33 / 35
第二章 公爵様と共にお店を開きます!
8 王都でのトラブル
衣料品店を出たあと、フルールはブラブラと首都を歩いていた。
次はどこに行こうか、と考えながら散歩していたそのとき、ある光景が視界の端に映った。
――「テメェ、どうしてくれんだよ!!!」
穏やかな広場に、突如として響き渡る怒声。
和気あいあいと話していた人々は一瞬にして静まり返った。
「す、すみません……前を見てなくて……」
「ふざけんな!俺は貴族だぞ!」
弱々しい幼い女の子の声に、再び響く男の荒々しい声。
その二つで、フルールは大体の状況を理解することができた。
(やっぱり、そういうことね……)
野次馬たちをかき分けて近くまで行ってみると、三十くらいの男が幼い少女を前に声を荒らげていた。
足元には、割れたメガネの破片が散乱していた。
どうやら二人はぶつかってしまい、その拍子で女の子が床に落ちた男のメガネを踏んでしまったようだった。
男は平民にしては高価な服を着ており、その姿は貴族に見えた。
(さっき貴族って言ってたし……平民じゃどうにもできないわよね)
周囲の人が恐ろしさで動けなくなっているのを横目に、フルールは男の前に立ちはだかった。
「――一体何をしているんですか?」
「……誰だ、テメェ」
突然間に割って入ったフルールに、男は眉を上げた。
「子供相手に本気で怒るなんて、みっともないですよ」
「そのガキが俺のメガネを踏んで割りやがったんだよ!」
フルールに庇われるようにして立っていた女の子がビクリと肩を上げた。
(子供とぶつかっただけでメガネが床に落ちるとは思えない……この男、見るからに酔っているし……)
メガネは最初から落ちており、それに気付かなかった女の子が踏んでしまったと考えるのが自然だろう。
だとしたら、女の子ではなく男に非があるのは間違いない。
「さっき貴族って言ってましたけど、一体どちらのお貴族様ですか?」
「コンラード侯爵家だよ!俺はそこの当主なんだよ!」
――コンラード侯爵家
フルールはその家名に聞き覚えがあった。
(たしか、数年前に領地で起きた火災が原因で財政難に陥って苦しんでいるんだったわね)
昼間からこうやって酒を飲んでいたのは、心に余裕が無かったせいか。
酔っ払っている男は、弱みに付け込んでとんでもないことを言い出した。
「おい、ガキ。お前が今踏んだ俺のメガネは五万ゴールドだぞ?きっちり弁償しろよな?」
「そ、そんなお金払えないです……!」
「あなたねぇ……」
メガネ一つで五万ゴールドだなんて聞いたことがない。前世の価値で言ったら五十万円ほどだ。
大体、困窮している侯爵家の令息がそんな高いメガネを持っているわけがなかった。
フルールは呆れてものも言えなかった。
「――いい加減にしてください、これ以上騒ぎを起こすつもりですか?」
フルールは男に鋭い視線を向けたが、彼はケラケラと笑っているだけだった。
相手がアレクシスだったら尻尾を巻いて逃げていたかもしれない。
しかし、フルールでは迫力が到底足りなかった。
「そんなにそのガキの肩を持つってんならよぉ、お前が代わりに弁償しろよ」
「……!」
男の標的が少女からフルールに移った。
その瞬間、男は下卑た目で彼女を眺めた。
「お前みたいな一介の平民の女に払えるわけがないよなぁ?特別に、体で勘弁してやってもいいぜ?顔は地味だが、体のほうはなかなか……」
「……!」
フルールは寒気がした。
そんな彼女の気持ちなど気にも留めず、男はフルールの手首を掴んだ。
「お、お姉ちゃん!」
背後から少女の焦ったような声が聞こえる。
フルールは振り返ることなく、ただじっとその屈辱に耐えていた。
「なぁ、そこのガキを助けたくはないか?」
「……」
男の左手が、フルールの腰に回された。
手は体の線をいやらしくなぞり、耳元に唇を近付けた。
「お前が体で応えるってなら……特別にガキは見逃してやってもいい。もちろんお前は永久的に俺の奴隷――」
「――いい加減にしろよ、テメェ」
突如放たれた低い声に、男は手を止めた。
フルールはその隙を狙って、男の足をハイヒールのかかとで思いきり踏んだ。
「グッ……!」
痛みでうめき声を上げた彼はフルールから手を離した。
男は一度膝をついたあと、彼女を睨みつけた。
「あぁ、そうか……俺の提案を断るってのか……」
「……」
男は面白そうにニヤリと笑い、再び少女に視線を向けた。
「ならそのガキを奴隷にするか」
「……ヒッ!」
男と目を合わせた少女は、恐怖心からか、顔を青くして震えていた。
フルールは少女を男の視線から遮るように間に入った。
「誰が断るって言った?」
「……何?」
その瞬間、フルールは懐から金貨袋を取り出し、中身をばら撒いた。
「――さぁ、五十万ゴールドだ。好きなだけ持っていけばいい」
「ご、五十万ゴールドだと!?」
あまりの大金に周囲の人々は驚きの表情を浮かべ、男は床に落ちた金貨を必死の形相で拾い上げた。
次はどこに行こうか、と考えながら散歩していたそのとき、ある光景が視界の端に映った。
