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第一章 虐げられる妻、からの公爵様との契約です!
22 マイアード夫人の結婚式
「……」
「奥様!!!」
侍女長が慌てた様子でフルールの傍へと駆け寄った。
「奥様、どうして泣いていらっしゃるんですか!?怖い夢でも見たんですか!?」
「わ、たし……泣いてる……?」
フルールは自身の頬にそっと手を触れ、涙が伝っていることに気が付いた。
「い、いいえ……何でもないのよ……私、一体どれくらい寝ていたの……?」
「奥様が寝てから三日が経ちます」
「み、三日!?私、そんなに長い間寝ていたというの!?」
フルールは三日もの間、眠りに就いていた。彼女はデザイン画に夢中で何日も寝れていなかったのだから、そうなるのも不思議ではないかもしれない。
しかし、彼女にとっての問題はそこではなかった。
(さっきまで見ていた夢……)
今でも鮮明に思い出せる。愛に飢え、愛を求め続けた一人の女性の悲惨な末路。
あれは間違いなく、原作小説のフルールだった。
彼女は最後、夫に離婚を突き付けられ、そのまま路地裏で暴行の末に命を落とす。
小説では書かれていなかった彼女のエンディングを夢で見ることになるなんて。
夢とは思えないほどに生々しかった。
(辛い目に遭ったのは小説の中のフルールだっていうのに、どうしてこんなにも胸が痛むんだろう……)
彼女の目から再び涙が溢れた。
「奥様……!よほど恐ろしい夢を見られたのですね……」
フルールは侍女長が差し出したハンカチで涙を拭いた。
いつまでも泣き止まないフルールに、彼女は慌てふためいた。
何とかして場の雰囲気を変えようと、明るい声でフルールに話しかけた。
「お、奥様!三日前にデザイン画が完成しましたよね!早速リメイクに取り掛かるのはいかがでしょうか!」
「デザイン……?」
フルールはきょとんと首をかしげた。
「もう、奥様ったら!お忘れになられたのですか!」
侍女長はフルールの目の前に、彼女が完成させたデザイン画を広げた。
「マイアード侯爵夫人の結婚式のドレスを自らデザインされると張り切っていたではありませんか!」
「あ……そういえばそうだったわ……」
そこでフルールは、眠りにつく前に何日もかけてデザイン画を描いていたことを思い出した。
「侯爵夫人の結婚式まではあと一ヵ月もありませんよ!早めに取り掛からないと!」
「そうよね……泣いてる場合じゃなかったわ……」
フルールは泣き止み、ベッドから起き上がった。
そんな姿を見た侍女長はほっと胸を撫で下ろした。
それからフルールは侍女たちに手伝われて着替えを済ませた。
「マイアード夫人のためにも、私がしっかりしないと……!」
気合を入れ直したフルールはリリカの母親のドレスを慎重に手に取り、リメイクを開始した。
***
マイアード侯爵夫妻の結婚式当日。
(いつ来ても素敵な場所ね……)
シンプルな黄色いドレスに着替えたフルールは、結婚式が行われる大聖堂へ来ていた。
首都リーテルにあるバランシュ大聖堂はゴシック建築の大聖堂で、これまで数多くの高位貴族たちの挙式を行った場所だった。
高い天井に、大きなステンドグラス。向かって正面には、天使の大きな彫刻が飾られている。
ここへ来るのは初めてではなかったが、前世の記憶を取り戻す前と今では感情がまるで違う。
フルールは目を輝かせながら大聖堂内を見回した。
そんな彼女を見た周囲の招待客が、ヒソヒソ噂話を始めた。
「……あれって、グロリア伯爵夫人よね?」
「どうして伯爵夫人がここに……マイアード侯爵夫妻と知り合いなのか?」
交友関係がほとんどなかったフルールは、他人のお祝いの場に招待されたことなんて数えるほどだ。
(原作のフルールは気弱で臆病だったからね……)
今の彼女はともかく、元々フルールはこのような好奇の視線には耐えられない人だった。
だからこれまで社交界をできるだけ避けて生きてきたのだ。
そのとき、人々の噂話を遮るように扉の前を守っていた騎士の声が響いた。
「――ロベイン・マイアード侯爵のご入場です!」
しばらくすると、扉から一人の若い男性が入ってきた。
リリカの夫であるロベイン・マイアード侯爵だ。
つい最近父親から爵位を継ぎ、年齢はリリカの二つ上。
青い髪に黒い瞳を持ち、真っ白なタキシード姿を着ている彼は、誠実で優しそうな雰囲気を醸し出していた。
彼はバージンロードの上をゆっくりと歩くと、神父の前で立ち止まった。
花嫁が出てくる扉を見つめるその姿は、ソワソワしているように見える。
新郎の登場を終えた今、次は新婦が入ってくる番だ。
そして、そのときはすぐに訪れた。
「――リリカ・マイアード侯爵夫人のご入場です!」
人々の視線が集まる中、扉からリリカが姿を現した。
リリカを見た瞬間、招待客たちは驚いたように声を上げた。
「あら、まぁ……!」
「何て素敵なんでしょう……!」
ウエディングドレスを着たリリカは、人々が驚きを隠せないほど美しかった。
ドレスの長い袖の部分には花の刺繍が施され、トップスには豪華なレースをあしらっている。
ロングトレーンのスカートが印象的なマーメイドラインのドレスは、スタイルの良いリリカによく似合っていた。
その姿はまるで、春の女神のようだった。
「リリカ……」
「あぁ、リリカ……妻にそっくりだ……」
