。


そして、リデルには実母に関してもう一つ知らなければならないことがあった。


「あの……そのあとのお母様のことなんですが……」
「「……」」


オズワルドとシルフィーラは再び言いにくそうな顔をした。
それはきっととてもじゃないが子供に聞かせる内容ではないという意味なのだろう。
しかし、リデルは自身の母親の全てを知りたかった。


「教えてください。お父様、お義母様」
「……あれはシルフィーラと二人で王宮の舞踏会に出向こうとしていたときのことだった」


リデルの並々ならぬ覚悟を感じたのか、オズワルドがゆっくりと話し始めた。



***



その日、オズワルドとシルフィーラは王家主催の舞踏会に行くための馬車へ乗ろうとしていた。
まだお互いを誤解しており、すれ違っていたときだ。
二人の間には会話らしい会話も無く、とてもじゃないが夫婦とは思えないほどだった。


「シルフィーラ」
「ありがとうございます、旦那様」


シルフィーラはオズワルドから差し出された手に自らの手を重ねた。
手が触れ合うのも久しぶりで、必死で隠してはいたが二人して胸が高鳴っていた。


しかし、そんな二人の甘い時間に割って入った人物がいた。


「――やっと見つけたわ、シルフィーラ」


憎しみのこもった女の声がシルフィーラとオズワルドの耳に入った。
二人が声のした方に目を向けると――


「お、お前は……!」
「リアラ……?」


リアラを目に入れた途端に顔が強張るオズワルドと、何故彼女がここにいるのかと驚くシルフィーラ。


「お前が何故ここに……!」


不快感を隠しきれないオズワルド。
しかし、そんなオズワルドに気付いていないのかリアラの視線はシルフィーラにのみ注がれていた。
まるで仇でも見るかのように。


そしてそんな彼女の右手には鋭く光る得物が握られていた。


「おい、やめろ!何する気だ!」
「リアラ、どうしてそんなものを……」


困惑するシルフィーラを守るようにしてオズワルドが彼女の前に出た。
しかし、それでもリアラは止まらなかった。
短剣を片手にシルフィーラへと向かっていく。


「シルフィーラ!アンタさえいなければ私がオズワルド様の妻なのよ!だから消えてちょうだい!」


底知れない狂気を宿した目で駆け出したリアラだったが、シルフィーラに到達する前に呆気なく騎士に取り押さえられてしまった。


「放しなさい!私はあの女を殺すのよ!」
「暴れるな!」


捕らえられてもなお暴れ続けるリアラにオズワルドは冷たい目を向けた。


「俺の妻はシルフィーラただ一人だ。たとえ天地がひっくり返ってもお前を愛することはない」
「どうしてよ!」


リアラは拘束されたまま悲痛な叫びを上げた。


「貴方の子供を産んだら私のことも見てくれると思ったのに!どうしてその女を傍に置くのよ!子供を産むことも出来ないその女を!」
「いい加減にしろ!」


シルフィーラを侮辱されたのが相当頭に来たようで、オズワルドはこれ以上無いくらい低い声を出した。


「こんなことをしでかしたお前を生かしておくわけにはいかない」


そしてこの後すぐ、ベルクォーツ公爵夫人殺害未遂という罪状でリアラは処刑されることとなる。



***



「……」


リデルは自身の母がしでかしたことを知って卒倒しそうになるのを必死で耐えていた。


「リデル……!」
「リデル……」


そんなリデルを二人は心配そうな顔で見つめた。


「お父様……お義母様……私、もう貴方がたに合わせる顔がありません……」


リデルはガックリと項垂れた。


「……」


オズワルドはもちろんリデルを恨んでなどいない。
子供とほとんど関わったことが無かったため、どう声を掛けていいのか分からなくなっていただけだ。
しかし、そこで口を開いたのはシルフィーラだった。


「――リデル、こっちに来なさい」
「……お義母様?」


リデルが顔を上げると、真剣な表情のシルフィーラが真っ直ぐに自身を見つめていた。
なかなか見ることの出来ない彼女のその姿に、リデルは吸い込まれるようにして近付いていった。
そして、シルフィーラの傍まで行くとリデルは突然抱き締められた。


「!」


リデルはシルフィーラの突然の行動に驚きながらも、彼女の腕の中でじっとしていた。


「そんなことを思ってはダメよ。貴方はベルクォーツ公爵家の、私たち夫婦の宝なんだから」
「お義母様……」


シルフィーラはリデルの耳元でそう囁いた。
その優しい声音と、シルフィーラの体から伝わってくる温もりにリデルの心は一瞬にして温かくなった。
こうしていると二人に対して申し訳ないと感じていた気持ちも、自然と消えていくようだった。