――「テメェ、どうしてくれんだよ!!!」
穏やかな広場に、突如として響き渡る怒声。
和気あいあいと話していた人々は一瞬にして静まり返った。
「す、すみません……前を見てなくて……」
「ふざけんな!俺は貴族だぞ!」
弱々しい幼い女の子の声に、再び響く男の荒々しい声。
その二つで、フルールは大体の状況を理解することができた。
(やっぱり、そういうことね……)
野次馬たちをかき分けて近くまで行ってみると、三十くらいの男が幼い少女を前に声を荒らげていた。
足元には、割れたメガネの破片が散乱していた。
どうやら二人はぶつかってしまい、その拍子で女の子が床に落ちた男のメガネを踏んでしまったようだった。
男は平民にしては高価な服を着ており、その姿は貴族に見えた。
(さっき貴族って言ってたし……平民じゃどうにもできないわよね)
周囲の人が恐ろしさで動けなくなっているのを横目に、フルールは男の前に立ちはだかった。
「――一体何をしているんですか?」
「……誰だ、テメェ」
突然間に割って入ったフルールに、男は眉を上げた。
「子供相手に本気で怒るなんて、みっともないですよ」
「そのガキが俺のメガネを踏んで割りやがったんだよ!」
フルールに庇われるようにして立っていた女の子がビクリと肩を上げた。
(子供とぶつかっただけでメガネが床に落ちるとは思えない……この男、見るからに酔っているし……)
メガネは最初から落ちており、それに気付かなかった女の子が踏んでしまったと考えるのが自然だろう。
だとしたら、女の子ではなく男に非があるのは間違いない。
「さっき貴族って言ってましたけど、一体どちらのお貴族様ですか?」
「コンラード侯爵家だよ!俺はそこの当主なんだよ!」
――コンラード侯爵家
フルールはその家名に聞き覚えがあった。
(たしか、数年前に領地で起きた火災が原因で財政難に陥って苦しんでいるんだったわね)
昼間からこうやって酒を飲んでいたのは、心に余裕が無かったせいか。
酔っ払っている男は、弱みに付け込んでとんでもないことを言い出した。
「おい、ガキ。お前が今踏んだ俺のメガネは五万ゴールドだぞ?きっちり弁償しろよな?」
「そ、そんなお金払えないです……!」
「あなたねぇ……」
メガネ一つで五万ゴールドだなんて聞いたことがない。前世の価値で言ったら五十万円ほどだ。
大体、困窮している侯爵家の令息がそんな高いメガネを持っているわけがなかった。
フルールは呆れてものも言えなかった。
「――いい加減にしてください、これ以上騒ぎを起こすつもりですか?」
フルールは男に鋭い視線を向けたが、彼はケラケラと笑っているだけだった。
相手がアレクシスだったら尻尾を巻いて逃げていたかもしれない。
しかし、フルールでは迫力が到底足りなかった。
「そんなにそのガキの肩を持つってんならよぉ、お前が代わりに弁償しろよ」
「……!」
男の標的が少女からフルールに移った。
その瞬間、男は下卑た目で彼女を眺めた。
「お前みたいな一介の平民の女に払えるわけがないよなぁ?特別に、体で勘弁してやってもいいぜ?顔は地味だが、体のほうはなかなか……」
「……!」
フルールは寒気がした。
そんな彼女の気持ちなど気にも留めず、男はフルールの手首を掴んだ。
「お、お姉ちゃん!」
背後から少女の焦ったような声が聞こえる。
フルールは振り返ることなく、ただじっとその屈辱に耐えていた。
「なぁ、そこのガキを助けたくはないか?」
「……」
男の左手が、フルールの腰に回された。
手は体の線をいやらしくなぞり、耳元に唇を近付けた。
「お前が体で応えるってなら……特別にガキは見逃してやってもいい。もちろんお前は永久的に俺の奴隷――」
「――いい加減にしろよ、テメェ」
突如放たれた低い声に、男は手を止めた。
フルールはその隙を狙って、男の足をハイヒールのかかとで思いきり踏んだ。
「グッ……!」
痛みでうめき声を上げた彼はフルールから手を離した。
男は一度膝をついたあと、彼女を睨みつけた。
「あぁ、そうか……俺の提案を断るってのか……」
「……」
男は面白そうにニヤリと笑い、再び少女に視線を向けた。
「ならそのガキを奴隷にするか」
「……ヒッ!」
男と目を合わせた少女は、恐怖心からか、顔を青くして震えていた。
フルールは少女を男の視線から遮るように間に入った。
「誰が断るって言った?」
「……何?」
その瞬間、フルールは懐から金貨袋を取り出し、中身をばら撒いた。
「――さぁ、五十万ゴールドだ。好きなだけ持っていけばいい」
「ご、五十万ゴールドだと!?」
あまりの大金に周囲の人々は驚きの表情を浮かべ、男は床に落ちた金貨を必死の形相で拾い上げた。
あなたにおすすめの小説
「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした
ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?