会場がざわめきに包まれる中、夫マイアード侯爵は顔を真っ赤に染め、彼女の父親である公爵はポロポロと涙を流していた。
「奥様!!!」
侍女長が慌てた様子でフルールの傍へと駆け寄った。
「奥様、どうして泣いていらっしゃるんですか!?怖い夢でも見たんですか!?」
「わ、たし……泣いてる……?」
フルールは自身の頬にそっと手を触れ、涙が伝っていることに気が付いた。
「い、いいえ……何でもないのよ……私、一体どれくらい寝ていたの……?」
「奥様が寝てから三日が経ちます」
「み、三日!?私、そんなに長い間寝ていたというの!?」
フルールは三日もの間、眠りに就いていた。彼女はデザイン画に夢中で何日も寝れていなかったのだから、そうなるのも不思議ではないかもしれない。
しかし、彼女にとっての問題はそこではなかった。
(さっきまで見ていた夢……)
今でも鮮明に思い出せる。愛に飢え、愛を求め続けた一人の女性の悲惨な末路。
あれは間違いなく、原作小説のフルールだった。
彼女は最後、夫に離婚を突き付けられ、そのまま路地裏で暴行の末に命を落とす。
小説では書かれていなかった彼女のエンディングを夢で見ることになるなんて。
夢とは思えないほどに生々しかった。
(辛い目に遭ったのは小説の中のフルールだっていうのに、どうしてこんなにも胸が痛むんだろう……)
彼女の目から再び涙が溢れた。
「奥様……!よほど恐ろしい夢を見られたのですね……」
フルールは侍女長が差し出したハンカチで涙を拭いた。
いつまでも泣き止まないフルールに、彼女は慌てふためいた。
何とかして場の雰囲気を変えようと、明るい声でフルールに話しかけた。
「お、奥様!三日前にデザイン画が完成しましたよね!早速リメイクに取り掛かるのはいかがでしょうか!」
「デザイン……?」
フルールはきょとんと首をかしげた。
「もう、奥様ったら!お忘れになられたのですか!」
侍女長はフルールの目の前に、彼女が完成させたデザイン画を広げた。
「マイアード侯爵夫人の結婚式のドレスを自らデザインされると張り切っていたではありませんか!」
「あ……そういえばそうだったわ……」
そこでフルールは、眠りにつく前に何日もかけてデザイン画を描いていたことを思い出した。
「侯爵夫人の結婚式まではあと一ヵ月もありませんよ!早めに取り掛からないと!」
「そうよね……泣いてる場合じゃなかったわ……」
フルールは泣き止み、ベッドから起き上がった。
そんな姿を見た侍女長はほっと胸を撫で下ろした。
それからフルールは侍女たちに手伝われて着替えを済ませた。
「マイアード夫人のためにも、私がしっかりしないと……!」
気合を入れ直したフルールはリリカの母親のドレスを慎重に手に取り、リメイクを開始した。
***
マイアード侯爵夫妻の結婚式当日。
(いつ来ても素敵な場所ね……)
シンプルな黄色いドレスに着替えたフルールは、結婚式が行われる大聖堂へ来ていた。
首都リーテルにあるバランシュ大聖堂はゴシック建築の大聖堂で、これまで数多くの高位貴族たちの挙式を行った場所だった。
高い天井に、大きなステンドグラス。向かって正面には、天使の大きな彫刻が飾られている。
ここへ来るのは初めてではなかったが、前世の記憶を取り戻す前と今では感情がまるで違う。
フルールは目を輝かせながら大聖堂内を見回した。
そんな彼女を見た周囲の招待客が、ヒソヒソ噂話を始めた。
「……あれって、グロリア伯爵夫人よね?」
「どうして伯爵夫人がここに……マイアード侯爵夫妻と知り合いなのか?」
交友関係がほとんどなかったフルールは、他人のお祝いの場に招待されたことなんて数えるほどだ。
(原作のフルールは気弱で臆病だったからね……)
今の彼女はともかく、元々フルールはこのような好奇の視線には耐えられない人だった。
だからこれまで社交界をできるだけ避けて生きてきたのだ。
そのとき、人々の噂話を遮るように扉の前を守っていた騎士の声が響いた。
「――ロベイン・マイアード侯爵のご入場です!」
しばらくすると、扉から一人の若い男性が入ってきた。
リリカの夫であるロベイン・マイアード侯爵だ。
つい最近父親から爵位を継ぎ、年齢はリリカの二つ上。
青い髪に黒い瞳を持ち、真っ白なタキシード姿を着ている彼は、誠実で優しそうな雰囲気を醸し出していた。
彼はバージンロードの上をゆっくりと歩くと、神父の前で立ち止まった。
花嫁が出てくる扉を見つめるその姿は、ソワソワしているように見える。
新郎の登場を終えた今、次は新婦が入ってくる番だ。
そして、そのときはすぐに訪れた。
「――リリカ・マイアード侯爵夫人のご入場です!」
人々の視線が集まる中、扉からリリカが姿を現した。
リリカを見た瞬間、招待客たちは驚いたように声を上げた。
「あら、まぁ……!」
「何て素敵なんでしょう……!」
ウエディングドレスを着たリリカは、人々が驚きを隠せないほど美しかった。
ドレスの長い袖の部分には花の刺繍が施され、トップスには豪華なレースをあしらっている。
ロングトレーンのスカートが印象的なマーメイドラインのドレスは、スタイルの良いリリカによく似合っていた。
その姿はまるで、春の女神のようだった。
「リリカ……」
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