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第一章 虐げられる妻、からの公爵様との契約です!
9 必要不可欠なパートナー
真っ暗な闇夜の中、二人の間に重い沈黙が流れた。
お互い見つめ合ったまま、一言も発さない。
フルールは目の前にいる夫ルースの冷たい視線に困惑していた。
彼女の記憶の中にいる彼はいつだって紳士的で優しくて。
少なくとも、妻である彼女にこのような目を向ける人ではなかった。
愛人の存在を隠していたことも相まって、彼女のルースへの不信感は頂点に達していた。
このまま何も話さずに逃げ出すことは簡単だ。
しかし、そういうわけにもいかない。
(夫婦なんだから、しっかり話し合わないと)
痺れを切らし、先に口を開いたのはフルールだった。
「旦那様、どういうことですか?」
「……何がだ」
ルースは冷たい声で聞き返した。
そこには以前のような愛情は無いように思えた。
「アリアさんのことです!アリアさんを愛人にしていただなんて……まったく知りませんでした」
「知らせる必要があるか?」
問い詰めるフルールに、ルースはどこまでも残酷だった。
知らせる必要がない?
私たちは夫婦であり、他人ではない。
(そういえば、私は彼のプライベートについてほとんど知らない……)
フルールは使用人たちからたびたびルースの話を聞くことはあったが、彼自身の口から彼について知ることはほとんどなかった。
彼の仕事がどのようなものなのか、普段何をして過ごしているのか、どんな物が好きなのか。
まるで知らなかった。
――アリアはきっと、フルールよりも彼のことをよく知っているだろう。
本妻のプライドがズタズタになった。
「アリアのことを愛人だと言ったら、君が傷付くと思った。そうなるとわかっていて、わざわざ知らせる必要もないだろう」
「な、何を……」
ルースは開き直ったようにそっぽを向いた。
面倒臭い、今すぐ家に帰って休みたい。そんな感情が見て取れた。
「アリアの言う通りだ。この程度のことで大騒ぎするだなんて、誰が君を貰ってやったと思っているんだ?」
「旦那様……」
「頼むから、離婚するとだけは言わないでくれよ。面倒だし」
この人は一体誰なんだ。
本当にいつも親切にしてくれたあのルースなのか。
彼女は目の前にいる彼を固まったまま見つめていた。
「離婚だなんて……」
「こっちも結婚していたほうが都合が良いし……何より君の両親には世話になっているからな」
フルールの父親・レスティア伯爵は、ルースのずば抜けた経営の才能を見込んで彼に出資していた。
彼が事業を拡大できたのは、フルールの実家のおかげも同然だった。
「君も知っているだろう?グロリア伯爵家が赤字続きだったのは」
「……」
フルールは黙り込んだ。
今、自分と離婚されたら資金源を失ってしまう。
(そんな理由で私を引き留めるのね……)
愛しているからではなく、ただ単に利益を失うから。
そんな彼を信じ続けてきた自分があまりにも惨めで、笑いが出そうになった。
「わかりました、離婚はしません。ならせめて、愛人との関係を清算してください」
「……それはできない」
キッパリと言い放ったルースに、フルールは怒りを覚えた。
「ど、どうしてですか……!?妻として、愛人の存在を認めるわけにはいきません!」
しばらく彼女から顔を背けていたルースが、怒気を孕んだ声に振り返った。
「――彼女は仕事において必要不可欠なパートナーだからだ」
「え……?」
「彼女の代わりはいないが……君の代わりはいくらでもいる」
「……」
ルースはそれだけ言うと、呆然とするフルールを一人置き去りにし、邸の中へ入って行った。
お互い見つめ合ったまま、一言も発さない。
フルールは目の前にいる夫ルースの冷たい視線に困惑していた。
彼女の記憶の中にいる彼はいつだって紳士的で優しくて。
少なくとも、妻である彼女にこのような目を向ける人ではなかった。
愛人の存在を隠していたことも相まって、彼女のルースへの不信感は頂点に達していた。
このまま何も話さずに逃げ出すことは簡単だ。
しかし、そういうわけにもいかない。
(夫婦なんだから、しっかり話し合わないと)
痺れを切らし、先に口を開いたのはフルールだった。
「旦那様、どういうことですか?」
「……何がだ」
ルースは冷たい声で聞き返した。
そこには以前のような愛情は無いように思えた。
「アリアさんのことです!アリアさんを愛人にしていただなんて……まったく知りませんでした」
「知らせる必要があるか?」
問い詰めるフルールに、ルースはどこまでも残酷だった。
知らせる必要がない?
私たちは夫婦であり、他人ではない。
(そういえば、私は彼のプライベートについてほとんど知らない……)
フルールは使用人たちからたびたびルースの話を聞くことはあったが、彼自身の口から彼について知ることはほとんどなかった。
彼の仕事がどのようなものなのか、普段何をして過ごしているのか、どんな物が好きなのか。
まるで知らなかった。
――アリアはきっと、フルールよりも彼のことをよく知っているだろう。
本妻のプライドがズタズタになった。
「アリアのことを愛人だと言ったら、君が傷付くと思った。そうなるとわかっていて、わざわざ知らせる必要もないだろう」
「な、何を……」
ルースは開き直ったようにそっぽを向いた。
面倒臭い、今すぐ家に帰って休みたい。そんな感情が見て取れた。
「アリアの言う通りだ。この程度のことで大騒ぎするだなんて、誰が君を貰ってやったと思っているんだ?」
「旦那様……」
「頼むから、離婚するとだけは言わないでくれよ。面倒だし」
この人は一体誰なんだ。
本当にいつも親切にしてくれたあのルースなのか。
彼女は目の前にいる彼を固まったまま見つめていた。
「離婚だなんて……」
「こっちも結婚していたほうが都合が良いし……何より君の両親には世話になっているからな」
フルールの父親・レスティア伯爵は、ルースのずば抜けた経営の才能を見込んで彼に出資していた。
彼が事業を拡大できたのは、フルールの実家のおかげも同然だった。
「君も知っているだろう?グロリア伯爵家が赤字続きだったのは」
「……」
フルールは黙り込んだ。
今、自分と離婚されたら資金源を失ってしまう。
(そんな理由で私を引き留めるのね……)
愛しているからではなく、ただ単に利益を失うから。
そんな彼を信じ続けてきた自分があまりにも惨めで、笑いが出そうになった。
「わかりました、離婚はしません。ならせめて、愛人との関係を清算してください」
「……それはできない」
キッパリと言い放ったルースに、フルールは怒りを覚えた。
「ど、どうしてですか……!?妻として、愛人の存在を認めるわけにはいきません!」
しばらく彼女から顔を背けていたルースが、怒気を孕んだ声に振り返った。
「――彼女は仕事において必要不可欠なパートナーだからだ」
「え……?」
「彼女の代わりはいないが……君の代わりはいくらでもいる」
「……」
ルースはそれだけ言うと、呆然とするフルールを一人置き去りにし、邸の中へ入って行った。
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