※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。
愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらちん黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。
三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで
狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。
一度目は信じた。
二度目は耐えた。
三度目は――すべてを失った。
そして私は、屋上から身を投げた。
……はずだった。
目を覚ますと、そこは過去。
すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。
――四度目の人生。
これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、
同じように裏切られ、すべてを失ってきた。
だから今度は、もう決めている。
「もう、陸翔はいらない」
愛していた。
けれど、もう疲れた。
今度こそ――
自分を守るために、家族を守るために、
私は、自分から手を放す。
これは、三度裏切られた女が、
四度目の人生で「選び直す」物語。
初恋の人を思い出して辛いから、俺の前で声を出すなと言われました
柚木ゆず
恋愛
「俺の前で声を出すな!!」
マトート子爵令嬢シャルリーの婚約者であるレロッズ伯爵令息エタンには、隣国に嫁いでしまった初恋の人がいました。
シャルリーの声はその女性とそっくりで、聞いていると恋人になれなかったその人のことを思い出してしまう――。そんな理由でエタンは立場を利用してマトート家に圧力をかけ、自分の前はもちろんのこと不自然にならないよう人前で声を出すことさえも禁じてしまったのです。
自分の都合で好き放題するエタン、そんな彼はまだ知りません。
その傍若無人な振る舞いと自己中心的な性格が、あまりにも大きな災難をもたらしてしまうことを。
※11月18日、本編完結。時期は未定ではありますが、シャルリーのその後などの番外編の投稿を予定しております。
※体調の影響により一時的に、最新作以外の感想欄を閉じさせていただいております。
婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。
婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。
排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。
今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。
前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。
幼馴染が夫を奪った後に時間が戻ったので、婚約を破棄します
天宮有
恋愛
バハムス王子の婚約者になった私ルーミエは、様々な問題を魔法で解決していた。
結婚式で起きた問題を解決した際に、私は全ての魔力を失ってしまう。
中断していた結婚式が再開すると「魔力のない者とは関わりたくない」とバハムスが言い出す。
そしてバハムスは、幼馴染のメリタを妻にしていた。
これはメリタの計画で、私からバハムスを奪うことに成功する。
私は城から追い出されると、今まで力になってくれた魔法使いのジトアがやって来る。
ずっと好きだったと告白されて、私のために時間を戻す魔法を編み出したようだ。
ジトアの魔法により時間を戻すことに成功して、私がバハムスの妻になってない時だった。
幼馴染と婚約者の本心を知ったから、私は婚約を破棄します。
片思いの貴方に何度も告白したけど断られ続けてきた
アリス
恋愛
幼馴染で学生の頃から、ずっと好きだった人。
高校生くらいから何十回も告白した。
全て「好きなの」
「ごめん、断る」
その繰り返しだった。
だけど彼は優しいから、時々、ご飯を食べに行ったり、デートはしてくれる。
紛らわしいと思う。
彼に好きな人がいるわけではない。
まだそれなら諦めがつく。
彼はカイル=クレシア23歳
イケメンでモテる。
私はアリア=ナターシャ20歳
普通で人には可愛い方だと言われた。
そんなある日
私が20歳になった時だった。
両親が見合い話を持ってきた。
最後の告白をしようと思った。
ダメなら見合いをすると言った。
その見合い相手に溺愛される。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。