愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの

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一章

二度目の人生は

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しばらくして、私とミリアは離れへと到着した。


(初めて来た……)


前世ではここへ来たことなどもちろん無かった。
勉強に明け暮れていて、そんな時間も無かったからだ。


離れは公爵邸より小さかったが、二人で泊まるには十分すぎるくらいだった。
中に入った私たちは、公爵邸から持ってきた荷物を部屋に置いた。


「中は結構綺麗なのね」
「使用人が定期的に掃除をしていますので」


私の言葉にミリアは優しい笑みを浮かべて言った。


「……!」


こんなに優しい笑みを向けられるのは久しぶりだったため、一瞬ドクリとした。
前世では虐げられていたからか、何だか慣れない。


「庭園はどこにあるのかしら?」
「庭園へは、私がご案内いたします」


そう言ってミリアは庭園までの道を歩き出した。
私はそんなミリアの後について歩いた。


(……)


私は前を歩くミリアの背中に向かって口を開いた。


「ミリア……その……ありがとう……私の我儘に付き合ってくれて……」
「私は使用人として当然のことをしているだけです、お嬢様」


ミリアは私の言葉に振り返ってそれだけ言った。


前世ではミリアを含めた公爵邸の使用人とはほとんど関わることはなかった。
小さい頃の私は、屋敷の使用人たちとよく遊んだりしていた。
だが成長するにつれて皆がお父様に見向きもされない私を嘲笑っているような気がして、次第に関わりたくなくなっていった。


だけど今は……


「私、てっきり使用人たちに嫌われているかと思っていたわ」
「私たちがお嬢様をですか?そんなことありえません!」


ミリアは私の言葉に驚いた顔をして必死に否定した。


「本当のことを言うと、お嬢様は……昔はよく笑っていらしたのに、成長するにつれ滅多に笑わなくなり、王太子殿下の婚約者になってからは自室にこもりきりになってしまわれたので皆、どう接していいか分からなくなっていたのです」


「……!」


そう口にしたミリアは酷く悲しそうな顔をしていた。


(そう、だったのね……)


皆、私のことを嫌ってなどいなかった。
私が変わってしまったが故に、どう接していいか分からなくなっていたのだ。
どうやら私はとんでもない勘違いをしていたようだ。


(ミリア……みんな……)


そこで私の頭をよぎったのは、幼い頃使用人たちと屋敷で遊んだときのことだった。
母親は早くに亡くなり、父親に放っておかれて一人ぼっちだった私の傍にいてくれた。
一緒に遊んで楽しませてくれた。
たくさん笑わせてくれた。


私は、彼らにどれだけ助けられたのだろうか。
ミリアの言葉に涙が出そうになった。


「……私、貴方たちのことを誤解していたわ」
「はい!ですからこれからは私だけではなく他の使用人たちとも積極的に関わってみてはいかがでしょうか!みんなお嬢様のことが大好きですから、たくさん話しかけていいんですよ!」


ミリアは私に眩しいほどの笑顔を向けた。


「ミリア……!」


そんなミリアの笑顔を見ると自然と私の口元も綻ぶ。


「うん、そうするわ」
「お嬢様、ようやく笑ってくださいましたね」


私の笑った顔を見たミリアが嬉しそうに言った。


(ハッ……!)


自分で気付いて顔が赤くなる。
たしかに久しぶりに笑ったかもしれない。
前世での私の生活はとてもじゃないが幸せとは言えないものだったから。


(…………でも、今は幸せかもしれないわね)


そのことを考えるだけで、再び口角は上がっていく。
そんな私を見たミリアが短く笑いながら言った。


「お嬢様は美しいのですから、もっと笑ってください!」
「こうかしら?」


私はさっきよりも大きな笑みを浮かべる。


「お嬢様……!」


ミリアは何故か泣きかけていた。
どうやら普段からあまり笑わなかった私の笑顔を見れたのがそれほど嬉しかったらしい。


「ほら、早く行くわよ」
「はい!お嬢様!」


私の言葉にミリアは元気の良い返事をした。
そして二人並んで再び庭園までの道のりを歩き出した。




◇◆◇◆◇◆




「お嬢様、ここが庭園になります」


しばらくして、離れの庭園に到着した。


「わぁっ……!素敵……!」


私は感動のあまり、無意識にそんなことを言っていた。


庭園は驚くほど綺麗な場所だった。
離れにある庭園には色とりどりの花が美しく咲き誇っていた。


中央にはお茶会用の席があり、その周りを囲むようにして赤いバラが咲いている。
入口にはピンク色の花で飾られているアーチが置かれており、まるで夢の国の出入り口のようだった。


(あれは何ていう花なんだろう?すごく綺麗だわ!)


気付けば私は貴族令嬢としてはありえないくらいはしゃいでしまっていた。
王太子の婚約者としては失格だが、今日くらいは良いだろう。
ここにはミリアしかいないのだし。


前世はそこまで花に興味は無かったが、やはり美しく咲いている花を見ると良い気分になる。


「屋敷と同じく、定期的に手入れがされているので美しいまま保たれているんですよ」


子供のようにはしゃいでいる私を見てミリアが笑いながら言った。


「そうなのね」


(こんな美しい場所の存在を知らなかっただなんて!もったいないことをしたわ!もっと早くここに来ればよかった)


このときばかりは、長い間この場所に来なかったことを心から後悔した。





私はそのまま、ミリアとかなり長い時間を庭園で過ごした。
お茶会の席は二人分あったので、ミリアと向かい合ってお茶をした。
最初こそ謙遜していたミリアだったが、時間が経つにつれ表情が柔らかくなっていった。


「あら、もうこんな時間?」
「楽しい時間は早く過ぎ去るものです」
「本当にそうね」


気づけば夕方になっていたので、私とミリアは屋敷の部屋へと戻った。
夕食の準備をするからと、ミリアとは一度別れた。


特にすることが無かった私はベッドに突っ伏し、これからのことについてを考えた。


(……このままいけば、私は前世と同じ末路を辿ることになる)


――愛されない、お飾りの妃。


そんなの冗談じゃない。
とりあえず殿下との婚約は絶対に解消しなければいけない。
これだけは譲れない。


しかし、王族との婚約を貴族側から解消するというのは難しいことである。
そのために私が出来ることは何だろうか。


「……」


私はふと前世での殿下を思い出した。


あんな人でも最初は優しかったのだ。
定期的にお茶会をしていたし、優しい目で私の話を聞いてくれた。


(……気付いたら、ああなってたのよね)





――グレイフォード・オルレリアン王太子殿下


国王陛下と王妃陛下の間に生まれた第一子で、この国の王太子殿下だ。
現在王家には、彼しか子供はいない。
つまり、彼が将来国王になるのは確定しているということだ。


(……それが問題なのよね)


そうともなれば出来るだけ嫌われず、円満に婚約解消をしたい。
国王と「良い友人」でいればメリットも多いだろう。


しばらく考え込んでいた私は、今から殿下と良い関係を築いて男爵令嬢が現れたらさっと身を引けばいいのではないかという結論に至った。


(よし、殿下とのことについてはその方針でいこう)


ようやく自分のするべきことが決まった私は、ふぅと一息ついた。





せっかく与えられた二度目の人生。


どうせなら誰かに心の底から愛される、幸せな人生を歩みたい。
一度目の人生では夫からも、父からも愛されなかった私。
今度は間違えたりしない。


(自分の幸せは自分でつかみ取るんだから!!!)



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