そのとき、横から腕が伸びてきてリデルとシルフィーラを同時に抱き締めた。


「お父様……」


オズワルドだった。
彼は自身の腕の中にいるリデルと目を合わせてハッキリと言った。


「そうだ、リデル。俺を恨むことはともかく、俺に対してお前が申し訳無いと思う必要はどこにもない」
「……」


リデルは優しい両親に涙が出そうになった。


「ありがとうございます、お父様、お義母様……!」


リデルが感極まって、二人の背中に手を回そうとしたそのときだった――


「――オズワルド!!!」
「「「!!!」」」


突如、リデルの部屋の扉が勢い良く開けられた。


(この声は、まさか……)


リデルは見たくないと思いながらも、声が聞こえた方にゆっくりと目をやった。
シルフィーラもリデルの視線の先に目を向け、オズワルドに至ってはその人物を見て警戒するかのように立ち上がった。


――「一体何の御用ですか、母上」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

本物の『神託の花嫁』は妹ではなく私なんですが、興味はないのでバックレさせていただいてもよろしいでしょうか?王太子殿下?

神崎 ルナ
恋愛
このシステバン王国では神託が降りて花嫁が決まることがある。カーラもその例の一人で王太子の神託の花嫁として選ばれたはずだった。「お姉様より私の方がふさわしいわ!!」妹――エリスのひと声がなければ。地味な茶色の髪の姉と輝く金髪と美貌の妹。傍から見ても一目瞭然、とばかりに男爵夫妻は妹エリスを『神託の花嫁のカーラ・マルボーロ男爵令嬢』として差し出すことにした。姉カーラは修道院へ厄介払いされることになる。修道院への馬車が盗賊の襲撃に遭うが、カーラは少しも動じず、盗賊に立ち向かった。カーラは何となく予感していた。いつか、自分がお払い箱にされる日が来るのではないか、と。キツい日課の合間に体も魔術も鍛えていたのだ。盗賊たちは魔術には不慣れなようで、カーラの力でも何とかなった。そこでカーラは木々の奥へ声を掛ける。「いい加減、出て来て下さらない?」その声に応じたのは一人の青年。ジェイドと名乗る彼は旅をしている吟遊詩人らしく、腕っぷしに自信がなかったから隠れていた、と謝罪した。が、カーラは不審に感じた。今使った魔術の範囲内にいたはずなのに、普通に話している? カーラが使ったのは『思っていることとは反対のことを言ってしまう魔術』だった。その魔術に掛かっているのならリュートを持った自分を『吟遊詩人』と正直に言えるはずがなかった。  カーラは思案する。このまま家に戻る訳にはいかない。かといって『神託の花嫁』になるのもごめんである。カーラは以前考えていた通り、この国を出ようと決心する。だが、「女性の一人旅は危ない」とジェイドに同行を申し出られる。   (※注 今回、いつもにもまして時代考証がゆるいですm(__)m ゆるふわでもOKだよ、という方のみお進み下さいm(__)m 

【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない

春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。 願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。 そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。 ※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

『婚約者を大好きな自分』を演じてきた侯爵令嬢、自立しろと言われたので、好き勝手に生きていくことにしました

皇 翼
恋愛
「リーシャ、君も俺にかまってばかりいないで、自分の趣味でも見つけて自立したらどうだ?正直、こうやって話しかけられるのはその――やめて欲しいんだ……周りの目もあるし、君なら分かるだろう?」 頭を急に鈍器で殴られたような感覚に陥る一言だった。 彼がチラリと見るのは周囲。2学年上の彼の教室の前であったというのが間違いだったのかもしれない。 この一言で彼女の人生は一変した――。 ****** ※タイトル少し変えました。 ・暫く書いていなかったらかなり文体が変わってしまったので、書き直ししています。 ・トラブル回避のため、完結まで感想欄は開きません。

妹に婚約者を取られてしまい、家を追い出されました。しかしそれは幸せの始まりだったようです

hikari
恋愛
姉妹3人と弟1人の4人きょうだい。しかし、3番目の妹リサに婚約者である王太子を取られてしまう。二番目の妹アイーダだけは味方であるものの、次期公爵になる弟のヨハンがリサの味方。両親は無関心。ヨハンによってローサは追い出されてしまう。

婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね

ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。 失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

処理中です...